16 / 363
第1部 家出して異世界へ
2-4親の同意をもらってないので実は入社(仮)です
しおりを挟む
私は風を全身に浴びながら、今日も町の上空を飛んでいた。午前中の仕事を終えると、いつも通り地図を片手に、飛行訓練を開始する。
時間は十二時を少し回ったところで、私は急いで〈エメラルド・ビーチ〉に向かった。ナギサちゃんと一緒に、お昼を食べる約束をしていたからだ。
ちなみに〈西地区〉と〈東地区〉にはビーチがあって、西が〈サファイア・ビーチ〉で、東が〈エメラルド・ビーチ〉だ。
西のビーチは観光客や若者が多く、とても賑わっており、いかにも観光地という感じがする。逆に、東のビーチは地元の人が多く、落ち着いた雰囲気だ。私がよく行くのは、東側のほう。こっちのほうが、リーズナブルなお店が多いので……。
最近は、だいぶ『魔力制御』にも慣れてきて、以前より速く飛べるようになって来た。ただ、魔力制御の調子は、日によってかなり違う。でも、今日は朝から物凄く絶好調で、気持ちよく飛ばしていた。
待ち合わせの時間は、少し過ぎてしまっているが、このペースならかなり早く着くはずだ。私は意識を集中し、体勢を低くすると、さらに加速する。
だが、後方からかすかに風切り音が聞こえてきた。ちらりと視線を横に向けると、派手な赤い機体が、何事も無かったかのように、一瞬で通り過ぎていった。
『エア・ボード』と言われる、ハンドルが付いていない立ち乗りの機体で、魔力コントロールだけで操作する、上級者向けのエア・ドルフィンだ。見た目は『サーフボード』に似ている。
搭乗者は腕を組んで直立し、赤い髪をなびかせ、スーッと静かに通り過ぎていった。一瞬の出来事で顔はよく見えなかったが、相当、名のあるシルフィードに違いない。何か、物凄く堂々とした感じだし。
追いかけようと思ったが、私はすでに限界スピードに達していた。みるみるうちに離され、あっという間に姿が見えなくなってしまった。
「速い――速すぎる! あんな凄い人がいるんだ……」
私は唖然としてスピードを緩めた。
かなり自信がついて来ただけに、結構ショックが大きい。相手はスピードの出るエア・ボードだったのもあるけど、同じ条件だったとしても、おそらく追いつけなかったと思う。まだ、速度に余裕がありそうだったし。
うーん、やっぱり、上には上がいるもんだねぇ。もっともっと修行をして、上手くならなければ……。
******
私は〈エメラルド・ビーチ〉に着くと、ゆっくり降下し、目的のカフェ〈リトル・マーメイド〉に向かった。ナギサちゃんはすでに来ており、海を眺めながら、優雅にお茶をしていた。
私の姿を見ると、
「遅いわよっ!」
と睨みつけながら、予想通りの言葉を掛けてくる。
途中までは気持ちよく飛ばしてたけど、驚きと戦意喪失で、後半はのろのろ飛んでいた。そのため、予定より時間が掛かってしまったのだ。
「ごめん、ごめん。ギリギリまで練習してたから、遅くなっちゃって」
「時間厳守は、シルフィードの基本中の基本よ。もし、お客様との待ち合わせだったら、どうするのよ?」
ナギサちゃんは、真顔で説教する。例え、プライベートであっても妥協しないのが、生真面目な彼女らしい。
「だから、ごめんってばー」
私は、さっとランチメニューを手に取った。
「注文なら済ませておいたわよ。Bランチ、飲み物はアイス・コーヒーでいいんでしょ?」
「うん、それそれ、ありがとー。でも、よく覚えてたね」
厳しい性格けど、こういう細かいところに気が利くから、憎めないんだよねぇ。ちなみに、Bランチは『シーフード・ピラフ』と『ドリンク』のセットだ。
「いつも、同じメニューばかりだから、すぐに覚えるわよ。よく飽きないわね?」
「毎日パンばかりだから、ご飯が食べたくて」
「そういえば、あなたの住んでいた国では、お米が主食なのよね?」
「パンもあったけど、私は一日三食、お米食べてたよー。こっち来てからなんだよね、パン食になったのは」
大のご飯好きの私が、まさかパンがメインになるとは思ってもいなかった。
「なら、普段から、ご飯にすればいいじゃない。お米なら、普通に手に入るでしょ?」
「だって、私の部屋キッチンないし、この町って、お米料理のお店も少ないから。それに、パンのほうが安いから、中々ご飯を食べる機会がないんだよねー。外食する余裕もないし」
「仕送りは、してもらってないの?」
「ないない、一円も貰ってないよ。家賃もあるから、一杯一杯なんだー」
本当にカツカツで、かろうじてやって行けてる感じだった。だから、基本、パンと水だけなんだよね。もちろん、おやつとか夜食なんて、気の利いたものはない。
