私異世界で成り上がる!! ~家出娘が異世界で極貧生活しながら虎視眈々と頂点を目指す~

春風一

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第1部 家出して異世界へ

2-7地上で働くシルフィードは誰よりも輝いていた

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 私は〈南地区〉にある〈シルフィード・モール〉に来ていた。一直線に伸びる道の左右には、様々なお店があり、それが一キロ近く続くとても大きな商店街だ。いつ来ても、たくさんの人で賑わっている。

〈南地区〉は、時空航行船が行き来する『グリュンノア国際空港』や、リゾートホテルなども多数あるため、観光客が非常に多い。いわば〈グリュンノア〉の玄関口のようなものだ。

 また、観光客だけでなく、地元の若者たちも、たくさん訪れる人気のスポット。なぜなら、ブティックから大型店まで、衣料品関連のお店が非常に多いからだ。

 時代の最先端を行くファッションが、各種、取り揃えられており、見た目もとても華やかだった。『ファッションの聖地』だけあって、道行く人たちも、オシャレな服装の人が多い。

 でも、お値段は高めなので、私にはちょっと手が出せなかった。普通の人から見れば、そんなに高くないのかもしれないけど、つい『パンが何個買えるか』計算してしまう。

 ちなみに、この〈南地区〉には、ナギサちゃんが所属する〈ファースト・クラス〉の本社もある。初めて見た時は、滅茶苦茶、大きくてビックリした。

 こんな一等地にあの規模って、流石は大手企業だよね。実は、私も面接に行ったけど、あっさり落ちてしまったのは内緒。まぁ、中に入った瞬間、場違いなの分かったし……。 

 それはさておき、今日は仕事がお休みなので、プライベートで来ていた。狭い部屋に閉じこもっていると息が詰まるので、休日はいつも、町中をブラブラしている。

 ナギサちゃんも誘ったんだけど、今日は新人の研修があるんだって。そんなわけで、一人でのんびり『ウィンドウ・ショッピング』を楽しむことにした。見るだけなら、タダだからね。

 でも、今日の本当の目的は、別にあった。この〈シルフィード・モール〉の一角にある〈シルフィード・ショップ〉を見学することだ。

『シルフィード協会』が直営している公式ショップで、シルフィードに関する、様々なグッズが売られている。プロマイドやポスターなども置いてあり、なんかアイドル・ショップっぽい感じみたい。

 前から知ってはいたけど、来るのは今日が初めて。あまり興味がなかったのと、空港の近くに来ると、家を飛び出して来た時のことを思い出すので、あえて避けていたのもあるんだよね――。

 でも、一人前のシルフィードになるには、全てを知っておく必要があるわけで。今日は、意を決してやってきた。

 私は、気になるお店を見ながら、少しずつ進んで行った。時には、お店の中に入って、じっくりと商品を眺める。ファッションや小物系のお店に来るのって、この町に来てから初めてだった。

 普段は無頓着だけど、私だって年頃の女子なので、ファッションとかお洒落に興味がない訳じゃない。ただ、仕事が忙しかったり、生きるのに精一杯で、頭の中からフェードアウトしているだけだ。

 でも、ゆっくり洋服を見るなんて、何ヶ月ぶりだろう? 学生時代はよく、友達たちとワイワイ服を見に行ったんだけどなぁ。

 普段、よく行くお店と行ったら、パン屋と〈東地区〉の商店街。あと、半額狙いで行く、閉店間際のスーパーぐらいだ。何と言うか、生活感100%なのが、ちょっと悲しい……。

 ちなみに、手持ちの服は、家を飛び出した時に持ってきた数着だけ。こっちに来てから、一度も買ったことがない。ただ、普段は制服を着ているから、私服がなくても、特に困らないんだよね。

 町中にも、シルフィードの制服の人がたくさんいるし、プライベートの時も、制服で行動することが多い。一度慣れちゃうと、どこにでも着ていけるので、割と便利だ。

 そんな訳で、今日も制服で来ている。私服でも、よかったんだけど、ここに合うようなお洒落な服を持ってないし。一応、研修のつもりで、ビシッと気合を入れてきた。

 のんびり見物しながら進んだので、かなり時間が掛かったけど、ようやく〈シルフィード・ショップ〉が見えてくる。想像していたよりも、かなり大きい。お客さんも、かなりいるが、ほとんどが女性だった。

 店の前に立って、ざっと見回すと、どれもこれも、全てが『シルフィード・グッズ』だ。

「へぇー、こんなに種類があるんだぁ」
 お土産屋で見かけた、有名なお菓子などもあるが、初めて見るものばかりだ。

 店の奥に入っていくと『キャラクター・グッズ』が沢山おいてある。歴代の人気シルフィードから、現役のシルフィードのものまで揃っていた。よく見ると、リリーシャさんのグッズも置いてあった。

 おぉー、流石はリリーシャさん! やっぱり、凄く人気あるんだねぇ。

 いつも一緒にいるから、あまり気にしてなかったけど、実際は物凄い人なんだよね。母親が『伝説のシルフィード』と言われる人でありながら、その娘ではなく、一個人として評価されているのが、本当に凄いと思う。

 私は次々と、人気シルフィードのグッズを見て回ったが、やはり実力者は、不思議なオーラのようなものが漂っていた。力強さ・気高さ・美しさ・上品さ、そういったものが、あふれ出しているような気がする。

『私もいつかは、こんな感じになれるのかなぁー』なんて考えながらウロウロしていると、店員さんらしき人に、笑顔で声を掛けられた。

「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」

 見慣れた制服を着ているので、おそらく私と同じシルフィードだと思う。でも、腕章は協会のマークが付いていた。シルフィード協会の人が、やっているのかな?

「あぁ、いえ、今日は見学に来たんです。前から存在は知ってたんですけど、なかなか来る機会がなくて……」

「確かに、現役の方は、来る機会がありませんよね。置いてある商品も、見慣れたものばかりだと思いますし」

「それが――実はどれもこれも、初めて見るものばかりで。シルフィード仲間にも、物を知らなさすぎるって、よく言われるんです。アハハッ」

 一応、勉強はしているものの、覚えることが多すぎて、追いついていないのが現状だ。文化や常識も違うから、元々この世界に住んでいた人に比べて、覚えることが多い。

 いまだに、色んな新しい発見やカルチャーショックもあるし。まぁ、毎日が新しい冒険みたいで、楽しいんだけどね。

「始められたばかりなのですか?」 
「数ヶ月前に始めたので、まだ見習い中なんです」

「そうですか。なら、今が一番楽しい時期ですね」
 彼女は柔らかな笑顔を受かべる。

「すっごく楽しいです。あなたも、シルフィードをやられているのですか?」

 私は、さっきから気になっていることを質問した。よく見ると、店の各所には彼女と同じ制服を着た、シルフィードと思しき人達が、明るく接客をしている。

「……元シルフィードです」
 一瞬の間のあと、彼女は静かに答えた。

 あれっ、もしかして訊いちゃマズかったのかな……?

「実は、ここにいるスタッフは全員、元シルフィードなんです」
「えっと――現役の方はいないんですか?」

「全員、引退した人たちです。中には、現役にならずに、直接、来た人もいますが」
「え……?」 
 意味がよく分からず、私は首をかしげる。

「シルフィード協会の職員は、引退した人たちが多いのは、ご存知ですか?」
 彼女は笑顔で質問して来る。

「それは、聴いたことがあります。現役で活躍したあとも、協会の仕事に携わり、シルフィード業界の発展に、尽力しているとか――」

「確かに、現役時代に大活躍された方も、協会には在籍されています。ただ、一番多いのは、途中でやむなく引退した人たちなんです」

「えと、病気とかですか?」
「怪我や病気、事故、家庭の事情で引退される方もいます。私の場合は目の病気で、左目の視力が殆どないんです」 

「えっ?!」
 よく見ると、彼女の左目は、少し光彩が薄いような気がする。でも、笑顔が素敵なので、言われるまでは全く気づかなかった。 

「日常生活に支障はありませんが、お客様の命をお預かりする仕事ですので。他のスタッフたちも、体に異常が発生して、引退した人たちばかりです」

 彼女は周りのスタッフたちを、そっと見まわした。

「……」
 なんと返していいのか、私は言葉が浮かんでこなかった。

『頑張ってください』も『気にしないでください』も、違う気がする。そもそも、ここにいる人たちは皆、私よりも先輩だ。何も知らない新人が、口出しできることではない。

「他にも、最初から体に障害などがあり、試験に受からず、シルフィードになれなかった人たちもいます。それでも、シルフィードへの情熱が捨てられず、協会で働いている人達もいるんです」

「そうだったんですか――。でも、皆さん、生き生きしている感じがしますね」
 どのスタッフの人達も、現役の人に負けないぐらい、元気で明るく見えた。

「私達は、シルフィードの一員として働けることに、とても大きな喜びを感じています。それに、空で働くシルフィードも、地上で働くシルフィードも『お客様を笑顔にしたい』という想いは、全く同じだと思うのです」

 彼女のその言葉は、私の心に深く突き刺さった。なぜなら、私が忘れかけていた想いだからだ。飛行技術や知識、昇級など。最近の私は、自分のことばかりを考えていた。

 でも、私が初めてシルフィードを知った時。夢や希望、楽しさや喜びを、多くの人に与えてあげられる、素敵な職業だと思ったからこそ、なりたいと強く思ったのだった。

 最近は、日々の仕事や生活に追われ、その気持ちを忘れかけていた。『ホスピタリティ精神』は、シルフィードにとって、最も大切なことなのに……。

 初心を忘れていたことにショックを受け、私は黙り込んでしまう。

 それに気付いたのか、
「すいません。現役の方には、つまらないお話でしたね」
 彼女は気を使って、優しく声を掛けてくれた。

「いえ、とんでもありません。先輩のお話、すごく勉強になりました。ありがとうございます」
 私は深々と頭を下げる。

「そんな、頭を上げてください。私はもう、引退した身ですから、先輩などと言われるような、立派な立場ではありませんので」

「でも、先輩のお話のおかげで、自分の未熟さと、初心を忘れていたことに、気づきました。また、お話を聴かせて貰いに来ても、いいでしょうか?」

 彼女は一瞬、驚いた表情を浮かべたが、
「はい、私でよければ喜んで」 
 最高の笑顔で答えてくれた。

 私は彼女の表情を見て、心がほっこりと暖かくなった。きっと現役時代も、この素敵な笑顔で、たくさんの人達を、幸せな気持ちにしてあげたに違いない。

 私はしばらく中を見て回ってから、静かに店をあとにした。振り返るとそこには、明るい笑顔の店員さんたちが、元気にお客様の対応をしていた。

 その姿は、とても明るく輝いていて、何か障害や問題を抱えているようには、とても見えなかった。

 私はゆっくり歩きながら、青い空を見上げた。大事な初心を忘れていながら『グランド・エンプレス』を目指そうだなんて――。私は何て愚かなことを考えていたのだろうか? 

 また、一からやり直そう。あの日、この地に降り立った時の気持ちを、これからは一生忘れないようにしよう。

 私が目指したいのは、お客様を笑顔にする、最高に素敵なシルフィードなのだから……。


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次回――
『赤って主人公の色だし強そうに見えるよね』

 赤は通常の3倍だから……
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