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第1部 家出して異世界へ
5-4お茶の淹れ方は上手くなったけど実はコーヒー党です
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『魔法祭』の二日目。いつも通り早朝から会社に来て、敷地内、ゴンドラ、事務所の清掃などを、黙々と進めていった。今日も暑くなるらしいので、体を動かす仕事は、早めに終わらせておかないとね。
それに、見習いの私が出来ることは限られているので、少しでもリリーシャさんの手間が減るように、精一杯、頑張らないと。
というか、ちょっとでも気を抜くと、全部、リリーシャさんがやっちゃうんだよね。なので、ある意味、どちらが先にやるかの、戦いだったりする……。
私がキュッキュと、腰を入れて事務所の机を拭いていると、リリーシャさんが出勤してきた。
「風歌ちゃん、おはよう」
「おはようございます、リリーシャさん。今日も一日、よろしくお願いします!」
私は深く頭を下げ、元気一杯に挨拶をした。全身全霊を込めた、気合の入った挨拶をする。これは朝のお約束だ。
「今日も元気一杯ね、風歌ちゃんは」
「それだけが、取り柄ですから」
微笑むリリーシャさんに、私も笑顔で返す。ま、実際のところ、元気しか取り柄がないんで。
「仕事は程々で切り上げて、お祭りを楽しんできてね」
リリーシャさんは、優しく声を掛けてくれた。どんなに忙しい時でも、気遣いと優しさを決して忘れない。
いやー、今日もリリーシャさんは、天使のように優しいなぁ。何ていうか、うちの会社って、本当にホワイト過ぎるよね。もうちょい、厳しくてもいいんだけど……。
「今日は、午後から参加する予定です。ナギサちゃんとフィニーちゃんが、業務当番の日なので、十三時に待ち合わせです」
「あら、そうだったのね」
大手企業では、当番制で一部の新人が残り、会社の仕事を手伝っている。といっても、新人の仕事は限られているので、だいたい午前中には終わるみたい。
ナギサちゃんは十二時まで、フィニーちゃんは十一時半まで。なので、それぞれ、昼食を終えてから〈ホワイト・ウイング〉で、待ち合わせすることになっていた。
うちは特に、義務や当番制はない。それに、リリーシャさんが物凄く仕事ができるので、正直、私がいなくても、普通に回ってしまう。
私が来る前は、ずっと一人でやってたもんね。でも、私としては、可能な限り手伝いたいし、早く仕事を覚えて一人前になりたい気持ちが強い。
一日中、手伝うように言われれば、お祭りを休んで、喜んで手伝うつもりだ。でも、リリーシャさんは激甘だから、絶対にそんなこと言わないけどね。
昔は、自分の母親が厳しすぎて、いつも不満に思ってた。けれど、あまり甘やかされ過ぎるのも『何か違うなぁー』って、思っちゃうんだよね。単に、私がワガママなのかも――。
「予約リストを元に、各ゴンドラの準備はしておきました。何か、セッティングのご要望はありますか?」
私は予約リストを、リリーシャさんに手渡す。リリーシャさんは、リストとゴンドラを一つずつチェクして行った。厳しいことは言われないけど、やっぱり、チェックの時は少し緊張する。
「最初のお客様は、お年を召したご夫婦で、奥様が腰痛持ちなの。二階の倉庫に、腰痛用の座椅子と低反発クッションがあるから、用意してくれるかしら」
「はい、すぐに用意します!」
私は事務所に、小走りで向かっていった。
こういう、細やかな気遣いが出来るのが、リリーシャさんの凄いところだよね。一度、来たお客様の顔や名前はもちろん、趣味や好みも全て把握している。その上で、お客様ごとに『セッティング』を変えていくのだ。
私は階段を駆け上がり、二階の倉庫部屋に入った。事務所の二階には、書類や資料が置いてある『資料部屋』と、仕事の道具や備品が置いてある『倉庫部屋』がある。
あと、仮眠や泊まりが出来るように、ベッドが置いてある『休憩室』もあった。一応、定期的に『休憩室』の掃除もしているけど、リリーシャさんも一度も使ったことが無いんだって。いつも定時上がりだし、当然、泊りとかもないからね。
私は『倉庫部屋』の沢山のアイテムの中から、サッと目的の物を見つけ出す。この部屋の掃除や整理も、定期的に私がやっているので、どんなに沢山の物があっても、すぐに見つけることができる。
「座椅子とクッションは、これでOKだね。あとは、ハタキと雑巾っと」
必要なものを抱えると、再び小走りで外に戻った。
セッティングを変える際に、もう一度、ハタキを掛け、雑巾がけもした。座椅子やクッションの位置を微妙にずらしたりして、ベストポジションを決める。
ミリ単位の調整は、意味がなさそうに見えるが、こういった細やかな気遣いがとても大切だ。
「よし、いい感じ」
少し離れたところから眺めながら、小さく頷く。
最近は、物の配置の良し悪しも分かるようになってきた。昔、自分の部屋をとっ散らかしていた頃に比べると、ずいぶん成長したよねぇー。
私が事務所に戻ると、リリーシャさんは、書類に目を通していた。
「準備、終わりました。他に何かすることは有りますか?」
「ありがとう。でも、準備は終わっているから、のんびりしていて大丈夫よ」
「はぁ――でも、のんびりするような気分では、ないんですよねぇ。特に、午前中は体力があり余っているので」
これから、お祭りに行って体力を消費するけど、朝のウォーミングアップには、まだちょっと物足りない。
「じゃあ、お茶を淹れてくれるかしら?」
「はい、お任せください!」
私は台所に向かい、やかんに水を入れると『クッキング・プレート』の上にのせ、スイッチを押す。
これは、私がいた世界の『IHコンロ』のようなものだ。プレートに調理器具をのせると、その中身をピンポイントに加熱してくれる。
あと『クッキング・プレート』の凄いところは、冷却も可能なこと。なので、ゼリーやアイスも作れてしまう。ボタンによって『加熱魔法』と『冷却魔法』の切り替えができる、非常に便利な調理器具だ。
お湯を沸かしている間に、ガラス製のポットの茶こしに、茶葉を入れた。この町では、お茶といえば『ハーブティー』を指す。
『旋風の魔女』フィーネ・カリバーンが、大のハーブ好きだったらしく、彼女がハーブティーを広めたと言われている。
会社には、お客様用も含め、何種類ものハーブティーが用意してあった。今回、使うのは『スカイミント』の茶葉だ。
人気商品の『スカイミルク』にも使われている、青い色が出るハーブ。スーッとした清涼感と、精神安定の効果があるので、夏の暑い時期によく飲まれる。
お湯が沸くと、まずはティーカップに注ぐ。一分ほどそのままにしてから、カップのお湯をティーポットに入れた。これは、カップを温めるのと、お湯の温度を少し下げるために行う。
私はお湯の入ったガラスのポットを、ジーっと瞬きもせずに見つめた。お茶を淹れる時は、真剣勝負だからだ。
向こうの世界にいた時は『お茶なんて何でもいいや』なんて適当に考えていた。でも、こっちに来てから、考え方が変わった。リリーシャさんの淹れてくれたお茶が、抜群に美味しかったからだ。
ただ、私がやっても、なぜか同じ味にはならなかった。必死に練習して、最近ようやく、まともなお茶が、淹れられるようになって来た。
美味しいお茶ぐらい出せないと、見習いとして失格だもんね。リリーシャさんは優しいから、必ず『美味しい』って言って飲んでくれるけど、それに甘んじちゃいけない。
私は色と香りを確認し、静かにポットを持ち上げ、慎重にカップに注ぐ。トレーにティーカップとミルク、シロップをのせ、ゆっくりと運んでいった。
「お待たせいたしました」
私はティーカップを、そっとリリーシャさんの机に置いた。
「風歌ちゃん、ありがとう」
リリーシャさんは、シロップを少したらしてスプーンでかき混ぜる。カップを持つと、まずは香りを楽しみ、そっと口をつけた。動作の一つ一つが、とても洗練され上品だ。
「とても美味しいわ」
微笑みを浮かべるリリーシャさんに、私も笑顔で返す。
私はミルクとシロップを投入して、ゆっくりかき混ぜた。私はミルクが大好きなので、お茶もコーヒーも、たっぷりのミルクを入れて飲む。まずは、香りを確かめたあと、少量、口に含んでみた。
うん、いい感じに香りが出てる。でも、ちょっと温度が高すぎたかな? もう少し、お湯を冷ます時間、伸ばしたほうがいいかも――。
リリーシャさんは、絶対に不味いとは言わないので、自分で厳しくチェックする。ちなみに今日は、85点ぐらいかな。
「風歌ちゃん、昨日は魔法祭どうだった?」
「凄い人が多くて、最初はびっくりしましたけど、とても楽しかったです」
「楽しめたのなら、よかったわ。新人のうちは、たくさん楽しい経験をすることが、とても大切だから」
『楽しむ』は、リリーシャさんが、よくいう言葉だけど、元々はアリーシャさんの口癖だったらしい。
「リリーシャさんのほうは、どうでしたか?」
「私は、ほとんど空にいたから、いつもと同じね。飛行規制されているので、むしろ、いつもよりも、飛びやすかったわ」
『魔法祭』の期間中は、一般人の飛行は規制されている。医療搬送や運送関連の業者。また『エア・マスター』以上のシルフィードだけが、飛行を許可されていた。
私は残念ながら、飛行の許可がされていないので、この期間は、徒歩で会社に通っている。
私はリリーシャさんと、お茶を飲みながら、他愛のない世間話を続けた。このささやかなやり取りが、私にとっては至福の時間だった。
魔法祭の間は、リリーシャさんは、目の回るような忙しさなので、ほとんど会う機会がないからだ。同じ会社で働いてるのに、全然、会えないって、ちょっと寂しいよね。
しばらく世間話をしたあと、私は壁の時計を見て、スッと立ち上がる。ほぼ同時に、リリーシャさんも立ち上がった。
相変わらず、柔らかい表情をしているが、リリーシャさんの目に光が灯ったのが分かる。公私の切り替えが、とても速いのだ。私も見習わないと。
「そろそろ、最初のお客様が来られる時間ですね」
「そうね。今日も一日頑張りましょう」
「はい、頑張ります!」
私は軽く頬を叩くと、お客様を出迎えるために外に向かった。
よっしゃ、今日も気合を入れて頑張りまっしょい!
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
次回――
『早朝から場所取りって花見みたいだよね』
人生の大半は、待ち時間みたいなもんだ
それに、見習いの私が出来ることは限られているので、少しでもリリーシャさんの手間が減るように、精一杯、頑張らないと。
というか、ちょっとでも気を抜くと、全部、リリーシャさんがやっちゃうんだよね。なので、ある意味、どちらが先にやるかの、戦いだったりする……。
私がキュッキュと、腰を入れて事務所の机を拭いていると、リリーシャさんが出勤してきた。
「風歌ちゃん、おはよう」
「おはようございます、リリーシャさん。今日も一日、よろしくお願いします!」
私は深く頭を下げ、元気一杯に挨拶をした。全身全霊を込めた、気合の入った挨拶をする。これは朝のお約束だ。
「今日も元気一杯ね、風歌ちゃんは」
「それだけが、取り柄ですから」
微笑むリリーシャさんに、私も笑顔で返す。ま、実際のところ、元気しか取り柄がないんで。
「仕事は程々で切り上げて、お祭りを楽しんできてね」
リリーシャさんは、優しく声を掛けてくれた。どんなに忙しい時でも、気遣いと優しさを決して忘れない。
いやー、今日もリリーシャさんは、天使のように優しいなぁ。何ていうか、うちの会社って、本当にホワイト過ぎるよね。もうちょい、厳しくてもいいんだけど……。
「今日は、午後から参加する予定です。ナギサちゃんとフィニーちゃんが、業務当番の日なので、十三時に待ち合わせです」
「あら、そうだったのね」
大手企業では、当番制で一部の新人が残り、会社の仕事を手伝っている。といっても、新人の仕事は限られているので、だいたい午前中には終わるみたい。
ナギサちゃんは十二時まで、フィニーちゃんは十一時半まで。なので、それぞれ、昼食を終えてから〈ホワイト・ウイング〉で、待ち合わせすることになっていた。
うちは特に、義務や当番制はない。それに、リリーシャさんが物凄く仕事ができるので、正直、私がいなくても、普通に回ってしまう。
私が来る前は、ずっと一人でやってたもんね。でも、私としては、可能な限り手伝いたいし、早く仕事を覚えて一人前になりたい気持ちが強い。
一日中、手伝うように言われれば、お祭りを休んで、喜んで手伝うつもりだ。でも、リリーシャさんは激甘だから、絶対にそんなこと言わないけどね。
昔は、自分の母親が厳しすぎて、いつも不満に思ってた。けれど、あまり甘やかされ過ぎるのも『何か違うなぁー』って、思っちゃうんだよね。単に、私がワガママなのかも――。
「予約リストを元に、各ゴンドラの準備はしておきました。何か、セッティングのご要望はありますか?」
私は予約リストを、リリーシャさんに手渡す。リリーシャさんは、リストとゴンドラを一つずつチェクして行った。厳しいことは言われないけど、やっぱり、チェックの時は少し緊張する。
「最初のお客様は、お年を召したご夫婦で、奥様が腰痛持ちなの。二階の倉庫に、腰痛用の座椅子と低反発クッションがあるから、用意してくれるかしら」
「はい、すぐに用意します!」
私は事務所に、小走りで向かっていった。
こういう、細やかな気遣いが出来るのが、リリーシャさんの凄いところだよね。一度、来たお客様の顔や名前はもちろん、趣味や好みも全て把握している。その上で、お客様ごとに『セッティング』を変えていくのだ。
私は階段を駆け上がり、二階の倉庫部屋に入った。事務所の二階には、書類や資料が置いてある『資料部屋』と、仕事の道具や備品が置いてある『倉庫部屋』がある。
あと、仮眠や泊まりが出来るように、ベッドが置いてある『休憩室』もあった。一応、定期的に『休憩室』の掃除もしているけど、リリーシャさんも一度も使ったことが無いんだって。いつも定時上がりだし、当然、泊りとかもないからね。
私は『倉庫部屋』の沢山のアイテムの中から、サッと目的の物を見つけ出す。この部屋の掃除や整理も、定期的に私がやっているので、どんなに沢山の物があっても、すぐに見つけることができる。
「座椅子とクッションは、これでOKだね。あとは、ハタキと雑巾っと」
必要なものを抱えると、再び小走りで外に戻った。
セッティングを変える際に、もう一度、ハタキを掛け、雑巾がけもした。座椅子やクッションの位置を微妙にずらしたりして、ベストポジションを決める。
ミリ単位の調整は、意味がなさそうに見えるが、こういった細やかな気遣いがとても大切だ。
「よし、いい感じ」
少し離れたところから眺めながら、小さく頷く。
最近は、物の配置の良し悪しも分かるようになってきた。昔、自分の部屋をとっ散らかしていた頃に比べると、ずいぶん成長したよねぇー。
私が事務所に戻ると、リリーシャさんは、書類に目を通していた。
「準備、終わりました。他に何かすることは有りますか?」
「ありがとう。でも、準備は終わっているから、のんびりしていて大丈夫よ」
「はぁ――でも、のんびりするような気分では、ないんですよねぇ。特に、午前中は体力があり余っているので」
これから、お祭りに行って体力を消費するけど、朝のウォーミングアップには、まだちょっと物足りない。
「じゃあ、お茶を淹れてくれるかしら?」
「はい、お任せください!」
私は台所に向かい、やかんに水を入れると『クッキング・プレート』の上にのせ、スイッチを押す。
これは、私がいた世界の『IHコンロ』のようなものだ。プレートに調理器具をのせると、その中身をピンポイントに加熱してくれる。
あと『クッキング・プレート』の凄いところは、冷却も可能なこと。なので、ゼリーやアイスも作れてしまう。ボタンによって『加熱魔法』と『冷却魔法』の切り替えができる、非常に便利な調理器具だ。
お湯を沸かしている間に、ガラス製のポットの茶こしに、茶葉を入れた。この町では、お茶といえば『ハーブティー』を指す。
『旋風の魔女』フィーネ・カリバーンが、大のハーブ好きだったらしく、彼女がハーブティーを広めたと言われている。
会社には、お客様用も含め、何種類ものハーブティーが用意してあった。今回、使うのは『スカイミント』の茶葉だ。
人気商品の『スカイミルク』にも使われている、青い色が出るハーブ。スーッとした清涼感と、精神安定の効果があるので、夏の暑い時期によく飲まれる。
お湯が沸くと、まずはティーカップに注ぐ。一分ほどそのままにしてから、カップのお湯をティーポットに入れた。これは、カップを温めるのと、お湯の温度を少し下げるために行う。
私はお湯の入ったガラスのポットを、ジーっと瞬きもせずに見つめた。お茶を淹れる時は、真剣勝負だからだ。
向こうの世界にいた時は『お茶なんて何でもいいや』なんて適当に考えていた。でも、こっちに来てから、考え方が変わった。リリーシャさんの淹れてくれたお茶が、抜群に美味しかったからだ。
ただ、私がやっても、なぜか同じ味にはならなかった。必死に練習して、最近ようやく、まともなお茶が、淹れられるようになって来た。
美味しいお茶ぐらい出せないと、見習いとして失格だもんね。リリーシャさんは優しいから、必ず『美味しい』って言って飲んでくれるけど、それに甘んじちゃいけない。
私は色と香りを確認し、静かにポットを持ち上げ、慎重にカップに注ぐ。トレーにティーカップとミルク、シロップをのせ、ゆっくりと運んでいった。
「お待たせいたしました」
私はティーカップを、そっとリリーシャさんの机に置いた。
「風歌ちゃん、ありがとう」
リリーシャさんは、シロップを少したらしてスプーンでかき混ぜる。カップを持つと、まずは香りを楽しみ、そっと口をつけた。動作の一つ一つが、とても洗練され上品だ。
「とても美味しいわ」
微笑みを浮かべるリリーシャさんに、私も笑顔で返す。
私はミルクとシロップを投入して、ゆっくりかき混ぜた。私はミルクが大好きなので、お茶もコーヒーも、たっぷりのミルクを入れて飲む。まずは、香りを確かめたあと、少量、口に含んでみた。
うん、いい感じに香りが出てる。でも、ちょっと温度が高すぎたかな? もう少し、お湯を冷ます時間、伸ばしたほうがいいかも――。
リリーシャさんは、絶対に不味いとは言わないので、自分で厳しくチェックする。ちなみに今日は、85点ぐらいかな。
「風歌ちゃん、昨日は魔法祭どうだった?」
「凄い人が多くて、最初はびっくりしましたけど、とても楽しかったです」
「楽しめたのなら、よかったわ。新人のうちは、たくさん楽しい経験をすることが、とても大切だから」
『楽しむ』は、リリーシャさんが、よくいう言葉だけど、元々はアリーシャさんの口癖だったらしい。
「リリーシャさんのほうは、どうでしたか?」
「私は、ほとんど空にいたから、いつもと同じね。飛行規制されているので、むしろ、いつもよりも、飛びやすかったわ」
『魔法祭』の期間中は、一般人の飛行は規制されている。医療搬送や運送関連の業者。また『エア・マスター』以上のシルフィードだけが、飛行を許可されていた。
私は残念ながら、飛行の許可がされていないので、この期間は、徒歩で会社に通っている。
私はリリーシャさんと、お茶を飲みながら、他愛のない世間話を続けた。このささやかなやり取りが、私にとっては至福の時間だった。
魔法祭の間は、リリーシャさんは、目の回るような忙しさなので、ほとんど会う機会がないからだ。同じ会社で働いてるのに、全然、会えないって、ちょっと寂しいよね。
しばらく世間話をしたあと、私は壁の時計を見て、スッと立ち上がる。ほぼ同時に、リリーシャさんも立ち上がった。
相変わらず、柔らかい表情をしているが、リリーシャさんの目に光が灯ったのが分かる。公私の切り替えが、とても速いのだ。私も見習わないと。
「そろそろ、最初のお客様が来られる時間ですね」
「そうね。今日も一日頑張りましょう」
「はい、頑張ります!」
私は軽く頬を叩くと、お客様を出迎えるために外に向かった。
よっしゃ、今日も気合を入れて頑張りまっしょい!
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