鬼忍伝 百鬼夜行編

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鬼忍伝 百鬼夜行編

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        「謎の城」

(一)


鬼ノ丸とダンダ衆五名率いる二百騎の奇襲部隊は、
清海城の旗印を立てながら東へと馬を走らせた。先頭にダンダ衆の
剛士、雀、釜吉、ダン、リク。
そして鬼ノ丸、続いて
本田虎之助、武田真之介が二列に並んだ後ろに
ニ百騎の騎馬隊が列を作った。


馬は一気に長距離を速く走らせると潰れてしまう。
奇襲部隊は馬に余力を残しながら山道を瀬戸内方面を目指し走り抜けていった。
二百騎の蹄の音にかき消されるかすかな鈴虫の音が夏の終わりを告げていた。

その頃、雪野は鬼ノ丸が居なくなって、
心の奥でとほうもない寂しさに襲われていた。
「この気持ちは一体何?」
それを察したのか、影丸が駆け寄って来て
雪野の顔をなめた。

「雪野、鬼ノ丸殿の事なら心配はいらないだろう。必ず戻ってくる」

「はい、私は彼を信じてます」


(二)


鬼ノ丸率いる奇襲部隊は備前の国(現在の岡山県)
の海岸沿いの街道に出た後、東に進路を取った。
半日走ると播磨と但馬(現在の兵庫県)の国境
からまた深い森へと入ったのである。

しばらく走ると河原へ出た。
奇襲部隊は馬を休ませるため河原を渡った茂みで
休むことにした。

本田虎之助が部隊に伝えた
「皆の者、馬に水を飲ませてやれ」

「ははっ!」

鬼ノ丸
「本田殿、神隠しとやらの場所へは後どのくらいかな?」

「はい、我々は今、播磨と但馬の国境の西におります。噂の神隠しの場所は東に抜けて20里ほどに。
しかしお気を付けてけくだされ。将軍家の一万の兵が
京の都から進軍した際、誰一人として戻った者はいなかったそうです」

鬼ノ丸
「雪女。どれほどのものか?本田殿、ここから先は私が先頭に付きます」


「わかり申した」

鬼ノ丸
「頼みます、清海武士の皆も今のうちに腹ごしらえをして置いてください」

皆は携帯してあった鹿の干し肉を口にした。

本田
「鬼ノ丸殿は何か召し上がらないのですか?」

「はい、空腹に慣れてるゆえ」

そう聞くと本田虎之助はイノシシの干し肉をふたきれくれた。

「しっかりと栄養を取ってくだされ。イノシシの干し肉は力が付きますぞ」

「本田殿、これはかたじけない」

鬼ノ丸は虎之助の好意をありがたく受けた。

一刻(現在の2時間)がたち、馬の体力も回復した。
鬼ノ丸は虎之助に全騎馬隊を出立させるよう伝えた。
ここからは鬼ノ丸を先頭に奇襲部隊は
播磨と但馬の国の中央にむけて馬を走らせていった。


(三)


20里(80キロ)ほど走ると、風景は霧深く異様な物になっていった。
そして馬達が急に暴れだした!
霧深い山道の両脇には槍が地面に突き刺さっていて、その一本一本に兵士の死骸が串刺しにされていた。そしてその死骸は凍っていた!
それは地獄のような光景だった!

虎之助
「鬼ノ丸殿、この死骸はもしや?」

「あぁ、間違いない。将軍が出した兵達だな」

剛士
「かなりの数ですな!千や二千では済まないぞ」

釜吉
「これは、誰一人も帰ってこないわけだ!」

鬼ノ丸は馬をゆっくり歩かせた。そして異様な妖気をかすかに感じ取っていた!

「虎之助殿、ここで馬を下りよう。ダンダ衆は私とこの先へ、虎之助殿は奇襲部隊とここで待機」
鬼ノ丸がそう言うと、

虎之助
「我々も一緒に!」

「虎之助殿、この距離からかなり強い妖気を感じる。騎馬隊はまだ安全でいてほしい。将軍様に書状を渡してほしいからな!」

そう答えると鬼ノ丸とダンダ衆五名は、串刺しの凍った死体の群れが両脇ある山道をゆっくり進んだ。
奥に進むにつれ串刺しの凍った死体の数は増える一方、妖気が増々濃くなっていった。

鬼ノ丸
「ダンダ衆の皆、気を付けてください。この先いつ、転生妖怪が現れてもおかしくはない。」

剛士
「承知した。ダンダ衆!ここからは散れ」

ダンダ衆
「おぉっ」

そう言うと五名のダンダ衆は左右の木の上に飛び上がった。
鬼ノ丸を先頭に左右の木々からダンダ衆があたりの様子をうかがうかのように進んでいった。


(四)


しばらくすると鬼ノ丸が立ち止まり、
それに気づいたダンダ衆も木々の上で静止した。
ダンダ衆の皆が武器を構えた。
霧深い山道の奥から青い光がポッポッポッポッ
っと灯り始めた。
それはまるで道しるべかのようだった。
鬼ノ丸が鞘に手をかけた。
鬼ノ丸はしばらく気配を伺ってから、またゆっくりとかがり火の灯った山道を進んでいった。

鬼ノ丸
「おかしい、まるで誘い込まれてるようだ!」

すると濃かった霧が突然晴れた!
そして目に入ってきたのは恐ろしく大きく真っ白な城であった。

石畳の階段が城門につながっている。
よく見ると城壁は氷のようなものでできていた。
ダンダ衆が木々から降りてきた。

剛士
「何たる城!」

鬼ノ丸ら一行は門の前まで進んだ。
その時、門は不気味な音を立て開き始めた!

皆が武器を構えた!
しかし開いた門の奥には誰もいない!

釜吉
「鬼ノ丸殿?これは一体」

鬼ノ丸
「皆の者、かなり強い妖気を感じる。しかし殺気を感じない」

剛士
「どうゆう事だ!?」

釜吉
「旦那、こりゃきっと罠ですぜ!」

その時、どこからともなくおなごの声がした!

「鬼ノ丸殿~ようこそ白牙城へ~、
 どうぞ~中へお入りください~」

鬼ノ丸がみなに武器をしまうよう指示した。
鞘から手を離した鬼ノ丸が吸い込まれるように
門の中へ入っていく。

剛士
「鬼ノ丸殿!鬼ノ丸殿!」


「クソ、致し方ない!けれどクナイは手に仕込んでおけ」

ダンダ衆
「おぉっ!」

そうして一行は鬼ノ丸と一緒に白牙城の中へと入っていったのである。



      「白牙城と雪女」


(一)

鬼ノ丸とダンダ衆が門の中へ入ると
後ろの門が勝手に閉まった。

鬼ノ丸
「ほー、閉じ込められたな」

釜吉
「閉じ込められた?呑気に言ってる場合かよ、
旦那~」

剛士
「釜吉、しっかりしろ!鬼ノ丸殿を信じろ
!それにしても寒い!」

鬼ノ丸
「これはすべて雪女の霊気だ。倒せば全て消えてなくなるはずだ!」

ダン
「しかし鬼ノ丸殿、肝心な霊体はどこですか?」

鬼ノ丸
「それはこの空間全てに存在する。我々は今や
やつの結界の中に閉じ込められているって事だ。
それにどうやらこの霊体は俺と話しをしてみたいらしい」


「そんな事、どうしてわかるんですか?」

鬼ノ丸
「なんとなくそんな気がするだけだ」

リン
「はー、こりゃ先が思いやられるわ」


そんな会話をしていると再び目の前にかがり火が
一行を導くかのように青白い炎を灯し始めた。
鬼ノ丸一行が気を引き締めた!

鬼ノ丸
「気を抜くな、ダンダ衆の皆」

「は、はい!」


(ニ)


石畳の広間をまっすぐ歩いていくと、大きな館の奥に白い鎧武者が椅子に座っていた。

縁側に近づくと、鎧武者がはっきりと見えた。
真っ白な甲に真っ白な鎧、そして真っ白な面頬
(めんぼう、顔面を守る防具)をつけていた。
面の奥にははっきりと人らしき瞳がこちらを
見つめていた

「失礼する!」

鬼ノ丸は土足のまま館に上がり、
そして刀を鞘ごと腰から抜くと自分の左側においた。
鬼ノ丸はダンダ衆に縁側より中へと入るなといいすてた。

鎧武者
「ま~ま~、刀を左に置くとは、
 随分とお行儀が悪いですね~」

(本来は、武士の作法で相手と対面して座るさい、侍、または刀を持つ者は、左腰に刺してる刀を抜き、自分の右側に刀をおく。その姿勢は、刀が右に置かれていると、利き手の右手では刀が抜けないので。相手に私は戦意は無い、と伝えている作法になる)

しかし、鬼ノ丸はその作法の逆を行った。

「悪く思わんでくれ、俺はあんたを切り捨てに来た。」

そう言うと鬼ノ丸の両目は真っ赤に染まって行った!

鎧武者
「ほーそれが剛剣様の言っていた赤鬼の目ですか~、確かにすごい妖気だ」

鬼ノ丸
「どうして山道で襲ってこなかった!
 まるで城まで案内されてたように感じたが?
 俺と何を話したい?」

鎧武者
「鬼ノ丸様、いや、獅子戸剛剣様の実の息子!
 鬼丸殿、あなた様は獅子戸剛剣様の跡継ぎ!
 我が一派にお入りください。鬼ノ目の忍が、
 剛剣様の後継ぎなら、この先怖い物は
 有りません」

どうやら鎧武者はすべてを知っているようだ。

鬼ノ丸
「軽々しく、昔の名前で俺を呼ぶな!  
鬼ノ丸と言う名は鬼ノ衆がお頭、九代目鬼ノ丸が、死んで行く中で最後に俺に託してくれた
名だ!」

鎧武者
「これは失礼、では鬼ノ丸殿、我々と命尽き果てるまで戦うおつもりですか?」

鬼ノ丸
「その為に、ここえ来た!悪いが成仏してくれ」

そう言うと、すかさず刀を抜き、目にも留まらぬ
速さで鎧武者の顔面を叩き切った!
切られた甲は割れ、面も転げ落ちた!

鬼ノ丸達が目にしたのは口が耳まで裂け、
その大きな裂けた口を太い紐で量半分縫い、
口の裂け目を抑えてるおなごの顔だった!

鬼ノ丸
「やはりお前が雪女だったか」

そして口の裂けた雪女は不気味な笑顔で
人差し指を口の前にあて「し~っ」っと言ったかと思っうと、
目の前の鬼ノ丸に向かって口からとてつもない白い冷気を竜巻のごとく浴びせた!

それは見たことの無い白い冷気で鬼ノ丸は完全に飲み込まれ、縁側の外にいるダンダ衆にも襲いかかった!

ダンダ衆は素早く後ろに飛んだ!

剛士
「鬼ノ丸殿ー!」


「何たる冷気、これでは1万の軍勢も凍るはず」

釜吉
「さ、寒い。やばいぜ旦那!真正面からまともに食らった!」

雪女が冷気を吹くのを辞めると、あたりは真っ白な霧で何も見えなくなっていた。

釜吉
「鬼ノ丸殿!?クソ、何も見えない」

剛士
「釜吉!集中しろ」


冷気は段々と下に降りてきて、ようやく館の
奥が少し見え始めた。

何と鬼ノ丸が氷の結晶に覆われている!

雪女
「クックックッ私は八百年の歳月を生きておる。
鬼の子も八百年の霊気の前では何もできなかっ   たな~クックックッ。さ~貴様らも永久凍土の
世界へ送ってやろう~」


(三)


雪女
「次はお前達を永久凍土の世界へ送ってくれよう~」

ダン
「皆、広がれ!奴の吐き出す冷気は範囲が狭い」

鎧を着た雪女が立ち上がった!

釜吉
「クソ、鬼ノ丸の旦那が」

その時、
氷の結晶の中から鬼ノ丸の声が聞こえた。
「夏の終りには心地よい風だ!」

雪女
「何と?!」

剛士
「鬼ノ丸殿!」

鬼ノ丸
「なるほど、八百年の霊気ね~、
ならば三千年の鬼の妖気、味わって見るか?」

そう言うと鬼ノ丸の体に赤い妖気がまとい付き、衝撃波のように氷の結晶を一瞬にして溶かした!


「なんじゃ!これは!?」
雪女はうろたえた!

鬼ノ丸の身体は赤い霊気に包まれていた。

鬼ノ丸
「雪女、悪く思わんでくれ、
こちらも急いでる故な。紅蓮の目、 紅虎!」

そうつぶやくと鬼ノ丸の紅蓮の目の力で
横一文字の居合斬りを繰り出した!
その威力は
雪女を鎧ごと横一文字に叩き切り、
白牙城の一階を完全に破壊した!
鬼ノ丸は館から瞬時に後方の広間へと飛んだ!

城の柱という柱!壁という壁が吹き飛んだ!

剛士
「な、何たる技!鬼ノ丸殿、よくぞご無事で。
それにしても
凄まじい居合斬りですな、これが鬼の目の力。
私達の立ち会いの時、使わなかったわけですな」

白牙城は居合斬り「紅虎」の抜刀術。
ふった刃から空気を切る衝撃波、
一階の柱や壁が全て崩壊し、城が一段崩れ落ちた雪女は下敷きになった

鬼ノ丸
「雪女!もう終わりか?」

崩れた城の瓦礫の下から雪女の声がした。
「す~ばらしい~!」

剛士
「なんと!あの一撃をもろに食らっても生きておるぞ!」

釜吉
「悔しいが、俺達にはすき入る空きもねー!」

リク
「怖気づくな!釜吉、俺たちができることは必ずある」

その時、天守の瓦礫から雪女が飛び出してきた!
その姿はもはや、鎧姿ではなくまっ白い着物
姿だった。

しかし、さっきの鬼ノ丸の紅蓮の目が放った
紅虎を食らっていたゆへ、腰から下が無いまま
浮遊している。

(四)


雪女
「流石は三千年の鬼の妖気の力、腰より下が再生できん!」

そう言う雪女の腰の傷口からかすかに剛剣が仕込んだ転生妖怪を操る「傀儡札」が見えた。

鬼ノ丸
「雀!あの傀儡札射抜けるか?」


「お任せください!」

そう言った雀は瞬時に矢を一本構え、浮遊する
雪女の傀儡札に狙いをつけ、弓矢を放った!!

飛んでる雀を射抜ける雀には造作もない事だった。
放たれた矢は見事に雪女の傀儡札を居抜き、
札は真っ二つに割れた!

すると雪女の様子が変わった。
浮遊の動きがピタリと止まった。

雪女
「ここは何処じゃ?私はあの忌ま忌ましい陰陽師達に封印されたはず」

鬼ノ丸
「なるほど。おい雪女、記憶がもどったみたいだな?」

北の国で人間を凍らせてた事を思い出した雪女は、
裂けてる口を縫い合わせていた紐を自分の爪で
ちぎり始めた!

その時、鬼ノ丸は危険を感じた!
「まずい!ダンダ衆、集まれ!」

ダンダ衆が集まった!

鬼ノ丸
「良いか、俺の目を見ろ!」

ダンダ衆
「何事か?」

鬼ノ丸
「もはやこれは賭けだ!命がほしけば俺の
 青い目を見ろ!」

ダンダ衆
「わ、わかり申した!」

鬼ノ丸
「幻術、幻夢 炎!」

鬼ノ丸が青い目を見開いた!その目を見た
ダンダ衆は身体が熱い炎に包まれる幻術を見た!
「ぐわ~!!あ、熱い~!!」

そして雪女が口の紐を全部かき切った、鬼ノ丸が目を閉じながら振り向いた。

鬼ノ丸
「辞めるんだー!」

雪女
「これでみんな凍ってしまえー!!」

耳まで避けた雪女の口が大きく空いた。
口の中からは白牙城そのものを飲み込むほどの
白い冷気を放った!

