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第1部 家出して異世界へ
4-3町内清掃のあとのご飯は超美味しく感じる
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私は今〈緑風公園〉に来ていた。今日は『東地区町内会』のお手伝いだ。今までにも、何度か来たことがある、恒例行事だった。
〈グリュンノア〉は、どこに行っても、道がとても綺麗になっている。それは、町内会の人たちが、定期的に掃除をしているからだ。また、公園や歩道の花壇に花を植えたりなども、町内会でやっている。
各地区ごとに町内会があり、どこも美化運動に、物凄く力を入れていた。『観光都市だから』というのも有るけど、昔からの伝統で、各町内会ごとに競い合っている。
みんな『地元愛』が強く、地区自体を、一つの町のように捉えていた。本来〈グリュンノア〉全体が、一つの町なんだけど、地区ごとに特徴があるのは、このせいなんだよね。
『東地区町内会』がある時は、私も必ず参加している。住んでいるのは〈北地区〉なんだけど、会社が〈東地区〉にあるからだ。
町内会は、主にその地区にある、商店や会社が中心になって活動していた。なので〈ホワイト・ウイング〉も、当然、参加している。地元への貢献も、シルフィードの大事な仕事だからね。
私は受付に行くと、会社と自分の名前を書き込んだ。
「ホワイト・ウイングさん、いつもご苦労さま。今日は、リリーちゃんは、一緒じゃないのかな?」
受付にいた、町内会長さんが話し掛けてきた。
「リリーシャさんは、今日はシルフィード協会で『魔法祭』の実行委員会に参加しているんです」
例のごとく、スカイ・プリンセス以上の人は、会議や行事は強制参加だった。
「あぁ……もう、そんな時期なんだね。『魔法祭』は、シルフィードが中心の運営だから、毎年、大変でしょ?」
「私は、今年が初めてですし、見習いだから特に仕事はないんですけど。リリーシャさんは、大忙しみたいですね」
どこにいっても、イベント前は『大変でしょ?』って言われるんだけど、見習いの私は、別に普段と変わらないんだよね。いつも通り、雑用しかやってないので……。
「リリーちゃん、人気者だし、お祭りの運営も大変だからね。忙しいところ悪いけど、お祭り前に、しっかり綺麗にしておきたいから。今日はよろしくね」
「はいっ、今日は二人分がんばりますので、よろしくお願いします!」
私はゴミ袋とトングを受け取ると、元気に挨拶した。
受付が終わると、公園の各所で待機している、お店や会社から参加している人たちに、挨拶して回る。
参加者の中では、私が一番、若輩者のなので、自分から挨拶するのは当然の礼儀だ。中には、よく行くお店の店主さんもいて、意外と顔見知りが多い。
次に、世間話に花を咲かせている、ご近所の奥様方に挨拶に向かった。声が大きいので、凄く目立つんだよね。
「おはようございます。今日もよろしくお願いします!」
奥様方の声に負けないよう、私も大きな声で挨拶する。
「あら、風歌ちゃん。今日も元気一杯ね」
「リリーちゃんは、一緒じゃないの?」
「今日は、シルフィード協会の仕事がありますので」
「そう、残念ねぇ」
「しょうがないわよ。リリーちゃんは、売れっ子で忙しいんだから」
こんなやり取りが非常に多い。リリーシャさんが、人気があるのは分かるんだけど、何か私がオマケみたいで、ちょっぴり悲しかったりもする。
「リリーシャさんも、昔から、町内会の清掃とかに参加してたんですか?」
「確か……最初に来たのが、五、六歳の時じゃなかったかしら?」
「そうそう、こんなにちっちゃくて、可愛かったわよねぇ」
へぇー、子供の頃から来てたんだ。てか、小さい時のリリーシャさん、超見てみたい!
「そういえば、赤い髪の男の子も、いつも一緒にいたわよね?」
「あぁ、いたいた。赤髪のボーイフレンド」
「もしかして、今二人は、いい関係だったりするんじゃないの?」
奥様方の視線が、一斉に私に向けられた。
「いえ……それはないと思いますよ。浮いた話は、全くありませんので」
興味津々の力強い視線に、一瞬、気圧される。
「あら、残念ねぇ」
「あんなに美人なのにねぇ」
「高嶺の花すぎて、声かけ辛いんじゃないの?」
奥様方は、また大きな声で、ワイワイと勝手に盛り上がった。
たぶん、赤い髪の男の子って、ツバサさんのことじゃないかな? でも、変に突っ込んでも、ややこしくなるので、そこは黙っておく。
それにしても、奥様方のパワーって凄いよね。私も元気には自信があるんだけど、いつも圧倒されて、思うように話せない。特にこの町では、強い女性が多いようだ。元々、女性たちによって作られた町だからかも。
しばらくすると町内会長から、
「それでは、ただいまより、町内清掃を始めます。十二時になったら、ここに戻ってきてください」
開始の呼び掛けがあった。
その合図と同時に、各自が散り散りになって、掃除を開始する。私はメイン・ストリートに向かった。『魔法祭』で多くの人が通る、最も目立つ場所だからだ。
基本的には、商店街の人たちが、綺麗に掃除してくれており、花壇なども手入れが行き届いている。なので、今のままでも、十分にきれいだ。
でも、観光で来た人が、結構ゴミをポイ捨てしちゃうんだよね。しかも、植え込みの中とか、建物の隙間や、小さな裏道とか、目立たない所に捨てていく。なので、細かいところまで入念にチェックし、一つ残らずゴミを拾っていった。
食べ物の袋や飲み物のカップ、チラシや観光ガイドなど。これは、明らかに観光客が捨てていったものだ。地元の人は、物凄く美化意識が高いので、絶対にゴミはポイ捨てしないので。
ちなみに〈グリュンノア〉は、全地域で『完全禁煙』だ。これは、煙害もあるけど、タバコの投げ捨て防止のための条例。もし、道でタバコなんか吸っていたら、すぐに逮捕されてしまう。
あと、自販機を置かないのも、缶などのポイ捨てを防ぐため。さらに、同様の理由で、ガムの販売も禁止されている。美化に関して、物凄く徹底されているよね。
私は移動しながら、落ち葉や枯れ草も拾い、雑草があれば抜いておく。この時期は、伸びるのが早いので、しっかり抜いておかないと、あとあと大変だ。
また、持参したミニほうきで、砂や土が溜まっているところは、丁寧に掃いていった。階段やお店の前とかって、目立つので。
道の掃除をしていると、シルフィードの制服を着ているせいもあってか『暑いのに、お掃除ご苦労さま』と、頻繁に声をかけられた。
この町では、シルフィードはどこに行っても、好意的に接してもらえる。『国民的なアイドル』みたいな感じだからね。
中には、顔見知りの人もいるので、その都度、挨拶して軽い世間話をする。でも、町の人達との交流も、シルフィードの大事な仕事の一つ。この交流の中から、ファンが付くことも多いからだ。
今、大人気のシルフィードたちも、こうやって、地道な活動を重ねた結果なんだよね。リリーシャさんを見ていると、それがよく分かる。
私は通りの中央にある、花壇を囲っているレンガを、ホウキで綺麗に掃いていた。普段は、割と大雑把だけど、やり始めると、細かいところまで結構こだわる性格だ。中腰になって、必死に砂埃を落としていると、後ろから呼びかけられた。
「おーい、風歌ちゃん」
「ドナさん、おはようございます」
声を掛けてきたのは、牛乳屋の店主のドナさんだ。私もこのお店は、ちょこちょこ利用させて貰っている。やっぱり、パンには牛乳だからね。
お店で飲むことも出来るし、テイクアウトも出来る。量り売りもやってるから、自分で容器を持ってくる人も多い。この町に人たちは、基本パン食なので、牛乳は食卓には欠かせない一品だ。
「町内会の掃除かい。いつもご苦労さん」
「いえ、町が綺麗になると、私も気持ちがいいので」
私は額の汗をぬぐいながら笑顔で答える。
「これ飲んでいきなよ」
ドナさんは、青い液体の入ったグラスを持ってきてくれた。
「いいんですか?」
「いいって、いいって。頑張ってくれてるご褒美さ」
「じゃあ、いただきます!」
私が受け取ったのは『スカイミルク』といわれる、青み掛かった牛乳で、この町では定番の飲み物だ。
初めて見た時は、青いのでびっくりしたけど『スカイミント』という、青い色をしたハーブのエキスが混ぜてある。まぁ、青い牛乳なんて、初めて見たら、普通は驚くよね。
でも、飲んだあと、口の中がスーッとする、清涼感がたまらない。夏の暑い日は、特に美味しく感じる。私は受け取ったミルクを、一気に飲み干した。
くぅー! 冷えてて超美味しいー!!
「相変わらず、いい飲みっぷりだな」
「だって、ここのミルクは、最高に美味しいですから」
毎朝〈北地区〉の牧場から、しぼりたての牛乳を直送しているだけあって、すっごく美味しい。
「嬉しいこと言ってくれるねぇ。掃除、頑張ってな」
「はい、ごちそうさまでした。また、寄らせていただきますね」
ドナさんに挨拶すると、再び掃除を再開する。
スカイミルクで、一瞬、体が涼しくなったが、強い夏の日差しで、また暑くなってきた。普段は上空を飛んでるから、気温も地上よりは低いし、風もあって快適だ。
でも、地上はジリジリと照りつける陽の光と、地面から湧き上がる熱気で、かなり暑い。始めた時間よりも、さらに日が高くなっているので、気温も上昇し続けていた。
しかし、額に汗を浮かべながら、ひたすら手を動かし掃除を続ける。汗を流しながら動くのって、嫌いじゃなかった。むしろ、割と好きかな、こういうの。
昔、陸上部で、炎天下の中で、汗だくになって走っていたのを思い出す。何ていうか『生きてるなぁー』って感じがするんだよね。
黙々と掃除に没頭していると、お昼を知らせる鐘の音が聞こえてきた。ちなみに『時計塔』は各地区に設置してあり、九時・十二時・十五時・十八時の計四回、一斉に鳴り響く。時間が分かりやすいので、とても便利だ。
お昼に集合だったので、私はゴミ袋を抱え〈緑風公園〉に戻って行った。すると、すでにほぼ全員が集まっており、ワイワイと盛り上がっていた。
恒例の、お掃除が終わったあとの、打ち上げタイムだ。これが楽しくて、参加している人もいるらしい。この町の人たちは、みんなお祭りが大好きで、何かある度に、打ち上げやら宴会やらをやっている。
私はゴミ袋とトングを所定の場所に置くと、水道で手と顔を洗ってサッパリした。公園の中央のテーブルに向かうと、お酒やジュース、いろんな料理が置かれている。
かなり動いたせいか、いつも以上にお腹が空いており、料理を見た途端、お腹の虫が鳴り出した。
何から食べるか迷っていると、
「このサンドイッチ美味しいわよ」
「このチキンもお食べ」
「おにぎり作ってきたわよ。お米好きでしょ?」
奥様方から、次々と料理の盛られたお皿を渡された。
「はい、全部いただきます!」
私は次々と渡された料理を食べていく。どれも家庭の味で、とっても美味しい。なぜかいつも、私のところに料理が集まるんだよね。そんなに腹ペコキャラに見えるのかな?
「風歌ちゃんも、だいぶシルフィードが様になって来たわね」
「そうそう、風格が出てきたんじゃない?」
「いやー、まだまだ、リリーシャさんの足元に及ばないですよ」
私は苦笑いしながら答える。本当のことなので……。
「何言ってるの。あんたも一端のシルフィードなんだから、自信もちなさいよ」
「そうよ。あなたは、きっと大物になると思うわ」
「えっ、本当ですか?」
大物になるなんて、言われたのは初めてだ。お世辞でも、すっごく嬉しい。
「なんか、光るものを感じるのよね。底しれぬパワーみたいな」
「そうそう。それに、よく食べる女は大物になるって、昔から言われてるのよ」
「風歌ちゃんよく食べるから、絶対に大物になるわよね」
「あははっ、そうですか」
あぁ、そういうことね……。食欲だけなら、リリーシャさんより上なので。
「だから、もっとたくさん食べなさい。じゃないと、私みたいな強い女にはなれないわよ」
一番、恰幅のいいご婦人に、バシッと背中を叩かれ、皆が一斉に笑い出した。
暑くて、ちょっと大変だったけど、久しぶりに体を思い切り動かして、結構、気持ちよかったなぁ。
それに、町の色んな人達とも交流できて、とても楽しかった。何より、この町のご婦人方の、元気とパワーには本当に感心する。私も負けずに、もっと強くならないとね。
よし、強いシルフィードになるために、頑張りまっしょい!
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
次回――
『過保護と言われようとも彼女を全力で守りたい』
過保護も必要な時は必要悪です
〈グリュンノア〉は、どこに行っても、道がとても綺麗になっている。それは、町内会の人たちが、定期的に掃除をしているからだ。また、公園や歩道の花壇に花を植えたりなども、町内会でやっている。
各地区ごとに町内会があり、どこも美化運動に、物凄く力を入れていた。『観光都市だから』というのも有るけど、昔からの伝統で、各町内会ごとに競い合っている。
みんな『地元愛』が強く、地区自体を、一つの町のように捉えていた。本来〈グリュンノア〉全体が、一つの町なんだけど、地区ごとに特徴があるのは、このせいなんだよね。
『東地区町内会』がある時は、私も必ず参加している。住んでいるのは〈北地区〉なんだけど、会社が〈東地区〉にあるからだ。
町内会は、主にその地区にある、商店や会社が中心になって活動していた。なので〈ホワイト・ウイング〉も、当然、参加している。地元への貢献も、シルフィードの大事な仕事だからね。
私は受付に行くと、会社と自分の名前を書き込んだ。
「ホワイト・ウイングさん、いつもご苦労さま。今日は、リリーちゃんは、一緒じゃないのかな?」
受付にいた、町内会長さんが話し掛けてきた。
「リリーシャさんは、今日はシルフィード協会で『魔法祭』の実行委員会に参加しているんです」
例のごとく、スカイ・プリンセス以上の人は、会議や行事は強制参加だった。
「あぁ……もう、そんな時期なんだね。『魔法祭』は、シルフィードが中心の運営だから、毎年、大変でしょ?」
「私は、今年が初めてですし、見習いだから特に仕事はないんですけど。リリーシャさんは、大忙しみたいですね」
どこにいっても、イベント前は『大変でしょ?』って言われるんだけど、見習いの私は、別に普段と変わらないんだよね。いつも通り、雑用しかやってないので……。
「リリーちゃん、人気者だし、お祭りの運営も大変だからね。忙しいところ悪いけど、お祭り前に、しっかり綺麗にしておきたいから。今日はよろしくね」
「はいっ、今日は二人分がんばりますので、よろしくお願いします!」
私はゴミ袋とトングを受け取ると、元気に挨拶した。
受付が終わると、公園の各所で待機している、お店や会社から参加している人たちに、挨拶して回る。
参加者の中では、私が一番、若輩者のなので、自分から挨拶するのは当然の礼儀だ。中には、よく行くお店の店主さんもいて、意外と顔見知りが多い。
次に、世間話に花を咲かせている、ご近所の奥様方に挨拶に向かった。声が大きいので、凄く目立つんだよね。
「おはようございます。今日もよろしくお願いします!」
奥様方の声に負けないよう、私も大きな声で挨拶する。
「あら、風歌ちゃん。今日も元気一杯ね」
「リリーちゃんは、一緒じゃないの?」
「今日は、シルフィード協会の仕事がありますので」
「そう、残念ねぇ」
「しょうがないわよ。リリーちゃんは、売れっ子で忙しいんだから」
こんなやり取りが非常に多い。リリーシャさんが、人気があるのは分かるんだけど、何か私がオマケみたいで、ちょっぴり悲しかったりもする。
「リリーシャさんも、昔から、町内会の清掃とかに参加してたんですか?」
「確か……最初に来たのが、五、六歳の時じゃなかったかしら?」
「そうそう、こんなにちっちゃくて、可愛かったわよねぇ」
へぇー、子供の頃から来てたんだ。てか、小さい時のリリーシャさん、超見てみたい!
