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第2部 母と娘の関係
1-4子供の出来が悪いのは教育のせいなのだろうか?
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時間は十八時半を回ったところ。すっかり暗くなっているが、町は沢山の人であふれ返り賑わっていた。むしろ、夜のほうが人が多く、活気がある気がする。
この町の人たちは、みんなで集まり、賑やかに食事をするのが好きなようだ。どこの飲食店も、物凄く混んでいる。しかも、みんな外で食事するのが好きらしく、テラス席は満席だった。
私は〈パラディーゾ・マリノ〉という〈南地区〉にあるレストランに来ていた。リリーシャさんが、仕事が終わったあとに、案内してくれたのだ。彼女イチオシの『シーフ―ド・レストラン』らしい。
ちなみに、お昼は、人気のカフェに連れて行ってもらった。パスタもケーキもお茶も、どれも絶品。お店も凄くお洒落で、ゆっくりくつろげた。
彼女は、忙しい仕事の中、本当に良くしてくれている。ただ、特別に気を遣っている感じではなく、とても自然に、もてなしているように見えた。仕事柄というよりは、本人がとても気が回る、面倒見のいい性格なのだと思う。
テーブルの上には、所狭しと色とりどりの料理が並んでいた。焼いたもの、煮たもの、フライ、スープ、サラダ。中には、向こうの世界でも見慣れている、定番の料理もあった。
「この世界にも、お刺身があるんですね?」
どれも新鮮で、とにかく美味しい。まさか、異世界に来て、こんなに美味しい海鮮料理が食べられるとは、思ってもみなかった。
「海に囲まれている〈グリュンノア〉では、昔から魚介類が豊富で、色んな食べ方がされてきました。特に、町ができた当初は、作物があまり育たず、魚以外は、食べ物がほとんど無かったそうですので」
彼女は、とても丁寧に説明してくれた。
何を質問しても、歴史や世界背景も含め、物凄く分かりやすく解説してくれる。相当な知識量だが、柔らかい性格のせいか、得に知識をひけらかす訳でもなく、非常に感じがいい。
彼女には、一切のトゲやカドがなかった。ふんわりした柔らかい性格で、これほど感じのいい若者を、今までに見たことがない。
それに、とても落ち着いて余裕があるため、何をやっても上品に見える。全く落ち着きがない風歌とは、正反対の性格だ。
「あの……リリーシャさんは、おいくつなんですか?」
歳を訊くのは失礼かとも思ったが、ずっと気になっていたので、お酒が入った勢いで質問してみた。彼女もワインを飲んでいるので、二十代なのは間違いない。
「十九歳です」
「えっ?! まだ、十代だったんですか?」
落ち着いた笑顔で答える彼女に、私は驚きを隠せなかった。
「年寄り臭い言動が多いと、よく友人にも言われますので」
「いえいえ、そういう意味ではなく、余りにも大人びて、しっかりしているので。もう、成人されているのかと思ってました。しかも、会社まで経営されてますし、お酒も飲まれていたので――」
冷静に見てみると、確かに表情には、十代の幼さが残っている。しかし、一つ一つの動作や言動が、余りにも洗練され優雅なので、大人に見えてしまうのだ。十九歳にして、この落ち着きっぷりと風格。将来は、間違いなく大物になると思う。
「会社は母から受け継いだものです。創設したのも、今の知名度にしたのも、全て母の力ですので、私は何もしていないのです。あと、この世界では、十六歳もしくは十八歳から、飲酒が許されている国が、ほとんどですので」
言いながら、彼女はワイングラスを手に取り、口をつけた。
一挙一動が、清楚で上品で、全てが完成された理想の女性像だ。女性の私から見ても、その美しさに見とれてしまう。
その点、うちの風歌と来たら……。女らしさのかけらも無く、月とスッポンだ。これほど出来た娘さんを持つ母親は、さぞかし鼻が高いだろう。
「お母様は、引退されたのですか?」
