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第1部 家出して異世界へ

1-4近いようで果てしなく遠いもう一つの地球

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 夜、会社の就業時間が、終わったあと。私は〈西地区〉の高台にある、原っぱに来ていた。ここからは、夜の街が一望できるので、お気に入りのスポットだ。しかも、風がとても気持ちよく、誰もいないので、貸し切り状態だった。

 私は、仕事が終わったあと、すぐ自室には帰らない。しばらく、町の上空を飛び回って、のんびり散歩する。

 屋根裏部屋は、狭いうえに天井が低く、自由に体を動かすことも出来ない。それに、ただでさえ寂しい夕飯が、ますます貧相に、感じてしまうからだ。

 空の散歩が終わると、必ずパン屋に、夕飯を買いに行く。特別パンが好きな訳じゃないけど、私の見習い給だと、パンしか買えないからだ。パンを二つか三つ買ったら、それでおしまい。一日三食、パンと水だけだ。

 私は、原っぱに座り込むと、途中で買って来たパンに、かぶりつきながら、町の夜景と柔らかな風を楽しむ。

 やっぱ、開放感があると、ご飯も美味しく感じるなぁ。キャンプとか遠足の時、外で食べるご飯が、凄く美味しいのと同じだよね。安いパンでも、外で食べると、特別おいしく感じるから不思議だ。

 屋根裏は狭いから、あそこでご飯を食べると、息が詰まるんだよねぇ。って、特別に、格安でおいて貰っているから、文句は言えないんだけど……。

 夜空を見上げると、青く輝く、美しい星が見えた。あれが、私が元々住んでいた、もう一つの地球だ。目には見えても、実際には、そこにない。なぜなら、完全な異世界だからだ。

 今から、三十年ほど前。突然、空に謎の惑星が現れた。青く美しい姿は、まるで地球に、そっくりだった。しかし、不思議なことに、肉眼では見えるのに、観測機器には全く映らない。

『幻の星』『蜃気楼現象』はたまた『集団催眠説』など。世界中に、様々噂が広がり、大変な騒ぎになった。

 結局、原因が全く分からないまま、一年が経過。今度は、突然、謎の宇宙船が現れた。再び世界は、騒然としたが、これが今では、当たり前になっている『時空航行船』だった。

 私がいた世界の人たちは、この時初めて『平行世界』と『もう一つの地球』の存在を知る。今では、教科書に普通にのってるし、子供でも知っている、当たり前の常識だ。

 私が生まれ育った地球は『マイア』で、今いるこちらの地球は『エレクトラ』と呼ばれている。平行世界は、どちらも根源が同じで、成長の違いによって枝分かれし、別世界になったらしい。

 ここら辺の『平行世界論』は、教科書に、詳しくのってるはずだけど。私は、ちゃんと勉強してなかったので、今一つ理解していない……。ま、難しい話はおいといて、普通に『異世界』で、いいと思うんだけどね。

 成長の可能性の数だけ、平行世界は存在するので、理論上は無数にあるらしい。でも、名前の通り『平行』なので、けっして交わることのない世界。しかし、理由は不明だけど、二つの世界は、偶然にも交わった。

 元は同じ地球同士だけど、文化や文明の違いで、世界交流の交渉は、かなり難航した。私達の世界が『科学』で発達したのに対し、こちらの世界は『魔法』で発達した文明だったからだ。

 しかも、文明の技術レベルは『エレクトラ』のほうが、はるかに上だ。私の住んでいた世界には、空中に浮かぶモニターとか、空飛ぶ車やバイクなんて、今でも存在しないし。『マイア』から見れば、ここは『近未来』の世界なんだよね。

 結局、友好条約が結ばれるのに、五年以上。一般人の交流までに、十年以上かかった。どちらの世界も、初めて出会う『異世界人』に、かなり戸惑っていたようだ。

 しかし、今では自由に行き来でき、異世界の商品が、普通にスーパーに置かれている。私たちの世代は、生まれた時からの常識だったので、異世界というよりは、外国に近い感覚かな。

 でも、古い世代は、いまだに、異世界の人を『宇宙人』とか言ったり、異世界に『危険』なイメージを持っている人もいる。うちの親が、反対した理由の一つも、それなんだよね。

 私は、草の上にごろんと横になって、夜空を見上げた。美しい星空に、白く真ん丸な月も出ている。月や太陽、その他の惑星の配置も、元いた地球と全く同じだ。

 それに、昼夜を問わず、ひときわ大きく目立つ、青い星が見えるのも、あっちと同じだった。昼間でも、夜ほどくっきりとじゃないけど、向こうの地球が、見えるんだよね。

「なーんか、不思議だよねぇ。自分が住んでた地球を、こうやって眺めるのも。宇宙から眺めるならまだしも、地球から地球が、眺められるんだもん。しかも、自由に行き来ができるし、便利な時代になったよねー」

 いくら見慣れてるとはいえ、改めて考えると、凄く不思議な気分だった。あと、自分が異世界に来ていることも、実感させられる。

「私の家って、どこらへんかな? って、見えるわけないか……あははっ。どうしてるかな、みんな――?」

 空に浮かぶ地球を見る度に、親と大喧嘩して、家を飛び出した日を思い出す。

 やっぱり、まだ怒ってるのかな? そりゃ、怒ってるよね。言いたいことを、好き放題に言ったんだから。しかも、家を飛び出したあと、一度も連絡を取ってないし。そもそも、連絡しても、話を聴いてもらえるかどうか。

 今でも、こちらに来たのは、後悔していないし、間違ったことをしたとも思っていない。それでも、あんな別れ方は、したくなかった。できれば、快く送り出してほしかった……。

 急に目頭が熱くなり、丸い地球が、ボンヤリとかすむ。

「嫌だな、心の汗が――」
 私は、あわてて目をぬぐうと、勢いよく立ち上がった。

「さて、そろそろ帰ろーっと。そして、明日も頑張りまっしょい!」

 私はエア・ドルフィンに乗ると、静かにその場をあとにするのだった……。


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次回――
『初めてのシル友はツンツン金髪美少女だった』

 私の戦闘力は530000よ
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