20 / 363
第1部 家出して異世界へ
3-1赤って主人公の色だし強そうに見えるよね
しおりを挟む
日差しの強い昼下がり。私は額に汗を浮かべながら、エア・ゴンドラの掃除をしていた。この時間はかなり暑いので、ちょっと動くだけでも汗ばんでくる。でも、手を抜かずに、全力で機体の掃除をした。
つい先程まで、お客様が乗っていた機体で、今しがたリリーシャさんの操縦で帰ってきたばかりだ。お客様のお見送りが済むと、掃除用具を持ち出し、すぐに清掃を開始した。
リリーシャさんは『あとでも大丈夫』と言ってくれたが、いつでも使えるよう万全の準備をするのが、新人の私の役目だ。いつ、飛び込みの予約とかが入るか分からないし。今のところ、掃除ぐらいでしか、会社に貢献できないからね。
それに、ちょっとでも気を抜くと、いつの間にかリリーシャさんがやってしまう。なので、気付いたことは、直ぐにやるようにしていた。
エア・ゴンドラの掃除が終わると、ほうきを持ってきて、敷地内を掃除していった。朝夕もやっているけど、お客様の出入りがあったあとは、念のため、もう一度やっている。葉っぱ一枚たりとも、見逃したりはしない。
清潔さは、シルフィードにとって、とても大切なことだからだ。学習用のデータファイルにも『接客の基本は清掃から』って書いてあったし。入社してからは、すっかり掃除に目覚めてしまった。
私が掃除に精を出していると、上空から聞き慣れないエンジン音が響いてきた。リリーシャさんは事務所にいるし、うちの機体じゃないのは間違いない。
最近は、エンジン音を聞いただけで、だいたい誰か分かるようになった。リリーシャさん、ナギサちゃん、フィニーちゃん、みんな微妙にエンジン音が違うので。
音のほうに視線を向けると、驚くほど華麗に、スーッと何者かが降りてきた。赤い機体に赤い髪、背筋をピンと伸ばした直立不動の姿勢。
あれは……以前、私を追い抜いていった、赤くて凄い人だ! 名前は知らないけど、赤い色が、妙に強く印象に残っていた。
私と目が合うと、こちらにスタスタと歩み寄ってきた。歩く姿にも貫禄があって、思わず気圧されてしまう。
「こんにちは。君はここの社員かな?」
「え、はい――まだ、見習いですが」
「リリーシャは、いるかな?」
「あの……中にいますので。すぐに呼んでまいります」
私にしては珍しく、妙に緊張してしまった。だって、何か凄いオーラを感じたんだもん。しかも、リリーシャさんのこと、呼び捨てだし。もしかして、偉い人?
ほうきを抱えたまま、私は大急ぎで事務所に駆け込んでいった。
「リリーシャさん、お客様です! 何か赤くて凄い人です!」
「赤くて凄い……?」
リリーシャさんは、一瞬、考えたあと、
「分かったわ、すぐに行くわね」
笑顔で立ち上がり、ゆっくり外に向かっていく。
私はリリーシャさんのあとを、少し距離を置いてついていった。
制服を見る限り、他社の人みたいだけど、知り合いなのかな? いったい、どんな関係なんだろう……?