「はい、色々ありまして。今年の二月に、経営を引き継ぎました。風歌ちゃんが来る、ちょうど一ヶ月ほど前ですね」
話し方や受け答えのしかたも、とても十代のものではない。娘と大して歳の変わらない子と話して緊張したのは、初めてだ。
「なら、物凄く忙しい時期に――。うちの娘が、ご迷惑をお掛けして、本当に申し訳ありません」
「いえ、風歌ちゃんのお蔭で、本当に助かっているんですよ。何でも、率先してやってくれますし。几帳面でやる気もあって、とてもいい子だと思います」
リリーシャさんの話を聴いていて、なんかむず痒くなってきた。なぜなら風歌は、几帳面とは程遠い存在だったからだ。
家では、いつも物をひっ散らかし、ゴロゴロしている。がさつで、だらしないイメージしかなかった。しかし、朝の仕事ぶりを見た限りでは、彼女がお世辞だけで、言っている訳でもなさそうだ。
「家にいた時は、全く掃除をしない子だったんですが、どのような教育をされたのですか? いくらうるさく言っても、全く言うことを聴きませんでしたし……」
ほぼ毎日『整理しろ』『掃除しろ』と、注意してばかりだった。いくら言っても、空返事ばかりで、素直に聴いた試しがない。反抗期かと思っていたが、リリーシャさんには、物凄く素直に接しているようだ。
「私は、何も言っていません。全て、風歌ちゃんが、自主的にやっていることです。もちろん、質問があれば教えますが、私からは、特に何も言っていないです。風歌ちゃんは、自分の目で見て覚え、何でも自主的に動けますから」
「自主的に……ですか? いくら言っても、全く動かなかったあの子が――?」
こちらに来て、いったい、どんな心境の変化があったのだろうか? リリーシャさんのような優秀な人のそばにいると、よい影響を受け、自然に変わるものなのだろうか?
とはいえ、まだ、こちらの世界に来てから、数ヶ月だ。たった数ヶ月で、人はこうも変わるものだろうか?
「きっと、自分の道を見つけたのだと思います。人は、自分の道を見つければ、自然とやるべきことが、見えて来ますから」
「それは、自分の将来が見えている、という意味でしょうか?」
「はい、風歌ちゃんには、明確な目的と将来像があります。それに、優れた行動力も持っています。私とは正反対ですね」
彼女は、少し悲し気な笑みを浮かべた気がした。
「そんな、ご謙遜を。リリーシャさんほど優秀な若者は、そうはいないと思います。ちゃんとした、目的や将来設計をお持ちだから、その若さで会社経営などが、出来るのではありませんか?」
向こうの世界でも、こんなによく出来た十代の子など、見たことがない。それに、四年後の風歌が、彼女と同じレベルになれるとは、とうてい思えなかった。それほどまでに、彼女は完成された存在だ。
「私はただ、母の真似をしていただけです。母がこの仕事をしていたから、私もなっただけで、将来の目的は何もありません……」
「それに、もし風歌ちゃんと同じ立場で、親に反対されたら、あっさり夢を諦めたと思います。そこまでの行動力はありませんし、母と同じ仕事であれば、何でもよかったですので」
彼女はゆっくり静かに語る。
謙遜で言ってる訳ではなさそうだ。彼女は、とても穏やかで素直な性格に見える。きっと母親を目標にし、言われた通りに、素直に生きてきたのだろう。
でも、これほどまでに、娘に慕われている母親とは、どんなに幸せなのだろうか? 全てにおいて意見が対立していた、私と風歌の関係とは正反対だ。
こんなに素直でいい子ならば、夢や目的を持っていなくても、いいのではないかと思う。別に、全ての若者が、夢を持っている訳ではないのだから。
「あの子のは、行動力じゃなくて無鉄砲なだけです。ただの思い付きで行動しているだけで、実際には何も考えてないことが多いんですよ。夢や目的だって、どこまで真剣に考えているのやら……」
昔から、思い付きでものを言う子だった。しかも、何事も考えずに行動するから、次々とトラブルを引き起こす。
「でも、風歌ちゃんの行動力は、本当に凄いと思います。あの行動力があったからこそ、異世界にやって来て、自力で夢の一歩目を踏み出したわけですし。細かいことは、これから考えればいいと思います」
