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特務駆逐艦〈ユキカゼ〉

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 アイシャが艦長公室で待ってくれている間に、和幸はきちんと略装を着込んだ。今時の艦内では提督から二等兵まで誰でもこの草色の軍服を普段着にしている。
 ハミルトン一等兵は逃げるように部屋を出て行ったが、彼女が退出する間際に、和幸は軽く接吻をしてあげることを忘れなかった。ハミルトンは感激して、和幸の首に縋り付き、その引き締まった筋肉の付いた胸に頬ずりをして甘えた。和幸が軽く彼女の胸に触れると、ハミルトンは熱っぽい目で和幸を見上げる。思わずここで二回戦に進みかねないところだったが、さすがにこれ以上遅れるとアイシャに本当に怒られるので、和幸はハミルトンの頭を撫でるに留めた。
 艦内に発生している人工重力をまるで感じさせない軽やかな動きで、跳ねるように歩いて行くハミルトンの後ろ姿を少し見つめた後、和幸は直接繋がっている艦長公室へと入った。
「悪い、待たせた」
「……本当に悪いと思っていらっしゃるのであれば嬉しいのですが」
 アイシャの嫌味を、和幸は微笑んで聞き流した。もちろん、悪いだなんて思っていない。
 艦長公室は古典的な木目調の内装で、難燃性加工が施された木製家具が置かれ、それなりに価値のある絵なども掛けられており、落ち着いてはいるが豪奢な造りである。ソファーに張られた布も本物の羅紗であり、内務科員としては維持管理が面倒だから止めて欲しいと思っているところだった。
「それで、何か用?」
「はい。電測士から報告がありまして――」
 こんな、メッセージで送ればすぐに伝わるような連絡を、わざわざ自分の脚で出向いて対面で行う。最近の風潮というほかなかった。電算機の発達と機械化の進行が行き着くところまでいってしまった感のあるこの時代、過度な効率化よりも、むしろ非効率な作業の裏にある電子化できない暗黙知をどれだけ活用するかが重要とされていた。もっとも、そういう定量化しにくい指標を用いるのは、評価を行うときに誤魔化しやすいという運用側の策略だと考えている者も少なくなかった。
「――救難信号?」
「かなり微弱で、船名等の情報が解析できないようなのですが」
「場所は?」
「ロドイ星系です。方位が……」
「あ、いい。指揮所へ行こう」
 和幸は立ち上がり、手に持った略帽を被る。アイシャも一緒に立ち上がった。
 二人は艦長公室を出て、指揮所へと歩いた。〈ユキカゼ〉の艦内通路は、駆逐艦とは思えないほど広い。



 特務駆逐艦〈ユキカゼ〉はそもそも、〈メルカトル〉級嚮導駆逐艦の四番艦として建造された。八〇年近く前の話である。
 〈メルカトル〉級嚮導駆逐艦は優秀な艦であったが、四隻しか建造されなかった。嚮導駆逐艦という艦種自体の持つ欠点が、これでもかと強く出た艦艇であったからだ。
 嚮導駆逐艦は、その名の通り戦隊司令部機能を有した駆逐艦であり、同様の役割を割り振られがちな軽巡洋艦に比べて、土台が駆逐艦である分安上がりという利点があった。しかし〈メルカトル〉級は、様々な要求に従ってあれこれと機能を追加してしまった結果、建造費がほとんど軽巡洋艦並になってしまったという本末転倒な艦であった。それでいてもちろん、駆逐艦程度の武装と拡張性しか持たないのだから、無駄に贅沢な艦という評価を下されてしまっても仕方ない。
 悪い艦ではない。むしろ、速度でも兵装でもセンサー類でも、駆逐艦としては最高の性能を誇る。司令部施設も文句のない出来映えであった。しかしながら兵器というのは、単体の性能よりも費用対効果で判断されるものであり、こんな艦を作るくらいならもっと多様な任務に利用できる軽巡洋艦を作った方が良い、と判断されてしまったのはやむを得なかった。これ以降、帝国宇宙軍は嚮導駆逐艦という種別の艦艇を建造していない。
 戦争でもそこそこ活躍している。八〇年の間に一二の艦隊戦に参加し、その何れからも無傷で生き残った。それも、最前線で戦隊を指揮しながら。
 しかし今では流石に老嬢であり、艦隊からは外されていた。船殻や竜骨は、現代と同様に生態金属合金で作られており、経験がある分自己修理も防禦反応も素早いので、その点で高い艦齢は有利だった。だが主機や装備が時代遅れである。近代化改修を施すにしても、同型艦が四隻しかいない駆逐艦であるから、その費用も無駄に高く付き、戦列に加わったとしても艦隊行動の妨げになるとしか思われなかった。
 そういうわけで、既に同型艦三隻は解体されており、〈ユキカゼ〉も解体を待つ状態であった。
 この廃棄予定の艦に軍令部が目を付け、少なからぬ予算を使って改修し、主機も主砲も主電算機も全て取っ替え、特務駆逐艦〈ユキカゼ〉として蘇らせたのであった。
 ほとんど護衛駆逐艦を新造できるほどの予算を使って近代化改修を施した件については、いくら何でも無駄遣いではないかと非難する者もいたが、艦の用途が用途であるから、あまり大声で問題にしにくく、通ってしまったのだ。噂では、かつて〈ユキカゼ〉の艦長を務めた士官が今は軍令部の幹部であり、愛着ある艦を解体してしまうのが忍びなかったので、やや無理な手で艦の流用を試みた、という話だった。だがその噂が真実であったとすると、その幹部は自身の愛する艦を貴族のハーレムの舞台として提供したということになるのであるから、やはり噂は噂でしかないと思われた。

 ともかくそういう理由で、〈ユキカゼ〉はやや特殊な駆逐艦だった。
 通路が広めに作ってあるのも、多くの司令部要員が乗り組むことを前提とされていたからだった。今艦長の私室や公室として使われている部屋は、元は戦隊司令官のそれで、つまり将官用の広さと設備とを持っていた。その上で、艦長の私室と司令官の私室を繋げて一つの部屋にしていたから、客船並に広くて豪華な部屋になっているのだ。そこには巨大なベッドが設えてあり、いつもで二人で、あるいはそれ以上の人数で利用することができた。
 艦内のあちこちにゆとりがある。兵装も、連装砲塔二基の主砲と近接防衛用の実体速射砲、レーザー機銃を除いて全て取り外されており、その空いた隙間に研究調査用の器具やセンサーを詰め込んでいる。調査班の科学者が同乗するための専用の設備や居住区も用意されていた。ちょっとした研究室や実験室すら備えており、工作室も戦艦並みの設備を持っている。それでも嚮導駆逐艦時代に比べれば圧倒的に乗員数が少ないので、一人一人の空間は広かった。その上今は平時体勢、乗員数は軍用艦としての本来の定数の半分にも満たないのだ。

 辺境の警備と探査。それが特務駆逐艦〈ユキカゼ〉に与えられた任務である。単艦で辺境領域を巡り、他勢力との境界線であれば警備任務を、未開領域であれば調査と研究とを行う。他勢力といっても、敵対的な外国領域との国境に送られるようなことはまずなく、大抵は友好的な、あるいは同盟国(や事実上の属国)との境界部分でほとんど意味の無い警備任務を実施するのだ。時には帝国や外国の星系を表敬訪問することもあるし、受けることもある。駆逐艦であるのにわざわざ艦長公室を持っている点が存分に活かされることとなる。貴族出身で礼節も弁えており、また華々しい戦功を持つ英雄でもある和幸は、この手の任務にはうってつけだと兵部省も認めていた。……自分のハーレムを「持ち歩いて」いるような男が、果たして大衆や外国からどのように見られるかという点を考慮すると、撫民や外交といった任務に彼が適切かどうかは甚だ疑問であったが、兵部省は持ち前の官僚的態度によって和幸個人の性質やゴシップを無視した。

