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第1部 家出して異世界へ

2-5母と娘のすれ違う想いに風の祝福を

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 今回はリリーシャの心の声の回のため
 地の文がメインです。

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 私は自室でマギコンを開き、仕事のファイルを整理していた。以前は、お客様の対応が終わったあと、会社に残り行っていたが、最近は、家に持ち帰るようにしている。

 なぜなら、会社で残業をしていると、風歌ちゃんが気を使って、一緒に『居残り』をするからだ。なので、なるべく定時で上がるようにしている。

 彼女はとても気の利く子で、どんな雑用でも率先してやってくれた。しかも、嫌な顔一つせず、何をやる時もとても楽しそうだ。何でもやってくれるのは、とてもありがたいけれど、ちょっと気を使い過ぎな気もする。

 それに、私のことを物凄く先輩として立ててくれていた。礼儀正しいのはいいけれど、私は尊敬されるほどの、出来た人間ではないと思う。

『グランド・エンプレス』だった母ほど、優れたシルフィードではないし、まだ、ベテランの域にはほど遠い。私自身、まだまだ修行中の身だと思っている。だから、あまり尊敬されるのも心苦しい。

 ただ、彼女が来てから、ずいぶんと仕事が捗るようになった。何でもテキパキやってくれるのも有るけれど『心の支え』が、とても大きかった。

 会社に戻った時に、誰かが暖かく迎えてくれるだけで、物凄い安心感がある。会社を一人でやるようになってから、久しく忘れていた感覚だった。

 毎日、元気な風歌ちゃんの姿を見るのが、仕事の楽しみの一つになっている。今の私にとって、彼女は欠かせないほど大きな存在になっていた。

 私は仕事のファイルの整理が終わると、メールボックスを開いた。すると、ある『新着メール』に目がとまった。風歌ちゃんの、お母様からのメールだ。

 数ヶ月前。風歌ちゃんと出会い、うちの会社で働くことが決まったあと。私は、彼女に内緒で、ご家族に手紙を送っていた。

 未成年の子を預かる責任もあるし、何より、ご家族が心配していると思ったからだ。連絡先や住所は、彼女の提出した履歴書に、全て書いてあった。

 手紙を送ってから数日後。『時空間郵便』の特急便で、私宛に手紙が届いた。中を見てみると、風歌ちゃんのお母様からの返信だった。

 手紙の中には、とても丁寧な、お詫びとお礼について。また『すぐに連れ戻しに行きます』と書かれていた。

 手紙の最後には、電話番号とメールアドレスが書かれていたので、私はすぐに、メールで返信を送った。『時空間郵便』と違い、メールなら異世界でも、数時間で届けることが出来る。

 私が書い返事は『もうしばらく、様子を見てあげて貰えませんか』という内容だった。彼女は物凄く真剣だったので、チャンスを上げて欲しかったからだ。

 すると『できの悪い娘ですが、もうしばらくの間、何卒よろしくお願いいたします』と、お母様から返信が来た。

 それ以来、風歌ちゃんには内緒で、お母様とメールのやりとりをしている。私が近況報告を送ると、毎回とても丁寧な、お礼が書かれたメールが返ってきた。

 直接は、書かれていないけれど、文面からは、彼女をとても心配していること。また、娘への深い愛情が感じられた。メールの文面を見る限り、とても優しくて素敵なお母様だと思う。

 ちなみに、メールに少し書かれていたが、お父様のほうは、気が気でないらしく、今すぐにでも迎えに行きたいそうだ。いつも送られてくるメールを見せると、凄く嬉しそうな半面、会いたくてソワソワしているらしい。

 お母様いわく、風歌ちゃんは、お父様似。考えなしに行動する無鉄砲さや、大雑把さは、そっくりだそうだ。似た者同士のせいか、仲がいいらしい。

 ただ、お父様は、娘に凄く甘いらしく、その分、お母様が物凄く厳しかったようだ。何となく、風歌ちゃんのご家族の、関係性が見えてきた。

 私はメールを読み終えると、目を閉じ少し考え込む。なぜなら、今回のメールは、いつもと違い『娘に会いに行こうと思うのですが、いかがでしょうか?』と書かれていたからだ。