まぁ、見習いで大した仕事ができないので、お給料が安いのは、しょうがないんだけど。それに、うちの会社は、見習い給、高いほうみたいだし。
「なら、親に頼めばいいじゃない。一人暮らしで、見習いのお給料じゃ厳しいでしょ?」
「うーん、それはちょっと、無理かも……」
そんなこと出来れば、とっくにやっている。私の場合、今のところ家族とは絶縁状態だから、それ以前の問題なんだよね。仕送りどころか、口を利いてもらえるかどうかも怪しい――。
「親と上手く行っていないの? シルフィードになることは、認めてくれたんでしょ?」
私はその質問に、言葉が詰まった。
本当のことを言っちゃっても、いいんだろうか? でも、ナギサちゃんは大事な友達だし、ずっと隠しておくのもなぁ……。私、嘘つくの超下手だから、隠し通せる自信がないし。
しばし考え、意を決すると、思い切ってぶっちゃけてみた。
「上手く行ってないどころか、勘当中の身だし。反対を無理やり押し切って飛び出してきたから、まだ、認めて貰ってすらいないんだよね。あははっ……」
私が、そーっとナギサちゃんの様子をうかがうと、今まで見たことのないような、唖然とした表情を浮かべていた。
そりゃ、そうなるよね――。真面目な性格だから、やっぱ嫌われちゃうのかな……。
ナギサちゃんは、しばし沈黙したあと、
「あんた、何やってんの?! 馬鹿じゃないの? 本当に信じられないわっ!」
いつにも増して、強い語調でまくし立てた。滅茶苦茶、怒っているように見える。反応の予想はついてたけど、私はただ、引きつった苦笑いを浮かべるしか出来なかった。
私は自分の行動を『正しい』と信じてやってきたので、こうも否定されると、本当に辛い。親しい友達なら、なおさらだ。それに、心がズキズキと痛むのは、自分でも後ろめたさがあるからだと思う。
「そもそも、面接で親の了解をもらったか、訊かれなかったの? 同意書だって必要だったでしょ?」
「……きかれたけど、反対されてるって、素直に答えたんだよね。三十社以上、受けて、全部おちたのは、それが原因かも――」
面接に全滅した時のことを思い出し、気分が一層重くなる。
「かも、じゃなくて、それが原因よ!〈ホワイト・ウイング〉だって、入る時に親の同意書を出したのでしょ?」
「いやー、実はまだ出してないんだよね。保留にしてもらってて。そのうち、ちゃんと親に話して、認めてもらう予定で……」
とは言うものの、いまだに認めてもらう目途は立っていなかった。そもそも、連絡すら、まともに出来ない状態だし。日々、仕事を頑張っているのを口実に、目を背けているのも事実だ。
「はぁー?! それって、受かったんじゃなくて、単に特別措置で、仮入社させてもらっただけじゃない。いつクビになっても、おかしくないわよ」
ナギサちゃんは額に手を当て、大きなため息をついた。
「そうかも……。でも、だから一生懸命、頑張ってるんだよ。早く一人前になって、親に認めてもらうために」
「順番が違うでしょ? 認めてもらうのが先で、頑張るのはそのあとよ。ちゃんと親に謝って、認めてもらったら?」
「でも、私は自分の行動が間違ってたとは、思ってないもん。今だって、家を出てシルフィードになったこと、全く後悔してないし。何も謝ることないもん!」
私はムキになって言い返す。シルフィードをしていることは、私にとっての誇りだ。この選択は、絶対に間違っていないと思う。
「シルフィードになったことではなくて、間違っているのは、そのやり方でしょ? 親の同意のない未成年を雇えば、会社にだって、迷惑が掛かるかもしれないのよ」
彼女は、私の感情のこもった言葉を静かに受け流し、穏やかに答えた。
「うっ……それは、そうだけど」
「でも、何よりあなた自身が嫌でしょ? これからも、反対されたまま、ずっと続けていくつもり? そんなので、気持ちよく出来るの?」
「……よく、モヤモヤすることは、あるんだよね。でも、一生懸命、仕事をしていれば、気にならないけど」
そう、忙しければ、細かいことも嫌な現実も、気にせずに済む。だから、必死になって、仕事に打ち込んでいるのだ。
「風歌が本気なのは、よく分かったわ。でも、目を背けずに、ちゃんと向き合いなさいよ。もし、これからも続けるつもりならね」
ナギサちゃんは静かに言うと、食事を再開した。
彼女の言う通り、単に目を背けているだけなんだ。これから、もっと先に進もうとすれば、絶対に解決しなければならない問題だから。
自分でも、何となく分かってはいたけど、ナギサにちゃんにハッキリ言われるまでは、ここまで強くは意識していなかった。