「そういえば、赤い髪の男の子も、いつも一緒にいたわよね?」
「あぁ、いたいた。赤髪のボーイフレンド」
「もしかして、今二人は、いい関係だったりするんじゃないの?」
奥様方の視線が、一斉に私に向けられた。
「いえ……それはないと思いますよ。浮いた話は、全くありませんので」
興味津々の力強い視線に、一瞬、気圧される。
「あら、残念ねぇ」
「あんなに美人なのにねぇ」
「高嶺の花すぎて、声かけ辛いんじゃないの?」
奥様方は、また大きな声で、ワイワイと勝手に盛り上がった。
たぶん、赤い髪の男の子って、ツバサさんのことじゃないかな? でも、変に突っ込んでも、ややこしくなるので、そこは黙っておく。
それにしても、奥様方のパワーって凄いよね。私も元気には自信があるんだけど、いつも圧倒されて、思うように話せない。特にこの町では、強い女性が多いようだ。元々、女性たちによって作られた町だからかも。
しばらくすると町内会長から、
「それでは、ただいまより、町内清掃を始めます。十二時になったら、ここに戻ってきてください」
開始の呼び掛けがあった。
その合図と同時に、各自が散り散りになって、掃除を開始する。私はメイン・ストリートに向かった。『魔法祭』で多くの人が通る、最も目立つ場所だからだ。
基本的には、商店街の人たちが、綺麗に掃除してくれており、花壇なども手入れが行き届いている。なので、今のままでも、十分にきれいだ。
でも、観光で来た人が、結構ゴミをポイ捨てしちゃうんだよね。しかも、植え込みの中とか、建物の隙間や、小さな裏道とか、目立たない所に捨てていく。なので、細かいところまで入念にチェックし、一つ残らずゴミを拾っていった。
食べ物の袋や飲み物のカップ、チラシや観光ガイドなど。これは、明らかに観光客が捨てていったものだ。地元の人は、物凄く美化意識が高いので、絶対にゴミはポイ捨てしないので。
ちなみに〈グリュンノア〉は、全地域で『完全禁煙』だ。これは、煙害もあるけど、タバコの投げ捨て防止のための条例。もし、道でタバコなんか吸っていたら、すぐに逮捕されてしまう。
あと、自販機を置かないのも、缶などのポイ捨てを防ぐため。さらに、同様の理由で、ガムの販売も禁止されている。美化に関して、物凄く徹底されているよね。
私は移動しながら、落ち葉や枯れ草も拾い、雑草があれば抜いておく。この時期は、伸びるのが早いので、しっかり抜いておかないと、あとあと大変だ。
また、持参したミニほうきで、砂や土が溜まっているところは、丁寧に掃いていった。階段やお店の前とかって、目立つので。
道の掃除をしていると、シルフィードの制服を着ているせいもあってか『暑いのに、お掃除ご苦労さま』と、頻繁に声をかけられた。
この町では、シルフィードはどこに行っても、好意的に接してもらえる。『国民的なアイドル』みたいな感じだからね。
中には、顔見知りの人もいるので、その都度、挨拶して軽い世間話をする。でも、町の人達との交流も、シルフィードの大事な仕事の一つ。この交流の中から、ファンが付くことも多いからだ。
今、大人気のシルフィードたちも、こうやって、地道な活動を重ねた結果なんだよね。リリーシャさんを見ていると、それがよく分かる。
私は通りの中央にある、花壇を囲っているレンガを、ホウキで綺麗に掃いていた。普段は、割と大雑把だけど、やり始めると、細かいところまで結構こだわる性格だ。中腰になって、必死に砂埃を落としていると、後ろから呼びかけられた。
「おーい、風歌ちゃん」
「ドナさん、おはようございます」
声を掛けてきたのは、牛乳屋の店主のドナさんだ。私もこのお店は、ちょこちょこ利用させて貰っている。やっぱり、パンには牛乳だからね。
お店で飲むことも出来るし、テイクアウトも出来る。量り売りもやってるから、自分で容器を持ってくる人も多い。この町に人たちは、基本パン食なので、牛乳は食卓には欠かせない一品だ。
「町内会の掃除かい。いつもご苦労さん」
「いえ、町が綺麗になると、私も気持ちがいいので」
私は額の汗をぬぐいながら笑顔で答える。
「これ飲んでいきなよ」
ドナさんは、青い液体の入ったグラスを持ってきてくれた。
「いいんですか?」
「いいって、いいって。頑張ってくれてるご褒美さ」
「じゃあ、いただきます!」
私が受け取ったのは『スカイミルク』といわれる、青み掛かった牛乳で、この町では定番の飲み物だ。
初めて見た時は、青いのでびっくりしたけど『スカイミント』という、青い色をしたハーブのエキスが混ぜてある。まぁ、青い牛乳なんて、初めて見たら、普通は驚くよね。
でも、飲んだあと、口の中がスーッとする、清涼感がたまらない。夏の暑い日は、特に美味しく感じる。私は受け取ったミルクを、一気に飲み干した。
くぅー! 冷えてて超美味しいー!!
「相変わらず、いい飲みっぷりだな」
「だって、ここのミルクは、最高に美味しいですから」
毎朝〈北地区〉の牧場から、しぼりたての牛乳を直送しているだけあって、すっごく美味しい。
「嬉しいこと言ってくれるねぇ。掃除、頑張ってな」
「はい、ごちそうさまでした。また、寄らせていただきますね」
ドナさんに挨拶すると、再び掃除を再開する。
スカイミルクで、一瞬、体が涼しくなったが、強い夏の日差しで、また暑くなってきた。普段は上空を飛んでるから、気温も地上よりは低いし、風もあって快適だ。
でも、地上はジリジリと照りつける陽の光と、地面から湧き上がる熱気で、かなり暑い。始めた時間よりも、さらに日が高くなっているので、気温も上昇し続けていた。
しかし、額に汗を浮かべながら、ひたすら手を動かし掃除を続ける。汗を流しながら動くのって、嫌いじゃなかった。むしろ、割と好きかな、こういうの。
昔、陸上部で、炎天下の中で、汗だくになって走っていたのを思い出す。何ていうか『生きてるなぁー』って感じがするんだよね。
黙々と掃除に没頭していると、お昼を知らせる鐘の音が聞こえてきた。ちなみに『時計塔』は各地区に設置してあり、九時・十二時・十五時・十八時の計四回、一斉に鳴り響く。時間が分かりやすいので、とても便利だ。
お昼に集合だったので、私はゴミ袋を抱え〈緑風公園〉に戻って行った。すると、すでにほぼ全員が集まっており、ワイワイと盛り上がっていた。
恒例の、お掃除が終わったあとの、打ち上げタイムだ。これが楽しくて、参加している人もいるらしい。この町の人たちは、みんなお祭りが大好きで、何かある度に、打ち上げやら宴会やらをやっている。
私はゴミ袋とトングを所定の場所に置くと、水道で手と顔を洗ってサッパリした。公園の中央のテーブルに向かうと、お酒やジュース、いろんな料理が置かれている。
かなり動いたせいか、いつも以上にお腹が空いており、料理を見た途端、お腹の虫が鳴り出した。
何から食べるか迷っていると、
「このサンドイッチ美味しいわよ」
「このチキンもお食べ」
「おにぎり作ってきたわよ。お米好きでしょ?」
奥様方から、次々と料理の盛られたお皿を渡された。
「はい、全部いただきます!」
私は次々と渡された料理を食べていく。どれも家庭の味で、とっても美味しい。なぜかいつも、私のところに料理が集まるんだよね。そんなに腹ペコキャラに見えるのかな?
「風歌ちゃんも、だいぶシルフィードが様になって来たわね」
「そうそう、風格が出てきたんじゃない?」
「いやー、まだまだ、リリーシャさんの足元に及ばないですよ」
私は苦笑いしながら答える。本当のことなので……。
「何言ってるの。あんたも一端のシルフィードなんだから、自信もちなさいよ」
「そうよ。あなたは、きっと大物になると思うわ」
「えっ、本当ですか?」
大物になるなんて、言われたのは初めてだ。お世辞でも、すっごく嬉しい。
「なんか、光るものを感じるのよね。底しれぬパワーみたいな」
「そうそう。それに、よく食べる女は大物になるって、昔から言われてるのよ」
「風歌ちゃんよく食べるから、絶対に大物になるわよね」
「あははっ、そうですか」
あぁ、そういうことね……。食欲だけなら、リリーシャさんより上なので。
「だから、もっとたくさん食べなさい。じゃないと、私みたいな強い女にはなれないわよ」
一番、恰幅のいいご婦人に、バシッと背中を叩かれ、皆が一斉に笑い出した。
暑くて、ちょっと大変だったけど、久しぶりに体を思い切り動かして、結構、気持ちよかったなぁ。
それに、町の色んな人達とも交流できて、とても楽しかった。何より、この町のご婦人方の、元気とパワーには本当に感心する。私も負けずに、もっと強くならないとね。
よし、強いシルフィードになるために、頑張りまっしょい!
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カインが無自覚にモテながら冒険者ギルド職員としてスローライフを送るである。
ハーレム要素多め。
※隔日更新予定です。10話前後での完結予定で構成していましたが、多くの方に見られているため10話以降も製作中です。
よければ、良いね。評価、コメントお願いします。励みになりますorz
他メディアでも掲載中。他サイトにて開始一週間でジャンル別ランキング15位。HOTランキング4位達成。応援ありがとうございます。
たくさんの誤字脱字報告ありがとうございます。すべて適応させていただきます。
物語を楽しむ邪魔をしてしまい申し訳ないですorz
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