ほぼ同時に鬼ノ丸が紅蓮の目を開いた。
鬼ノ丸
「紅蓮の目、奥技 乱斬り!」

迫りくる巨大な冷気のうずを、
赤い妖気で空間を風の刃となって、冷気を乱切りにし、
雪女は断末魔の叫び声の中、粉々になって大空へと散っていった。

鬼ノ丸が放った奥技 乱切りは、
空間を切り裂く縦横両斜めの六本の真空の刃

残りの冷気は城の結界中にぶち当たり、ダンダ衆はまともに霊気を浴びてしまった。

鬼ノ丸が刀を鞘に収め、振り向くと
ダンダ衆達の体からは汗で湯気が立っていた。

ダンダ衆
「ハァッハァッ!!熱い!」

鬼ノ丸は一安心してため息をついた。
「ふぅー」

釜吉
「鬼ノ丸殿、いま一瞬体に火が付いて焼け死ぬところでしたぞ!」

剛士
「いま、確かに身体が炎に包まれて、、、死んだかと思った」

ダン
「ハァッハァッ!鬼ノ丸殿、これはもしやさっきの青い目の力でございますか?」

鬼ノ丸
「説明する時間がなくて申し訳なかった。
雪女が口の紐を切り始めた時、広範囲に冷気を出すと悟った。皆に少しの間、幻術をかけたのは、寒ければ寒いほど体が熱くなるようにした。
功を奏し皆、
氷漬けにならなくてすんだって事だ」

釜吉が起きあがった。
「そーいうーことはさ、ちょっと早く言ってもらえるかな~」

鬼ノ丸
「釜吉殿、申し訳ない」

剛士
「釜吉!お前、漏らしたろ。ハッハッハ」

そんな話をしてるといつの間にか白い霧と共に
城は消え去り、
入り口の大きな門も、氷の城壁も無くなっていた。
太陽の日が差し込み白牙城が消えた跡地には、
朽ち果てた大きなお寺が現れた

釜吉
「旦那!あ、あれ!」

鬼ノ丸が空を見上げると、小さな白い光がゆらゆらと霧が晴れた空から降りてきた。

鬼ノ丸は両手を差し伸べ、それはそれは美しい光で、すくい取った鬼ノ丸の言うには、
その光は雪女が妖怪になる前の人の魂だと。

そう言うと白い光は鬼ノ丸の手の中に消えて行った。


     
      「上戸城の危機」


(一)

鬼ノ丸とダンダ衆一行は虎之助たちの元へ駆け戻った。

虎之助
「鬼ノ丸殿、皆もご無事で?」


「虎之助殿、真之介殿、雪女は打ち破った。そして城兵は一人もいなかった。
これで京の都までの道は通じた。
訴状を急ぎ将軍家へと届けてほしい!」

そう言うと、武藤左衛門之助と仲井文ノ条がしたためた手紙をわたした。

鬼ノ丸は
ここからは虎之助殿と真之介殿が部隊の先頭に東に進み、森を抜けたら休むことなく京の都を目指すよう伝えた

虎之助
「鬼ノ丸殿、ここから先はお任せください
この本田虎之助、一命に変えてお届け申す!」

鬼ノ丸
「ダンダ衆からは釜吉、雀の二名を付ける。
 もし狐狸の忍がいたら少しは役に立つ。 
 釜吉!雀!道中の事は頼んだぞ」

釜吉
「ヘイ!わかりました。ダンダ衆の意地見せてやりますよ!」


「腕がなりますな」

鬼ノ丸
「釜吉、雀、そして皆様方、御武運を!」

虎之助
「うむ、出立ー!」

こうして、京の都へ向かう清海武士、ニ百騎に
清海忍二名は京へと馬を走らせた。

鬼ノ丸とダンダ衆の三名で急ぎ
上戸城へと引き返した!


(ニ)


その頃、上戸城では来たる戦いに備え、
上戸城と清海城の兵士達はすべての準備を
整え終わっていた。

一番広い三ノ丸は清海武士の
上田六次郎と、春馬秀明が指揮を取っていた。
櫓が一つあり、その一つにダンダ衆のクマが見張りに立っていた。

クマは体が大きく、手にはカギヅメをはめている。
人間なら一振りで五、六人は惨殺出来るであろう怪力の持ち主だ。

その時、本丸にいた影丸が大きく吠えた!

ついに鬼ヶ城の兵士達が攻めてきたのである!
しかし敵の騎馬隊の蹄の音が聞こえてきたわけではない。

本丸に陣をはっていた
清海城城主、武藤左衛門之助が
田中茂左衛門(たなかしげざえもん)に
三の丸に伝令を出すよう指示した

茂左衛門は武藤左衛門之助(さえもんのすけ)の
最も信頼厚い部下である。

茂左衛門は本丸から三の丸まで急ぎ馬を走らせた。

茂左衛門(しげざえもん)
「伝令ー!伝令ー!
上田、春馬!
全員戦闘配置につけ!」

春馬秀明
「ダンダ衆のバンバ、ワラシ、ミノバ、コテツ、
弓部隊は三の丸へ集まれー!クマー!何か見えるか!?」

クマ
「いや、何も聞こえないし、何も見えん!」

上田六次郎
「そんなはずはない、鬼ノ丸殿の影丸が吠えている。もしや狐狸忍かもしれん!城外の森を
ワラシとともに探ってこい!清海武士もワラシとクマに続け!」

ワラシとはダンダ衆の特殊な小太刀の
二刀流使い手、釜吉より根性があり強いと言われているくノ一である。

クマ
「よし、ワラシ!皆の者、ついて来い!」

ワラシ
「命令しないでよね!」

影丸が吠え始めて、
上戸城世話役、鈴井又五郎が雪野とお菊を居間の奥へと連れて行き、斎藤重盛が本丸で護衛にあたった。

クマとワラシが曲輪から飛び出し、
山道の両側から森に入った!」

続いて五十名ほどの清海武士達が城外の森へと入っていった!


(三)



森の中は妙に静かだった。
クマとワラシは草陰から様子をうかがったが、
敵らしい影は一つも見当たらない。

すると影丸が本丸から風のように走りおりて来て、曲輪を越え、
またたく間にクマを飛び越えると茂みの影に飛び込んでいった。

その時、影丸がなにかに噛み付いた!
茂みの中から首を噛みつかれ、飛び出してきた
赤い狐の面をかぶった忍装束の輩が現れた!

人間なら即死の負傷を負いながら影丸を振り払った。

狐狸忍
「おのれー!」
首を噛みちぎられた狐狸忍が杉の木に寄りかかった。

「もらったー!」

クマが一気に間合いを殺し、カギ爪仕込みの右腕で狐狸忍を叩き斬った!その衝撃は凄まじく、
狐狸が寄りかかっていた杉の木ごと粉々にした!

そして森の中にいるワラシに向かって叫んだ!

クマ
「ワラシー!気をつけろ、狐狸が入り込んでるぞ!」

ワラシが緊張の糸を限りなく細く研ぎ澄ました。
その時、林の奥深くから「キラッ」と光るものが一瞬見えた!投げ爪だ!
ワラシは紙一重にクナイで弾いた!

「あっぶな!」

ワラシが腰の後ろに刺してる二本の小太刀を抜いた

ワラシ
「速い!」

すると茂みの影の中から赤い狐の面を付けた狐狸忍が亡霊の用に3匹現れた。

三人の内の一人が木の上に飛んだ
上下ではさむ気だ!

ワラシ
「クマー!こっちは三匹もいるぞ!そっち早く終わらせて!」

その頃、クマは仕留めた狐狸の仮面を剥がそうとしていた。
そのとき、背後から気配なくいきなり狐狸に背中を切りつけられた!

クマ
「グアッ!なんだ?こいつ等、気配を完全に消してる!!ワラシ!気をつけろ」

「分かってんだよ!!」

ワラシは上下からの攻撃を交わすのが精一杯だった。

その時、曲輪から清海武士が何人か駆けつけてきた。

クマ
「バカヤローこっちに来るなー!!」

「ぐあ!」



(四)



清海武士達がクマの所にたどり着くやいなや、
突如武士達に投げ爪が突き刺さった!

射抜かれた清海武士達は、見事に急所をつかれて死んでいた。

クマが刺さってる投げ爪を一本抜いて、
先端をほんの少し舐めた。毒だ!すかさず口から吐き出した!

クマ
「ワラシー!コイツラの投げ爪には毒が塗ってある!気をつけろ!」

ワラシは見動きができない!
「クマー!一旦引くぞー」

クマ
「オォー!」

その戦闘を見ていた三ノ丸を指揮する
上田六次郎、春馬秀明が叫んだ!
「クマ殿ーワラシ殿ー速く曲輪の中へー!」

クマとワラシは狐狸忍の方を見ながら後付去った。
曲輪の中へもどり
弓よけの盾に入ると、

ワラシ
「くそっ、三 対 一じゃ戦滅は不可能だ!
クマ!お前、背中は大丈夫か?」

その時、クマが倒れて嘔吐した!

ワラシ
「もしやこの刀傷!?」
ワラシが傷口に指を入れ、指についた血を少し舐めた。

ワラシ
「毒だ!バンバ!解毒を頼む!」

三の丸にいたバンバは薬箱を背負って飛んできた。
バンバが傷口を舐めると、
これは蜘蛛とムカデの毒を合わせたやつに近いと呟いた。

バンバはダンダ衆の中で唯一、攻撃にはあまり
向いていないが、毒に詳しい医者のような忍だ。

バンバ
「クマ!聞こえるか?この薬を飲め!」

そう言うと薬箱から配合してある薬を、
クマに飲ませた。
背中の傷には治りが早くなる塗り薬を塗った。

ワラシ
「誰か、クマをニの丸まで運んでくれ、クマ!
 しっかりしてよ!」

「、、ワラシ、す、すまない」

今の状況でクマの離脱は痛手だ!



     「剛剣の魔界転生妖怪」


(一)

ワラシは
「トンビ、例のやつを頼む!」と叫んだ。

それを聞いたトンビは一匹の鷹を飛ばし、その鷹は空高く飛び立ち、
上戸城から約半里(2キロ)離れた上空で、円を描いて飛んだ。

トンビ
「敵は約半里手前を移動してるようだ」

トンビは鉄で出来た額当てをしており、
特技は、偵察のための鷹を使い、
敵がどの位置か教えてくれる。
ダンダ衆の中でもトンビが偵察にもっとも適している忍だ。

得意な武器は南蛮から来た南蛮刀を扱う。
日本刀とは重心が違うため
素早く扱えるのはトンビだけだ。

その時、森の中から影丸が帰ってきた。

ワラシ
「ミノバにコテツ!クマの代わりを頼む!」

「オォーッ」

ミノバはダンダ衆でもっとも身体能力が高い忍、
特技は大鎌の使い手。

コテツは南蛮製の爆薬を使う忍だ。

狐狸の忍が森から出てきた!五、六匹だろうか?
コテツ
「お侍達、危ないから盾か建物の影に隠れていてください!」

ワラシ、ミノバ、コテツ、トンビ、影丸が
狐狸忍達の前面に立ちふさがった。

ワラシ
「みんな!気をつけて、奴らの使う武器全てに
 毒が塗ってある!」

「心得た!」

狐狸忍達が虎ノ門の外に作った砦まで入って来るや、
戦闘が始まった!

流石に魔界転生妖怪の忍!ダンダ衆は狐狸忍の動きについていくのがやっとだった。


(ニ)


狐狸の忍と戦ってるうちにワラシがあることに気付いた。

遠距離戦だと、毒仕込みの投げ爪を使わる
接近戦に持ち込むしかない

ワラシはコテツに爆薬を二つほど
投げるように伝えた!

その合図でワラシの考えていたことが自然とみんなに伝わったようだ!

コテツが火薬を2個投げた
南蛮製の爆薬は結構な威力だった!

爆薬が狐狸達の少し手前で爆破した。

そして、かなりの土ぼこりが目くらましの役割を果たし、狐狸忍の動きが一瞬止まった!

この瞬間を見過ごさなかったダンダ衆は、
土ぼこりの中から意気よいよく飛び出してきた!

各々が狐狸の集団に切り込み、接近戦に持ち込んだ。

ワラシは小太刀の二刀流!

ワラシは二刀てコマの如く回転し
狐狸の刀を弾き一気に首を跳ねた!

コテツが狐狸の刃を交わしながら狐狸の懐に
爆薬を入れ、蹴り飛ばした。

狐狸は懐の中をみた瞬間、
ふところに爆薬を放り込まれた狐狸は粉々に吹っ飛んだ。

トンビの剣技は体術とかけ合わせたような物で、
回し蹴りが来たら次には、南蛮刀が襲いかかって来る!
狐狸は初めて見る動きに対応できず
簡単に首を取られた。
トンビ
「接近戦なら行けるぞーワラシ!」

ワラシ
「最初はどうなるかと思ったけど行けるわね!」

それを見ていた清海武士達が加勢に来た。

清海武士
「接近戦なら行けるぞー!」

清海武士達の猛攻を恐れた狐狸の忍達は森の奥へと逃げ去っていった。

ダンダ衆も一安心した。
しかしその時トンビの鷹が泣いた。

敵がいよいよ近づいてきた!

トンビがワラシに知らせる。

ワラシ
「敵襲ー!
上田六次郎様、春馬秀明様!ご指示を」

上田六次郎
「良いか、今こそ清海武士の底力見せつけてやれ!全員配置につけ!春馬、二の丸と三の丸へ行き指揮を取れ!」

春馬秀明
「承知した!」

春馬秀明は二の丸に入った
「敵が来るぞー!霧山殿!」

霧山実吉
「わかった!」

春馬秀明
「霧山殿は三の丸の指揮を頼む!」

霧山実吉
「承知いたしました!」

そして本丸に伝令が届いた。
清海武士
「お館様、敵が動きました!距離
 およそ半里(2キロ)!」

武藤左衛門之助
「斎藤重盛!鈴井又五郎!雪野とお菊だけは
 最悪な状況を想定し、逃がす準備をしておいて
 くれ!」

又五郎
「わかりました!裏の森に通じる道があります。今残ってる馬を全部隠しておきます!」


(三)


上戸城全体が臨戦態勢に入った。
兵士達に緊張が走る。

だが、しばらくたっても騎馬隊の音すら聞こえない。

ふと気づくと、三の丸の曲輪の外に二人の人影が見えた。
清海武士達はどよめき始めた。

一人は女で、腰から下だけ鎧をつけており、
上半身はは諸肌(もろ肌)脱ぎで豊かな乳房を
サラシで巻いていた。
武器は持っていない。

もうひとりは男、
こちらも腰から下に鎧を付け、上半身は筋骨たくましく赤黒い肌で、腰には刀を指し、妙なうちわを持っていた。

上田六次郎
「ワラシ、あれは一体?」

現れた二人は足を止めたまま動かない。

その時、前線にいた影丸が吠えだした!
上田六次郎
「まさか?転生妖怪か?!」

吠えだした影丸が止まらない。
ワラシ、ミノバ、コテツ、トンビ、が異様な
殺気を感じた!
「な、なんだ あいつら?」

上田六次郎が馬にのり、謎の二人に近づこうと
三の丸を出た。
「貴殿らは獅子戸剛剣の使いのものか?」

謎の女
「鬼の子はおるのか?」

上田六次郎
「今は訳あって上田を離れておる」

謎の女
「そうか、いないのか。それは好都合」

その時、ワラシが叫んだ!
「上田殿ーそいつに近付くなー!!」

その時、女が右腕を振り上げた。
すると、六次郎は馬ごと跡形もなく一瞬にして細切れになった
跡には、見るも無惨に、六次郎と馬の肉片があちらこちらに飛び散っていた!

ダンダ衆達の目はその攻撃が何だったのかすらわからなかった。

コテツが爆薬を二人に向かって投げた!
すると女の方がその爆薬を手で受け止めた。

コテツ
「いただき!」

コテツの爆薬が手の中で爆破した!

土ぼこりが晴れていくと女は無傷で立っていた。

    
       
      「化け猫と烏天狗」


(一)

謎の女
「全く、土煙を巻き上げるだけか?」

コテツがおどろいた。
「無傷だぞ、そんな馬鹿な!」

ワラシがコテツに叫んだ
「間違いない、コテツ!この二人、
 魔界転生妖怪だ!」

謎の女がスタスタと曲輪に近づき、
一瞬右腕を上げ、振り下ろした!

目に見えぬ突風が、地面をえぐりながら、
今度は曲輪全体を破壊し、盾に隠れてる
清海兵士等をもバラバラにした!

後に残ったのは、まるで巨大な爪に
えぐれた様な地面だった。

そして女はこう呟いた
「カラス、ここは私一人で十分だ、お前は本丸へいけ!」

謎の男
「承知した」

すると男の赤黒い背中から大きな翼が生え、空へと羽ばたいていった。

それを見た三の丸の清海兵達は恐れおののき、
隊列を乱してしまった!

そこを逃さず女は四方八方に手を振りこんだ!
土煙がまい、
三の丸が視界からどんどん消えていく。
と同時に、あちらこちらから清海兵達の
断末魔の叫び声が上がりだした!

三の丸の曲輪はえぐられ、いたる所で清海兵達は惨殺されていった。

その時、影丸が女に向かって襲いかかって行った。
それに気づいた女は影丸に向かって手を振り払った!
がしかし影丸は、女が腕を振り下ろした瞬間に一列横に飛んだ。
風の刃が地面を削り取ったが、影丸はその攻撃を避けた!

長年、鬼ノ丸の速い動きを見て来たせいか、
もしくは傷ついた時に、鬼ノ丸の血を飲んで来たからか鬼の力が宿っているのみたいだ。

そして女の手に噛み付いた!
女が猫のような叫び声を出しながら別の手で影丸を引っかいた!

影丸は曲輪の外の森へと投げ飛ばされた!

女が影丸に気を取られてる空きに
ミノバが大鎌を振り込んだ!
大鎌が女の顔を突き刺した。


(ニ)


謎の女
「ほー私の体に一太刀入れるとは、なかなかやるな。ならば見せてやろう。私の本当の姿を!」

そう言うと、女の背中が破れ、大きな毛むくじゃらの身体が出できた!顔は大きく変形し歪んだかと思いきや、
なんと怪猫(かいびょう)になった。手足の爪は鋭く、
両足で立っていた体も、両手を着き、とてつもなく大きな化け猫になった!

目の前でその変形を見ていたミノバは恐怖で体が動かなくなっていた。
化け猫は容赦なくミノバに向けて爪を立てた。

化け猫の右手が真横に一撃走った。

「ミノバーよけろー!」

ワラシの叫びもむなしくミノバは横一文字に切り裂かれた!

コテツは化け猫の顔に爆薬を投げつけた!

その爆発は化け猫の鼻先で爆破し、化け猫が少し嫌がった!

ワラシ
「コテツ!煙玉を三の丸の中にありったけ投げろ!
三の丸と二の丸はもうダメだ、残りの兵と殿を逃がす!」

コテツ
「わかった!」
コテツが三の丸と二の丸に煙玉をありったけ投げた!
硫黄の匂いのする白い煙は朝霧のように三の丸をおおった。

ワラシ
「コテツ!この異様な臭いのする煙はなんだ?」

「あーこれは熊よけの煙玉も入ってたからな」

その臭いは、化け猫にも効いていた!
化け猫が煙の外に後退した。

ワラシ
「コテツ、トンビ、本丸に戻るぞ!」

虎ノ門を飛び越えた三人は

ワラシがコテツに叫ぶ
「武藤左衛門之助様に伝えてくる!コテツ時間稼ぎを頼む!」

コテツ
「おぉー」

ワラシはそう言うと急ぎ本丸に向かった


(三)


ワラシ
「殿、申し上げます。二匹の魔界転生妖怪により、
三の丸と二の丸が壊滅、とても人間のかなう相手ではございません!コテツの煙幕で時間は稼げてますが、本丸までやって来るのもなん時の猶予もございません」

武藤左衛門之助
「そうか、鬼ノ丸殿は間に合わなかったか」

ワラシ
「三の丸の兵士は、全滅。早くお逃げください!」

そこにダルマが現れた

ダルマ
「殿、相手は雪野殿を狙ってきます。煙幕に守られてる今なら撤退できます!」

ワラシ
「ダルマ!殿を、皆を頼んだ、我らがしんがりを努めます」

武藤左衛門之助は撤退を指示した。
「馬は裏の森に隠してある!」

仲井文ノ条
「裏の森に抜ける道があります!又五郎、重盛 雪野とお菊を頼む」

又五郎
「ははっ!」

ワラシが本丸に残る兵士に叫んだ!
「皆の者!これより上戸城を捨て、清海城まで
撤退する。」

霧山実吉
「皆で撤退したらあの化け物も付いて来てしまいます!我々は残り時間を稼ぎます。」

ワラシ
「霧山殿、、、」

春馬秀明
「私も残ります!残りの兵士はおよそ八百千!
弓隊ニ百人だけ残してあとは行ってください!
命あれば、あとから追いかけます!」

ワラシ
「わかりました。ご武運を」


(四)


コテツの煙幕が晴れる前に、
ダルマは多くの兵士らを裏口から逃がすことができ、それらに守られて武藤左衛門之助と
仲井文ノ条らは雪野とお菊をつれ、上戸城から脱出した。

武藤左衛門之助は一旦、清海城まで戻り鬼ノ丸が無事現れるのを待つと腹を決めた。
清海城まではおよそ20里(80キロ)。


その頃、
鬼ノ丸ひきいるダンダ衆一行は、播磨と但馬の国
(現在の兵庫県)を抜け、馬を休ませることなく
上戸城まであと一刻(2時間)と言うところまで来ていた!


上戸城ではコテツの煙幕が薄れつつあった。

春馬秀明
「皆の者、あの化け猫は空間を風の刃で切り裂いてくる技を使う。皆、散れ!一箇所に何人も固まるな
!霧山、皆で二の丸に火を放ち、我らは残りの兵と本丸で最後の勝負だ!」

霧山実吉
「わかり申した!」

化け猫が三の丸虎ノ門の前で止まった。
すると虎の門に凄まじい風があたるやいなや
門がバラバラに崩れ落ちた!

巻き上がる土ぼこりが収まって霧山達の目に入ってきたのは門よりも大きい化け猫の姿だった!

霧山と春馬秀明、そして残った兵士達が
一斉に矢を放ったが
矢が化け猫の身体に刺さることは無かった。

化け猫
「愚かな人間どもよ」

そう化け猫がつぶやくと
上戸城の空に、兵士達の悲鳴が鳴り響いた。


(五)


その頃、無事に上戸城を脱出した
武藤左衛門之助、仲井文ノ条ら一行は
急ぎ山道を、
清海城の方角、北へと馬を走らせていた。

先頭の騎馬隊が、急に馬を止めた!

「どー!どー!」

武藤左衛門之助
「どうした?何があった?!」

「お館様、あれをご覧ください!」

空を見上げると、
翼を羽ばたかせながら空から謎の男が、
撤退部隊の前に、舞い降りてきた。

鼻は長く、白いヒゲを胸まで伸ばし、
筋骨隆々で赤黒い肌の魔界転生妖怪、

「か、烏天狗だ!」

清海武士
「あ、あれが烏天狗!?」

武藤左衛門之助
「クソッ、化け物め!」

烏天狗が口を開いた!

烏天狗
「雪野とやらは何処だ?素直に渡せ!さすれば命だけは助けてやろう!」

仲井文ノ条
「誰の事だ!?」

烏天狗
「とぼけるならおまえら全員、今殺すだけだ。
雪野とやら、どこにいる?」

雪野は上戸城の女中の中に紛れ込んでいた。

武藤左衛門之助
「弓隊、前へ!」

烏天狗
「ほ~たかが弓矢で私に逆らうつもりか?
 愚かな!お前達は何も分かっていない!」




     「鬼ノ丸の帰還」


(一)


弓隊が一斉に弓を引いた!
烏天狗は手に持っている鳥の羽で作られたようなうちわを一振り。

その瞬間、竜巻を巻き起こし、放たれた矢も五十の弓部隊も馬ごと、はるか上空にまで吹き飛ばし、
両脇の木々も竜巻の威力で大きくしなりながらへし折れた!

武藤左衛門之助
「く!何たる化け物!」

風がやみ、また静かな山道に戻った。

烏天狗
「今のはかなり手加減した。
もう一度だけ聞いてやる。雪野はどこだ。」

非道の声で烏天狗は最後の警告を出した。

武藤左衛門之助は苦渋の決断を迫られていた!

仲井文ノ条
「雪野を渡しても、渡さなくても
我々は殺される!鬼ノ丸殿にも約束した
雪野は守ると!!」

その時
隊の後ろから声がした
「私が雪野です!」

仲井文ノ条
「雪野!!」

ダルマ
「雪野様!そいつはいけねー!」

雪野
「私が鬼ヶ城に行くだけで、皆が助かるならあたしは行きます!」

武藤左衛門之助
「文ノ条殿、力になってやれずすまない!」

烏天狗が部隊の真ん中を割って入ってきた!
兵士達は恐れおののいていた、
烏天狗が雪野に近づいてくる。

烏天狗
「お前が雪野か!?
おーそなたからはかなりの妖気の匂いがする。
例の鬼の子と親しい仲とお見受けいたす」

雪野
「誰か、お菊をおねがいします」
お菊が雪野から離れない。
小さな手が力強く雪野の袖を握り締めていた。

仲井文ノ条
「、、、お菊、、すまん」

文ノ条は自分の力の無さを悔みに悔やんでいた。

雪野
「お菊?私なら大丈夫。鬼ノ丸がすぐに助けに来てくれるから」

それでもお菊は雪野の身体から離れようとしなかった。

烏天狗
「いい加減にしろ!小娘!」

烏天狗が無理やり雪野からお菊を引き離した!

すると言葉を失っていたお菊が大声を上げながら泣いた。
その鳴き声はどこまででも響き渡った。

そして烏天狗は雪野を抱え空へと飛び立っていった!


(ニ)


鬼ノ丸は上戸城の直ぐ側にまできていたが、
山道の先からかすかな火薬の匂いと木が燃える臭いを嗅ぎ取った。

鬼ノ丸
「間違いない、上戸城だ!急げ!」

鬼ノ丸は愛馬にムチを入れスピードを上げた!

嫌な予感がする!

様々な経験を踏んで来た鬼ノ丸の勘がそう言っている。
森を抜けると、
そこは正しく地獄絵図だった!

鬼ノ丸
「み、みんな!雪野ー!雪野ー!?」

上戸城は燃えていた。
何千ともあろう死体が地面をおおい、
土はおびただしい血を吸い血の海だった!

その時、森の一隅でガサゴソと葉がゆれた。
鬼ノ丸は投げ爪を構える!

そこからは影丸が足を引きずりながら出てきた。

鬼ノ丸
「影丸!無事だったか!」

鬼ノ丸は刀を抜き自分の左腕に刀傷を作り、
したたり落ちる血を影丸に飲ませた。
鬼の血だ!

鬼ノ丸
「しずかにしてろよ!」


三の丸で気になったのは、えぐれた地面だった。
そのえぐれた地面からはかなり強い妖気が感じ取れた。

鬼ノ丸
「この地面のえぐられ様?魔界転生妖怪」


(三)


鬼ノ丸は上戸城の生存者を探した。

鬼ノ丸
「誰かー!誰か無事な者はおらぬかー?」

剛士
「おーい!ダンダ衆ー?皆ー?誰かおらぬか!」

上戸城は地面が赤黒い血で染まり、
足元が滑りやすくなっていた、
血に交じる人の脂だ!
どの死体もバラバラにされていた。

鬼ノ丸とダンダ衆一行は馬に乗りながら進んだ。

虎ノ門の破片を見た鬼ノ丸は残骸の断面を見て
「これは刀傷ではない。この切り口、俺の使う
真空斬りによく似てる」

剛士
「誰かー?無事なものはおらんかー?」

鬼ノ丸
「もしや、このままでは全滅すると、
左衛門之助様達は兵を連れて逃げたのでは?」

鬼ノ丸達は、焼け落ちた本丸を確認した。
兵達の亡骸は本丸屋敷まで広がっていたが、
武藤左衛門之助を含め雪野達の姿はどこにもなかった。
「ふぅー」
鬼ノ丸は少し安堵した。

鬼ノ丸
「多分裏口から砦を出て清海城に撤退したんだろう」

その時、剛士が叫んだ
「生き残りがいたぞー!」

鬼ノ丸達は三の丸までかけつけた!

鬼ノ丸
「おい、しっかりしろ!上戸兵士だな?
 何があった?!」

虫の息の上戸兵士は右腕を肘から切り落とされ、
かなりの血を失っていた。

上戸兵士
「ば、化け猫、、、あ、あれは化け物だー!」

鬼ノ丸
「落ち着け!これを飲め」

鬼ノ丸は影丸に飲ませた腕の傷を更に深く切り、
上戸兵士に飲ませた。

そして、火の付いた丸太を一本持ってきて右腕の傷を焼いた。

上戸兵士
「ぬあぁーー!!」

上戸兵士は必死に痛みに耐えた!
なんとか止血に成功し
青白かった顔も肌色に戻ってきた。鬼の血を飲むのが間に合ったようだ!


(四)


鬼ノ丸
「のどが渇いただろ。さ、これを飲め。お前、
 名は何という?」
鬼ノ丸は竹筒から水を飲ませた。

兵士
「、、、私の名は、し、七兵衛」

鬼ノ丸
「七兵衛か、よく頑張った!もう大丈夫だ」

そこに、さっき鬼ノ丸の血を飲ませた影丸が駆け寄ってきた。
どうやら影丸の怪我もだいぶ良くなったらしい。

鬼ノ丸
「影丸ものどが渇いたろ、水だ、飲め」
影丸は元気よく水を飲んだ。

腕の止血と瀕死の状態からの回復を見せた七兵衛が喋れるようになった。
鬼ノ丸は何があったか話を聞いた。

鬼ノ丸
「化け猫?そうか、一匹でこの被害か。
左衛門之助様も仲井文ノ条様も雪野を連れて城を裏口から脱出して、清海城へ向かったか!」

剛士
「鬼ノ丸、三の丸にミノバの亡骸があった」

鬼ノ丸
「そうか、、、残念だ」

剛士
「あやつも戦いで散れて本望だろう」

鬼ノ丸
「ああ、だが相手はたった一人で城が壊滅!
化け猫か、
この砦で死んだ兵士の無念は必ず晴らす!
まずは、清海城目指して北山道を行くぞ!」

ダンダ衆
「おぅ」

鬼ノ丸
「リク、七兵衛を頼む」

リク
「承知した」
リクは七兵衛を馬の後ろに載せ、鬼ノ丸等一行は
北山道を清海城目指し走っていった。



        「悔やみ」


(一)


一刻(2時間)ほど走った時、

剛士
「鬼ノ丸殿、清海城が見えてまいりました!」

清海城は山城だった。
城下町もあるが、町には人の気配もなく、
寂れ、死んでいるようだった

剛士によると二十年前から中国地方で剛剣との領土争いが絶えず、西の支城はつぎつぎ落ち、
果てしない争いが続いている。
今では将軍家からの援軍も届かず、清海城もいつ
剛剣の軍門に下っても不思議はない状況だった。

剛士
「開門ー!」

清海城の大手門がきしみながら開いた。

鬼ノ丸が目にしたのは城内の広場に座り込む
戦意を喪失しきづついた兵士たちの姿だった。

鬼ノ丸
「皆、よく無事でいてくれた!」

呼びかけても返事がない。

鬼ノ丸
「皆、どうした?武藤左衛門之助様はご無事か?」

兵士達
「鬼ノ丸様、、、、もうしわけありません
 、、、お許しください!」

兵士達は泣き悔やんでいた。

鬼ノ丸は何かに気づいた!嫌な予感が胸を突き刺した。

鬼ノ丸
「本丸へ急いでくれ!」

剛士の道案内で本丸屋敷の前についた。
鬼ノ丸は急ぎ中へ入り
大広間のふすまを力強く開いた。

鬼ノ丸
「雪野ー!?」
しかし雪野の返事はなかった。

武藤左衛門之助
「鬼ノ丸殿、すまん、、、雪野を守れんかった」

鬼ノ丸
「そ、そんな、」

仲井文ノ条
「我々は雪野に助けられたのじゃ。武士として
 生き恥をさらしておる!」

お菊は泣き疲れたのか女中の膝の上で眠っていた。
鬼ノ丸は静かにお菊の頭をなでた。


(ニ)


鬼ノ丸はダンダ衆の長ダンゾウからすべてを聞いた。
雪野が自ら人質になって皆を守った事。
烏天狗や化け猫がいかに強力な化け物だったか。

皆がどれだけ必死に戦ったか。

鬼ノ丸
「皆、無事に戻って来てくれてありがとう」
と一言言い残し部屋を出ていった。

鬼ノ丸は窓がある部屋で壁によりかかり片膝立て、刀をかかえ、心を落ち着かせていた。
窓から入る月明かりが、鬼ノ丸を照らしていた。

鬼ノ丸
「明日は満月か」
鬼ノ丸の心は乱れに乱れていた。
やり場のない怒り、憎悪、現場に間に合わなかった自分への怒り!

こんな乱れた心では、助けに行っても冷静に戦えない、と思い悩んでいた。
化け猫と烏天狗、
間違いなく今までの魔界転生妖怪とは違う。

するとそこに、上戸城の合戦でいい働きをした
ワラシとコテツがやってきた。

ワラシ
「失礼します、ダンダ衆のワラシとコテツと申します」

鬼ノ丸
「なにか?」

ワラシ
「鬼ノ丸殿、雪野様の事、大変申し訳ありませんでした。我々は壊滅した三の丸の最前線で戦っておりました」

鬼ノ丸
「どんな奴だった?」

ワラシ
「え、?」

鬼ノ丸
「雪野をさらった奴はどんなやつだった?
 上戸城を壊滅させた奴は?」

ワラシ
「雪野様をさらった奴は赤黒い体に胸までのばした白いヒゲ、黒い翼で空を飛び、
それから奇妙なうちわを持っておりました」

鬼ノ丸
「奇妙なうちわ?」

ワラシ
「はい。我々は撤退する時、新がりを努めてたの で、最前列にはおりませんでしたが、
左衛門之助様が言うには、そのうちわ一振りで
巨大な竜巻を起こし五十人の兵士達を馬ごと天空へと吹き飛ばしました。後方にいた我々にも見える凄まじい竜巻でした」

コテツ
「三の丸を壊滅させたのは、人間体の時は女で、手を振り下ろしたりするだけで、なんと言いますか、空間を風の刃みたいなものが突風の様に」

鬼ノ丸
「化け猫の女は戦ってみてどうおもった?」

コテツ
「はい、我々人間では全く相手にはならならず。
ダンダ衆の大鎌の使い手、ミノバが隙をついて大鎌を一太刀浴びせる事ができたんですが、
その後、腕一振りで、、、しかし私の熊よけの煙幕をかなり嫌がっていました」

鬼ノ丸
「熊よけの煙幕?」


(三)


コテツ
「はい、わしは爆薬を主に使いますが、つねに煙幕ももっていて、今回撤退時にありったけの唐辛子を練り込んだ煙幕んを使ったら化け猫がその煙を嫌がって、、、」

鬼ノ丸
「その煙幕、できるだけ多く用意してくれ」

コテツ
「へい、お任せください!」

鬼ノ丸
「二人共、ありがとう。コテツ、煙幕は今夜中に用意しておいてくれ。」

コテツ
「承知!」

鬼ノ丸
「すまぬが席を外してくれ」

こうして鬼ノ丸はまた部屋に閉じこもった。

その頃、鬼ヶ城では、
雪野が本丸屋敷の部屋に監禁されていた。

雪野は手足を縛られ気を失っていたが、ふすまが開く音でゆっくりと目を覚ました。

そこには獅子戸剛剣が雪野を見下ろしていた。

剛剣
「目がさめたか?お前に会うのは貴様の母の首をはねて以来だから、約一年ぶりか?」

雪野
「この外道!!」

剛剣
「そう喚くな、小娘が。お前、今日は自ら人質になったそうだな?皆を助けるためか?それで
鬼ノ丸が助けに来る、とそんな所だろ?」

雪野が口を閉じた。

剛剣
「悪いが今回はそうは行かんぞ。
 今までやつははしゃぎすぎた」

雪野
「はしゃいでるのはあんたの方でしょ!?」



      「鬼ノ丸の弱点」


(一)

獅子戸剛剣
「雪野、お前は鬼ノ丸が不死身か何かと勘違いしてないか?それは違う!やつも手傷が深ければ死ぬ!」

雪野
「えっ?」

剛剣
「それができるのが化け猫と烏天狗
、、、そしてもう一人いる。たとえ奴が播磨と但馬(現在の兵庫県)を見張ってる雪女を倒したとしても、将軍家を動かしても、
こちらにはなんの痛手でもはない!」

雪野は剛剣が言った最後の一人という言葉が
気になった。

剛剣
「鬼ノ丸は、お前達と出会ってどんどん弱くなっている。なぜならお前等を守りながら戦わなきゃいけなくなったからな!ハッハッハ」

雪野は剛剣の言葉を聞いて何も言えなかった。
考えてみれば、確かに今までの戦いでは、鬼ノ丸は常に誰かをかばいながら戦ってきた。

しかも今回は雪野自身が人質、
鬼ノ丸は何もできないことは明らか。
雪野は胸が苦しくなるほど心配していた。

剛剣
「雪野!今回はお前が鬼ノ丸の首を絞めたって事だ!」

その時、雪野が剛剣の前で舌を噛み切ろうとした!
剛剣が瞬時に雪野の顔を掴み口を明け、
中に手ぬぐいを詰め込んだ!

剛剣
「ほー、舌を噛み切ろうとするとはな、
 流石は武家の娘だ。だが今お前に死なれると
 困る!ま、おとなしくしていろ」

雪野は口を縛られ、もがいていた。


(二)


剛剣が杉本源之助と伊藤平八郎を呼んだ。

源之助と平八郎は転生妖怪をともなった、
上戸城攻めを、鬼ノ丸に邪魔され、一時上戸城の捕虜となっていたが、今は救出されていた。

剛剣
「源之助、お前は上戸城の捕虜となったな?」

源之助
「は、はい」

源之助はかなり怯えていた。
なぜなら鬼ノ丸に幻術をかけられ剛剣の秘密をすべて話してしまったからである

剛剣
「源之助、お前どこまで話した?」

源之助
「えっ!?」

剛剣
「鬼ノ丸の事だ、お前から情報を取らないはずが無い」

源之助
「は、あの、、、」

剛剣
「どこまで喋ったー!!」

源之助
「は、はい、申し訳ありません!
す、すべて話してしまいました。
魔界転生妖怪の作り方、ほろぼ衆の事」

剛剣
「お前はそれでも俺の家臣か!」
烈火の如く刀を抜き、源之助の首をはねた!

源之助の首は平八郎の膝元に転がった。
「ヒィ!」

「平八郎!」


「は、はい!お館様!」


「お前から見て鬼ノ丸をどうおもった?」


「は、はい!えっと非常に仲間思いと言いますか、皆をかばいながら戦っているような、、、まるで何かに取りつかれているような」

剛剣
「やはりそうか、やつが取り憑かれているのは
 鬼ノ衆の亡霊だ」


「ぼ、亡霊ですか?」

剛剣
「俺に殺された鬼ノ衆の仲間達だ!また同じ思いをしたくないのだろ」


(三)


剛剣
「鬼ノ丸の弱点はその仲間意識だ。今夜か明日の夜にも奴は必ずここに来る。その時は奴の仲間から殺していけ!」


「は!かしこまりました!!」


「鬼ヶ城は東西南北を崖でおおわれている。
難攻不落の天然の要塞だ!今夜から中国地方全国から集めた狐狸の忍を城の各地に配置してけ!」


「ははっ!」

平八郎は狐狸の忍達を、笛で呼び配置につかせた。

剛剣は陰陽師の館に足を運び、今回大暴れした
化け猫の様子を見に行った。
傀儡札(くぐつふだ)を腹に仕込ませた転生妖怪といえど、あれだけ暴れれば妖気が下がる。

陰陽師達は呪文を唱えながら回復に勧めていた。

そこへ烏天狗がやってきた。


「お館様、鬼ノ丸とやらが現れたら殺しても良いか?」

「カラス、猫又、戦うなら屋敷の外で闘えよ。
お前達の技は派手すぎるから城を壊す。そして必ず行動を共にしろ!」

烏天狗
「わかりました」


「カラスよ、鬼ノ丸はできれば生け捕りにしろ」


「生け捕りですか?何故ゆえ?」


「奴とは一度腹を割って話がしてみたい。
 やつが欲しい」

「承知いたしました」 



        「決意」



(一)

その夜、清海城の天守から月を眺めてた鬼ノ丸は
腹をくくった。
自分一人で鬼ヶ城を攻め落とす!

鬼ノ丸は床に置いてある刀を床に立てた。


夜明け、鬼ノ丸は影丸と一人清海城を出るため
皆が寝てる間に馬小屋へと屋敷から出た。
すると、

「一人でいくつもりですか?かっこつけないでくださいよ」

鬼ノ丸が振り向くとダンダ衆が立っていた。
ワラシ、コテツ、クマ、ダルマ、剛士。


「お前達!?、、、すまん。連れて行くことはできない」

ダルマ
「大将、うちらの事は気にしないでください。
 勝手についていくだけですから。それに
 あの魔界転生妖怪には借りがありますから!」

剛士
「貴方様はいつも一人で重荷をお背負いになります。ワラシとコテツは化け猫と一度戦いました。狐狸の忍には対処法はわかっております」

鬼ノ丸は少し悩んでいた。
悩んでいたと言うよりも心配だったのだ。
「俺はもう誰も死なせたくない!」

ダルマ
「旦那、俺たちは死んでもかまいませんよ」
そういうと、ダンダ衆は笑った。

鬼ノ丸
「どうなっても知らんぞ」

ワラシ
「心配無用!存分に戦いましょうよ」

鬼ノ丸
「ならば付いてこい」

鬼ノ丸とダンダ衆5名
ワラシ、コテツ、クマ、ダルマ、剛士達は明け方清海城を出て鬼ヶ城目指した。


(ニ)



鬼ヶ城までは三十里(120キロ)はあるだろうか?
鬼ノ丸達一行はひたすら馬を走らせ、
昼前には中間地点の上戸城に着いていた。

上戸城には前日の上戸城合戦で、殺された兵士達の亡骸があちこちに転がっており、すでに腐敗が始まり、無数のハエが集っていた。

鬼ノ丸
「本丸で少し馬を休ませよう」

ダンダ衆
「わかりました」

上戸城は、焼き付くされ見る影もなかった。
裏口から本丸まで上り皆、馬から降り、
皆、馬を焦げた木につなぐと竹筒から水をあげた。
そして皆、地面に腰をおろし少し休んだ。

鬼ノ丸
「この亡骸達もちゃんと埋葬してやりたいが、今は時がない。許してくれ。それとこれから寄り道をする」

ワラシ
「どこですか?」

鬼ノ丸
「鬼ヶ城の手前、イヌヅカ山だ!」

コテツ
「イヌヅカ山?そこによって何するんだ?」

鬼ノ丸
「イヌヅカ山は十五年前まで鬼ノ衆の隠れ里があった所だ!まぁ、行けばわかる」

ダンダ衆
「面白そうだな」

クマ
「なんか腹が減ったな」

鬼ノ丸
「俺の握り飯一つ分けてやる」

クマ
「握り飯一つじゃたりねーな、それに漬物もほしい」
鬼ノ丸はクマの体を見て穏やかに笑った。

ダルマ
「ハハハ、お前は人一倍体がでかいからな!」

鬼ノ丸
「クマ、安心しろ。イヌヅカ山についたら特別なものをやる」

クマ
「本当か?」

鬼ノ丸
「ああ、きっと気に入るぞ」

半時(一時間)ほど休むと、
皆はイヌヅカ山目指してまた馬を走らせた。



(三)



夕方前には鬼ノ丸等一行はイヌヅカ山に着いた。
鬼ノ丸はゆっくり馬から降り、
そこには墓石が二十個ほど並んでいた。

ダンダ衆
「ここが抹殺された鬼ノ衆の隠れ里?」

鬼ノ丸がゆっくりと墓石の一群に近づき
両手を合わせた。
鬼ノ丸の背中が小さく悲しそうに見えた

ダンダ衆は、かける言葉がなかった。

鬼ノ丸が深呼吸をした。

鬼ノ丸
「さて、目的のものを探すか!」

ダルマ
「鬼ノ丸、何を探すんだ?」

鬼ノ丸は辺りで一番でかい杉の木のふもとに立ち、足で地面をゴソゴソ何か探し始めた。
ダンダ衆は何をしてるのか見当がつかなかった。

そして鬼ノ丸の動きが止まった。
土の中にくさりをみつける。

鬼ノ丸が鎖をつかみ、力強く腕を引いた。
すると土の中から大きな鉄板が土をケヅリ
動いた。

ダンダ衆がのぞくとそこには小さな地下室があり、
刀や投げ爪、手裏剣、鎖ガマ、鎧、鎖かたびら、クナイ、など様々武器が収まっていた。

鬼ノ丸
「これは、鬼ノ衆が使っていた武器庫だ。
 投げ爪が残り少ないから取りに来た。皆!
 扱える物があれば持って行ってくれ」

ワラシ
「私はクナイにしよ」

ダルマ
「オイラは手裏剣」

クマ
「何だー食い物じゃないのかー」

ダンダ衆
「お前の食い意地には、呆れるな」

鬼ノ丸は上半身の着物の下に鎖かたびらを着込み、最後にクマの毛皮で出来た羽織を着た。
そして投げ爪の束が入った腰袋をつけた

武器の準備を整えると日が落ちはじめた。

鬼ノ丸
「ちょうどいい頃合いだ。ここから鬼ヶ城までは目と鼻の先だ。」

コテツ
「いよいよだな~。先に狐狸の忍をなんとかしなきゃな!」

ワラシ
「けどあいつらの動きが速すぎる」

鬼ノ丸
「その心配は無用。たまに影丸にかける幻術だが、ダンダ衆の皆にもかかってもらう。ワラシ、あの木に向かって思いきりクナイを投げてみてくれ」


「え?わかったわ」
ワラシは20メートルほど先にある大きな杉の木に向かって力いっぱい投げつけた
クナイは見事に命中した


鬼ノ丸
「お見事、だがこれではおそらく狐狸忍によけ
 られてしまいだろ。みんな俺の目を見てくれ」

そう言うと鬼ノ丸は青い両目を開いた。ダンダ衆はその青い目を見つめた

鬼ノ丸
「幻術、幻夢、嵐」
それは一瞬の事だった

ダンダ衆は青い両目をみて嵐の中にいるような、
竜巻の中にいるような世界を見た!
鬼ノ丸が目を閉じた。

ダルマ
「ハァハァ、な、何だ今のは?」

鬼ノ丸
「ワラシ、もう一度同じ木におもいっきりクナイを投げてくれ!」

ワラシは言われたとおりにクナイを力強く
投げた!
そのクナイはその木を貫通し後ろの木に突き刺さった!

ワラシ
「な、何この力?!」

ダンダ衆は驚いた!

鬼ノ丸
「今の皆は、普段の何倍も強く速い。それから瞬発力も上がってる!狐狸の投げる投げ爪も避けられよう!一刻(2時間)はこの状態がもつ」

ダルマ
「本当かよ、信じらんねー!」

鬼ノ丸
「これで、狐狸忍とも戦える。あまり時がない、
 急ごう」

ダンダ衆
「オォッ!」



      「鬼ノ丸の奇襲」


(一)

鬼ノ丸等一行はイヌヅカ山に馬を置き
木々の間を面白いように速く突き進んでいった。

日が落ちてあたりはすぐに暗くなり、
空の月明かりが森を照らし始めていた。

ダルマ
「鬼ノ丸ー!体がやけに軽いぜ!すごいなお前の幻術!」

剛士
「速く狐狸忍相手に暴れとーございます!」

鬼ノ丸
「慌てるな、もうすぐ鬼ヶ城だ、静かにしてろ!このまま固まってすすむ。鬼ヶ城についたらそれぞれ離散して戦う!コテツは俺と来い!」

コテツ
「承知!」

鬼ヶ城が見えてきた。
だが城壁が崖のように高い!

鬼ノ丸
「このまま一気に本丸の城壁まで飛ぶぞ!」

ワラシ
「冗談でしょ!届くわけがない!」

鬼ノ丸
「俺の幻術の力を信じろ!先に行く!影丸ー
 お前は下に残れ!」

鬼ノ丸は森の木々を飛び越えてきた助走を活かし思い切り飛んだ。
それに続いて、ダルマ、コテツ、クマ、剛士、
そしてワラシが飛んだ!
皆、見事に断崖絶壁の壁を飛び越え
城壁に飛び乗った!

ワラシ
「すごい!信じられない!この高さを飛べるなんて」

コテツ
「本当にすげーや」

鬼ノ丸
「みんな、集中しろ!よく見てみろ、館の屋根や本丸天守、それに五重の塔らしき建物に狐狸が
うようよしてる」


「どうする?大将」


「本丸の天守の狐狸は俺が引き受けた。他の狐狸はダンダ衆五名に任せる!狐狸の投げ爪を怖がるな!今は、お前たちのほうが速い!」


「承知!」


「天守の狐狸忍を片付けたら俺は天守に入る!皆は外で待機。コテツ!狐狸を倒しても兵士達がすぐに駆けつける!爆薬で殺れるだけ殺れ」


「承知!」


「おのおの、ぬかりなく、では散れ!」

ダンダ衆
「ははっ!」


(ニ)



鬼ヶ城、本丸内に散らばった5人のダンダ衆。
上戸城合戦においては狐狸に不覚を取ったクマがいきりたっていた

屋敷の屋根にいる狐狸に狙いを定め、
息を潜め忍び寄る。
クマは一瞬で狐狸忍びを暗殺した。

それに気づいた狐狸は、セオリ通り投げ爪を放った!
しかしクマはいとも簡単に狐狸忍の投げた投げ爪を弾き返した。


「旦那!投げ爪がはっきり目で見てとれる!」

焦った狐狸は次の投げ爪に手を伸ばそうとしたが
間に合わなかった!

クマはカギ爪で狐狸をバラバラにした!

鬼ノ丸は速やかに天守の狐狸を狙った。
鬼ノ丸の妖気で狐狸達は賊が城に侵入したのは感づいていた。

がしかし妖気を感じ取れるのは鬼ノ丸だけ。
周りの狐狸忍達は鬼ノ丸の居場所を把握しようと、天守の方に目を凝らしていた。

天守の屋根に居る狐狸忍は屋根から下をうかがっていた。
すると残像のように目の前に鬼ノ丸が姿を見せた


時はすでに遅かった!
上段の構えで現れた鬼ノ丸は大きな月を背に
天守の屋根に居る狐狸を頭から一刀両断!
月明かりが血しぶきを照らした。

鬼ノ丸の目は真っ赤に染まっていた!

天守の屋根にはもう一匹居たが、
仕込んできた投げ爪が天守のもう一匹の狐狸忍の顔を貫通した。
一瞬の出来事だった!

剛士は本丸敷地内にいる狐狸に目をつけて
突進して行った!
彼の戦術は体術が基本だが、両手にクナイを持っていた!剛士は一瞬にして狐狸忍の背後に現れてクナイで脳天をひとつき!
一匹目をあっさりと殺した。

「頭を殺れば一撃か、造作もない!」

それに気づいた別の狐狸が空に向かって吠えた。
それを見た剛士はもう一つのクナイを吠えた狐狸に向かって投げつけた!

クナイは狐狸のこめかみを貫通した!

ワラシとクマは集まって来た狐狸に向かって飛び込んで行った!
狐狸に投げ爪を投げる間を与えず面白いように首をはねていく。

クマも投げ爪を避けながら容赦なく狐狸達を
惨殺していく!
肉が潰れる鈍い音が響きかかった。

その時、本丸の門を狐狸忍が開けた。
すると本丸内に、槍や刀を手にした鬼ヶ城兵士達がなだれ込んできた!

そこへコテツが爆薬を投げ込んだ!
大きな爆発音とともに
鬼ヶ城兵士達の叫び声が響きわたった



(三)



その頃、ダルマは五重の塔らしき建物へ向かって本丸内を走った
五重の塔から何本もの投げ爪がダルマに飛んできた

ダルマは剣で投げ爪を弾きながら突進していった。
そして二階、三階、と狐狸の首をはねのけ
飛び上がっていったが最後の屋根にいた狐狸が
四階の屋根から、
ダルマ目がけて飛び降りてきた!

こうゆう時は、上から仕掛けたほうが有利だった狐狸は落下しながら刀で突いてきた!

意表を突かれたが、青い目の幻術のおかげで
刀で弾くことができた!
がしかし、刀で弾いたら胴体ががら空きだった!

「しまった!」

狐狸はダルマの腹を真上から落下しながら
蹴り込んだ!

はるか下の地面に叩きつけられるダルマ。


身体が地面にめり込んだ!
ダルマが意識を失い、馬乗りになった狐狸が刀をダルマに向けた。刃には毒が塗ってある!

狐狸が心臓を狙い、切っ先を落とした瞬間、
突然狐狸の頭が飛んだ

クマのカギ爪が間に合った!

コテツの爆薬が次々と鬼ヶ城兵士達を殺していく

クマ
「コテツ!きりがない。本丸の門をしめろ!」

コテツ
「あいよ!」

鬼ヶ城本丸の門が閉められた!これで兵士達は入ってこれない!
残るは狐狸忍だけだ!あと何匹残ってる?
十匹はいようか!

クマがダルマを抱き抱えた!


「ダルマ!しっかりしろ!」


「肋骨を、やられた」

鬼ノ丸
「クマ!ダルマを連れ離脱しろ」

クマがダルマを抱えようとしている。

そこをめがけて五匹の狐狸が狙いを定めた!
風のように突進してくる五匹の狐狸!
クマは気づかない。

その時、5匹の狐狸忍の頭が吹き飛んだ!

鬼ノ丸の投げ爪だった。

クマが、ダルマを担ぎ屋敷の屋根へと飛んだ
鬼ノ丸が駆けつけ、腕を軽く切っり鬼の血を飲ませた!

鬼ノ丸
「クマ、あとは任せた。俺は天守に入る!ワラシ残りの狐狸は頼めるか?」

ワラシ
「任せてください!さ、速く行って」





      「鬼ノ丸の敗北」



(一)


鬼ノ丸はゆっくりと天守の扉を開けた。

そこには雪野のくびに刃をあててる剛剣が
立っていた。
雪野
「鬼ノ丸、逃げて!」

鬼ノ丸
「剛剣!雪野を離せ!」

剛剣
「黙れ!鬼ノ丸、そこで止まれ!
 少し話をしよう」

鬼ノ丸
「剛剣、貴様と話すことは何もない」

すると左の襖から腰から下だけ鎧を着た女が出てきた。化け猫だ!そしてそれは強烈な妖気をはなっていた!

「お前が噂の鬼の子か?お前が上戸城にいなかったおかげで仕事が楽だったぞ!」


「俺が居たらどうなってた?」

「ふふふっ!随分舐めてくれますね」
そう言うと化け猫が右腕を振り上げ、
空間を切る風の刃が放たれた!

鬼ノ丸
「紅蓮の目、二段斬り!」

鬼ノ丸の放った真空斬りと、
化け猫の放った真空斬りが中間でぶつかった!

風と風がぶつかる鋭い衝撃波の様な音がなる。

鬼ノ丸
「上戸城を襲い仲間をやってくれたのは貴様だな?」


化け猫
「そうよ、アイツ等は最後、
泣き叫びながら細切れになっていったわ。
でも鬼の子!なかなかやる!
人間の形態のままじゃ危ないわね」

猫女が唸りだした!

猫女の体はみるみる内に巨大な化け猫とかした。
化け猫
「これならどうじゃ?」

すると巨大な猫の手を真上から振り下ろした!
化け猫の片手には五本の爪があり、
それぞれの爪が真空の刃を作り襲ってきた!

真空の刃がもうせまるなか、
鬼ノ丸は瞬時に床を転がった。



(ニ)



床に五本、鋭くえぐられた跡ができた。
幅も長い!

「鬼ノ丸!これは罠よ!逃げて!」
雪野が叫ぶ

鬼ノ丸は、一旦外に出ようと思ったが、外では
ダンダ衆が戦っている。

それに外に出ると化け猫の思うツボ

鬼ノ丸
「どうした?魔界転生の妖怪、それでしまいか?」

化け猫
「こいつ調子に乗りやがって!お望み通り細切れにしてくれるわ!!」

そうゆうと化け猫は横一文字に腕をふろうとした。

鬼ノ丸はその隙を見逃さなかった!

鬼ノ丸
「秘技 眼閉弾!」

鬼ノ丸は腰から投げ爪を二本取り出すやいなや
化け猫の両目目掛けて投げつけた!

見事に化け猫の両目に命中した!
化け猫が叫んだ

「見えぬ!目が見えぬぞ!!」

そこへ烏天狗が突如現れ、うちわをふった!
強靭な竜巻をおこし、鬼ノ丸は竜巻に飲み込まれた!
天守内の壁という壁に叩きつけられた鬼ノ丸は、床に倒れた!

烏天狗
「とどめだ!」

真上から刀を突き刺した!
しかし、フッっと鬼ノ丸の身体が消えた!

烏天狗の刀は鬼ノ丸が来ていた羽織に突き刺さった。

「空蝉の術(うつせみの術)!?ど、どこに消えた!?」

すると陰陽師達の部屋に続く廊下の暗闇の中から
鬼ノ丸
「紅蓮の目、乱斬り!」

ものすごい速さで八本の真空の刃が暗闇から飛んできた!烏天狗はギリギリで避けたが翼の片方が切り取られた!

八本の真空の刃は、回転しながら化け猫に向かっていった!

肉が切れる鈍い音がした

化け猫
「な、何だ?この寒さは?」

化け猫の体のあちこちから血が吹き出しながら
崩れ落ち、
内臓が飛び出し傀儡札が割れた!

烏天狗
「貴様、俺を狙うと見せかけて本当の狙いは俺の後ろにいた猫又だったか!それにさっきの技は?」

鬼ノ丸
「いや、お前ら二人狙ったけど、お前いい反射神経だな!烏天狗
さっきの空蝉の術!使ったのは久々だがうまくいった」


(三)



さてと、化け猫は死んだ。烏天狗、片方の翼がなければ飛べないな!
勝負ありか?

その時、暗闇の廊下の奥から呪文のようなものが聞こえてきた。陰陽師達だ。

すると鬼ノ丸が急に倒れ苦しみだした!
仰向けになり苦しながら倒れた。

雪野
「鬼ノ丸!?どうしたの?」

剛剣
「ハッハッハッ、どうした?懐かしいとは思わんか?ニ十年前に鬼をお前の中に封印した呪文だ!!指一本も動かせまい」

烏天狗
「ふぅー、危なかった、では反撃と参りましょうか」

烏天狗は立ち上がり、床に突き刺さった刀を抜いた!
鬼ノ丸に近づき刀の切先を鬼ノ丸の胸にあてた

烏天狗
「ほー鎖かたびらを着込んでいたか、
 なら突き刺さなければな、まずは肺だ」

烏天狗の剣が鬼ノ丸の胸に突き刺さった!

鬼ノ丸が上げたことのない声で苦しんでいる!

鬼ノ丸は吐血した。陰陽師達の呪文がなをつづいている

剛剣
「フッフッフッ楽しかったぞ!」

その時、天守の門が爆発した!コテツの爆薬だ

コテツが天守の入り口を爆破し、クマとコテツと剛士が入ってきた。

クマ
「鬼ノ丸殿!?」

烏天狗
「この雑魚どもが」

烏天狗はうちわを一振り、竜巻が剛士とコテツとクマに襲いかかった。が、三人はなんとか竜巻をかわせる事ができた。

青い目の幻術のおかげだろう。だが幻術が切れるまで残りの時がもうない。

烏天狗
「くそ!部屋の中だと狭くてやりにくい」

それを見た剛剣は雪野を連れ城のどこかに隠れた


クマのカギ爪が烏天狗に襲いかかる。
烏天狗は、刀でカギ爪を軽く弾く!

クマ
「コテツ、剛士!今じゃー!」

一人に見えたクマの背後からコテツと剛士が左右に現れた。

コテツが烏天狗の懐に爆薬を入れ剛士が蹴り飛ばした。

鋭い爆発音

烏天狗の懐が爆発し、動きが止まった!

そこにクマがありったけの力で烏天狗の顔を
カギ爪で、エグった

剛士は呪文を唱えてる陰陽師達を体術で叩きのめし呪文が止まった。



(四)



クマが鬼ノ丸を担いだ。剛士は雪野を探すが
見当たらない。急がねば幻術が解けるまで刻がない!
ワラシが顔を出した

クマ
「ワラシ、鬼ノ丸殿が重傷だ!一旦出直すぞ!」

ワラシ
「兵士達がまたやってくる、急ぐぞ」

クマは鬼ノ丸を担ぎ
剛士、ワラシ、そしてコテツが残りの爆薬を兵士達にばらまき
煙幕もばらまいた。
爆発音が城中に響きわたった!

コテツ
「こっちだ!」

コテツは五重の塔を目指し屋根に飛び移り、
猿のごとく城壁に乗った。
クマも鬼ノ丸を担ぎカギ爪をうまく使い城壁にたどり着いた。
こうして無事に鬼ヶ城を脱出した!

ダンダ衆は城壁から下の森の木々に飛び降りた。

ダルマ
「影丸ー!引くぞー」

皆は来た道をイヌヅカ山目指して、木々の間を飛び戻って行った。
鬼ノ丸はクマが抱きかかえている。影丸は鬼ノ丸の血の臭いを感じ取った。
心配そうにクマの真下から離れない。

イヌヅカ山についた頃には鬼ノ丸にかけてもらった幻術は解けていた。

幻術の切れたときの身体への負担は想像以上だった。

身体中の筋肉が悲鳴を上げている。
それもそうだろう。
幻術というものは、相手の目を通して直接脳に
暗示をかけ、脳から身体に負荷をかける術だ。

幻術にも色々あるが、自分の身体能力を上げる暗示の術はそれなりの代償がある。

ダンダ衆はなんとか鬼ノ衆の村までたどり着いた。

クマ
「クソ!体中が痛い。鬼ノ丸殿!鬼ノ丸殿!!」

「、、、う、、うう」

ワラシ
「息がある、生きてるぞ!だが肺をやられてる」

コテツ
「ダンゾウ様なら手当できる!清海まで保つか?」

ワラシ
「清海までは保たない」

「、、、く、クマ」

クマ
「鬼ノ丸殿、しっかり!血が止まりません!」

鬼ノ丸
「、、、おれの、、血」

クマ
「血が何ですって!?鬼ノ丸殿!」

鬼ノ丸
「血を、、、飲ませろ」

クマ
「血を飲ませろ?自分の血を飲むんですか?」

ワラシ
「クマ、上戸城合戦の時あんた狐狸忍に
背中切られたよね。毒が回って死ぬ所、あんた
鬼ノ丸殿の血を飲んで息を吹きかえしたんだよ」

クマ
「よし、飲ませよう!けどどうやって」

ワラシ
「私が口移しでやる!」

ワラシは胸の傷口に口を当て、血を吸っい、
鬼ノ丸の口に持っていった。

自分の血を飲んだ鬼ノ丸は、そのまましばらく動かなくなった。

日が昇ってきた。

コテツ
「このままでは追手がくるやもしれぬ!鬼ノ丸殿を清海まで連れて行こう!」

クマ
「そうだな、鬼ノ丸殿を、、、ん!?ワラシ!
鬼ノ丸殿の胸を見てみろ!」

ワラシ
「え?」
日が差し込んできたイヌヅカ山。
横たわる鬼ノ丸の胸の傷から湯気のような、
煙が上がり始めた。

ワラシ
「な、何よこれ!傷口が閉じ始めた!」

コテツ
「ハッハーすげーや大将」

クマ
「信じられん!これも鬼の力なのか!?」

傷口から煙のようなものが止まった。

ワラシ
「血が止まったわよ!傷口もふさがってる!
 信じられない!」

鬼ノ丸が目覚めた。
だが、やたらと咳き込んでいる。
鬼ノ丸が血の塊を吐き出した!

クマ
「鬼ノ丸殿、大丈夫ですか!?」

鬼ノ丸
「大丈夫だ。肺に溜まった血を履いただけだ。お前が俺をここまで運んでくれたのか?」

クマ
「は、ハイ」

鬼ノ丸
「済まなかったな。一旦清海まで引くぞ!」



    
    「将軍家からの贈り物」



(一)

鬼ノ丸一行は一日かけ清海城に戻ってきた。
真っ先にお菊が飛びつき、
鬼ノ丸は謝った。
「ごめん、お菊。お姉ちゃん助けられなかった」
お菊は鬼ノ丸から離れなかった。
同時に仲井文ノ条にも謝った。

「文ノ条様、申し訳ありませんでした。私の力不足です」


「お気にめさるな、鬼ノ丸殿も死にかけたと聞いております。もう傷は大丈夫ですか?」


「私は大丈夫です。しかしダンダ衆がいなければ殺されていたでしょう」

武藤左衛門之助が顔を出した。
「そろそろ軍議を開くが鬼ノ丸殿、ご参加いただけますか?」


「わかりました」

鬼ノ丸が大広間に行くと上座に武藤左衛門之助
左側に田中茂左衛門、ダンダ衆の長ダンゾウ。
そして、その後ろに
ダルマ、クマ、ワラシ、コテツ、剛士が控えた。

右側に仲井文ノ条、鈴井又五郎、斎藤重盛。

軍議が始まろうとしたその時
廊下を走る音がした。
清海城武士
「申し上げます!たった今、京の都より二百の兵と本田虎之助様一行が、戻ってまいりました!」

武藤左衛門之助
「おぉー帰ってきおったか、さ、通せ」

本田虎之助
「お館様、ただ今戻りました!」

「同じく武田慎之助、戻りました」

「お館様、こちらに向かう途中に上戸を通りました、、、」

武藤左衛門之助
「うむっ、、、上戸城は、剛剣の配下の魔界転生妖怪一匹であのざまだ!」

虎之助
「えっ!?たった一匹でございますか?」

鬼ノ丸
「俺が間に合わなかった、申し訳ない」

武藤左衛門之助
「しかし昨晩、鬼ノ丸殿とダンダ衆5名で鬼ヶ城に奇襲をかけた。上戸城で暴れた化け猫は殺したらしい!
狐狸の忍もほとんど討ち取った。しかし鬼ノ丸殿の弱点が明らかになった。
そのせいで鬼ノ丸殿は死にかけた!」

武田慎之助
「そんな、鬼ノ丸殿が死にかけるなんて!」

武藤左衛門之助
「本当の事だ。で、将軍様の方は?」


(二)


本田虎之助
「はい、将軍家にお目通りがかない、
書状をお渡ししていただきました。

中国地方で剛剣相手に戦してる事をつたえ、
播磨と但馬を支配していた魔界転生妖怪。
雪女を倒した事を伝えたところ、今後の剛健との戦に援軍を送ってくださるとの事です。
その数およそ二万!」

武藤左衛門之助
「そうか、ついにその気になってくれたか!」

本田虎之助
「あともう一つ、鬼ノ丸殿のことを打ち明けました。将軍様が鬼ノ丸殿に備前の国でこしらえた
刀一振り与えるとのおおせ。お預かりして参りました」

鬼ノ丸
「将軍様が俺に刀を?」


「はい。備前の国(現在の岡山県)、
安綱のうった刀で、鬼切安綱(おにきりやすつな)という名刀です。
これがその鬼切安綱にてございます。
今一つ、すべてが終わったら将軍様が
鬼ノ丸殿に直々にお会いたいとの事」

鬼ノ丸は虎之助から刀を受け取った。
朱色と金箔でできた豪華な包に入った刀だった。包から刀を抜き取ると見事な乱れ波紋が紫がかっていた

鬼ノ丸
「ありがたい!なんと美しい刀だ」

虎之助
「この刀はその名の通り、鬼の腕を一本を切ったと言う言い伝えが。
平安時代初期の武士 渡辺の綱という方が鬼に掴まれ、さらわれそうになった時、この刀で鬼の腕を切り落としたといういつわが」


「鬼の腕を切りおとした刀、、、?」

虎之助
「ところで鬼ノ丸殿の弱点というのは?」

鬼ノ丸
「ほろぼ衆(陰陽師達)だ!奴らはきっとニ十年前に二匹の鬼を俺の両目に封印した奴らだ、呪文が聞こえたと思ったら、急に体が苦しく動かなくなった」

武田慎之助
「なるほど!弱点とは、
その封印した時の呪文ってわけか!ならばその
ほろぼ衆を先に叩かねばなるまいな」

ダンゾウ
「慎之助様、そう簡単におっしゃられますな。
ほろぼ衆は鬼ヶ城、本丸屋敷の中にいます。
鬼ヶ城兵士を突破しても烏天狗もおりまする」

武田慎之助
「烏天狗、それほどまでに強敵なのですか?」

武藤左衛門之助
「妙な魔界転生妖怪でな、空を自由に羽ばたく翼に羽でできたうちわを持ち、そのうちわを一度
ふるうと竜巻を巻き起こす!」

仲井文ノ条
「上戸城合戦から撤退する時、うちわ一振りで五十騎ほどの兵士が馬ごと天空に飛ばされた!それを見た雪野は自ら人質になることを選び、我々を助けたのじゃ」

武田慎之助
「そ、それほどまでとは!?それに烏天狗は我々の事を敵とも思うていないという事ですか?」

鬼ノ丸
「だが今回、奴の翼は片方は切り落としておいた。烏天狗が回復する前が攻めどきです。我らの兵はおよそ三千にダンダ衆!私を先頭に一気に正面から攻め入る方がいいと心得ます」

武藤左衛門之助
「うむっ!どうせ後がない命じゃ、面白い!
最後くらいは派手に暴れるか!」



(三)



その頃、鬼ヶ城本丸、ほろぼ衆(陰陽師達)
の館に剛剣が現れた。

獅子戸剛剣
「やっと見つけたか!?」

火鉢
「はい。お館様!け、けれど本当によろしいのですか?かなり危険です。
体に相当な負荷がかかります。それに暴走し始めたらどうなってしまうかわかりません!」

獅子戸剛剣
「構わぬ!やれ、蛇の道は蛇じゃ」

火鉢
「で、、では始めます」

その日、鬼ヶ城内からは薄気味悪い呪文と断末魔の叫び声が響きわたった!

その叫び声は雪野を心底怯えさせ、一日中耳を両手でふさいでいた。
雪野は天守の奥の間に幽閉されていた。

天守の外を警備していた平八郎にも叫び声が聞こえていた。

伊藤平八郎
「一体何が起こっているんだ!?」




     「鬼ノ丸と鬼切安綱」



(一)

鬼ノ丸の傷は驚異的な速さで完治した
鬼ノ丸は将軍様に頂いた刀、鬼切安綱を手に城を出て森へと向かった。

鬼ノ丸の脳裏にはある確信があった。
「次の戦いが最後になる」と!
思えば鬼ノ丸の人生は修行と戦いの人生だった。

鬼切安綱は鞘から抜くと、月明かりが刃を照らし、美しい乱れ波紋が薄紫色に輝いていた。

鬼ノ丸はその色に魅了された。
鬼切安綱は手にしっくり馴染み、目をつむると
まるで手と刃が同化していく感覚を覚えた。

鬼ノ丸は試し切りがしたく、うずいていた。

一振りだけ、と樹齢百年はあろう杉の木に
目掛け、上段の構えから刀を力いっぱい振り下ろし、袈裟斬り(ケサギリ)にした。

すると、その木は大きな音と共に倒れた。

鬼の目の力を使わず、自然体でふったその切れ味は凄まじく、杉の木を斜めに切り抜いた!

鬼ノ丸は驚いた!
元元、彼が持っていた刀なら、切れていなかったであろう大木が鬼切安綱は切ってのけた!

その時、鬼ノ丸は今まで鬼の目に頼りすぎていた事を反省した。鬼ノ衆に教わった剣術を思い出し初心に帰らねば
彼はそう確信した。



(ニ)



そこにダンダ集のワラシがやってきた

ワラシ
「すごい刀ですね!鬼の力との相性はどうですか?」

鬼ノ丸
「ワラシか、鬼の力ではまだ試してない」

ワラシ
「えっ!では今の木は!?」

鬼ノ丸
「俺と安綱だけでの力だけで切った。すごい刀だ!鬼の力は使ってない、今まで鬼の力に頼りすぎてたかもな」

ワラシ
「え、でも鬼の力がなかったらここまで戦えてこれなかったのでは?」

鬼ノ丸
「しかし、手の内を全部さらしてしまった。まだ一つ、奥技はあるが」

鬼ノ丸は昔の師匠の事を思い出した

鬼ノ丸は昔の戦い方を思い出していた
師匠が教えてくれた奥義の剣技を

鬼ノ丸
「ワラシ、しばらく一人にしてくれないか?」

「わかりました」

そう言うと鬼ノ丸は森へと入っていった


(三)



翌早朝、改めて軍議が開かれた。
上座に武藤左衛門之助、
京より戻った
本田虎之助、
武田慎之助、
ほか、前日の面々が顔を揃えた


武藤左衛門之助
「我が兵力はおよそ三千、残りの五百人は負傷してて戦えそうにない。将軍家からの援軍が
約ニ万!だがいつ到着するかわからん」

鬼ノ丸
「コテツ、鬼ヶ城外にはどのくらいの兵が居た?」

コテツ
「はっ!はっきりとは見えなかったのですが、暗闇の城下町に当たり一面の篝火が城壁の上から見えました!おそらくニ万ほどはいたと思われます!」

仲井文ノ条
「三千に対して約ニ万か、それに魔界転生妖怪」

剛士
「陰陽師達を先に何とかしないと前回のニノ前かと」

仲井文ノ条
「わかっておる。鬼ノ丸どのとダンダ衆が北の城壁から城内へ忍び込みますか?」

鬼ノ丸
「いや、まず私と三千の騎馬隊が先に突っ込みましょう!出来るだけ城下の兵士や、騎馬隊を打ち取ります。私の幻術、幻夢があれば二万の兵でも騎馬隊三千騎が一点に固まり突っ込めば何とかななるでしょう!」

ワラシ
「その鬼ノ丸殿の幻術、幻夢でダンダ衆をも
強化し、前回と同じ方法で鬼ヶ城に
忍び込ませる、、、と言うわけですね」

鬼ノ丸
「さよう。先に城下の兵隊を叩き、城壁と曲輪の二手から突破して本丸を打つ!先に下を騒がせとけば魔界転生妖怪も外に出てこよう。城の警備はかなり手薄になる!」

クマ
「鬼ノ丸殿が下と魔界転生妖怪を片付けてる間に、我々は陰陽師達を打つと言うことですね?」

鬼ノ丸
「その通り!陰陽師達は任しましたぞ!」

武藤左衛門之助
「いつも先陣を切ってもらって申し訳ない、
鬼ノ丸殿!」


「まず三千の兵で鬼ヶ城を目指します。途中の
上戸城に誰かがいなければ東から来る将軍家からの援軍部隊、約二万の兵が来ても事情を把握できません!」

武藤左衛門之助
「田中茂左衛門は五百の兵を率いて上戸城で待機。本田虎之助、武田慎之助は二千五百の兵を指揮して鬼ノ丸殿の援護
ダンダ衆の皆は騒ぎに乗じて本丸の陰陽師達に当たれ!」

田中茂左衛門
「ははっ!」

本田虎之助、武田慎之助
「ははっ!」

武藤左衛門之助
「こ旅の戦の総指揮は、鬼ノ丸殿にお願いしたい!皆よいな」

ダンダ集
「ははっ!」

鬼ノ丸
「謹んでおうけいたします」

武藤左衛門之助
「よし!これで決まりだ!」


       
       「最後の奇襲」


(一)


清海城では、日の出と共に三千の兵士を揃え、
武藤家の丸に二つ引きの旗印を掲げ出発はまだかまだかと兵達は待ち構えていた。

鬼ノ丸が鬼切安綱を腰にさし、影丸、
田中茂左衛門、本田虎之助、武田慎之助、
ダンダ集一行が揃い、三千の兵を連れ、清海城を後にした。

ワラシ
「何?これ!城外の木々がみな切り倒れてる」

鬼ノ丸
「奥義を習得するのに少し戸惑った」
そう言うと鬼ノ丸はニコリと笑った

鬼ノ丸
「皆の者、聞いてくれ!これが最後の戦いとなる!心してかかれ!」

清海兵士達
「オォー!!」

清海城から鬼ヶ城まではおよそ三十里(120キロ)
鬼ノ丸達は南から山道を北に、風を切って走り出した!

初秋の風が鬼ノ丸の髪をなびかせ、三千騎の騎馬隊の蹄の音が大地を揺らした!

清海軍勢は、上戸城に五百の騎馬隊を残し
五里程走った一行は河原で馬を休めた。


河原で休んでいる鬼ノ丸に本田虎之助が近寄ってきた。

本田虎之助
「鬼ノ丸殿、どうかなさいましたか?」

鬼ノ丸
「虎之助殿、いや、、雪野殿と再会したのがこの辺の河原でした。最初、私は雪野殿が嫌いでしかたなかった。
武家の娘だからという理由だけで、、、」

本田虎之助
「長年使えてきた獅子戸剛剣に一族を皆殺しにされたら武家を恨むのも無理はないかと」

鬼ノ丸
「奴はいつか鬼ノ衆を侍にしてくれると約束した。鬼ノ衆の長はそれを信じていた。皆も同じだった。だが俺だけが生き残ってしまった。武家や豪族を俺は心底憎んだ!しかしそんな俺を雪野は変えてくれた」

本田虎之助
「助けましょう!必ず」

鬼ノ丸
「鬼ヶ城、城には二万の兵は入り切らない。おそらく城の警備は本丸と曲輪に約一千、残りは城外だろう」

本田虎之助
「我々は二千五百、まともにぶつかって勝てる数ではない」

鬼ノ丸
「まともにぶつかってはな。されど
俺には術がある。さすれば少人数で大群を叩けます!ダンダ衆もおりますしな!」

本田虎之助
「青い目の幻術ですな、ダンダ衆の皆から聞きました」

鬼ノ丸
「もっと城に近づいたら皆に幻術をかける。さあ、そろそろ行くか」

何時走っただろか?

鬼ヶ城まであと少しと言う所で鬼ノ丸が皆を止めた。そして二千五百の騎馬隊、全ての者に
青い鬼の目で「幻術 幻夢、嵐」をかけていった。

鬼ノ丸
「よいか皆の者、私の幻術は一刻(2時間)だけ力を発揮する。風のように速く、炎のように強い!
しかし効果が切れれば相当な負荷が身体を襲うだろう!皆の者!覚悟はよいか!?」

兵士達
「オォッ!」

鬼ノ丸
「今から班をニつに分ける
ダンゾウを含むダンダ衆は、北の森から城壁の上へ!下が騒がしくなるまで息をひそめていてくれ」

ダンダ衆
「オゥッ!」

鬼ノ丸
「本田虎之助と二千五百騎の騎馬隊は私と影丸と共に城外の兵士に突っ込む!
城下が騒がしくなったら烏天狗も出てくるだろう!
本丸が手薄になったらダンダ衆が陰陽師達を
抹殺!
コテツの爆薬の合図で私は本丸へ突入する!」

本田虎之助
「鬼ノ丸殿、妙ですな?鬼ヶ城の方角に雷雲!
日が昇るのにあたりは真っ暗だぞ!」


(ニ)


その頃、鬼ヶ城の陰陽道の部屋が静かになっていた。
陰陽道の部屋に続く暗闇の廊下をゆっくりと歩く男の影が浮かび上がった。
明かりを灯した部屋に出ると、その男は剛剣だった。
そこへ伊藤平八郎が駆け寄ってきた

伊藤平八郎
「お館様、大丈夫でございますか?」

剛剣
「血がほしい、、、肉がほしい、、、」

伊藤平八郎
「お食事でございますね、侍女に用意させます」

平八郎が剛剣に背中を見せた時、事は起こった!
「お、お館様!!」

断末魔の悲鳴が鬼ヶ城に響き渡る

その時、空は真っ黒な雷雲に覆われ、
稲妻が城や城下のあちこちに落ちた!

本丸を守っていた兵士達は我先にと侍館の中へと逃げ込んだ!
「なんだよ!何が起きてるんだー!」

ダンダ衆、十四名は北の森の木々から城壁に飛び移った。

トンビ
「これはすごい!この高さを飛べるとは、これが
鬼ノ丸殿の幻術の力!」

クマ
「おい、様子が少し変じゃないか?兵士達の数が少ないぞ」

ダンゾウ
「この嵐だ、皆館の中だろう。よし!
弓の得意な雀、ダン、バンバはここで待機!
剛士、クマ、ミズマ、は天守の屋根で待機
残りのダルマひきいるダンダ衆は
本丸の兵士を殺る!鬼ノ丸殿が下を騒がせたら入るぞ!」

「オォッ!」

鬼ノ丸と本田虎之助率いた二千五百の騎馬隊が
鬼ヶ城の外にいる二万の兵士に一気に切り込んだ。

鬼ヶ城兵士達
「て、敵襲ー!!」


鬼ノ丸は馬上から、青い目で多くの
鬼ヶ城兵士達に「幻術 幻夢、無限地獄」を
かけた!

そこに本田虎之助率いる清海兵士が切ってかかった!
「一気にかかれー!!」

鬼ヶ城兵士達
「な、なんだあの青い目は!!あ、足が!
ぬかるんだ土に捕まって動けない!!」

鬼ヶ城の兵士達は暗闇に光る青い光を見た途端に幻術にかかっていく。

そこに清海兵士が一気に襲いかかる!

鬼ヶ城兵士達の首を面白いようにはねていく。
不意討ちが上手く行った。

影丸は指揮官の者から刃をよけながら首元を食いちぎっていった!

鬼ノ丸は馬上から青い目を開きながら敵陣に切り込んで行った。

鬼ノ丸
「一気に進めー!」

清海の騎馬隊
「オォー!」
二万の軍勢がいとも簡単に崩れていく

ダンダ衆ダンゾウ
「下が騒いだ!」

ダンダ衆は、城壁の上で烏天狗が天守から飛び出して行くのを確認した。
烏天狗は南の城壁を飛び越えていった。

ダンゾウ
「剛士、クマ、ミズマ、ダルマ、今のうちじゃ!
陰陽師達を殺れ!」

剛士
「ハッ!」

剛士、クマ、ミズマ、ダルマの四人は風のように天守の屋根からおり、天守の中へと入っていった。

ダルマ
「おかしい、誰もいない!」

クマ
「今のうちだ!陰陽道の館へ急ぐぞ」

彼らは暗闇の廊下へと走っていった。陰陽道の入り口に人が倒れていた。伊藤平八郎だった!

かなりの出血ですでに息絶えていた!
陰陽道の館の扉は開いていた。

剛士が部屋の中を覗いた!

剛士
「な、何が起きてるんだ!?」

クマが、部屋の中を覗くと辺り一面、
血の海だった。
「な、何が起きたんだ!?」

陰陽師達が食い殺されていた。
それは尋常ではない殺戮現場だった。

部屋のあちこちにはらわたが飛び散っていたのだ。

ダンダ衆は急ぎ、その場から立ち去った!
廊下の出口に人影が一つ。

ミズマは両側に鎌の付いた武器の使い手。
三連棍を人影目指しくり出した!

一瞬の出来事だった!
襲いかかったミズマは廊下の壁をぶち破り本丸敷地内へとふき飛ばされた!

人影が動いた気配はなかった!
ダンダ衆は何が起きたのか全く見えていなかったのだ!

その時、城下に居た鬼ノ丸は凄まじい妖気を感じた!


(三)



危険を察知した剛士、クマ、ダルマは廊下の壁をぶち破り外へ飛び出した。
ミズマは首の骨をへし折られていて
即死だった。

侍館から兵士たちが出てきた!
「くせ者だーであえ~!」

クマ
「雀!ダン!矢を放てー!コテツ、爆薬を頼む!援護してくれ!」

コテツは侍屋敷の中に爆薬を投げ込んだ!
侍屋敷が吹っ飛んだ!

城壁からは雀とダンが面白いように矢を敵に当てていく。
剛士、クマ、ダルマは体術とカギ爪で兵士達を、蹴散らしていく。

ワラシ、鎌吉、バンバ、トンビ、リクも本丸に飛び降りた!

本丸に広がったワラシひきいるダンダ衆は、
兵士の後ろにひそかに現れ、音も無く次々に敵兵の喉をかき切っていった。

鬼ノ丸
「早く城内にいかなくては!虎之助殿、ここはお任せする」

本田虎之助
「承知した!」

鬼ノ丸は馬を曲輪の方に向け走らせた!

その時、鬼ノ丸の前に立ちふさがった!

鬼ノ丸
「烏天狗、悪いが今はお前にかまっている暇はない!さっさと終わらせさせてもらう」

鬼ノ丸が馬から降りた。

烏天狗
「面白い!」

烏天狗がうちわを降った!
竜巻が鬼ノ丸目指して、突進してきた!

鬼ノ丸は鬼切安綱を構えしなやかに抜刀した、
その刃は竜巻を切り払った!

烏天狗
「なに!?わしの竜巻が切り割いたと!
 流石、鬼の力だ」


「勘違いするな。鬼の力は使ってない」


「なに?!そんなことはありえん!」


「じゃあ次は、鬼の力を使ってやるよ」

烏天狗は息を飲んだ。
そしてもう一度うちわをふろうとしたその一瞬で、
鬼ノ丸は雷神の如く烏天狗の間合いに入り込んだ!
そして、うちわを持っていた左腕を切り落とした!


「グォッ!私の肉体は普通の刀では切れないはず、何だその刀は?」


「鬼切安綱!この刀はな、昔 鬼の腕を切り落とした事があるらしい。鬼が切れるなら烏天狗なんてわけないよ」

そう言うと烏天狗は腰の刀に手を出し、
居合い切りを仕掛けようとした!
勝負は一瞬で付いた。

鬼ノ丸は鞘から抜かれる刃を、フラリと宙を舞いかわした。と同時に刀を抜いた右手も切り落としていた!

烏天狗
「ヌォーッ!」

鬼ノ丸
「上が心配だ。悪いが先を急ぐ!
せめてもの情け、奥義で地獄へ送ってやる。

鬼ノ丸がそうつぶやくと烏天狗の断末魔の叫び声が響き渡った

鬼ノ丸は烏天狗の持っていた、鳥の羽で出来たうちわを拾い、
急いで馬に乗り本丸へ続く曲輪を目指した!



           「最後の鬼」


(一)

鬼ノ丸は影丸と曲輪を高台にある本丸目指して
走り抜けていった。
曲輪の途中に門番が二人!
鬼ノ丸は馬の背中から空中に飛び、投げ爪で二人を射抜き、
門の向こうへ着地するとそこには百人ほどの兵が次の門を守っていた。

鬼ヶ城兵士
「な、何だこいつは、」
鬼ヶ城兵士達は突然現れた男に
あ然としていた。


「どうした?敵が目の前に現れたんだ。
 戦わないのか?!」

鬼ヶ城兵士
「か、かかれー!!」

前列に居た十人程が切りかかった。
鬼ノ丸は上からくる十本の刃を安綱一本で受け止めた!

しかもそれは片腕だけでだ。

鬼ヶ城兵士
「こ、こいつ赤い目だ!鬼ノ衆の生き残りだ!」

鬼ノ丸は十本の刀を弾き返した!

流石は鬼切安綱、刃こぼれ一つない。


すかさず後ろの門のかんぬきを後ろ切り捨てた。

開いた門の外から百騎ほどの清海兵士達と共に
鬼ノ丸の馬と影丸がなだれ込んできた。

影丸が兵士たちに襲いかかる。
鬼ノ丸は影丸にかけた「幻夢」は未だに力強く、
兵士達の刃を軽々避けながら面白いほどに
首元を食いちぎって行く。

鬼ノ丸は一列になってる兵士に一本の投げ爪を投げると、七、八人の頭を、一気に貫通した。

そして、あっという間に天守までたどり着いた。
鬼ノ丸は刀を鞘にしまった。

鬼ノ丸
「我が名は鬼ノ丸!鬼ノ衆の生き残り!!
これより先、命が欲しい者は
今すぐ立ち去れー!」

本丸の空気が変わった。
鬼ヶ城兵士
「鬼ノ丸?!烏天狗様はどうした?!下の兵士たちは」

鬼ノ丸
「下の兵士達も総崩れ、烏天狗は切り捨てた!
お前たちに用はない!

ここには獅子戸剛剣の首を取りに来た。
悪い事は言わん!この戦いすでに決着はついた!将軍家の二万の軍勢も今、こっちに向かってる。今すぐここを立ち去れ!」

それを聞いた鬼ヶ城兵士達は落胆し、
皆が刀を捨て始めた。

鬼ヶ城兵士
「魔界転生妖怪も城下の味方約二万もやられた?、、、それに2万の援軍、、勝てっこない!」

本丸に残っていたわずかな兵士達は
蜘蛛の子散らす様に、城下へ走り逃げていった。


(ニ)



鬼ノ丸
「これで事がやりやすくなった」

クマ
「鬼ノ丸殿、陰陽師達が無惨に殺されていました。それから天守内に不審な人影が!ミズマがやられました!」

鬼ノ丸
「ミズマが?クマ、剛士、ダルマ、ワラシ、ついて来い!残りは本丸に待機」

鬼ノ丸達は天守へと入っていった。
鬼ノ丸は凄まじい妖気を肌で感じていた。

鬼ノ丸
「皆、気を抜くな!なんか変だ」

するとどこからか声が聞こえてきた。

「よく来たな。鬼ノ丸、いや我が息子よ。
 待ちかねたぞ。」

天守中に響き渡る冷たい声だった。
だが居場所がわからない!

鬼ノ丸は紅蓮の目を開いた。

鬼ノ丸
「影丸、雪野がどこにいるかわかるか!?」

影丸が雪野の臭いを嗅ぎつけたのか二階へ駆け上がっていった。
鬼ノ丸達もあとへと続く
二階のとある部屋の前で影丸がしゃがんだ。

ダンダ衆は襖の両脇に忍び、鬼ノ丸が襖を開けようとした時、両目を「カッ!」と開いた瞬時に、床にふせた!

その時、真空の刃が襖を貫き、鬼ノ丸の長い髪をかすめ切った!

鬼ノ丸はすぐさま起き上がり勢いよくふすまを開けた!
そこは大広間で縛られ気を失ってる雪野の隣に
剛剣が立っていた。

「こんな感じだったか?お前の技は」

声もどす黒く、剛剣の目は何かに取り憑かれたように真っ黒だった!

「剛剣!?いや、人間じゃないな!」

鬼ヶ城の真上では雷雲がゴロゴロうなりを上げていた!


すると剛剣が話しだした
「よくここまでたどり着いたな。我が兵士達をねじ伏せたか!烏天狗も役に立たなかったみたいだな。してもこの身体の底から湧き上がる力は確かにすごい!」

鬼ノ丸
「お前、自分の体に妖怪を転生させたな?」

剛剣
「赤鬼と青鬼を宿しき男、鬼ノ丸よ!地獄に鬼は二匹しかいないと思ったか?」

鬼ノ丸
「お前、、、まさか!」
鬼ノ丸は感じていた。
なんだ?この圧迫感は?

剛剣
「ついに見つけたのよ、最後にして最強の鬼を!!」

鬼ノ丸
「なんて馬鹿なことを!それで陰陽師達を皆殺しに!?ダンダ衆一旦ふすまの脇から離れろ」

クマ
「鬼ってどうゆう事ですか?」

鬼ノ丸
「今、こいつは最強の魔界転生妖怪、黒鬼だ!
多分、、、俺より強い!ふすまから離れるんだ」

その時、雪野が気づいた!

雪野
「鬼ノ丸!」

鬼ノ丸
「雪野、何があっても騒ぐなよ。剛剣は自分の身体に鬼を転生させた!」


(三)


鬼ノ丸
「雪野、じっとしていてくれ」

剛剣
「そんなにコヤツを好いておるのか?」
剛剣は雪野の首に刃をあてた。

その時、鬼ノ丸が鬼切安綱を片手に稲妻のごとく突っ込んだ!
そして剛剣が刀を持ってる手を切り落としたと
同時に雪野を抱きかかえ廊下へ飛んだ

鬼ノ丸
「クマ、雪野を頼む!」

クマ
「おまかせを!」
クマは雪野を抱え天守から出ようとした時、雪野
が叫んだ

「鬼ノ丸!死なないで!」

鬼ノ丸は横目で雪野を見つめ、ニコリと微笑んだ。

鬼ノ衆
「ダンダ衆!散れ!」

ダンダ衆
「ハッ!」

手を切り落とされた剛剣は苦しんでいたかのように見えた。

「ハッハッハ」
剛剣が急に笑いだした!
気がつけば切り落としたはずの腕が再生している!

剛剣
「いい刀だ、鬼の腕を切り落とすとわな」


「そう焦るな、昔話でもしよう。
確かに俺は鬼ノ衆に侍にしてやると約束した。」

鬼ノ丸
「ならなぜ皆殺しにした!」

「ハッハッハッ!十五年間は長かったな。
お前が地獄谷の底で鬼ノ衆に拾われてから」

鬼ノ丸
「十五年間、まさかお前の下で働いてたとは、
思いもよらなかったよ。」

剛剣
「理由は2つだ!陰陽師達の魔界転生術がなかなか完成しなかった。」

鬼ノ丸
「もう一つの理由は?」

剛剣
「お前たちはしょせん忍。別の国が俺より高い金を払えば寝返ると思ってな。お前らは強くなりすぎた!魔界転生妖怪が完成してお前達は用済みになったのさ」


「この外道が!」


「最後に聞く!過去は水に流して俺と組まんか?昔よりずっとずっといい思いをさせてやるぞ!親子ではないか。!」


「愚問だな、何度も言ってるだろう!俺の家族は鬼ノ衆だと。そして今、お前は邪道に落ちた!」


「、、、つまらん男だ。ならばどちらかが力尽きるまで殺し合おうぞー!」



      「さらば鬼ノ丸」


(一)


紅蓮の目の鬼ノ丸が剛剣に切りかかった!
目にも留まらぬ速さだったが、

天守の壁を突き破って吹き飛ばされたのは鬼ノ丸の方だった!
鬼ノ丸は本丸の城壁まで吹き飛ばされた!

ワラシ
「鬼ノ丸様ーー!!」

クマ
「鬼ノ丸殿ー!無事ですか?」

ダンダ衆が駆け付ける。

鬼ノ丸
「危ない!近づくな!」

ダンダ衆等は、後ろから殺気を感じ両脇に飛んだ!
すると天守の中から鬼ノ丸の技、乱切り同様の
真空の刃が何枚も飛んできた!

真空の刃はすべて鬼ノ丸に命中した!
城壁は鋭く切り抜かれたような傷跡があり
砂埃を舞い上げていた。

ダンゾウ
「鬼ノ丸殿ー!!」

城壁の砂ぼこりが晴れて行くと鬼ノ丸は鬼切安綱を前に構えてすっくと立ち上がった。
致命傷だけは避けていたようだ。

しかし、着物と鎖かたびらはズタズタだった。
鬼切安綱がなければ今頃は生きてはいなかったであろう。

天守から剛剣が出てきた。

「どうした?鬼ノ丸!
お前こんなもんではないだろう!
もっと本気でかかってこい!」

ダンダ衆が各々の武器を出した!

「お前らは手を出すな」
鬼ノ丸の両腕からはかなりの血がしたたり落ちている。

雪野がその姿を目にし、
叫ぼうとしが、ある光景を目にし
とどまった。

鬼ノ丸は笑っていたのだ!
鬼ノ丸は腕から流れ出る血をすすった。

赤い妖気が鬼ノ丸を包んだ
鬼ノ丸
「紅蓮の目、乱切り!」

真空の刃が八木、剛剣に飛んで行った!剛剣は片腕一振りでそれを弾く!
だが、鬼ノ丸の乱切りはオトリだった!

剛剣が真空の刃を弾いてる一瞬のスキに
鬼ノ丸は間合いを詰めた

鬼ノ丸
「紅蓮の目、一寸法師!」
鬼切安綱の鋭い突きが剛剣の胸を貫いた!

剛剣は血を吐きよろめいた。

鬼ノ丸はすかさず後方に飛び二弾目の攻撃をくり出した。
「紅蓮の目、乱切り!」
真空の刃が剛剣を更に追い詰めた!

城下では本丸の
雷と雷がぶつかるような
爆発音と閃光に見とれ、完全に戦いは
終わっていた。
そこには敵も味方もなく、ただただ皆、
本丸の方を見上げていた。

本丸では
コテツ
「なんだよこれ?!すごい音と風圧だな」

ダルマ
「こんなの、まるで手が出せない!」

ワラシ
「私はここを離れたくありません!」


(ニ)



そんな中、城下には田中茂左衛門が将軍家の援軍二万を引き連れ現れた。兵を率いていたのは、
将軍家の家臣 佐藤 吉継               
     (さとうよしつぐ)

「我は将軍家、家臣!佐藤 吉継!
武藤左衛門之助殿の加勢にまいった。皆の者
、、、ん?な、何が起きてんだ?」

彼は驚いた。
たかだか二千弱の兵が二万の兵を打ち破り、
戦が終わっていたのだから無理もない。 

それに鬼ヶ城の本丸で凄まじい音がするし雷があちこちに落ちている!

佐藤 吉継
「鬼ノ丸とやらはどうした?」

田中茂左衛門
「佐藤様、武藤左衛門之助が家臣
 田中茂左衛門と申します。鬼ノ丸殿は本丸にて獅子戸剛剣と戦っておりまはす。」

その時、衝撃波が起きた!

佐藤 吉継
「上では一体何が起きてるんだ!?それになんだ?この衝撃波は?」

ダン
「恐れながら佐藤様、武藤左衛門之助の配下
ダンダ忍衆のダンと申します。
剛剣は配下の陰陽師を使い自分の身体に鬼を
魔界転生させました。本丸での戦いには手も足も出せません。本丸に行くのは大変危険です!」

佐藤 吉継
「なんと!」

その時、影丸が曲輪を駆け上がっていった。

佐藤 吉継
「い、今の狼は!?」

ダン
「今のは鬼ノ丸殿の闘浪、影丸と申します。
影丸は鬼ノ衆と戦闘を共にする闘狼忍です!」

佐藤 吉継
「鬼ノ衆、、、闘狼、、後はその鬼ノ丸とやらが頼りと言う事か!」

その頃、本丸では
鬼ノ丸
「このままじゃらちが明かねー!」

剛剣
「ど、どうした?もう終わりか?」

「強がりはよせ、剛剣!動きが遅くなってるぞ」

剛剣
「こ、小癪な」

鬼ノ丸
「そろそろ終わりにしよう!
紅蓮の目、奥義、紅虎(こうこ)」

紅虎とは左右の斜め切りとシンプルだが
一番強力な斬撃だ

剛剣
「な、何!?」

技は剛剣に致命傷を与えた!


剛剣は天守の中まで吹っ飛んだ!
剛剣の体はズタズタになり柱に食い込んでいた!

鬼ノ丸はこの期を逃さず、剛健の懐に飛びこんだ!

鬼ノ丸
「勝機!これは雪野の分!雪野の母君の分!
散っていた鬼ノ衆の分だー!」

鬼ノ丸は容赦なく手足を切り捨てた!

首を切り落とそうとした時、

剛剣が急に苦しみだした!

剛剣の体から真っ黒な手足がまた生えたが前とは様子が違がう!

身体にヒビが入り、
まるで脱皮するかのように剛健の身体の中から
額に角があり、口に大きな牙がある黒鬼が現れた!身体は人間よりでかく、手足の爪は鋭い黒鬼であった。

鬼ノ丸
「やはりそうか、俺は鬼の力に慣るまで十五年かかった!昨日今日、鬼を身体に取り入れたからと言って、鬼の力を使いすぎたな!鬼の力を制御できず、鬼に身体を乗っ取られたか!」


剛剣が唸り出した。


「もはや言葉も失ったか!」


(三)


鬼ノ丸は首をはねようとした
「ザクッ!」
刃は刺さったが同時に刃を掴まれた

鬼ノ丸
「クソ!なんて力だ!」

黒鬼は片腕を振りおろした!

鬼ノ丸は鋭い爪で左腕に深い傷を負い
天守から吹き飛ばされた!

鬼ノ丸
「、、、流石に強いな。もう一度さっきの技を試してみるか!」鬼ノ丸は左腕から滴り落ちる血を、再びすすった。もう着物も鎖かたびらもぼろぼろだ!

「紅蓮の目 奥義 紅虎!」

両斜めの真空の刃が竜巻に乗りながら黒鬼を直撃した!
黒鬼はまた吹き飛んだが、すぐに立ち上がった!

クマ
「だ、駄目だ!鬼ノ丸殿の技に切れがない!」

もはや鬼ノ丸は威力のある技を出せるような、
身体ではなかった。
傷から鬼の血を飲みながら回復を図っているが、全く追いつかない。

鬼ノ丸は力尽きそうな中、考えていた。
その時、刀に反射した自分の目が見えた

鬼ノ丸
「そうだ!自分自身にはかけたことはないが、
やってみるか!」

鬼ノ丸は立ち上がり鬼切安綱の紫色に輝く
乱れ波紋に映る自分自身の目に向かってかけた!
「幻術、幻夢、夢幻火!(むげんび)」

鬼ノ丸は幻夢の中でも一番強力な幻術を自分にかけた!
今まで以上の力が出せるのはほんの一時。

「次が最後の技になるやも知れんか。」

黒鬼が天守から出てきた。
鬼ノ丸はボロボロになった鎖かたびらを身体からひきちぎった!

クマ
「鬼ノ丸殿は少し休んでてください!早く回復を!」

コテツ
「そうです!我々が時間を稼ぎます!」
コテツが前の時より強力な爆薬を2個投げた。
しかし黒鬼はそれを両手で掴んだ


何と爆弾を握った手は無傷と言っていい!
しかし煙で黒鬼の視界がなくなった

鬼ノ丸はその瞬間を狙った!

鬼ノ丸は一気に間合いを殺した。

一点集中型の突きの剣を
黒鬼の心臓めがけて鬼切安綱を突き刺した!
切っ先が黒鬼の胸に刺さった瞬間、

黒鬼が刃をつかんだ!

鬼ノ丸
「クソ!」

鬼切安綱の刃が黒鬼の心臓に達したのか?
黒鬼が断末魔の力で暴れた!


黒鬼が鬼切安綱を殴ろうとした!
鬼ノ丸は瞬時に刀を抜いた!

「また期はある!」
そう思ったその時、一瞬にして黒鬼が鬼ノ丸の
背後に回り、両腕で鬼ノ丸の身体をシメた!

鬼ノ丸のアバラが悲鳴を上げる!

息ができない!

ワラシ
「鬼ノ丸様!!」

クマ
「鬼ノ丸殿!!」

意識が遠のいて行く中、息もできない。

鬼ノ丸の脳裏に雪野の顔が浮かんだ
「ご、ごめんな、、や、約束守れそうにない」

そう呟くと鬼ノ丸は刀を自分の胸目掛けて
鬼切安綱を突き刺した!!

ダンダ衆
「鬼ノ丸様ーな、何を!?」

鬼ノ丸
「届け、、!!」
鬼ノ丸は自分の身体ごと刃を通し黒鬼の心臓を穿こうとした!

が、意識が遠のいていく中力が手に力が入らなくなってきた。

鬼ノ丸
「クマー!刀を蹴り込めー!」

クマ
「で、できません!」

鬼ノ丸
「クマ、、頼む。お前が最後の望みだ。
 やれーー!!」

クマは泣きながら言った!「は、ハイ!!」

クマは鬼切安綱を蹴り入れ、刀が二人の身体を
貫いた!

黒鬼
鬼切安綱の剣が黒鬼の心臓を貫いた!!
黒鬼が悲鳴を上げた


その時、天空にある雷雲から刀に雷が落ちた!




       「三途の川」


(一)

天空から鬼ノ丸達に落ちた眩しい雷!
あたりは風の音一つ聞こえない中、
鬼ノ衆は、目を覚ました。

何処かに寝転んでいる。
「何が起きたんだ?」
そこは、真っ暗な空間だった。
そう思うと身体がまるで水に浮かんでるみたいな感覚を覚えた。

そして、その水は何か光を反射してるように真っ黒な空間に少し光を照らしていた。

不思議に思った鬼ノ丸は身体を起こしてみた。
「ここは何処だ?俺は何をしてるんだ?」

身体を起こしてみるとその身体は穏やかな水面に浮かんでた。
そしてその水面には、鬼ヶ城の風景が映っていた。
「そうか、俺は死んだのか、じゃあもしかして
 ここは、、、三途の川か?」

鬼ヶ城を覆っていた雷雲は晴れ渡り、
本丸や城外には日差しが差し込んでいた。

クマ
「鬼ノ丸殿!鬼ノ丸殿!!」

ワラシ
「鬼ノ丸様ー!!」

二人の様子が三途の川の水面に映っている。
それを見た鬼ノ丸は
「そうだ、おれは、、、今まで剛剣と、、、」

そして立ち上がると足元に自分と黒く焦げ息絶えた鬼が写っていた。

鬼ノ丸
「そっか、俺は死んじまったのか」

「鬼ノ丸!鬼ノ丸!?」

ダンダ衆の皆が鬼ノ丸の周りに集まってきていた。
皆が名前を叫び泣いていた。
影丸も顔をなめていた。

ダンゾウ
「鬼ノ丸殿ー!しっかり!」


「どうやら本当に死んじまったらしいな。思えば皆と出会ってからわずかだけど、濃密な時間だった。なんか久々に嬉しかったな」

鬼ノ丸は少し淋しげな目で皆の様子を眺めていた。

「さてと!もう逝くとするか。」

そう言って振り向いた時、一番聞きたかった声が聞こえた

雪野
「鬼ノ丸ー!?」

鬼ノ丸は振り向くのを少しためらった。
振り向いたらその場から離れられないような気がしたからだ。
鬼ノ丸はその場から立ち去ろうと足を一本踏み出した。

すると懐かしい会話が聞こえてきた。


「ねーそんな所で大声出さないでくれない!
魚が釣れないじゃない。」


「お前、誰だ?町娘か?でもなんでこんな山奥に?」


「町娘?ははは。笑える、何いってんの?」


「歳はいくつだ?まだ子供だろ」


「歳は秘密だ!それに子供じゃない!」


「キャー!!お、狼?!」


「おーい、落ち着け。大丈夫だ、俺の家族だよ」


「へ?か、家族?何いってんの?!頭おかしいんじゃない!私の事襲わない?」


「襲わねーよ。もし影丸がその気ならお前は
 もうとっくに、こいつの腹の中だよ。
 、、あんた名前は?」

「、、、雪野!普通、人の名前聞くならまずは自分が名乗りやがれ」


「なんだよ、まるで男みたいな口調だな
せっかくのかわいい顔が台無しだな。」


「うるさい!早く名を名乗れ」


「おいおい今度は貴族みたいにしゃべるな、
俺の名前か?俺は鬼ノ丸だ。」


「鬼ノ丸、何か変な名前!」


「おい鬼ノ丸!家族は?」


「おいおい、今度はタメ口かよ」


「いねえよ!五年前に殺されちまった
 残った家族はこの狼だけだ…」


「そ、そうだったんだ、ごめんなさい」

雪野と出会った頃の会話?
鬼ノ丸は振り向いた!
雪野と出会った頃の風景が水面に映っていた。

鬼ノ丸
「、、、雪野、ありがとう」


(ニ)


鬼ノ丸は三途の川を反対方向に進んでいった。
川の水深が徐々に深くなって行く。
足を勧めていくに応じて身体が温まり気持ちが良くなっていった。

膝、腰と水に入っていくと、向こう岸が見えてきた。

鬼ノ丸
「あの岸に上がったらあの世か」

そう呟いた時、岸に浴衣姿の女が現れた。
顔の鼻から上が霞んでいたが
母だと一目でわかった

「母上!」
そう叫ぶと隣にもうひとり

「え、お頭!」
そしてまた一人また一人と増えていき
気づいたら二十人程の人影が現れた。

顔は相変わらず口元までしか見えないが、
散っていた鬼ノ衆の皆だとわかった!

鬼ノ衆のみんなだ!皆が俺を迎えに来てくれた。

「お頭!母さん!創雲!力丸!アマノ!
ショウジ師匠!蘭!アヤ!?皆!」

声をかけても何故か皆、何も言ってこない
口を見てると、まるで少し怒っているような表情に感じた。


「皆、聞いてくれ!皆の敵を取ったんだ!
 剛剣をついに討ち取ったんだ!」

そう叫んでも、何故か皆の顔色は変わらず
口を閉ざしている。


「ど、どうしたんだよ、皆?なんとか言ってくれよ!」

すると、母親が三途の川の来た方向をゆっくりと腕を上げ指を指した。
その時、雪野と清海武士達とダンダ衆の皆の声が聞こえた。

「鬼ノ丸ー!?鬼ノ丸殿ー!!刀を抜くんだ!」

また、水面に光景が映りだした。

みんなが必死に傷の処置をしていた。
クマが刀を抜いた時、傷口から血が滴り落ちた。

その血を雪野が口ですすい、口移しで鬼ノ丸に飲ませていた。雪野は必死にそれを繰り返していた。
雪野
「鬼ノ丸!?鬼ノ丸!?」

その時、聞き覚えのない声が聞こえた。
「お、鬼~!お兄~!?」
振り向くとお菊だった!

そこには武藤左衛門之助や雪野の父、仲井文ノ条の姿もあった

雪野
「お菊~!?あなた言葉が!?」

お菊
「お、お姉ちゃん~!お兄は~!?」

鬼ノ丸の目からは大粒の涙がこぼれ落ちていた!

鬼ノ丸
「お菊が、喋ってる!、、、良かった」


(三)


もう一度、岸を振り向くと鬼ノ衆の皆の顔が穏やかに微笑んでいた。

その時、ふと思い出した事があった。
鬼ノ衆のお頭の事を

将来、皆に武士になる事を夢見ていた事を、
剛剣の約束を信じて戦ってきた十五年間を。

鬼ノ丸は何故、鬼ノ衆の皆があの世と逆の方を指さしているのか分かったような気がした
「お前なら皆の夢を叶えられる」

そう言われてる様な気がした。

するとお頭に続いてみんなが岸の反対方向を指を指し始めた。
そして、皆の口元が微笑んだ。

鬼ノ丸は泣いた。そしてその涙をぐっとこらえた

鬼ノ丸は微笑んでる鬼ノ衆の皆の顔をしっかりと目に焼き付けた。
そして笑った

「わかったよ」

鬼ノ丸は三途の川を反対岸にむかって進み始めた。
鬼ノ衆が指を指してる方向へ。
雪野が映っていた方へ。

しかし最初に川を渡って来た時は、
暖かさに包まれ気持ちが良かったのに
反対岸へ一歩、また一歩進むに連れ、
苦しくなり、川は深く、肌を突き刺す痛さが
体を襲った。

「さ、寒い!」
「痛い!」
「く、苦しい!」

意識が遠のいていく中、冷たい川はついに鬼ノ丸を飲み込んだ。その時、川底の暗闇の中から声が聞こえた。

「、、まる?、、きのまる?、、鬼ノ丸!?」
漆黒の暗闇の中
「、ゆ、、雪野?」

雪野は鬼ノ丸の手を握りながら鬼ノ丸の名前を
呼びつづけていた時、鬼ノ丸の指が「ピクッ」と動いた!

雪野
「い、いま指が動いた!鬼ノ丸!」



      「鬼ノ衆の夢」


(一)

「ゲホッ!ゲホッ!」
咳と共に眩しい日差しが目に入ってきた。

何と鬼ノ丸が息を吹き返した!

雪野
「あはっ!鬼ノ丸ー!」

お菊
「お兄~!」

鬼ノ丸
「ゆ、雪野、お菊、、」

ダンダ衆
「鬼ノ丸殿~!!」

鬼ノ丸
「み、みんな、、、お、俺は、生きてるのか?」

クマ
「はい!鬼ノ丸殿ーよかったー!ウッウッ」

ダンゾウ
「クマー!忍が泣くでない!
鬼ノ丸殿が自分の胸を刺した時、鬼切安綱の刃が
心臓も肺もよけて身体を貫いたんですよ。
奇跡です!」

鬼ノ丸
「ご、、剛剣は?」

クマ
「鬼ノ丸殿の刃が剛剣の心臓を貫き、
雷が落ちて灰になりました!殺りましたよ!」

鬼ノ丸が息を吹き返して、皆は満面の笑顔になった。
雪野は涙が止まらない。
影丸は興奮して顔をナメてくる

鬼ノ丸
「か、影丸、」

雪野
「ウッウッ~、ウッウッ~、」

鬼ノ丸
「雪野、心配かけたな。さ、三途の川で母親に会えたんだ。それから、雪野の声、、、届いたよ」

雪野
「もう、、鬼ノ丸のバカ!」


鬼ヶ城の生き残りの主なる武士は
佐藤吉継ひきいるの援軍の捕虜となり、
京の都で裁きを受ける事となった。

吉継がやって来て鬼ノ丸に話しかけた。

佐藤吉継
「お主が鬼ノ丸か!あっぱれでござった!怪我を治したら一度、京の私の館を訪ねてこい!」

鬼ノ丸
「は、はい かたじけのうございます」

佐藤吉継
「鬼ノ丸よ!将軍様もお喜びになるだろう!」

武藤左衛門之助
「佐藤様、援軍、誠にありがとうございました!」

「左衛門之助よ、戦ったのはお主の勇敢な部下達だ。わしは何もしておらん。ハッハッハッ!ではこれにて、ごめん!」
佐藤吉継は笑っていた。

佐藤吉継様は自分の兵士と、
捕虜を連れ京の都へと帰って行った。

ワラシ
「鬼ノ丸様、傷は痛みますか?」

鬼ノ丸
「あ、、、当たり前だろ。でも出血は止まったみたいだ」

雪野
「クマ、上着かして!鬼ノ丸は寒いと思う」

クマ
「あ、そうですよね、ハイ!どうぞ」

雪野
「鬼ノ丸、寒くない?」

鬼ノ丸
「大丈夫。それより雪野、すべてが終わったら伝えようと思ってた事があるんだ」

雪野
「うん、、?」

鬼ノ丸
「俺と共に生きてはくれぬか?」

雪野
「い、今なんて!?」

鬼ノ丸
「、、俺と夫婦になってくれと言ったのだ!」

雪野
「ほんとに?」

鬼ノ丸
「あぁ、」

雪野
「はい!」
そう答えた雪野は目に涙を浮かべていた。


ダンゾウ
「ワーハッハッハッ!イヤーあっぱれあっぱれ」

鬼ノ丸
「さ、みんな、、、帰ろうか」

雪野
「えぇ、帰りましょう!」


(ニ)



秋も深まり上戸城の復興が終わり、
仲井文ノ条も喜んでいた。

上戸城は以前より立派な城に生まれ変わり、
本丸屋敷も広々としたものになっていた。

そしてもう一つ
上戸城合戦で散っていった兵士達をくようするため城外にお寺も作られた。


鬼ノ丸の傷が完全に治ったあと、京の都の将軍様に会いに行き会談をした。

剛剣を倒した事を称賛され、
将軍様から武藤左衛門之助と共に中国地方の治安と民の信頼を改善する様命をうけた。


将軍は鬼ノ丸を仲井文ノ条の婿養子と言う形で
雪野との結婚を許してもらい
名前を仲井 肥前守 鬼ノ丸
  (なかい びぜんのかみ きのまる)
と、改めた。

二人の祝言は新しい上戸城で行われた。
真っ白な嫁入り姿の雪野はそれはそれは
綺麗だったそうな。

鬼ノ丸は晴れて武将になれた。
鬼ノ衆の夢だった所にたどり着いたのだ!

あの時、三途の川で見た鬼ノ衆達があの世と
反対方向を指さした理由が今では、
はっきりと分かった。

多分、あの時、皆はこう言いたかったんじゃないだろうか。

「鬼ノ丸、戻りなさい。そして我々の夢を叶えるのです。あなたなら出来ます」


元鬼ヶ城を再建し、
仲井 肥前守 鬼ノ丸が城主として選ばれ、
  (びぜんのかみ)

新しい城の名を決めて、将軍家に報告することが
命じられた。

頼もしい事に、清海城のダンダ衆からダルマ、
クマ、剛士、ワラシの四名が
鬼ノ丸の忍につく事になった。

鬼ノ丸は日々、ダンダ衆を鍛えた。

元鬼ヶ城の城下町には将軍家の命で大工達が派遣され、
賑やかな城下町になっていた。

そして元鬼ヶ城も新しい天守がや虎ノ門、二の丸から一ノ丸が完成した!


(三)



それから一年が経ち、
鬼ノ丸が城作りを終え上戸城に帰ってきた。


上戸城の春の風が心地よい
縁側に座っている鬼ノ丸。

お菊が本丸の桜の樹の下で影丸とはしゃいでいる。

お菊
「キャハハハッ、影丸~」

そこには薄桃色に鶴の刺繍が入ってる着物を着た雪野が鬼ノ丸の隣に座っている。

雪野の腕には生まれたばかりの男の子を
抱いており、
その赤子の両目は薄く赤色に染まっていた!

雪野
「鬼ノ丸?見て、鬼丸の目」
雪野と鬼ノ丸の子供は鬼丸と名付けられた。

鬼ノ丸
「鬼丸は、雪野以上にお天馬で、そして強くなる! しかし、鬼の目の事は内緒だぞ」

雪野
「はい!」

鬼ノ丸
「よし!決めたぞ!」

雪野
「何を決めたの?」

鬼ノ丸
「新しい城の名前だ!俺や鬼ノ衆の名前を取って、、鬼ノ城(きのじょう)だ!!」

雪野
「あはっ、鬼ノ丸らしいわね。」

鬼ノ丸
「鬼ノ衆の文字を入れた。みんなの夢だ!」
雪野は鬼ノ丸の肩に頭をゆだねた。


雪野
「ね、鬼ノ丸、鬼ノ衆のみんなの話聞かせて」

鬼ノ丸
「そうだな、何処から話そうかな、、、
 、、、あれは今からニ十年前に、、、」

雪野
「、、、うん」

鬼ノ丸
「、、、京の都に、、、鬼が出た年だった、、」

雪野
「、、、うん、、、、」


「、、うん、」
    

        
         「完」




こんな物語があってもいんじゃないでしょうか。




長い間、お付き合いいただきまして、
誠に、ありがとうございました。
ここに、私の作品を乗せさせていただき、
太陽は大変光栄に思っております。

よろしかったら
夏公開予定「鬼忍外伝」もお楽しみ下さい



              作  太陽







































        








































































































































































































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