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第1部 家出して異世界へ

2-1仕組みは分かんないけど魔法って超便利なんだよね

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 今回は風歌の勉強回(説明回)のため
 地の文がメインです。

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 私は、屋根裏部屋の小さな机の前で、顔をしかめながら、空中モニターを凝視していた。今は、シルフィードの『基礎知識』について、勉強中だ。

 勉強は、死ぬほど苦手なんだけど、一人前のシルフィードになるために、避けては通れない。『知性』や『教養』も、シルフィードには、必須だからだ。

 毎日、せっせと仕事を頑張っていたが、先日リリーシャさんから『そろそろ、昇級試験の、準備をしたらどうかしら?』と、データ・ファイルを渡された。

 中に入っていたのは『基礎知識』『歴史』『マナ工学』『地理学』『飛行法』の、五つのファイル。初めて見た時、あまりの量の多さに、目くらみしてしまった。でも、日々ちょっとずつ、勉強を進めている。

 最初は『エア・ドルフィンさえ、乗りこなせればオッケー』なんて考えてた。でも、そんなに、甘いわけないよね……。

 階級が上がるにつれ、試験の内容も、より複雑になっていく。『実技試験』もあるけど、メインはあくまで『筆記試験』だ。体力と運動神経には、超自信があるんだけど、勉強に関しては、学生時代から、サッパリなんだよね。

 今勉強している『基礎知識』は、シルフィードに関する、ルール・マナー・制度について。『シルフィード協会』の役割や、『昇級』についても、詳しく載っていた。

 まずは、基礎知識を理解しないと、何も始まらない。昇級のしかたとか、ほとんど知らなかったし――。

『歴史』は、この世界の、主な出来事について。〈グリュンノア〉の成り立ちや、シルフィードの歴史も、細かく解説されている。

 平和そうに見えるこの世界も、昔は頻繁に、戦争が起こっていた。生活の基盤になっている『マナ・クリスタル』の採掘権が、主な原因だったようだ。どの世界も、悲しい過去ってあるんだね……。

『マナ工学』は、『マナ・エネルギー』や『マナフローター・エンジン』の仕組みについて。シルフィードは、エア・ブルームについての『機械知識』も、最低限、必要になる。ある程度のメンテは、自分で行うからだ。

 もちろん、修理屋もあるけど、自分でメンテや安全点検ができないと、一人前にはなれない。

『地理学』は、この世界全体の、地理について。地形だけではなく、各地の人口や特産物、政治形態などものっている。〈グリュンノア〉のことだけでも、一杯一杯なのに。覚えることが多すぎて、頭がパンクしそうだよ――。

『飛行法』は、安全に飛行するための法律で、向こうの世界の『道路交通法』のようなものだ。これも、覚える法律が非常に多く、読んでいるうちに、心が折れそうになる。標識は『マイア』のとは全く違うので、一から覚える必要があった。

 階級が上がるにつれ、試験範囲が広がる。最終的には、この全てを覚えないと『エア・マスター』以上にはなれない。勢いで『グランド・エンプレスになる』って、言っちゃったけど。何と道のりの遠いかことか。

 だって、こんなに勉強が必要なんて、知らなかったんだもん……。

 それにしても、この世界って、かなり文明が、進んでいるんだよね。最初は『魔法によって進化した文明』って聞いてたから、もっとファンタジーっぽい、イメージだった。

 でも実際には、生活の中に、沢山の機械が使われている。単にエネルギーが『電気』か『マナ』かの違いで、向こうの世界よりも、機械技術は、ずっと高度だった。

 ちなみに、目の前に表示されている『空中モニター』は、マギコンによるものだ。マギコンとは『マギナ・コンソール』の略称で、見た目や大きさは『スマホ』に似ていた。

 タッチすると『魔力認証』が行われる。『魔力』には、人それぞれに異なる波形があり、それを使って、個人認証するのだ。向こうの世界の『指紋認証』みたいなもんだね。

 認証が成功すると『スピリチュアル・ワールド』に、接続される。一般的には『スピ』と呼ばれていた。早い話が、インターネットだ。空中にモニターが表示され、直接タッチするか、文字入力用のコンソールを、表示して使う。

 マギコン本体は、認証と通信機能だけで、データの保存や処理は、全て外部で行われていた。『データ管理施設』が各所にあり、そことのやり取りで、パソコンやネットと、同じようような環境が、構築されている。

 しかも、通信速度が、物凄く速かった。マギコンは『魔力通信』で、データの送受信をしている。これは、向こうの世界の『電波通信』とは、全く異なる技術だ。

 まだ、マギコンがなかった時代は、手紙と念話が、主な通信手段だった。『念話』とは、分かりやすく言えば『テレパシー』のこと。ただ、この能力は、全ての人が使えるわけではない。

 なので、昔は『通信局』があり、そこの『念話師』の人たちが、依頼人の代わりに、念話を行っていたらしい。この念話を、機械的にしたのが『魔力通信』だ。魔力通信なら、魔力の小さい人でも、念話が可能だった。

 なお『電波通信』の場合は、高所から遠くに飛ばすか、反射で飛ばしていく。対して『魔力通信』の場合は、飛ばすのではなく、ピンポイントに『移動』する。ようするに、データが目的地に『瞬間移動』するのだ。

 マギコンの場合、入力した情報が『データ管理施設』に瞬間移動し、そこで処理したデータが、またマギコンに、瞬間移動で戻ってくる。

 電波と違い『障害物』も『距離』も、関係ないため、データ減衰が一切ない。そのため『タイムラグ』が、ほとんど発生せず、物凄く高速だ。大きなデータの『アップロード』や『ダウンロード』も、一瞬で終わる。

 あと、身の回りにある照明も、全て『魔力』で光っている。そもそも、この世界には『電気』がなかった。そのため『電球』もない。照明装置に『マナ・クリスタル』を入れ、スイッチを押すと、発光する仕組みになっていた。

 照明装置は、マナ・クリスタルから魔力を抽出し、指定した場所に放出する。すると、その地点で発光する仕組みだった。元々は、人が使っていた『ライト』の魔法を『機械化』したものだ。

 電球が必要ないので、マナ・クリスタルさえあれば、交換の必要はない。電球なしで、空中で光っているのを見て、私も最初は、超ビックリした。だって、人魂みたいなんだもん……。

 マギコンで『モニター』が、空中に表示されるのも、照明装置と同じ仕組みだ。指定した地点に『マナの光』を、発生させている。その光の揺らぎを感知し、入力などの、操作が行われていた。

 あと、この世界には『コンセント』が存在しない。家庭用の機械は沢山あるけど『電源プラグ』が、ついていないのだ。代わりに『マナ・クリスタル』の、収納口がついていた。分かりやすく言うと『電池』を入れるところだね。

 つまり、すべての機械が『コードレス』で動いている。機械も通信も、全てコードレス。『魔法文明』って、なかなか凄いよね。

 生活環境は似ているけど、エネルギー源が違うため『機械』や『インフラ』は、全く違う。最初は、さっぱり分からなかったけど、最近は、だいぶ慣れてきた。一度、慣れちゃうと、絶対に『魔法文明』のほうが便利だ。

 ただ『マナ工学』は、昇級試験に必須だから『数式』や『構造』を、一から全部、覚えないといけないんだよね。私、元々数学とか機械が苦手だから、超頭が重いんですけど――。

『基礎知識』のファイルを閉じると、今度は『歴史』のファイルを開いた。大変だけど、上を目指すには、地道に勉強するしかない。『グランド・エンプレス』だって、まだ諦めた訳じゃないからね。

 勉強してたら、猛烈に眠くなってきた……。ちょっとでも、気を抜いたら、すぐに気を失いそうだ。

 私は、昔から活字が苦手で、読んでいると、すぐに眠くなる。でも、ウトウトする度に、リリーシャさんの笑顔が、思い浮かんだ。その都度、私は気合を入れ直す。

 ここまで良くしてもらって、ヘタレたことは、絶対にできないよ。早く昇級して、思いっ切り恩返しがしたい。

 それに、私がダメな社員だと〈ホワイト・ウイング〉の名前にも、傷がついてしまう。もう、私一人の問題ではないんだ。

「よーし、気合を入れて、頑張りまっしょい!」

 私は、頬をバシッと叩くと、深夜の静まり返った屋根裏部屋で、こつこつ勉強を続けるのだった……。


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次回――
『友達と一緒に食べるウイング焼きは最高に美味しかった』

 友人を得る唯一の方法は自分がその人の友人になることだ
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