って、今私のこと、名前で呼ばなかった? 今まで一度も、名前で呼ばれたことないのに。なんかサラッと……。
私がナギサちゃんの顔をマジマジ見つめると、サッと視線をそらされた。よく見ると、ほんのり頬が赤くなっている。
何か、こういうところは、いかにも彼女らしいよね。性格がきつくて、素直じゃなくて、でも、凄く友達思いで優しくて。
ナギサちゃん、ありがとう。今すぐは難しいかもしれないけど、なんとかして、親とも向き合う努力をしてみるよ。これからも一緒に、シルフィードをやって行きたいもん。
柔らかな海風に吹かれながら、私達二人は、静かに昼食を続けるのだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
次回――
『母と娘のすれ違う想いに風の祝福を』
私はあなたが幸せになれる世界を望むから……
時間は十二時を少し回ったところで、私は急いで〈エメラルド・ビーチ〉に向かった。ナギサちゃんと一緒に、お昼を食べる約束をしていたからだ。
ちなみに〈西地区〉と〈東地区〉にはビーチがあって、西が〈サファイア・ビーチ〉で、東が〈エメラルド・ビーチ〉だ。
西のビーチは観光客や若者が多く、とても賑わっており、いかにも観光地という感じがする。逆に、東のビーチは地元の人が多く、落ち着いた雰囲気だ。私がよく行くのは、東側のほう。こっちのほうが、リーズナブルなお店が多いので……。
最近は、だいぶ『魔力制御』にも慣れてきて、以前より速く飛べるようになって来た。ただ、魔力制御の調子は、日によってかなり違う。でも、今日は朝から物凄く絶好調で、気持ちよく飛ばしていた。
待ち合わせの時間は、少し過ぎてしまっているが、このペースならかなり早く着くはずだ。私は意識を集中し、体勢を低くすると、さらに加速する。
だが、後方からかすかに風切り音が聞こえてきた。ちらりと視線を横に向けると、派手な赤い機体が、何事も無かったかのように、一瞬で通り過ぎていった。
『エア・ボード』と言われる、ハンドルが付いていない立ち乗りの機体で、魔力コントロールだけで操作する、上級者向けのエア・ドルフィンだ。見た目は『サーフボード』に似ている。
搭乗者は腕を組んで直立し、赤い髪をなびかせ、スーッと静かに通り過ぎていった。一瞬の出来事で顔はよく見えなかったが、相当、名のあるシルフィードに違いない。何か、物凄く堂々とした感じだし。
追いかけようと思ったが、私はすでに限界スピードに達していた。みるみるうちに離され、あっという間に姿が見えなくなってしまった。
「速い――速すぎる! あんな凄い人がいるんだ……」
私は唖然としてスピードを緩めた。
かなり自信がついて来ただけに、結構ショックが大きい。相手はスピードの出るエア・ボードだったのもあるけど、同じ条件だったとしても、おそらく追いつけなかったと思う。まだ、速度に余裕がありそうだったし。
うーん、やっぱり、上には上がいるもんだねぇ。もっともっと修行をして、上手くならなければ……。
******
私は〈エメラルド・ビーチ〉に着くと、ゆっくり降下し、目的のカフェ〈リトル・マーメイド〉に向かった。ナギサちゃんはすでに来ており、海を眺めながら、優雅にお茶をしていた。
私の姿を見ると、
「遅いわよっ!」
と睨みつけながら、予想通りの言葉を掛けてくる。
途中までは気持ちよく飛ばしてたけど、驚きと戦意喪失で、後半はのろのろ飛んでいた。そのため、予定より時間が掛かってしまったのだ。
「ごめん、ごめん。ギリギリまで練習してたから、遅くなっちゃって」
「時間厳守は、シルフィードの基本中の基本よ。もし、お客様との待ち合わせだったら、どうするのよ?」
ナギサちゃんは、真顔で説教する。例え、プライベートであっても妥協しないのが、生真面目な彼女らしい。
「だから、ごめんってばー」
私は、さっとランチメニューを手に取った。
「注文なら済ませておいたわよ。Bランチ、飲み物はアイス・コーヒーでいいんでしょ?」
「うん、それそれ、ありがとー。でも、よく覚えてたね」
厳しい性格けど、こういう細かいところに気が利くから、憎めないんだよねぇ。ちなみに、Bランチは『シーフード・ピラフ』と『ドリンク』のセットだ。
「いつも、同じメニューばかりだから、すぐに覚えるわよ。よく飽きないわね?」
「毎日パンばかりだから、ご飯が食べたくて」
「そういえば、あなたの住んでいた国では、お米が主食なのよね?」
「パンもあったけど、私は一日三食、お米食べてたよー。こっち来てからなんだよね、パン食になったのは」
大のご飯好きの私が、まさかパンがメインになるとは思ってもいなかった。
「なら、普段から、ご飯にすればいいじゃない。お米なら、普通に手に入るでしょ?」
「だって、私の部屋キッチンないし、この町って、お米料理のお店も少ないから。それに、パンのほうが安いから、中々ご飯を食べる機会がないんだよねー。外食する余裕もないし」
「仕送りは、してもらってないの?」
「ないない、一円も貰ってないよ。家賃もあるから、一杯一杯なんだー」
本当にカツカツで、かろうじてやって行けてる感じだった。だから、基本、パンと水だけなんだよね。もちろん、おやつとか夜食なんて、気の利いたものはない。
まぁ、見習いで大した仕事ができないので、お給料が安いのは、しょうがないんだけど。それに、うちの会社は、見習い給、高いほうみたいだし。
「なら、親に頼めばいいじゃない。一人暮らしで、見習いのお給料じゃ厳しいでしょ?」
「うーん、それはちょっと、無理かも……」
そんなこと出来れば、とっくにやっている。私の場合、今のところ家族とは絶縁状態だから、それ以前の問題なんだよね。仕送りどころか、口を利いてもらえるかどうかも怪しい――。
「親と上手く行っていないの? シルフィードになることは、認めてくれたんでしょ?」
私はその質問に、言葉が詰まった。
本当のことを言っちゃっても、いいんだろうか? でも、ナギサちゃんは大事な友達だし、ずっと隠しておくのもなぁ……。私、嘘つくの超下手だから、隠し通せる自信がないし。
しばし考え、意を決すると、思い切ってぶっちゃけてみた。
「上手く行ってないどころか、勘当中の身だし。反対を無理やり押し切って飛び出してきたから、まだ、認めて貰ってすらいないんだよね。あははっ……」
私が、そーっとナギサちゃんの様子をうかがうと、今まで見たことのないような、唖然とした表情を浮かべていた。
そりゃ、そうなるよね――。真面目な性格だから、やっぱ嫌われちゃうのかな……。
ナギサちゃんは、しばし沈黙したあと、
「あんた、何やってんの?! 馬鹿じゃないの? 本当に信じられないわっ!」
いつにも増して、強い語調でまくし立てた。滅茶苦茶、怒っているように見える。反応の予想はついてたけど、私はただ、引きつった苦笑いを浮かべるしか出来なかった。
私は自分の行動を『正しい』と信じてやってきたので、こうも否定されると、本当に辛い。親しい友達なら、なおさらだ。それに、心がズキズキと痛むのは、自分でも後ろめたさがあるからだと思う。
「そもそも、面接で親の了解をもらったか、訊かれなかったの? 同意書だって必要だったでしょ?」
「……きかれたけど、反対されてるって、素直に答えたんだよね。三十社以上、受けて、全部おちたのは、それが原因かも――」
面接に全滅した時のことを思い出し、気分が一層重くなる。
「かも、じゃなくて、それが原因よ!〈ホワイト・ウイング〉だって、入る時に親の同意書を出したのでしょ?」
「いやー、実はまだ出してないんだよね。保留にしてもらってて。そのうち、ちゃんと親に話して、認めてもらう予定で……」
とは言うものの、いまだに認めてもらう目途は立っていなかった。そもそも、連絡すら、まともに出来ない状態だし。日々、仕事を頑張っているのを口実に、目を背けているのも事実だ。
「はぁー?! それって、受かったんじゃなくて、単に特別措置で、仮入社させてもらっただけじゃない。いつクビになっても、おかしくないわよ」
ナギサちゃんは額に手を当て、大きなため息をついた。
「そうかも……。でも、だから一生懸命、頑張ってるんだよ。早く一人前になって、親に認めてもらうために」
「順番が違うでしょ? 認めてもらうのが先で、頑張るのはそのあとよ。ちゃんと親に謝って、認めてもらったら?」
「でも、私は自分の行動が間違ってたとは、思ってないもん。今だって、家を出てシルフィードになったこと、全く後悔してないし。何も謝ることないもん!」
私はムキになって言い返す。シルフィードをしていることは、私にとっての誇りだ。この選択は、絶対に間違っていないと思う。
「シルフィードになったことではなくて、間違っているのは、そのやり方でしょ? 親の同意のない未成年を雇えば、会社にだって、迷惑が掛かるかもしれないのよ」
彼女は、私の感情のこもった言葉を静かに受け流し、穏やかに答えた。
「うっ……それは、そうだけど」
「でも、何よりあなた自身が嫌でしょ? これからも、反対されたまま、ずっと続けていくつもり? そんなので、気持ちよく出来るの?」
「……よく、モヤモヤすることは、あるんだよね。でも、一生懸命、仕事をしていれば、気にならないけど」
そう、忙しければ、細かいことも嫌な現実も、気にせずに済む。だから、必死になって、仕事に打ち込んでいるのだ。
「風歌が本気なのは、よく分かったわ。でも、目を背けずに、ちゃんと向き合いなさいよ。もし、これからも続けるつもりならね」
ナギサちゃんは静かに言うと、食事を再開した。
彼女の言う通り、単に目を背けているだけなんだ。これから、もっと先に進もうとすれば、絶対に解決しなければならない問題だから。
自分でも、何となく分かってはいたけど、ナギサにちゃんにハッキリ言われるまでは、ここまで強くは意識していなかった。
って、今私のこと、名前で呼ばなかった? 今まで一度も、名前で呼ばれたことないのに。なんかサラッと……。
私がナギサちゃんの顔をマジマジ見つめると、サッと視線をそらされた。よく見ると、ほんのり頬が赤くなっている。
何か、こういうところは、いかにも彼女らしいよね。性格がきつくて、素直じゃなくて、でも、凄く友達思いで優しくて。
ナギサちゃん、ありがとう。今すぐは難しいかもしれないけど、なんとかして、親とも向き合う努力をしてみるよ。これからも一緒に、シルフィードをやって行きたいもん。
柔らかな海風に吹かれながら、私達二人は、静かに昼食を続けるのだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
次回――
『母と娘のすれ違う想いに風の祝福を』
私はあなたが幸せになれる世界を望むから……
0
お気に入りに追加
107
あなたにおすすめの小説
転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?!
しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...?
ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...?
不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
小説家になろう様でも公開しております。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
異世界着ぐるみ転生
こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生
どこにでもいる、普通のOLだった。
会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。
ある日気が付くと、森の中だった。
誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ!
自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。
幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り!
冒険者?そんな怖い事はしません!
目指せ、自給自足!
*小説家になろう様でも掲載中です
最強の職業は付与魔術師かもしれない
カタナヅキ
ファンタジー
現実世界から異世界に召喚された5人の勇者。彼等は同じ高校のクラスメイト同士であり、彼等を召喚したのはバルトロス帝国の3代目の国王だった。彼の話によると現在こちらの世界では魔王軍と呼ばれる組織が世界各地に出現し、数多くの人々に被害を与えている事を伝える。そんな魔王軍に対抗するために帝国に代々伝わる召喚魔法によって異世界から勇者になれる素質を持つ人間を呼びだしたらしいが、たった一人だけ巻き込まれて召喚された人間がいた。
召喚された勇者の中でも小柄であり、他の4人には存在するはずの「女神の加護」と呼ばれる恩恵が存在しなかった。他の勇者に巻き込まれて召喚された「一般人」と判断された彼は魔王軍に対抗できないと見下され、召喚を実行したはずの帝国の人間から追い出される。彼は普通の魔術師ではなく、攻撃魔法は覚えられない「付与魔術師」の職業だったため、この職業の人間は他者を支援するような魔法しか覚えられず、強力な魔法を扱えないため、最初から戦力外と判断されてしまった。
しかし、彼は付与魔術師の本当の力を見抜き、付与魔法を極めて独自の戦闘方法を見出す。後に「聖天魔導士」と名付けられる「霧崎レナ」の物語が始まる――
※今月は毎日10時に投稿します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる