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第1部 家出して異世界へ
5-2前夜祭という名の乙女の秘密作戦会議
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私は〈東地区〉にある、イタリアン・レストラン〈アクアマリン〉に来ていた。いつも通り、ナギサちゃんとフィニーちゃんの三人で集まり、楽しく夕食中だった。
ちなみに、ここのレストランのオーナーさんって、私と同じ世界から来た人なんだよね。値段も安いし、イタリア料理も大好きなので、三人で集まる時は、よくここに来る。
〈グリュンノア〉にも、元いた世界の料理のお店が、かなり沢山あった。ラーメン屋・うどん屋・寿司屋・牛丼屋なんかもある。
観光客の約四割が、向こうの世界から来るせいか、馴染みの店も多い。この町の人たちにも人気で、普通に食文化として溶け込んでいる。特に、魚を好んで食べるこの町の人たちには、お寿司が大人気だった。
なお、今回、私たちが集まったのは、ただの女子会ではない。今日は『前夜祭』を楽しむのが目的だ。
明日からいよいよ、一週間を掛けて『魔法祭』が行われる。その前日の夜に、飲んで食べて騒ぐのが、恒例行事の『前夜祭』だった。今日はどこの飲食店も満員で、朝から物凄く賑わっている。
私は初めてなんだけど、この町では、イベントに参加する際は『前夜祭』と『後夜祭』もセットで参加するのが、ルールなんだって。毎月、イベントがあるのに、本当にこの町の人って、お祭り好きだよね。
あと、お御祝い事は外でやるのも、この町の伝統。町のみんなで、楽しみを分かち合うのが目的だ。確かに、みんながワイワイやっているのを見るだけで、何だか幸せな気分になれるもんね。
ただ、明日からの本番に備え、シルフィードたちは皆、準備に追われている。私も今日は練習を休んで、朝からずっと、明日の準備と確認を手伝っていた。
まぁ、私は特に大変ではないんだけどね。事前の準備と、当日のお見送りぐらいしか、やることがないので。
逆に、リリーシャさんは、超ハード・スケジュールだった。『魔法祭』の一週間は、毎日、全ての時間帯がお客様の予約で埋まり、さらに協会の仕事も同時にこなす。加えて、一週間ぶっ続けの仕事で、一日もお休みがない。
リリーシャさんのスケジュール表は、朝から晩まで、びっしりと予定が埋まっていた。間にある食事休憩も、十五分ぐらいだ。大人気の、一流シルフィードともなると、流石に大変だよね。
そんな訳で、三人とも、朝から明日の準備に付きっきりで、全て終わってから集まった。うちの会社は、規模が小さいから、そんなにやること無いんだけど、二人の会社は大手だから、かなり大変だったみたい。
フィニーちゃんは、店に着いてから、しばらく椅子で伸びていた。ナギサちゃんも、少し顔が疲れている。ピンピンしてるのは、私一人だけだ。
「旅行とか、お祭りとかの前日って、何とも言えない期待感があるよね。あぁー、今夜ちゃんと寝れるかなぁ? 『魔法祭』すっごく楽しみー!」
町中から、ひしひしと、お祭り前日の活気が伝わってくる。周りにいる人達も、みんな笑顔で楽しそうだ。
「そう? 私は『もうそんな時期なったのか』ぐらいにしか思わないけど。それに、シルフィードは、お祭りを楽しむのではなく、盛り上げる側でしょ? 楽しさより、不安のほうが大きいわよ」
ナギサちゃんは、お茶を飲みながら淡々と語る。今日は疲れているせいか、言葉に、いつもの力強さやキレがなかった。
「私は面倒。早く終わってほしい……」
フィニーちゃんは、椅子に寄りかかったまま、気だるそうに答える。
「って、ちょっとちょっとー! 二人とも、なに年寄り臭いこと言ってんのよ。若いんだから、もっとシャキッとして、楽しまなきゃー」
私はぐっと拳を握りしめながら、熱く語った。
体力には超自信あるし、お祭りは、昔から大好きだからね。まぁ、私が活躍できるのって、運動会とお祭りぐらいなんで――。
「風歌は、今回が初めてだから、そんなことが言えるのよ。私も小さかったころは、そこそこ楽しかったけれど。毎年、参加していれば、飽きてくるわよ」
「私は、子供のころから苦手。人一杯いると、疲れる……」
なーんか、今日は二人ともノリが悪い。明日から、大丈夫なんだろうか?
「ダメダメ、そんなんじゃ! シルフィードの私たちが楽しまなきゃ、お客様たちだって楽しめないでしょ? それじゃあ、一人前のシルフィードになれないよ」
私は身を乗り出して、二人に活を入れる。
「見習いの風歌に言われても、説得力ないわよね」
「風歌は、無駄に元気」
だが、冷めた言葉が返ってきた――。
「って、見習いは、みんな一緒でしょーが! じゃなくて、リリーシャさんに言われたの。私の今回の仕事は、お祭りを思いっきり楽しむことだって。リリーシャさんも、新人一年目の時は、お祭りを楽しむことに、専念してたんだって」
少しでも力になりたくて、やれる仕事はないか尋ねたら、こう言われたのだ。
「リリーシャさんが、本当にそんなこと言ったの?」
ナギサちゃんは、怪訝な表情を浮かべている。
「うん、新人期間は、楽しむのが一番の仕事だって。リリーシャさんも、アリーシャさんに、よく言われてたみたいよ」
「さすがは、伝説のグランド・エンプレス。いいこと言う」
フィニーちゃんは納得したようで、こくこくと頷いていた。
「だよねー。やっぱ、一流の人は違うよね。リリーシャさんも、いつも楽しそうだし。その姿を見たお客様も、きっと楽しい気分になるんじゃないかな?」
「楽しむのも仕事の内……。確かに、一理あるわね。ま、どうせ私たち新人は、当日は大した仕事もないから、お祭りを楽しむ側に回るしかないのよね。予約が入るのも、パレードや式典の参加も、上級の人たちだけだし」
一応、納得はしたようだが、ナギサちゃんは、つまらなそうにぼやく。真面目だから、やっぱ、運営側に参加したいんだろうなぁ。
「人一杯はきらい。でも、屋台の食べ物は好き」
フィニーちゃんは、目をキラキラさせた。食べ物とか風を語る時だけは、目が明るく輝く。
「やっぱ、屋台とかも一杯出るんだ?」
「お祭りの時しかない屋台も、一杯ある。超楽しみ」
「いや、大事なのは屋台じゃないでしょ? 七日参りが、お祭りのメインなのだから。ちゃんと、お願い事は考えてあるんでしょうね?」
ナギサちゃんは、お祭りの時でも大真面目だ。
「私はね『もっと勉強できるようになって、早く昇級できますように』って、お願いするつもりなんだ」
当座の問題は、やはり勉強なんだよね。すぐに学力が上がる訳もないので、ここは神頼みするしかないと思う。
「私は、いい風が吹きますように。あと、お昼寝、一杯できますように」
「何か、フィニーちゃんらしくて、いいねぇ」
フィニーちゃんの話は、聴いてると何かほのぼのしてくる。
「全くよくないわよ! だいたい勉強は、自分で努力するものでしょ? それに、フィニーツァのは、全然シルフィードに関係ないじゃない。もっと、真面目に考えなさいよ」
いつもの、お説教モードが始まる前に、
「まぁまぁ、お祭りなんだし。それより、ナギサちゃんは何をお願いするの?」
さっと話題を変えておく。
「私は……強く高潔なシルフィードになることよ」
ナギサはちゃんは、真顔で答えた。何ていうか、全く夢や遊び心がないよね。それが、ナギサちゃんらしくは有るんだけど――。
「でも、ナギサちゃんは、今のままでも十分なんじゃないかな? 強いし、とても上品で、高潔だし」
「まだまだよ。私は、もっともっと強くなりたいの。そこら辺の、チャラチャラしたシルフィードみたいには、絶対になりたくないわ」
これ以上、気が強くなったら、色々大変な気もするんだけど。そもそも、シルフィードに、強さっているのかな?
ツバサさんみたいに、かっこいいタイプの人もいるけど、ごく少数だ。たいていは、リリーシャさんみたいに、ほんわかとした、穏やかなタイプの人が多い。
「ナギサは、カルシウム不足?」
「足りてるわよ!」
フィニーちゃんの軽いツッコミに、本気で返すナギサちゃん。やっぱり、色んな意味で温度差が激しい……。
「でも、七日間、毎日まわらないとダメなの?」
「忙しかったり、遠方からの観光客の場合は、初日だけの人もいるわよ。でも、地元に住んでいる人や、本気で願掛けする人は、ちゃんと『七日参り』するものなの。私はもちろん、七日間、全て周るつもりよ」
ナギサちゃんは、さも当たり前そうに答える。まぁ、彼女の場合は、きくまでもないよね。
「へぇー、フィニーちゃんも?」
「私はメイリオ先輩に、毎日いくように言われた。面倒だけど……頑張る」
フィニーちゃんは、ものすごーく嫌そうに答える。
「そっかー、やっぱ毎日、周ったほうがいいんだ。でも、一週間もお祭りに参加できるなんて、凄く楽しいよねー」
いくらお祭り好きの私でも、さすがに一週間ぶっ続けで参加するのは初めてだ。そもそも、そんなに長いお祭り自体、今まで参加したことないし。
「でも、実際は、そんないいものじゃないわよ。とんでもなく人が多いから、中々進まなくてイライラするし。暑くて息苦しいし。ひたすら『耐える』イベントよ」
「人多すぎて、死にそうになる」
「へ、へぇー……そうなんだ」
今一つピンと来ないけど、明治神宮の初詣みたいな感じかな?
その後も私達は、お茶を飲みながら、世間話に花を咲かせた。普段だと、翌日の仕事に備え、早めに切り上げるんだけど、明日はお祭りだからね。
それに、前夜祭の日は、皆夜遅くまでワイワイ騒いで、徹夜をする人も結構いるらしい。私のいた世界だと、大晦日みたいな感じかな。
どうせ早く帰っても、興奮して寝れなさそうだし、私も徹夜で全然オッケー。飲み物やデザートを追加注文して、結局、二十三時まで話し続けていた。
私は、もうちょっと話していたかったんだけど、真面目なナギサちゃんが『明日に備えて早く寝なさい』と言い出したので、お開きに。フィニーちゃんも、限界っぽかったので、ちょうどいいかな。
興奮が収まらなかった私は、ちょっと遠回りで、夜空をドライブする。町の上空を飛び回って、町の様子を眺めながら、ゆっくり帰宅した。
やっぱ、旅行やイベントの前日のワクワク感って、抑え切れないよね……。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
次回――
『七日参りで頭がよくなるよう超切実にお願いする』
できるよ、祈りは、きっと届くから……
ちなみに、ここのレストランのオーナーさんって、私と同じ世界から来た人なんだよね。値段も安いし、イタリア料理も大好きなので、三人で集まる時は、よくここに来る。
〈グリュンノア〉にも、元いた世界の料理のお店が、かなり沢山あった。ラーメン屋・うどん屋・寿司屋・牛丼屋なんかもある。
観光客の約四割が、向こうの世界から来るせいか、馴染みの店も多い。この町の人たちにも人気で、普通に食文化として溶け込んでいる。特に、魚を好んで食べるこの町の人たちには、お寿司が大人気だった。
なお、今回、私たちが集まったのは、ただの女子会ではない。今日は『前夜祭』を楽しむのが目的だ。
明日からいよいよ、一週間を掛けて『魔法祭』が行われる。その前日の夜に、飲んで食べて騒ぐのが、恒例行事の『前夜祭』だった。今日はどこの飲食店も満員で、朝から物凄く賑わっている。
私は初めてなんだけど、この町では、イベントに参加する際は『前夜祭』と『後夜祭』もセットで参加するのが、ルールなんだって。毎月、イベントがあるのに、本当にこの町の人って、お祭り好きだよね。
あと、お御祝い事は外でやるのも、この町の伝統。町のみんなで、楽しみを分かち合うのが目的だ。確かに、みんながワイワイやっているのを見るだけで、何だか幸せな気分になれるもんね。
ただ、明日からの本番に備え、シルフィードたちは皆、準備に追われている。私も今日は練習を休んで、朝からずっと、明日の準備と確認を手伝っていた。
まぁ、私は特に大変ではないんだけどね。事前の準備と、当日のお見送りぐらいしか、やることがないので。
逆に、リリーシャさんは、超ハード・スケジュールだった。『魔法祭』の一週間は、毎日、全ての時間帯がお客様の予約で埋まり、さらに協会の仕事も同時にこなす。加えて、一週間ぶっ続けの仕事で、一日もお休みがない。
リリーシャさんのスケジュール表は、朝から晩まで、びっしりと予定が埋まっていた。間にある食事休憩も、十五分ぐらいだ。大人気の、一流シルフィードともなると、流石に大変だよね。
そんな訳で、三人とも、朝から明日の準備に付きっきりで、全て終わってから集まった。うちの会社は、規模が小さいから、そんなにやること無いんだけど、二人の会社は大手だから、かなり大変だったみたい。
フィニーちゃんは、店に着いてから、しばらく椅子で伸びていた。ナギサちゃんも、少し顔が疲れている。ピンピンしてるのは、私一人だけだ。
「旅行とか、お祭りとかの前日って、何とも言えない期待感があるよね。あぁー、今夜ちゃんと寝れるかなぁ? 『魔法祭』すっごく楽しみー!」
町中から、ひしひしと、お祭り前日の活気が伝わってくる。周りにいる人達も、みんな笑顔で楽しそうだ。
「そう? 私は『もうそんな時期なったのか』ぐらいにしか思わないけど。それに、シルフィードは、お祭りを楽しむのではなく、盛り上げる側でしょ? 楽しさより、不安のほうが大きいわよ」
ナギサちゃんは、お茶を飲みながら淡々と語る。今日は疲れているせいか、言葉に、いつもの力強さやキレがなかった。
「私は面倒。早く終わってほしい……」
フィニーちゃんは、椅子に寄りかかったまま、気だるそうに答える。
「って、ちょっとちょっとー! 二人とも、なに年寄り臭いこと言ってんのよ。若いんだから、もっとシャキッとして、楽しまなきゃー」
私はぐっと拳を握りしめながら、熱く語った。
体力には超自信あるし、お祭りは、昔から大好きだからね。まぁ、私が活躍できるのって、運動会とお祭りぐらいなんで――。
「風歌は、今回が初めてだから、そんなことが言えるのよ。私も小さかったころは、そこそこ楽しかったけれど。毎年、参加していれば、飽きてくるわよ」
「私は、子供のころから苦手。人一杯いると、疲れる……」
なーんか、今日は二人ともノリが悪い。明日から、大丈夫なんだろうか?
「ダメダメ、そんなんじゃ! シルフィードの私たちが楽しまなきゃ、お客様たちだって楽しめないでしょ? それじゃあ、一人前のシルフィードになれないよ」
私は身を乗り出して、二人に活を入れる。
「見習いの風歌に言われても、説得力ないわよね」
「風歌は、無駄に元気」
だが、冷めた言葉が返ってきた――。
「って、見習いは、みんな一緒でしょーが! じゃなくて、リリーシャさんに言われたの。私の今回の仕事は、お祭りを思いっきり楽しむことだって。リリーシャさんも、新人一年目の時は、お祭りを楽しむことに、専念してたんだって」
少しでも力になりたくて、やれる仕事はないか尋ねたら、こう言われたのだ。
「リリーシャさんが、本当にそんなこと言ったの?」
ナギサちゃんは、怪訝な表情を浮かべている。
「うん、新人期間は、楽しむのが一番の仕事だって。リリーシャさんも、アリーシャさんに、よく言われてたみたいよ」
「さすがは、伝説のグランド・エンプレス。いいこと言う」
フィニーちゃんは納得したようで、こくこくと頷いていた。
「だよねー。やっぱ、一流の人は違うよね。リリーシャさんも、いつも楽しそうだし。その姿を見たお客様も、きっと楽しい気分になるんじゃないかな?」
「楽しむのも仕事の内……。確かに、一理あるわね。ま、どうせ私たち新人は、当日は大した仕事もないから、お祭りを楽しむ側に回るしかないのよね。予約が入るのも、パレードや式典の参加も、上級の人たちだけだし」
一応、納得はしたようだが、ナギサちゃんは、つまらなそうにぼやく。真面目だから、やっぱ、運営側に参加したいんだろうなぁ。
「人一杯はきらい。でも、屋台の食べ物は好き」
フィニーちゃんは、目をキラキラさせた。食べ物とか風を語る時だけは、目が明るく輝く。
「やっぱ、屋台とかも一杯出るんだ?」
「お祭りの時しかない屋台も、一杯ある。超楽しみ」
「いや、大事なのは屋台じゃないでしょ? 七日参りが、お祭りのメインなのだから。ちゃんと、お願い事は考えてあるんでしょうね?」
ナギサちゃんは、お祭りの時でも大真面目だ。
「私はね『もっと勉強できるようになって、早く昇級できますように』って、お願いするつもりなんだ」
当座の問題は、やはり勉強なんだよね。すぐに学力が上がる訳もないので、ここは神頼みするしかないと思う。
「私は、いい風が吹きますように。あと、お昼寝、一杯できますように」
「何か、フィニーちゃんらしくて、いいねぇ」
フィニーちゃんの話は、聴いてると何かほのぼのしてくる。
「全くよくないわよ! だいたい勉強は、自分で努力するものでしょ? それに、フィニーツァのは、全然シルフィードに関係ないじゃない。もっと、真面目に考えなさいよ」
いつもの、お説教モードが始まる前に、
「まぁまぁ、お祭りなんだし。それより、ナギサちゃんは何をお願いするの?」
さっと話題を変えておく。
「私は……強く高潔なシルフィードになることよ」
ナギサはちゃんは、真顔で答えた。何ていうか、全く夢や遊び心がないよね。それが、ナギサちゃんらしくは有るんだけど――。
「でも、ナギサちゃんは、今のままでも十分なんじゃないかな? 強いし、とても上品で、高潔だし」
「まだまだよ。私は、もっともっと強くなりたいの。そこら辺の、チャラチャラしたシルフィードみたいには、絶対になりたくないわ」
これ以上、気が強くなったら、色々大変な気もするんだけど。そもそも、シルフィードに、強さっているのかな?
ツバサさんみたいに、かっこいいタイプの人もいるけど、ごく少数だ。たいていは、リリーシャさんみたいに、ほんわかとした、穏やかなタイプの人が多い。
「ナギサは、カルシウム不足?」
「足りてるわよ!」
フィニーちゃんの軽いツッコミに、本気で返すナギサちゃん。やっぱり、色んな意味で温度差が激しい……。
「でも、七日間、毎日まわらないとダメなの?」
「忙しかったり、遠方からの観光客の場合は、初日だけの人もいるわよ。でも、地元に住んでいる人や、本気で願掛けする人は、ちゃんと『七日参り』するものなの。私はもちろん、七日間、全て周るつもりよ」
ナギサちゃんは、さも当たり前そうに答える。まぁ、彼女の場合は、きくまでもないよね。
「へぇー、フィニーちゃんも?」
「私はメイリオ先輩に、毎日いくように言われた。面倒だけど……頑張る」
フィニーちゃんは、ものすごーく嫌そうに答える。
「そっかー、やっぱ毎日、周ったほうがいいんだ。でも、一週間もお祭りに参加できるなんて、凄く楽しいよねー」
いくらお祭り好きの私でも、さすがに一週間ぶっ続けで参加するのは初めてだ。そもそも、そんなに長いお祭り自体、今まで参加したことないし。
「でも、実際は、そんないいものじゃないわよ。とんでもなく人が多いから、中々進まなくてイライラするし。暑くて息苦しいし。ひたすら『耐える』イベントよ」
「人多すぎて、死にそうになる」
「へ、へぇー……そうなんだ」
今一つピンと来ないけど、明治神宮の初詣みたいな感じかな?
その後も私達は、お茶を飲みながら、世間話に花を咲かせた。普段だと、翌日の仕事に備え、早めに切り上げるんだけど、明日はお祭りだからね。
それに、前夜祭の日は、皆夜遅くまでワイワイ騒いで、徹夜をする人も結構いるらしい。私のいた世界だと、大晦日みたいな感じかな。
どうせ早く帰っても、興奮して寝れなさそうだし、私も徹夜で全然オッケー。飲み物やデザートを追加注文して、結局、二十三時まで話し続けていた。
私は、もうちょっと話していたかったんだけど、真面目なナギサちゃんが『明日に備えて早く寝なさい』と言い出したので、お開きに。フィニーちゃんも、限界っぽかったので、ちょうどいいかな。
興奮が収まらなかった私は、ちょっと遠回りで、夜空をドライブする。町の上空を飛び回って、町の様子を眺めながら、ゆっくり帰宅した。
やっぱ、旅行やイベントの前日のワクワク感って、抑え切れないよね……。
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次回――
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できるよ、祈りは、きっと届くから……
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