 こうして生まれ変わった〈ユキカゼ〉は、厄介な貴族の息子を閉じ込める「桃色の檻」として、その古老じみた歴戦の船体を今日も宇宙放射線に晒しているのである。彼女が今の自分の任務をどのように考えているのか、それは誰にも分からないが、少なくとも彼女を構成する生態金属合金たちはどのような任務であっても仕事に手を抜くことはなかった。
 ちなみに〈ユキカゼ〉という艦名は、地球時代の日本海軍に由来する由緒正しいものである。その歴史ある艦名もまた、日系人である和幸に与える艦としては相応しいと思われていた。



   *



 指揮所は艦の中枢部ヴァイタル・パートに位置している。駆逐艦なのでそれ程厳重ではないが、多少の追加装甲も施されていた。
 元は嚮導駆逐艦なので、指揮所も広かった。現在の乗組員の人数を考えれば広すぎるくらいだった。近代化改修の際にほとんど内装を全て入れ替える程の改造が施されたので、艦齢を全く感じさせない今風の指揮所であった。円形に配置された各担当者の席と、中央に艦長席、そして副長席。特務駆逐艦は駆逐艦相当の編制なので副長は置かれていないが、先任将校がそこに座る(ちなみに、艦長という呼び名も通称であり、法令上正しくは「特務駆逐艦長」と呼ぶべきではあるが、誰もそんな長い名前は口にしない)。外壁は全て白いパネルが嵌められており、軍用艦指揮システムが個々人の情報投影システムに割り込んで、様々な情報を表示するディスプレイとする。普段は外部の映像が投影されており、硝子ガラス張りの窓から宇宙を眺めているような気分になれる。
『艦長、参られました』
 和幸が入室すると、自動音声が通知する。指揮所内にいた将兵はすぐに立ち上がり、和幸に敬礼した。和幸は目線で答礼する。
 艦長席の前にある多目的ボード(という名前だが球形である)の周囲に二人の士官が立っていた。一人は電測士のエンリカ・バリチェッタ中尉、もう一人は航宙長の武井カナエ大尉であった。
「救難信号が届いたって?」
 多目的ボードに近寄りながら和幸は訊いた。
「そうなんですよぉ」
 と、間延びした独特の発音でエンリカが答える。アイシャは目を細めて、軍務中であろうと平気でそういう喋り方をするエンリカに微かな不快感を表明した。
 エンリカ・バリチェッタ中尉は身長のやや低い、そのわりに胸やお尻がはち切れんばかりに大きな女性だった。皆が着る草色の略装も、彼女の体では特に窮屈に見える。目尻の下がった優しげな瞳、ふわふわとカールする長い柔らかい金髪、やや小麦色の健康的な肌が美しく、愛着を持たれやすい見た目である。しかしベッドの上ではひたすら快楽に貪欲であった。和幸は以前、エンリカと三日三晩にわたり徹底的に貪り合うようなセックスを行ったことがあり、流石にアイシャに苦言を呈された。というのも、公平性に反するのは乗組員の士気モラルに悪影響を与えるから、という理由だった。
 公平性。ハーレムの主には当然求められる配慮である。
 そんなエンリカであるが、電測士としての腕前はそこまで悪くない。AIと上手く付き合い、観測しにくい範囲を上手に指示することができるので、彼女の見張りには信頼が置けた。パッシヴの変化にも敏感である。
「今プロットしています。お見せしますね」
 カナエはそう言って、和幸やアイシャに情報を共有した。多目的ボードに宇宙図が表示される。和幸やアイシャの目にもそれが見えるようになった、という意味だ。
 武井カナエ大尉は三十六歳で航宙長を務める、真面目な性格の士官だった。アイシャに近い性質で、実際アイシャとは仲が好く、〈ユキカゼ〉の幹部の中ではアイシャや甲板士官と一緒に綱紀粛正に努力している。見た目は十代後半ハイ・ティーンくらいで、エンリカより更に小柄な、しかしほっそりとした体軀と、バッサリと短く切った髪の毛のせいで、少年のようにも見える。しかしこれでも神道流の免許皆伝を受けた剣術の達人であり、時々和幸と共に艦の運動室で稽古をしているのだった。
 またカナエは、和幸とは個人的な知り合いでもあった。彼女の兄の、武井穰治大尉が和幸の兵学校の同期であったからだ。
 和幸はカナエを抱く時、親友のことを思い出して、流石にちょっとした罪悪感を抱きながら……それ故に余計に興奮して、カナエを滅茶苦茶に責め立てるのが常だった。カナエも、普段は規律正しい反動か閨房ではかなりマゾヒストな傾向があり、和幸に力任せに突かれて、さらにもっと酷いことをされても、歓びの声を上げて体を震わせるのだった。
 もちろんそれは二人きりの艦長室の中での話。今のカナエは、模範的な航宙長の顔で宇宙図を見つめている。
「感知は三箇所です。ここと、ここと、ここですが、この位置ではかなり乱れがあります」
「ロドイ星系だよな?」
「はい」
 ロドイ星系は次元隧道を隔てて「お隣」であり、通信が自然にここまで微弱になるとは考えづらかった。一般的な電磁波や光波は次元隧道を通過しないが、通信用のそれは少量の高出力DDタキオンを先導にするのだから、隧道分の距離はほとんど考えなくても良いはずだった。
「この乱れ方はぁ、典型的な電子妨害だと思いますぅ」
 エンリカは別窓に波形を表示し、そこに自動生成した解析結果を載せた。至近距離からの電子妨害を受けると、こういう歪み方をする証明が図示される。
「……救難信号に他の情報は入っていたか?」
「何も。いえ、何か載ってはいたようなのですが、断片化してしまっています」
「修復は難しいですぅ」
 和幸は顎に手を当てて考えた。仕方ないか。もともと救難信号は、それが救難信号であることを伝え、できるだけ遠くまで飛ばすことに重点を置いて設計されている。誤り訂正の仕組みが貧弱なのはやむを得なかった。
「発信元の船の候補が欲しいな」
「リストアップしてあります」
 と、その近辺に存在するはずの船舶一覧を表示し、カナエは微笑んだ。和幸も口許を綻ばす。頭を撫でて褒めてあげたい気分だった。
「いつの情報?」
「最終同期は一週間前です」
 光速度の制約から、帝国全土での情報のリアルタイム性は存在しない。また、高コストなDDタキオンを無駄遣いすることも経済的ではない。全ての情報は緊急時を除き、定期的に同期される。
「まぁ、信用できるか。ふーん」
 和幸は船舶リストを目でさっと舐めた。大半が貨物船か液体輸送船(もちろんガスも液化してから輸送する)で、一隻か二隻、小さな客船が見える。
 その船舶の中に、見慣れない種別の船が加わっているのを見つけた。
「……クルーザー?」
 クルーザー、といっても巡洋艦クルーザーではない。個人所有の豪華な客船だ。ただし、この場合は「個人所有」と呼んでよいものか難しいところがあった。
「スカハ王国の、王室の御座船です。船名は〈ミッドナイト・サン〉号」
 カナエが説明した。スカハ王国は帝国と国境を接する……というか、今まさに〈ユキカゼ〉が警備している領域の向こう側の国だった。領有する有人星系は一つのみ、無人の星系がロドイ星系も含めて二つ。人口は惑星外居住民も含めて八〇〇〇万人程度。帝国の辺境惑星程度の、弱小国と呼んで差し支えない。産業も大したものはなく、一部の貴金属とガス類を産出する他は、どこにでもあるような軽工業製品と農産物を輸出している程度だ。最近は殖産興業に力を入れているようだが、それでいきなり工業国になれるほど銀河は甘くない。観光業もあるのだが、この手の自然を売りにした観光地はそれ程珍しくはないので、有名というわけでもない。軍備ももちろん貧弱で……といいたいところだが、そもそも軍隊が存在しなかった。軍事的には帝国に組み込まれており、帝国軍が駐留し、防衛の義務を負っている。国民には帝国軍に志願する権利があり、実際に少人数の将兵を送り出していた。