「ツバサちゃん、こんにちは」
リリーシャさんは、テラス席に座っていた赤髪の人に声を掛ける。
「やあ、リリー。元気でやっているかい?」
「えぇ、お陰さまで。ツバサちゃんも、相変わらず元気そうね」
少し遠巻きに見ていたが、二人とも笑顔で、とても和やかな雰囲気だった。外見も性格も、正反対な感じがするけど、かなり親しい間柄みたいだ。
「それにしても、久しぶりだね。二ヶ月ぶりぐらいだっけ?」
「そうね。お互いに忙しいものね」
「ここのところ、結構、予約が多かったし。協会の仕事やら、会社の新人研修までやらされて、休む間がなかったよ」
ツバサと呼ばれた女性は両手を広げ、やらやれといった表情を浮かべた。
「お仕事お疲れ様。今日は大丈夫なの?」
「次の予約は一時間後。ちょっとは、羽を伸ばさないとね」
「ちょうど良かったわ。私も次の予約まで、少し時間が空いているの。お茶を淹れてくるわね」
リリーシャさんは事務所に向かおうとするが、
「私がやりますので、リリーシャさんは、お話を続けてください」
私がさっと割り込んだ。
「お茶は私が用意するから、風歌ちゃんは、ツバサちゃんの相手をしてあげて」
「でも、リリーシャさんに、雑用をやらせるなんて出来ません」
私的には、先輩に雑用をやらせるなんて、絶対にあり得ない。お茶淹れなどは、後輩や新人がやるのが当たり前だし、何より雑用だけが、私が活躍できる仕事だからだ。
「風歌ちゃん、他の会社のシルフィードとお話するのも、とても勉強になるのよ。特に、彼女のような、人気シルフィードと話せる機会は、めったに無いから。ツバサちゃんはね〈ファースト・クラス〉所属の『深紅の紅玉』と呼ばれる、スカイ・プリンセスなの」
リリーシャさんは、やんわりと説明してくれる。
「やっぱり、凄い人だったんですね!」
見るからに風格が漂っているのは、そのせいだったんだ。
それにしても『深紅の紅玉』って二つ名、めっちゃ赤くてカッコイイ! 見た目や風格に、ピッタリだと思う。
私、赤って超大好きなんだよね。熱血な感じだし、主人公の色だし、強そうだし。私も将来は『赤い彗星』みたいな、かっこいい二つ名が欲しいなぁ……。
「それじゃ、お茶を淹れてくるから、後はよろしくね」
リリーシャさんは微笑むと、ゆっくり事務所に入って行った。
私は少し緊張しながら、ツバサさんの座っているテーブルに近づいて行く。他社の上位階級の人と話すのって初めてなので、すっごく緊張する。
「初めまして、如月風歌と申します。まだ、入ったばかりの新人ですが、よろしくお願いいたします!」
頭を深々と下げ、気合を入れて挨拶した。
「君が風歌ちゃんか。話はリリーから聴いているよ。とても元気があってていいね。何かスポーツとかやってたの?」
「はいっ、中学時代は陸上をやっていました」
「へぇー、そうなんだ。いいね、そういう体育会系のシャキッとしたノリは、僕も好きだよ」
「先輩にも、この良さが分かりますか?」
私は嬉しくなって、少し身を乗り出す。
「僕も学生時代は運動部だったからね。シルフィードになるまでは、体育会系ノリでやってたんだ。それにしても、先輩って呼ばれるの久しぶりだな」
「会社の後輩からは、呼ばれないんですか?」
「うちの会社では、先輩のことは『お姉様』って呼ぶのが伝統なんだ。だから『ツバサお姉様』って呼ぶ人が多いね」
「お嬢様っぽくて、素敵ですね」
なんか名門のお嬢様学校みたいな感じがする。『先輩』もいいけど『お姉様』もありかも。リリーシャお姉様かぁ……。二人でお茶しながら、上品なお嬢様トークをしている場面を脳内妄想し、微笑みをこぼした。
「でも、僕は堅苦しいのが苦手でね。それに、お姉様って柄でもないから。普通にツバサって呼ぶか、先輩のほうが気楽でいいよ」
ツバサさんは苦笑するが、笑顔もクールでかっこいい。
「うちは、先輩って呼ばせてもらえないんです。リリーシャさん、体育会系とか上下関係とか、好きじゃないみたいなので。『リリーって呼んでね』と言われたんですけど、それは流石に恐れ多くて言えないです」
「あははっ、リリーらしいね。アリーシャさんも、とてもフンワリした人だったから、似たのかも。まぁ、家庭的な会社もいいんじゃないかな? それが〈ホワイト・ウイング〉のいいところだし」
「私的には、もっとビシバシ厳しくして貰いたいんですけど――。リリーシャさん優しすぎて、怒られたことが一度もないんです」
私がどんなミスをしても、リリーシャさんは、柔らかな表情で『大丈夫?』と声を掛けてくれる。怒ったりイライラした表情を、ただの一度も見たことがない。本当に天使のように、心が広く優しい人だ。
「君の性格だと、うちの会社のほうが合いそうだね。上下関係がはっきりしてるし、礼儀作法も煩いから、割と体育会系に近い感じかな」
「実は〈ファースト・クラス〉も受けたんですけど、あっさり落ちてしまいまして」
まぁ、そこだけじゃなくて、受けた会社は全滅だったんだけどね……(涙)
「そうだったんだ。でも、そのお陰で〈ホワイト・ウイング〉に入れたんだから、よかったんじゃないかな? 偉大な『グランド・エンプレス』の作った会社だし、リリーにも会えたわけだから」
「はい、リリーシャさんに会えたのは、人世で最高の幸運でした」
「それは、リリーのほうも同じだよ」
「同じ――?」
ツバサさんのほうを見ると、にっこり微笑んでいた。
「そういえば、アリーシャさんって、どんな方だったんですか? リリーシャさんは、全然その話をしてくれないので」
「そうか……話してないんだ」
ツバサさんはしばし考え込み、事務所のほうに顔を向けた。
「その話は長いから、また今度、時間があったら話してあげるよ」
ちょうど中からリリーシャさんが、キッチン・ワゴンを押しながら、こちらにやってきた。ワゴンの上には、ティーポットにカップ、ケーキのお皿が載っている。
「とても楽しそうね。何を話していたのかしら?」
リリーシャさんが訊ねると、
「あぁ、とても楽しくていい子だね。今うちの会社に来ないか、勧誘してたんだ」
ツバサさんは、サラッと笑顔で答えた。
「えぇ?! ち、違いますよっ! 私は〈ホワイト・ウイング〉一筋ですから!」
私が慌てて答えると、二人は大きな声で笑った。って、からかわれたんか――。
「さぁ、お茶にしましょう」
「リリーの淹れるお茶は、久しぶりだから楽しみだね」
「わぁ、ケーキ凄く美味しそう!」
三人でワイワイ話しながら、午後の素敵なひと時を過ごす。
でも、冷静に考えると凄いよね。伝説の『グランド・エンプレス』が作った会社で、人気の『スカイ・プリンセス』二人に囲まれ、優雅にお茶してるんだから。新人の私には、贅沢すぎるかも。
でも今度は、アリーシャさんとも、一緒にお茶してみたいなぁ……。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
次回――
『乙女チックなナギサちゃんの観光名所講座』
命短し恋せよ乙女……
つい先程まで、お客様が乗っていた機体で、今しがたリリーシャさんの操縦で帰ってきたばかりだ。お客様のお見送りが済むと、掃除用具を持ち出し、すぐに清掃を開始した。
リリーシャさんは『あとでも大丈夫』と言ってくれたが、いつでも使えるよう万全の準備をするのが、新人の私の役目だ。いつ、飛び込みの予約とかが入るか分からないし。今のところ、掃除ぐらいでしか、会社に貢献できないからね。
それに、ちょっとでも気を抜くと、いつの間にかリリーシャさんがやってしまう。なので、気付いたことは、直ぐにやるようにしていた。
エア・ゴンドラの掃除が終わると、ほうきを持ってきて、敷地内を掃除していった。朝夕もやっているけど、お客様の出入りがあったあとは、念のため、もう一度やっている。葉っぱ一枚たりとも、見逃したりはしない。
清潔さは、シルフィードにとって、とても大切なことだからだ。学習用のデータファイルにも『接客の基本は清掃から』って書いてあったし。入社してからは、すっかり掃除に目覚めてしまった。
私が掃除に精を出していると、上空から聞き慣れないエンジン音が響いてきた。リリーシャさんは事務所にいるし、うちの機体じゃないのは間違いない。
最近は、エンジン音を聞いただけで、だいたい誰か分かるようになった。リリーシャさん、ナギサちゃん、フィニーちゃん、みんな微妙にエンジン音が違うので。
音のほうに視線を向けると、驚くほど華麗に、スーッと何者かが降りてきた。赤い機体に赤い髪、背筋をピンと伸ばした直立不動の姿勢。
あれは……以前、私を追い抜いていった、赤くて凄い人だ! 名前は知らないけど、赤い色が、妙に強く印象に残っていた。
私と目が合うと、こちらにスタスタと歩み寄ってきた。歩く姿にも貫禄があって、思わず気圧されてしまう。
「こんにちは。君はここの社員かな?」
「え、はい――まだ、見習いですが」
「リリーシャは、いるかな?」
「あの……中にいますので。すぐに呼んでまいります」
私にしては珍しく、妙に緊張してしまった。だって、何か凄いオーラを感じたんだもん。しかも、リリーシャさんのこと、呼び捨てだし。もしかして、偉い人?
ほうきを抱えたまま、私は大急ぎで事務所に駆け込んでいった。
「リリーシャさん、お客様です! 何か赤くて凄い人です!」
「赤くて凄い……?」
リリーシャさんは、一瞬、考えたあと、
「分かったわ、すぐに行くわね」
笑顔で立ち上がり、ゆっくり外に向かっていく。
私はリリーシャさんのあとを、少し距離を置いてついていった。
制服を見る限り、他社の人みたいだけど、知り合いなのかな? いったい、どんな関係なんだろう……?
「ツバサちゃん、こんにちは」
リリーシャさんは、テラス席に座っていた赤髪の人に声を掛ける。
「やあ、リリー。元気でやっているかい?」
「えぇ、お陰さまで。ツバサちゃんも、相変わらず元気そうね」
少し遠巻きに見ていたが、二人とも笑顔で、とても和やかな雰囲気だった。外見も性格も、正反対な感じがするけど、かなり親しい間柄みたいだ。
「それにしても、久しぶりだね。二ヶ月ぶりぐらいだっけ?」
「そうね。お互いに忙しいものね」
「ここのところ、結構、予約が多かったし。協会の仕事やら、会社の新人研修までやらされて、休む間がなかったよ」
ツバサと呼ばれた女性は両手を広げ、やらやれといった表情を浮かべた。
「お仕事お疲れ様。今日は大丈夫なの?」
「次の予約は一時間後。ちょっとは、羽を伸ばさないとね」
「ちょうど良かったわ。私も次の予約まで、少し時間が空いているの。お茶を淹れてくるわね」
リリーシャさんは事務所に向かおうとするが、
「私がやりますので、リリーシャさんは、お話を続けてください」
私がさっと割り込んだ。
「お茶は私が用意するから、風歌ちゃんは、ツバサちゃんの相手をしてあげて」
「でも、リリーシャさんに、雑用をやらせるなんて出来ません」
私的には、先輩に雑用をやらせるなんて、絶対にあり得ない。お茶淹れなどは、後輩や新人がやるのが当たり前だし、何より雑用だけが、私が活躍できる仕事だからだ。
「風歌ちゃん、他の会社のシルフィードとお話するのも、とても勉強になるのよ。特に、彼女のような、人気シルフィードと話せる機会は、めったに無いから。ツバサちゃんはね〈ファースト・クラス〉所属の『深紅の紅玉』と呼ばれる、スカイ・プリンセスなの」
リリーシャさんは、やんわりと説明してくれる。
「やっぱり、凄い人だったんですね!」
見るからに風格が漂っているのは、そのせいだったんだ。
それにしても『深紅の紅玉』って二つ名、めっちゃ赤くてカッコイイ! 見た目や風格に、ピッタリだと思う。
私、赤って超大好きなんだよね。熱血な感じだし、主人公の色だし、強そうだし。私も将来は『赤い彗星』みたいな、かっこいい二つ名が欲しいなぁ……。
「それじゃ、お茶を淹れてくるから、後はよろしくね」
リリーシャさんは微笑むと、ゆっくり事務所に入って行った。
私は少し緊張しながら、ツバサさんの座っているテーブルに近づいて行く。他社の上位階級の人と話すのって初めてなので、すっごく緊張する。
「初めまして、如月風歌と申します。まだ、入ったばかりの新人ですが、よろしくお願いいたします!」
頭を深々と下げ、気合を入れて挨拶した。
「君が風歌ちゃんか。話はリリーから聴いているよ。とても元気があってていいね。何かスポーツとかやってたの?」
「はいっ、中学時代は陸上をやっていました」
「へぇー、そうなんだ。いいね、そういう体育会系のシャキッとしたノリは、僕も好きだよ」
「先輩にも、この良さが分かりますか?」
私は嬉しくなって、少し身を乗り出す。
「僕も学生時代は運動部だったからね。シルフィードになるまでは、体育会系ノリでやってたんだ。それにしても、先輩って呼ばれるの久しぶりだな」
「会社の後輩からは、呼ばれないんですか?」
「うちの会社では、先輩のことは『お姉様』って呼ぶのが伝統なんだ。だから『ツバサお姉様』って呼ぶ人が多いね」
「お嬢様っぽくて、素敵ですね」
なんか名門のお嬢様学校みたいな感じがする。『先輩』もいいけど『お姉様』もありかも。リリーシャお姉様かぁ……。二人でお茶しながら、上品なお嬢様トークをしている場面を脳内妄想し、微笑みをこぼした。
「でも、僕は堅苦しいのが苦手でね。それに、お姉様って柄でもないから。普通にツバサって呼ぶか、先輩のほうが気楽でいいよ」
ツバサさんは苦笑するが、笑顔もクールでかっこいい。
「うちは、先輩って呼ばせてもらえないんです。リリーシャさん、体育会系とか上下関係とか、好きじゃないみたいなので。『リリーって呼んでね』と言われたんですけど、それは流石に恐れ多くて言えないです」
「あははっ、リリーらしいね。アリーシャさんも、とてもフンワリした人だったから、似たのかも。まぁ、家庭的な会社もいいんじゃないかな? それが〈ホワイト・ウイング〉のいいところだし」
「私的には、もっとビシバシ厳しくして貰いたいんですけど――。リリーシャさん優しすぎて、怒られたことが一度もないんです」
私がどんなミスをしても、リリーシャさんは、柔らかな表情で『大丈夫?』と声を掛けてくれる。怒ったりイライラした表情を、ただの一度も見たことがない。本当に天使のように、心が広く優しい人だ。
「君の性格だと、うちの会社のほうが合いそうだね。上下関係がはっきりしてるし、礼儀作法も煩いから、割と体育会系に近い感じかな」
「実は〈ファースト・クラス〉も受けたんですけど、あっさり落ちてしまいまして」
まぁ、そこだけじゃなくて、受けた会社は全滅だったんだけどね……(涙)
「そうだったんだ。でも、そのお陰で〈ホワイト・ウイング〉に入れたんだから、よかったんじゃないかな? 偉大な『グランド・エンプレス』の作った会社だし、リリーにも会えたわけだから」
「はい、リリーシャさんに会えたのは、人世で最高の幸運でした」
「それは、リリーのほうも同じだよ」
「同じ――?」
ツバサさんのほうを見ると、にっこり微笑んでいた。
「そういえば、アリーシャさんって、どんな方だったんですか? リリーシャさんは、全然その話をしてくれないので」
「そうか……話してないんだ」
ツバサさんはしばし考え込み、事務所のほうに顔を向けた。
「その話は長いから、また今度、時間があったら話してあげるよ」
ちょうど中からリリーシャさんが、キッチン・ワゴンを押しながら、こちらにやってきた。ワゴンの上には、ティーポットにカップ、ケーキのお皿が載っている。
「とても楽しそうね。何を話していたのかしら?」
リリーシャさんが訊ねると、
「あぁ、とても楽しくていい子だね。今うちの会社に来ないか、勧誘してたんだ」
ツバサさんは、サラッと笑顔で答えた。
「えぇ?! ち、違いますよっ! 私は〈ホワイト・ウイング〉一筋ですから!」
私が慌てて答えると、二人は大きな声で笑った。って、からかわれたんか――。
「さぁ、お茶にしましょう」
「リリーの淹れるお茶は、久しぶりだから楽しみだね」
「わぁ、ケーキ凄く美味しそう!」
三人でワイワイ話しながら、午後の素敵なひと時を過ごす。
でも、冷静に考えると凄いよね。伝説の『グランド・エンプレス』が作った会社で、人気の『スカイ・プリンセス』二人に囲まれ、優雅にお茶してるんだから。新人の私には、贅沢すぎるかも。
でも今度は、アリーシャさんとも、一緒にお茶してみたいなぁ……。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
次回――
『乙女チックなナギサちゃんの観光名所講座』
命短し恋せよ乙女……
0
お気に入りに追加
107
あなたにおすすめの小説
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】
スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。
帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。
しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。
自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。
※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。
※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。
〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜
・クリス(男・エルフ・570歳)
チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが……
・アキラ(男・人間・29歳)
杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が……
・ジャック(男・人間・34歳)
怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが……
・ランラン(女・人間・25歳)
優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は……
・シエナ(女・人間・28歳)
絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?
つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。
平民の我が家でいいのですか?
疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。
義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。
学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。
必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。
勉強嫌いの義妹。
この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。
両親に駄々をこねているようです。
私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。
しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。
なろう、カクヨム、にも公開中。
いつもの電車を降りたら異世界でした 身ぐるみはがされたので【異世界商店】で何とか生きていきます
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
電車をおりたら普通はホームでしょ、だけど僕はいつもの電車を降りたら異世界に来ていました
第一村人は僕に不親切で持っているものを全部奪われちゃった
服も全部奪われて路地で暮らすしかなくなってしまったけど、親切な人もいて何とか生きていけるようです
レベルのある世界で優遇されたスキルがあることに気づいた僕は何とか生きていきます
貧乏男爵家の四男に転生したが、奴隷として売られてしまった
竹桜
ファンタジー
林業に従事していた主人公は倒木に押し潰されて死んでしまった。
死んだ筈の主人公は異世界に転生したのだ。
貧乏男爵四男に。
転生したのは良いが、奴隷商に売れてしまう。
そんな主人公は何気ない斧を持ち、異世界を生き抜く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる