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婚約問題の顛末
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あのダンスパーティーの日。
元ピンク頭さんの秘密が暴露された事で有耶無耶になってしまった私の婚約問題なのですが。
実はあっさりと解決しました。
パーティーがお開きとなり、生徒会のみんなで後片付けをして帰宅したのが深夜近く。
パーティーの翌日は休みだったので、ゆっくりと朝寝坊をしようという心づもりでいた私でしたが。
「メアリー様、お客様です」
メイドにそう言われたら、起きるしかありません。
もっと寝ていたいという言い訳は通りません。
手早く身支度を整えて応接間へ向かいます。
昨夜の疲れが多少残っている状態ですが、動けない程ではありません。
扉をノックすると「入りなさい」と返事があったので、扉を開けます。
応接間ではすでに父であるスペンサー伯爵と、あのバカことジュリー様のお父様クライシス侯爵様が向かい合って何やら話をしておりました。
「お父様、お待たせしました。クライシス侯爵様にはご機嫌麗しく」
クライシス侯爵様に向かってスカートの裾をつまみ、カーテシーを取る私。
我なら綺麗だと自負しております。
「そんなに待ってないよ、メアリー」
「堅苦しい挨拶は抜きにしておくれ、メアリー嬢」
クライシス侯爵様は渋みのあるお顔立ちをしており、お優しくて、領地経営も巧み……と本当に素晴らしいお方ですのに。
どうして息子はあのバカなんでしょうか?
不思議でなりません。
「メアリー嬢も来たことだし、本題に入ろうか」
「承知いたしました。メアリー、ロラン殿との婚約の件だが」
やはりそのお話でしたか。
「昨日のダンスパーティーに参加した生徒の親から、私のところに知らせが来たんだ。それも複数から」
あら、あのバカはクライシス侯爵様に黙ってらしたのですね、そうだろうとは思っていましたが。
「うちのボンクラが迷惑をかけて済まなかった」
クライシス侯爵様は謝罪の言葉と共に深々と頭を下げられたので、私は慌ててしまいます。
「頭をお上げください!そこまでしていただくのは恐れ多いです!!」
確かにどんな教育をしてるのかと疑問には思いますが、ここまでしていただく事ではないと私は思っていたのです。
そもそも謝罪すべきはあのバカなんですよ、あのバカ!
「メアリー、彼はこういう男だから謝罪だけは受け取ってやりなさい」
「ですが……」
「そうしないと話が進まない」
あ、そこですか。
お父様、意外と冷静ですね。
それで侯爵様のお気が済むのであれば、と私は謝罪を受けいれる事にしました。
ですが、ひとつ気になることがあります。
「ロラン様は来られないのですか?いくら家同士の婚約でも当事者であるロラン様がいらっしゃらないというのは……」
「あいつならクライシス領に強制送還させることに決まった。今頃は出発しているだろう」
「え?」
それはクライシス侯爵様の御領地に行かれたって事ですよね?
学院の長期休暇はまだ2ヶ月も先なのに、どういう事なのでしょうか。
「あそこには私の父と父が率いる師団があるから、性根を叩き直す」
「侯爵様のお父様、ですか」
「うわぁ……鬼神将軍の精鋭部隊かぁ……」
「お父様、ご存知なのですか?」
「私たちの世代では前クライシス侯爵は優れた武勇から『鬼神』と呼ばれていて、悪いことをしたら『鬼神様に叱ってもらえ!』って言われていたんだよ」
なんですか、それ?
初耳ですわよ!?
「婚約者を蔑ろにして他の女に手を出すなど、父がもっとも嫌う事ですから。きっと良い仕事をしてくれる事でしょう」
眩しい笑顔を浮かべながら恐ろしい事をおっしゃる侯爵様に、鬼神と聞いて顔が引き攣っているお父様。
どれだけ怖がられているのでしょうか、前クライシス侯爵様は。
いずれにせよ、あのバカが少しでも反省してくだされば良いのですが。
そんな感じで脱線もしましたが、婚約は解消という形になりました。
私も2度とお会いしたくありませんし、その方が良いと侯爵様も仰ってくださいました。
解消の理由が理由なので、あのバカのためにと積み立てていたお金を慰謝料としていただきました。
「よろしいんですか?」
「あいつに持たせてもロクな使い方しないのは今回の件で分かったからな。これで良かったんだよ」
クライシス侯爵様はそうおっしゃっていましたが、少し寂しそうなお顔をしていると気付いたのです。
ご自分の息子の不始末を本人不在でやると言うのもどうかと思いますが、あのバカがここにいたら話は進まなかったでしょうから、これで良かったのかも知れませんね。
とにかく、私の婚約問題に決着が付いたのは良かったです。
これから安心して学院へ通えます。
「そういえば……あちらのご両親にはお話したのですか、伯爵?」
メイドが淹れた紅茶をひと口飲んだ侯爵様がお父様に尋ねておりますが……あちらのご両親とはどなたの事でしょう。
「ルミナス子爵家にはひとまず手紙を出しました。娘を傷つけたからには、それ相応の制裁は必要ですから」
と、こちらはお茶請けのクッキーをぽりぽりとかじっているお父様。
ちょっとお父様、食べながらお話しするのはどうかと思いますわよ。
「ルミナス子爵家……」
「うちのボンクラを誑かした女狐の家と言えば思い出すかね、メアリー嬢」
ああ!元ピンク頭さんの!
今の今まですっかり忘れておりましたわ!
元ピンク頭さんはあの場で秘密を暴露されましたし、十分痛い目に遭っていただきましたから、私としては満足しておりました。
ですが、貴族の契約は重いもの。
まして婚約は双方の同意あって結ばれていたものです(当事者がどう思っているかは置き去りですが)
それを壊した娘の責任を親も負うのは避けられないのが貴族社会。
嗜みとして貴族年鑑を熟読していた私でもルミナス子爵家はすぐに出てきませんでしたから、新興のお家なのでしょう。
「ルミナス子爵家はいつ叙爵されたのですか?」
「確か今の子爵殿が学術的発見を評価された時だから……10年くらい前かな」
「学術的発見?」
「なんでも男性の悩みを解決する画期的方法だそうだ……」
なんなんでしょう?
それ以上聞いても、お父様も侯爵様も微妙な表情をしたまま詳しくは教えてくださらなかったのです。
莫大な利益を産むものだとしか。
だから慰謝料を貰うことで終わりにしたいのだそうです。私も異存ありません。
そういえば、無事にヅラは見つかったのでしょうか?
元ピンク頭さんの秘密が暴露された事で有耶無耶になってしまった私の婚約問題なのですが。
実はあっさりと解決しました。
パーティーがお開きとなり、生徒会のみんなで後片付けをして帰宅したのが深夜近く。
パーティーの翌日は休みだったので、ゆっくりと朝寝坊をしようという心づもりでいた私でしたが。
「メアリー様、お客様です」
メイドにそう言われたら、起きるしかありません。
もっと寝ていたいという言い訳は通りません。
手早く身支度を整えて応接間へ向かいます。
昨夜の疲れが多少残っている状態ですが、動けない程ではありません。
扉をノックすると「入りなさい」と返事があったので、扉を開けます。
応接間ではすでに父であるスペンサー伯爵と、あのバカことジュリー様のお父様クライシス侯爵様が向かい合って何やら話をしておりました。
「お父様、お待たせしました。クライシス侯爵様にはご機嫌麗しく」
クライシス侯爵様に向かってスカートの裾をつまみ、カーテシーを取る私。
我なら綺麗だと自負しております。
「そんなに待ってないよ、メアリー」
「堅苦しい挨拶は抜きにしておくれ、メアリー嬢」
クライシス侯爵様は渋みのあるお顔立ちをしており、お優しくて、領地経営も巧み……と本当に素晴らしいお方ですのに。
どうして息子はあのバカなんでしょうか?
不思議でなりません。
「メアリー嬢も来たことだし、本題に入ろうか」
「承知いたしました。メアリー、ロラン殿との婚約の件だが」
やはりそのお話でしたか。
「昨日のダンスパーティーに参加した生徒の親から、私のところに知らせが来たんだ。それも複数から」
あら、あのバカはクライシス侯爵様に黙ってらしたのですね、そうだろうとは思っていましたが。
「うちのボンクラが迷惑をかけて済まなかった」
クライシス侯爵様は謝罪の言葉と共に深々と頭を下げられたので、私は慌ててしまいます。
「頭をお上げください!そこまでしていただくのは恐れ多いです!!」
確かにどんな教育をしてるのかと疑問には思いますが、ここまでしていただく事ではないと私は思っていたのです。
そもそも謝罪すべきはあのバカなんですよ、あのバカ!
「メアリー、彼はこういう男だから謝罪だけは受け取ってやりなさい」
「ですが……」
「そうしないと話が進まない」
あ、そこですか。
お父様、意外と冷静ですね。
それで侯爵様のお気が済むのであれば、と私は謝罪を受けいれる事にしました。
ですが、ひとつ気になることがあります。
「ロラン様は来られないのですか?いくら家同士の婚約でも当事者であるロラン様がいらっしゃらないというのは……」
「あいつならクライシス領に強制送還させることに決まった。今頃は出発しているだろう」
「え?」
それはクライシス侯爵様の御領地に行かれたって事ですよね?
学院の長期休暇はまだ2ヶ月も先なのに、どういう事なのでしょうか。
「あそこには私の父と父が率いる師団があるから、性根を叩き直す」
「侯爵様のお父様、ですか」
「うわぁ……鬼神将軍の精鋭部隊かぁ……」
「お父様、ご存知なのですか?」
「私たちの世代では前クライシス侯爵は優れた武勇から『鬼神』と呼ばれていて、悪いことをしたら『鬼神様に叱ってもらえ!』って言われていたんだよ」
なんですか、それ?
初耳ですわよ!?
「婚約者を蔑ろにして他の女に手を出すなど、父がもっとも嫌う事ですから。きっと良い仕事をしてくれる事でしょう」
眩しい笑顔を浮かべながら恐ろしい事をおっしゃる侯爵様に、鬼神と聞いて顔が引き攣っているお父様。
どれだけ怖がられているのでしょうか、前クライシス侯爵様は。
いずれにせよ、あのバカが少しでも反省してくだされば良いのですが。
そんな感じで脱線もしましたが、婚約は解消という形になりました。
私も2度とお会いしたくありませんし、その方が良いと侯爵様も仰ってくださいました。
解消の理由が理由なので、あのバカのためにと積み立てていたお金を慰謝料としていただきました。
「よろしいんですか?」
「あいつに持たせてもロクな使い方しないのは今回の件で分かったからな。これで良かったんだよ」
クライシス侯爵様はそうおっしゃっていましたが、少し寂しそうなお顔をしていると気付いたのです。
ご自分の息子の不始末を本人不在でやると言うのもどうかと思いますが、あのバカがここにいたら話は進まなかったでしょうから、これで良かったのかも知れませんね。
とにかく、私の婚約問題に決着が付いたのは良かったです。
これから安心して学院へ通えます。
「そういえば……あちらのご両親にはお話したのですか、伯爵?」
メイドが淹れた紅茶をひと口飲んだ侯爵様がお父様に尋ねておりますが……あちらのご両親とはどなたの事でしょう。
「ルミナス子爵家にはひとまず手紙を出しました。娘を傷つけたからには、それ相応の制裁は必要ですから」
と、こちらはお茶請けのクッキーをぽりぽりとかじっているお父様。
ちょっとお父様、食べながらお話しするのはどうかと思いますわよ。
「ルミナス子爵家……」
「うちのボンクラを誑かした女狐の家と言えば思い出すかね、メアリー嬢」
ああ!元ピンク頭さんの!
今の今まですっかり忘れておりましたわ!
元ピンク頭さんはあの場で秘密を暴露されましたし、十分痛い目に遭っていただきましたから、私としては満足しておりました。
ですが、貴族の契約は重いもの。
まして婚約は双方の同意あって結ばれていたものです(当事者がどう思っているかは置き去りですが)
それを壊した娘の責任を親も負うのは避けられないのが貴族社会。
嗜みとして貴族年鑑を熟読していた私でもルミナス子爵家はすぐに出てきませんでしたから、新興のお家なのでしょう。
「ルミナス子爵家はいつ叙爵されたのですか?」
「確か今の子爵殿が学術的発見を評価された時だから……10年くらい前かな」
「学術的発見?」
「なんでも男性の悩みを解決する画期的方法だそうだ……」
なんなんでしょう?
それ以上聞いても、お父様も侯爵様も微妙な表情をしたまま詳しくは教えてくださらなかったのです。
莫大な利益を産むものだとしか。
だから慰謝料を貰うことで終わりにしたいのだそうです。私も異存ありません。
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