 もちろん『一日も早く再会して、仲直りして欲しい』と、心から願っていた。でも、私とお母様でやり取りしているのは、本人には、未だに内緒のままだった。

 もし、話せば、風歌ちゃんを傷つける可能性がある。彼女は、私のことを凄く信頼してくれているので、裏切り行為と思うかもしれない。それに、親子関係が、余計にこじれるかもしれないからだ。

 お互い、色々と誤解している部分もあり、感情的になっているところもある。本当に分かり合うためには、時として距離を置いて、冷静になる必要があると思う。

 私は来年には二十歳になるけれど、四歳しか違わないので、風歌ちゃんの気持ちも理解できた。風歌ちゃんぐらいの年頃は、何でも自分の意思でやりたい時期で、自分が『一人前の大人』だと錯覚してしまう。

 特に、独立心のある子ほど、大人としての自覚が強い。だから、反対する親の言葉は、ただ『邪魔をしている』ようにしか、聞こえないのだ。

 私の場合は、母に憧れていたし、シルフィードになるのを反対されたこともない。なので、母の言葉は、何でも素直に聴いていた。

 そもそも私は、何でも母に頼り切りで、自分が子供だと自覚していたので、独立心旺盛な風歌ちゃんとは、全く状況が違う。

 私はしばらく考え込んだあと、静かに返信用のメールを開いた。まずは、夏の季節の挨拶から書き始める。幸い、こちらと向こうは季節がほぼ同じなので、書きやすい。

 挨拶のあとは、最近の出来事や、風歌ちゃんの仕事ぶりを書いていった。特に、彼女の成長が分かる部分を、細かく説明していく。

 最後に『もうしばらくの間、見守ってあげて頂けないでしょうか? 時期が来ましたら、こちらから、お知らせさせて頂きたいと思います』と、慎重に書き加えた。

 一通り書き終わると、誤字などのチェックをし、最後に写真を添付する。風歌ちゃんと一緒に食事をしたり、お出かけをした際の写真。風歌ちゃんが、掃除をしたり、エア・ドルフィンに乗っている、仕事の写真などだ。

 以前、写真を添付したら『娘の元気な姿が見れて安心しました』と、お母様のメールに書かれていたので、それ以来は、毎回、写真を一緒に送っている。

 たくさん撮った中から、できるだけ、楽しそうな表情のものを選んで添付した。どの写真も、風歌ちゃんの元気があふれ出ている。

 もう一度、ざっとメールの内容を確認すると、送信ボタンを押した。その直後、私は目を閉じ、胸の前で手を組むと『どうか、二人に風の祝福を。親子仲が上手くいきますように』と、祈りを捧げる。

 私が祈るのは、いつも『風の精霊の女王』シルフィードだ。幸運を風にのせ運んでくれると、言い伝えられている。

 私は神様は信じていないが、シルフィードだけは、昔から信じていた。子供のころ、母が話をしてくれたし『風の祝福を』も、母がよく使っていた言葉だからだ。

 私は、何から何まで母の真似で、九割は母と同じことをやっている。シルフィードの仕事を選んだのも、そのほかの物事も、ほとんどが母親譲りだった。

 その点、風歌ちゃんは、自分の力だけで、新しい道を切り開こうとしている。本当に凄いと思うし、学ぶことも多かった。

 風歌ちゃんは、シルフィードが私に運んで来てくれた、最高の幸運だと思っている。だからこそ、暖かく見守り、大事に育んで行きたい。

 いつか、彼女が私の手を離れ、一人で羽ばたけるようになるその時まで……。


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次回――
『ガサツな私でも天使みたいになれるだろうか?』

 愛してくれてありがとう。命をくれて本当にありがとう……
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