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第1部 家出して異世界へ
4-4過保護と言われようとも彼女を全力で守りたい
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今回はリリーシャ回なので
リリーシャ視点で話が進みます。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
私は今〈シルフィード協会本部〉に来ていた。ここのところ『魔法祭』に向けての、打ち合わせや準備で、頻繁に訪れている。大きなイベント前は、だいたいこんな感じだ。
シルフィードは、町の様々な行事に参加する。ただ、中でも『魔法祭』は、シルフィードが主役なので、特別にやることが多かった。また、この都市の『建国記念日』でもあるので、皆とても力が入っている。
『スカイ・プリンセス』以上のシルフィード全員と、協会の人たち。また、行政府からも、段取りの打ち合わせで、担当の人たちが来ている。
さらに、スポンサーなどの関連企業からも、手伝いで来ている人たちがいた。スカイ・ブルームの製造メーカーや、制服を作っているアパレル企業、各種プロモーションを担当している広告会社などだ。
『魔法祭』は、シルフィードはもちろんのこと、官民の多くの人が携わる、一年のイベントの中で、最も大掛かりなものだ。
お祭りの準備期間は、週に二、三回は、協会に顔を出していた。様々な人が参加しているため、意見のすり合わせや、予定の調整なども必要で、会議の回数も多い。
そのため、会社の仕事のほうが、どうしても手が回らなかった。大手企業の場合は、何百人もいるため、いくらでも代わりはいる。しかし、うちは個人企業なので、そうも言っていられない。
お客様の対応は、予約の段階で調整できるからいいけれど、私が心配なのは、風歌ちゃんのことだった。
朝は直接、協会に向かう日もあり、彼女とは、普段以上に顔を合わせる時間が少ない。今日も、町内会の行事があるけど、一人で大丈夫かしら……?
私が考えにふけっていると、
「大丈夫かい、リリー? もしかして疲れてる?」
隣りにいたツバサちゃんが、心配そうに声を掛けてきた。
「いえ、大丈夫。ちょっと、会社のことを考えていて」
「最近、協会の仕事が多いからね。僕は息抜きができて嬉しいけど、リリーのところは二人しかいないから、大変かな? それとも、風歌ちゃんのことが心配?」
「普段も、あまり面倒を見てあげられていないのに、ここのところは特に忙しいから、会う時間が少なくて……」
私は『ウイング・マドレーヌ』を透明の袋に入れ、リボンで綺麗にラッピングしながら答える。
ちなみに『ウイング・マドレーヌ』とは、翼の形をしたマドレーヌだ。これは『魔法祭』のパレードの時に、観客に配るものだ。
スカイ・プリンセス以上のシルフィードが、大きなゴンドラに乗り、観客に向かって投げて回る。受け取ることが出来た人は『一年間、幸運に恵まれ夢が叶う』と言われている、伝統的な行事だ。
今いる〈調理室〉の中には、マドレーヌの入ったトレーが、大量に積み重ねてあった。昨日、私達が焼いたものだ。業者に頼めば楽だと思うけど、シルフィード自身の手で作るのも、昔からの伝統だった。
受け取ると、幸運が訪れる言い伝えもあるが、人気シルフィードたちの手作りなので、パレード当日は、それが目当ての観客たちで、大騒ぎになる。
『ウイング・マドレーヌ』を受け取るためだけに、大陸の遠方のから、はるばるやって来る人も多かった。最近では、もう一つの地球である〈マイア〉から訪れるお客様も増えている。
「別に、心配する必要はないんじゃないかな? 風歌ちゃんは、物凄く活発でしっかりしてるし。どこの会社だって、見習いの子は、結構ほったらかしだよ。特に、大手は人数が多いから、一人に付きっ切りで面倒は見れないし」
「そうかも、しれないわね。でも、うちは二人だけだから、私がいない時は、彼女一人だし。複雑な事情も抱えているから……」
風歌ちゃんは、あまり詳しくは語らないが、いまだに、ご家族とは揉めたままだった。それに、こちらの世界に来たばかりで、色々と不安な点も多いと思う。
いつも明るくて、全く不満を口にしない子だから、つい平気に思ってしまうけど、彼女だって、まだ十五歳の繊細な少女だ。あの年ごろの子は思春期で、情緒不安定な場合も多い。
「本当に、リリーは過保護だね。風歌ちゃん可愛いから、かまってあげたい気持ちも分かるけどさ。でも、あの歳で、家を飛び出して、知らない世界に一人で来ちゃった勇敢な子だよ。強い子なんだから、信頼して見守ってあげたら?」
「そうね……」
私は笑顔で答えた。でも、心配は拭い去れない。
風歌ちゃんの無鉄砲さや行動力は、昔のツバサちゃんに似ていると思う。でも、見ていて、ちょっとハラハラするところも、そっくりだった。だから、どうしても放っておけない。
「にしても、懐かしいね。うちらも、何年か前までは、毎年パレードを見に行ってたもんなぁ。滅茶苦茶、混んでて、大変だったけどさ」
「特に、マドレーヌを投げる時は、みんな必死で凄かったわね。私は、オロオロしているだけで、全然ダメだったけど。ツバサちゃんは、毎年、沢山とってたわよね」
「まぁ、僕はあの日に、人生、懸けてたからね。上手くキャッチする特訓も、バッチリやってたし」
でも、沢山とった分は、私や知り合いの子供達に、ちゃんと分けてあげていた。とても面倒見がよく、近所の子どもたちのリーダーだった。中には『兄貴』と読んでいる子もおり、男の子だと勘違いしていたのだと思う。
「ツバサちゃんって、そんなに必死になるほど、叶えたい夢があったの?」
「んー、夢は特になかったね。ただ、とれないと、何か負けたみたいで嫌じゃん? 僕は、負けるのが嫌いだからさ。何ていうか、運動会と同じ感覚かな」
ツバサちゃんは言いながら、一度結んだリボンをほどき、再び結び直す。角度を変えながらチェックし、微調整をしていた。一見、大雑把そうに見えるけど、こういう細かい部分を妥協をしないのも、昔から変わっていない。
「ツバサちゃんらしいわね。私は夢はあっても、そこまで必死になれなくて。結局、一度も自分でとれたことは無かったもの」
「別にいいんじゃない? リリーの分は、毎年、僕がとってたし。それに、アリーシャさんも、毎年、別枠で、超でっかいの作ってくれてたじゃん」
私が子供のころは、母が毎年、特大サイズの『ウイング・マドレーヌ』を作って、パレードのある日に、私とツバサちゃんに、渡してくれていた。私はそれが、毎年、物凄く楽しみだった。
「年々、どんどん大きくなっていって、食べるのに三日ぐらい掛かっていたけど」
「大きいほうが、ご利益があるって、アリーシャさん張り切ってたからなぁ。でも、僕は一日で食べちゃってたよ、とても美味しかったから。リリーは、特大のウイング・マドレーヌを作らないの?」
「え、何で?」
「風歌ちゃんに、あげるのかなぁー、って思ってね」
「あぁ、それは思いつかなかったわ……」
最近、色々と忙しくて、そこまでは考えが回らなかった。
「風歌ちゃんなら、普通に自分でとれそうだけど、リリーから直接もらったら、凄く喜ぶと思うよ」
「そうね。作ってみようかしら」
母がマドレーヌを作っているところは、何度か見たことがあるので、やり方はなんとなく分かる。母はお菓子作りが物凄く上手だった。でも、忙しいので滅多に作ってくれなかったけど……。
私が袋にリボンを掛けていると、隣から『ぐーっ』と、お腹の鳴る音が聞こえてきた。
「朝食べてこなかったの?」
「いや、ご飯は食べたけどさ。目の前に、こんなにお菓子があるのに食べられないって、拷問だよね。しかも、部屋中に甘い香りが漂ってるし」
確かに、部屋の中には、甘い香りが充満していた。黙々と袋詰めをしていたので、全く気付かなかった。
「ウフフ、それもそうね」
見た目の凛々しさとは対象的に、ツバサちゃんは甘いものに目がない。
「これ、ちょっとつまみ食いしたら、マズイかな?」
「ダメよ、数に限りがあるのだから」
「だよねぇー」
ツバサちゃんは、心底、残念そうに答える。私は自分のバッグの中から包みを取り出し、そっと彼女の前に差し出した。
「はい、これどうぞ」
「いいの?」
「あとで渡すつもりだったから」
「サンキュー、リリー。愛してる」
彼女は言いながら包みを開けると、勢いよくサンドイッチにかぶりつく。
「んー!」
ツバサちゃんは、物凄く幸せそうな表情を浮かべた。何を食べる時も、本当に美味しそうな顔をするので、見ていて私も、幸福な気分になれる。
彼女は、クールな性格のイメージが定着しているので、普段は何をやっても冷静な表情を崩さないようだ。でも、私といる時だけは、子供のころと同じ、無邪気な表情に戻っていることが多い。
子供のころは、物凄く感情が豊かだったので、仕事の時は、無理して演じているのだと思う。カッコいいイメージを持たれるのも、結構、大変なものだ。
私はポットを取り出し、コップにお茶を入れ、そっとツバサちゃんの前に置いた。
「やっぱり、リリーの作ったサンドイッチは、世界一だね」
「ツバサちゃんは、大げさね。でも、もっと声を小さくして。仕事中なんだから」
「おっと、いかんいかん」
ツバサはちゃんは周囲を見回し、声のトーンを落とす。
その後も、私とツバサちゃんは、世間話をしながら、次々とラッピングをして行った。袋詰めされたマドレーヌが、どんどん積み上げられていく。
風歌ちゃんは、パレードを見に来るのかしら? 私の投げたマドレーヌを、上手く受け取ってくれるといいのだけど……。風歌ちゃんの夢って何かしら? やっぱり、一人前のシルフィードになること?
黙々と作業をしていると、結局また、風歌ちゃんのことを考え始めていた。今の私にとって、彼女の存在が、思った以上に大きいみたいだ。
先輩としても経営者としても、まだまだ未熟で、あまり彼女の力になれていない気がする。でも、彼女の夢が叶うまでは、ずっとそばにいて見守ってあげたいと、心の底から願うのだった。
例え、過保護だと言われようとも……。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
次回――
『ウィンドミルの人たちは皆フレンドリーだった』
にゃんぱすー!
リリーシャ視点で話が進みます。
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私は今〈シルフィード協会本部〉に来ていた。ここのところ『魔法祭』に向けての、打ち合わせや準備で、頻繁に訪れている。大きなイベント前は、だいたいこんな感じだ。
シルフィードは、町の様々な行事に参加する。ただ、中でも『魔法祭』は、シルフィードが主役なので、特別にやることが多かった。また、この都市の『建国記念日』でもあるので、皆とても力が入っている。
『スカイ・プリンセス』以上のシルフィード全員と、協会の人たち。また、行政府からも、段取りの打ち合わせで、担当の人たちが来ている。
さらに、スポンサーなどの関連企業からも、手伝いで来ている人たちがいた。スカイ・ブルームの製造メーカーや、制服を作っているアパレル企業、各種プロモーションを担当している広告会社などだ。
『魔法祭』は、シルフィードはもちろんのこと、官民の多くの人が携わる、一年のイベントの中で、最も大掛かりなものだ。
お祭りの準備期間は、週に二、三回は、協会に顔を出していた。様々な人が参加しているため、意見のすり合わせや、予定の調整なども必要で、会議の回数も多い。
そのため、会社の仕事のほうが、どうしても手が回らなかった。大手企業の場合は、何百人もいるため、いくらでも代わりはいる。しかし、うちは個人企業なので、そうも言っていられない。
お客様の対応は、予約の段階で調整できるからいいけれど、私が心配なのは、風歌ちゃんのことだった。
朝は直接、協会に向かう日もあり、彼女とは、普段以上に顔を合わせる時間が少ない。今日も、町内会の行事があるけど、一人で大丈夫かしら……?
私が考えにふけっていると、
「大丈夫かい、リリー? もしかして疲れてる?」
隣りにいたツバサちゃんが、心配そうに声を掛けてきた。
「いえ、大丈夫。ちょっと、会社のことを考えていて」
「最近、協会の仕事が多いからね。僕は息抜きができて嬉しいけど、リリーのところは二人しかいないから、大変かな? それとも、風歌ちゃんのことが心配?」
「普段も、あまり面倒を見てあげられていないのに、ここのところは特に忙しいから、会う時間が少なくて……」
私は『ウイング・マドレーヌ』を透明の袋に入れ、リボンで綺麗にラッピングしながら答える。
ちなみに『ウイング・マドレーヌ』とは、翼の形をしたマドレーヌだ。これは『魔法祭』のパレードの時に、観客に配るものだ。
スカイ・プリンセス以上のシルフィードが、大きなゴンドラに乗り、観客に向かって投げて回る。受け取ることが出来た人は『一年間、幸運に恵まれ夢が叶う』と言われている、伝統的な行事だ。
今いる〈調理室〉の中には、マドレーヌの入ったトレーが、大量に積み重ねてあった。昨日、私達が焼いたものだ。業者に頼めば楽だと思うけど、シルフィード自身の手で作るのも、昔からの伝統だった。
受け取ると、幸運が訪れる言い伝えもあるが、人気シルフィードたちの手作りなので、パレード当日は、それが目当ての観客たちで、大騒ぎになる。
『ウイング・マドレーヌ』を受け取るためだけに、大陸の遠方のから、はるばるやって来る人も多かった。最近では、もう一つの地球である〈マイア〉から訪れるお客様も増えている。
「別に、心配する必要はないんじゃないかな? 風歌ちゃんは、物凄く活発でしっかりしてるし。どこの会社だって、見習いの子は、結構ほったらかしだよ。特に、大手は人数が多いから、一人に付きっ切りで面倒は見れないし」
「そうかも、しれないわね。でも、うちは二人だけだから、私がいない時は、彼女一人だし。複雑な事情も抱えているから……」
風歌ちゃんは、あまり詳しくは語らないが、いまだに、ご家族とは揉めたままだった。それに、こちらの世界に来たばかりで、色々と不安な点も多いと思う。
いつも明るくて、全く不満を口にしない子だから、つい平気に思ってしまうけど、彼女だって、まだ十五歳の繊細な少女だ。あの年ごろの子は思春期で、情緒不安定な場合も多い。
「本当に、リリーは過保護だね。風歌ちゃん可愛いから、かまってあげたい気持ちも分かるけどさ。でも、あの歳で、家を飛び出して、知らない世界に一人で来ちゃった勇敢な子だよ。強い子なんだから、信頼して見守ってあげたら?」
「そうね……」
私は笑顔で答えた。でも、心配は拭い去れない。
風歌ちゃんの無鉄砲さや行動力は、昔のツバサちゃんに似ていると思う。でも、見ていて、ちょっとハラハラするところも、そっくりだった。だから、どうしても放っておけない。
「にしても、懐かしいね。うちらも、何年か前までは、毎年パレードを見に行ってたもんなぁ。滅茶苦茶、混んでて、大変だったけどさ」
「特に、マドレーヌを投げる時は、みんな必死で凄かったわね。私は、オロオロしているだけで、全然ダメだったけど。ツバサちゃんは、毎年、沢山とってたわよね」
「まぁ、僕はあの日に、人生、懸けてたからね。上手くキャッチする特訓も、バッチリやってたし」
でも、沢山とった分は、私や知り合いの子供達に、ちゃんと分けてあげていた。とても面倒見がよく、近所の子どもたちのリーダーだった。中には『兄貴』と読んでいる子もおり、男の子だと勘違いしていたのだと思う。
「ツバサちゃんって、そんなに必死になるほど、叶えたい夢があったの?」
「んー、夢は特になかったね。ただ、とれないと、何か負けたみたいで嫌じゃん? 僕は、負けるのが嫌いだからさ。何ていうか、運動会と同じ感覚かな」
ツバサちゃんは言いながら、一度結んだリボンをほどき、再び結び直す。角度を変えながらチェックし、微調整をしていた。一見、大雑把そうに見えるけど、こういう細かい部分を妥協をしないのも、昔から変わっていない。
「ツバサちゃんらしいわね。私は夢はあっても、そこまで必死になれなくて。結局、一度も自分でとれたことは無かったもの」
「別にいいんじゃない? リリーの分は、毎年、僕がとってたし。それに、アリーシャさんも、毎年、別枠で、超でっかいの作ってくれてたじゃん」
私が子供のころは、母が毎年、特大サイズの『ウイング・マドレーヌ』を作って、パレードのある日に、私とツバサちゃんに、渡してくれていた。私はそれが、毎年、物凄く楽しみだった。
「年々、どんどん大きくなっていって、食べるのに三日ぐらい掛かっていたけど」
「大きいほうが、ご利益があるって、アリーシャさん張り切ってたからなぁ。でも、僕は一日で食べちゃってたよ、とても美味しかったから。リリーは、特大のウイング・マドレーヌを作らないの?」
「え、何で?」
「風歌ちゃんに、あげるのかなぁー、って思ってね」
「あぁ、それは思いつかなかったわ……」
最近、色々と忙しくて、そこまでは考えが回らなかった。
「風歌ちゃんなら、普通に自分でとれそうだけど、リリーから直接もらったら、凄く喜ぶと思うよ」
「そうね。作ってみようかしら」
母がマドレーヌを作っているところは、何度か見たことがあるので、やり方はなんとなく分かる。母はお菓子作りが物凄く上手だった。でも、忙しいので滅多に作ってくれなかったけど……。
私が袋にリボンを掛けていると、隣から『ぐーっ』と、お腹の鳴る音が聞こえてきた。
「朝食べてこなかったの?」
「いや、ご飯は食べたけどさ。目の前に、こんなにお菓子があるのに食べられないって、拷問だよね。しかも、部屋中に甘い香りが漂ってるし」
確かに、部屋の中には、甘い香りが充満していた。黙々と袋詰めをしていたので、全く気付かなかった。
「ウフフ、それもそうね」
見た目の凛々しさとは対象的に、ツバサちゃんは甘いものに目がない。
「これ、ちょっとつまみ食いしたら、マズイかな?」
「ダメよ、数に限りがあるのだから」
「だよねぇー」
ツバサちゃんは、心底、残念そうに答える。私は自分のバッグの中から包みを取り出し、そっと彼女の前に差し出した。
「はい、これどうぞ」
「いいの?」
「あとで渡すつもりだったから」
「サンキュー、リリー。愛してる」
彼女は言いながら包みを開けると、勢いよくサンドイッチにかぶりつく。
「んー!」
ツバサちゃんは、物凄く幸せそうな表情を浮かべた。何を食べる時も、本当に美味しそうな顔をするので、見ていて私も、幸福な気分になれる。
彼女は、クールな性格のイメージが定着しているので、普段は何をやっても冷静な表情を崩さないようだ。でも、私といる時だけは、子供のころと同じ、無邪気な表情に戻っていることが多い。
子供のころは、物凄く感情が豊かだったので、仕事の時は、無理して演じているのだと思う。カッコいいイメージを持たれるのも、結構、大変なものだ。
私はポットを取り出し、コップにお茶を入れ、そっとツバサちゃんの前に置いた。
「やっぱり、リリーの作ったサンドイッチは、世界一だね」
「ツバサちゃんは、大げさね。でも、もっと声を小さくして。仕事中なんだから」
「おっと、いかんいかん」
ツバサはちゃんは周囲を見回し、声のトーンを落とす。
その後も、私とツバサちゃんは、世間話をしながら、次々とラッピングをして行った。袋詰めされたマドレーヌが、どんどん積み上げられていく。
風歌ちゃんは、パレードを見に来るのかしら? 私の投げたマドレーヌを、上手く受け取ってくれるといいのだけど……。風歌ちゃんの夢って何かしら? やっぱり、一人前のシルフィードになること?
黙々と作業をしていると、結局また、風歌ちゃんのことを考え始めていた。今の私にとって、彼女の存在が、思った以上に大きいみたいだ。
先輩としても経営者としても、まだまだ未熟で、あまり彼女の力になれていない気がする。でも、彼女の夢が叶うまでは、ずっとそばにいて見守ってあげたいと、心の底から願うのだった。
例え、過保護だと言われようとも……。
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『ウィンドミルの人たちは皆フレンドリーだった』
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