彼女に言われると『本当にそうなんだ』という気持ちになってくる。
とはいえ、今までのことを考えると、不安要素があまりに多過ぎた。とにかくあの子は、物事を考えない。後先を全く考ずに行動するから、しなくていい失敗を引き起こすのだ。
今までは、学生だったから何とかなったが、社会人でミスは許されない。それに、勢いだけでは、これから先も、ずっと続けられる保障はないのだ。夢で食べては行けないのだから――。
「ただ、どうしても、あの子が上手く行くようには思えないんです。今までだって、何をやっても上手くいかなかったですし、物凄く子供なんです。数年後に、リリーシャさんのようになっているとは、とうてい思えません」
そもそも、彼女と比べること自体がおこがましい。どう見たって、出来が違いすぎる。おそらく、子供のころから、とても優秀だったのだろう。
「この世界には『若者の情熱は、時を十倍の速さで駆け抜ける』という、ことわざがあります。情熱を持った若者は、驚くほど速く成長する、そんな意味です」
「今の風歌ちゃんが、まさにこれで、数ヶ月で数年分の成長をしています。私を追い抜く日も、そう遠くないと思いますよ」
彼女は微笑みながら答えた。
「まさか、あの子が……」
いくらなんでも、持ち上げ過ぎだ。一生かかっても、彼女を追いこすのは無理だろう。でも、一生懸命に掃除をしている姿を見て、成長しているのは、認めざるを得なかった。しかも、かなりのスピードで。
腑に落ちず、私が考え込んでいると、彼女はそっとワインを注いでくれた。
「今は、食事を楽しみましょう。風歌ちゃんの成長は、直接、見ていただいたほうが早いと思いますので」
「そうですね、考えても始まりませんし。それにしても、本当に、どれも美味しいですね」
こちらの世界に来てから、美味しい物しか食べていない。『異世界の食事が、口に合うだろうか』などという不安は、初日の夕飯で、すでに消えてしまっていた。
「まだまだ、美味しいお店が沢山ありますので。滞在中に、存分に堪能していってください」
「この町にいると、どんどん太ってしまいそうね」
二人で顔を合わすと、笑みを浮かべる。
とりあえず、出来の悪い娘のことは、いったん置いといて、二人で世間話をしながら、夕飯を楽しむことにした。
まぁ、風歌のことは、もうしばらく様子見ね……。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
次回――
『いつかは親と向き合わなきゃって思ってるんだけど』
家族とベランダがたまらなく恋しい
この町の人たちは、みんなで集まり、賑やかに食事をするのが好きなようだ。どこの飲食店も、物凄く混んでいる。しかも、みんな外で食事するのが好きらしく、テラス席は満席だった。
私は〈パラディーゾ・マリノ〉という〈南地区〉にあるレストランに来ていた。リリーシャさんが、仕事が終わったあとに、案内してくれたのだ。彼女イチオシの『シーフ―ド・レストラン』らしい。
ちなみに、お昼は、人気のカフェに連れて行ってもらった。パスタもケーキもお茶も、どれも絶品。お店も凄くお洒落で、ゆっくりくつろげた。
彼女は、忙しい仕事の中、本当に良くしてくれている。ただ、特別に気を遣っている感じではなく、とても自然に、もてなしているように見えた。仕事柄というよりは、本人がとても気が回る、面倒見のいい性格なのだと思う。
テーブルの上には、所狭しと色とりどりの料理が並んでいた。焼いたもの、煮たもの、フライ、スープ、サラダ。中には、向こうの世界でも見慣れている、定番の料理もあった。
「この世界にも、お刺身があるんですね?」
どれも新鮮で、とにかく美味しい。まさか、異世界に来て、こんなに美味しい海鮮料理が食べられるとは、思ってもみなかった。
「海に囲まれている〈グリュンノア〉では、昔から魚介類が豊富で、色んな食べ方がされてきました。特に、町ができた当初は、作物があまり育たず、魚以外は、食べ物がほとんど無かったそうですので」
彼女は、とても丁寧に説明してくれた。
何を質問しても、歴史や世界背景も含め、物凄く分かりやすく解説してくれる。相当な知識量だが、柔らかい性格のせいか、得に知識をひけらかす訳でもなく、非常に感じがいい。
彼女には、一切のトゲやカドがなかった。ふんわりした柔らかい性格で、これほど感じのいい若者を、今までに見たことがない。
それに、とても落ち着いて余裕があるため、何をやっても上品に見える。全く落ち着きがない風歌とは、正反対の性格だ。
「あの……リリーシャさんは、おいくつなんですか?」
歳を訊くのは失礼かとも思ったが、ずっと気になっていたので、お酒が入った勢いで質問してみた。彼女もワインを飲んでいるので、二十代なのは間違いない。
「十九歳です」
「えっ?! まだ、十代だったんですか?」
落ち着いた笑顔で答える彼女に、私は驚きを隠せなかった。
「年寄り臭い言動が多いと、よく友人にも言われますので」
「いえいえ、そういう意味ではなく、余りにも大人びて、しっかりしているので。もう、成人されているのかと思ってました。しかも、会社まで経営されてますし、お酒も飲まれていたので――」
冷静に見てみると、確かに表情には、十代の幼さが残っている。しかし、一つ一つの動作や言動が、余りにも洗練され優雅なので、大人に見えてしまうのだ。十九歳にして、この落ち着きっぷりと風格。将来は、間違いなく大物になると思う。
「会社は母から受け継いだものです。創設したのも、今の知名度にしたのも、全て母の力ですので、私は何もしていないのです。あと、この世界では、十六歳もしくは十八歳から、飲酒が許されている国が、ほとんどですので」
言いながら、彼女はワイングラスを手に取り、口をつけた。
一挙一動が、清楚で上品で、全てが完成された理想の女性像だ。女性の私から見ても、その美しさに見とれてしまう。
その点、うちの風歌と来たら……。女らしさのかけらも無く、月とスッポンだ。これほど出来た娘さんを持つ母親は、さぞかし鼻が高いだろう。
「お母様は、引退されたのですか?」
「はい、色々ありまして。今年の二月に、経営を引き継ぎました。風歌ちゃんが来る、ちょうど一ヶ月ほど前ですね」
話し方や受け答えのしかたも、とても十代のものではない。娘と大して歳の変わらない子と話して緊張したのは、初めてだ。
「なら、物凄く忙しい時期に――。うちの娘が、ご迷惑をお掛けして、本当に申し訳ありません」
「いえ、風歌ちゃんのお蔭で、本当に助かっているんですよ。何でも、率先してやってくれますし。几帳面でやる気もあって、とてもいい子だと思います」
リリーシャさんの話を聴いていて、なんかむず痒くなってきた。なぜなら風歌は、几帳面とは程遠い存在だったからだ。
家では、いつも物をひっ散らかし、ゴロゴロしている。がさつで、だらしないイメージしかなかった。しかし、朝の仕事ぶりを見た限りでは、彼女がお世辞だけで、言っている訳でもなさそうだ。
「家にいた時は、全く掃除をしない子だったんですが、どのような教育をされたのですか? いくらうるさく言っても、全く言うことを聴きませんでしたし……」
ほぼ毎日『整理しろ』『掃除しろ』と、注意してばかりだった。いくら言っても、空返事ばかりで、素直に聴いた試しがない。反抗期かと思っていたが、リリーシャさんには、物凄く素直に接しているようだ。
「私は、何も言っていません。全て、風歌ちゃんが、自主的にやっていることです。もちろん、質問があれば教えますが、私からは、特に何も言っていないです。風歌ちゃんは、自分の目で見て覚え、何でも自主的に動けますから」
「自主的に……ですか? いくら言っても、全く動かなかったあの子が――?」
こちらに来て、いったい、どんな心境の変化があったのだろうか? リリーシャさんのような優秀な人のそばにいると、よい影響を受け、自然に変わるものなのだろうか?
とはいえ、まだ、こちらの世界に来てから、数ヶ月だ。たった数ヶ月で、人はこうも変わるものだろうか?
「きっと、自分の道を見つけたのだと思います。人は、自分の道を見つければ、自然とやるべきことが、見えて来ますから」
「それは、自分の将来が見えている、という意味でしょうか?」
「はい、風歌ちゃんには、明確な目的と将来像があります。それに、優れた行動力も持っています。私とは正反対ですね」
彼女は、少し悲し気な笑みを浮かべた気がした。
「そんな、ご謙遜を。リリーシャさんほど優秀な若者は、そうはいないと思います。ちゃんとした、目的や将来設計をお持ちだから、その若さで会社経営などが、出来るのではありませんか?」
向こうの世界でも、こんなによく出来た十代の子など、見たことがない。それに、四年後の風歌が、彼女と同じレベルになれるとは、とうてい思えなかった。それほどまでに、彼女は完成された存在だ。
「私はただ、母の真似をしていただけです。母がこの仕事をしていたから、私もなっただけで、将来の目的は何もありません……」
「それに、もし風歌ちゃんと同じ立場で、親に反対されたら、あっさり夢を諦めたと思います。そこまでの行動力はありませんし、母と同じ仕事であれば、何でもよかったですので」
彼女はゆっくり静かに語る。
謙遜で言ってる訳ではなさそうだ。彼女は、とても穏やかで素直な性格に見える。きっと母親を目標にし、言われた通りに、素直に生きてきたのだろう。
でも、これほどまでに、娘に慕われている母親とは、どんなに幸せなのだろうか? 全てにおいて意見が対立していた、私と風歌の関係とは正反対だ。
こんなに素直でいい子ならば、夢や目的を持っていなくても、いいのではないかと思う。別に、全ての若者が、夢を持っている訳ではないのだから。
「あの子のは、行動力じゃなくて無鉄砲なだけです。ただの思い付きで行動しているだけで、実際には何も考えてないことが多いんですよ。夢や目的だって、どこまで真剣に考えているのやら……」
昔から、思い付きでものを言う子だった。しかも、何事も考えずに行動するから、次々とトラブルを引き起こす。
「でも、風歌ちゃんの行動力は、本当に凄いと思います。あの行動力があったからこそ、異世界にやって来て、自力で夢の一歩目を踏み出したわけですし。細かいことは、これから考えればいいと思います」
彼女に言われると『本当にそうなんだ』という気持ちになってくる。
とはいえ、今までのことを考えると、不安要素があまりに多過ぎた。とにかくあの子は、物事を考えない。後先を全く考ずに行動するから、しなくていい失敗を引き起こすのだ。
今までは、学生だったから何とかなったが、社会人でミスは許されない。それに、勢いだけでは、これから先も、ずっと続けられる保障はないのだ。夢で食べては行けないのだから――。
「ただ、どうしても、あの子が上手く行くようには思えないんです。今までだって、何をやっても上手くいかなかったですし、物凄く子供なんです。数年後に、リリーシャさんのようになっているとは、とうてい思えません」
そもそも、彼女と比べること自体がおこがましい。どう見たって、出来が違いすぎる。おそらく、子供のころから、とても優秀だったのだろう。
「この世界には『若者の情熱は、時を十倍の速さで駆け抜ける』という、ことわざがあります。情熱を持った若者は、驚くほど速く成長する、そんな意味です」
「今の風歌ちゃんが、まさにこれで、数ヶ月で数年分の成長をしています。私を追い抜く日も、そう遠くないと思いますよ」
彼女は微笑みながら答えた。
「まさか、あの子が……」
いくらなんでも、持ち上げ過ぎだ。一生かかっても、彼女を追いこすのは無理だろう。でも、一生懸命に掃除をしている姿を見て、成長しているのは、認めざるを得なかった。しかも、かなりのスピードで。
腑に落ちず、私が考え込んでいると、彼女はそっとワインを注いでくれた。
「今は、食事を楽しみましょう。風歌ちゃんの成長は、直接、見ていただいたほうが早いと思いますので」
「そうですね、考えても始まりませんし。それにしても、本当に、どれも美味しいですね」
こちらの世界に来てから、美味しい物しか食べていない。『異世界の食事が、口に合うだろうか』などという不安は、初日の夕飯で、すでに消えてしまっていた。
「まだまだ、美味しいお店が沢山ありますので。滞在中に、存分に堪能していってください」
「この町にいると、どんどん太ってしまいそうね」
二人で顔を合わすと、笑みを浮かべる。
とりあえず、出来の悪い娘のことは、いったん置いといて、二人で世間話をしながら、夕飯を楽しむことにした。
まぁ、風歌のことは、もうしばらく様子見ね……。
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『いつかは親と向き合わなきゃって思ってるんだけど』
家族とベランダがたまらなく恋しい
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