 要するに、形式的には独立しているが、実質的には帝国の自治領という体制の国家である。云うまでもないが、大銀河共栄圏コモンウェルスを構成する一国だ。その王号も帝国が与えたものであったから、どこに出しても恥ずかしくない属国である。何ならこの後の〈ユキカゼ〉の航路は、王国内を通ってその向こう側の国境を警備する手筈になっていた。
 その王国の、王室所有のクルーザーがリストに載っていた。とはいえそれは、
「まぁ、すぐそこだもんな」
 和幸は頬を緩めて言った。このリストに掲載されているのは、今ロドイ星系で救難信号を発している可能性のある船舶全てである。星系領有者であるスカハ王国の所有船が含まれているのは当然だった。可能性は低くとも、物理的にありえるのだから。
「スカハ王国といえば、最近政治がゴタついてるって話だったか」
 ゴシップを語るような口調で和幸は言う。今回の件と関係あるかは微妙に思われたが、アイシャとカナエは多少の情報を集めていた。
「財閥派と民衆派の対立ですね。去年国王陛下が崩御されてから激しくなったようで、テロも起きています」
「それに関連している可能性も……うーん、微妙か」
「テロだとしても、この位置でわざわざ起こすとは考えづらいです。しかも王室所有のクルーザーとなると……」
 カナエが指摘する。テロの目的にもよるだろうが、薄い可能性の一つ程度に留めておくのが良さそうに思えた。
「良いですねぇ、クルーザー。白色巨星を眺めながらゆっくりバカンスしたい~」
 エンリカが暢気な声を出す。流石に場違いなので、誰も反応しなかった。それで会話は中断されてしまった。
 さて、どうするか。和幸は考える。情報は少ない。救難信号が妨害されているのは示唆的だった。自然にそういうことが起こるとは考え難いから、人為的に行われたはずだ。しかし、どうして。
 すぐに思い浮かぶのは、宇宙海賊による襲撃である。帝国内の、いや帝国のみならず銀河のあちらこちらで跳梁跋扈するその無法者達は、貨客船を襲撃して金品を強奪し、人質を取って身代金を要求し、物品を闇市場に流す。単独航行する貨物船が襲われるのは時々聞く話であった。
 しかし、この辺りに海賊が出没するという情報は聞かなかった。ああいう集団は宇宙にぽつんと存在するのではなく、必ず拠点があるものだ。そしてどこでも活動するのではなく、権力の力が弱い、しかし重要な物品が輸送される航路が通るような場所を狙って活動するのだ。ロドイ星系はどちらにも当てはまらなかった。拠点になりそうな星系は無く、重要な航路でもない。先に述べたように、スカハ王国には大した輸出品も存在しないから、出入りする船舶を襲撃しても旨味がないのだ。
 なので、こんな領域での海賊の襲撃は考え難い……のだが、何事にも例外というものはある。何らかの襲撃に遭った、という可能性が高そうに見えた。その正体は分からずとも、起こっている現象がその説を支持していた。
 であれば、行動は決まっている。船が地球の海上を進んでいた頃から引き継いだシーマンシップは宇宙でも有効だった。困っている船があれば助けに行く。
「先任将校、モーガンウッド警備府とファーゲルヴィカ基地に打電。救難信号を受信、我これより救助に赴かんとす。分かってる限りの情報も付けといてくれ」
「はい」
 モーガンウッド警備府は〈ユキカゼ〉が最後に補給をした、ここから最も近くにある帝国宇宙軍の永久拠点だった。ファーゲルヴィカ基地はスカハ王国にある帝国軍の基地だ。
「艦内、哨戒第二配備となせ。機関長に連絡、出力上げ。増速しろ、方位は――」
 ちらりと宇宙図を見る。カナエが横から言った。
「LDI4667です」
「方位LDI4667、一八〇〇より隧道潜行を行い、明〇八〇〇に目的地へ到着とする。細かい計算は任せた」
 和幸が命令を発する。宇宙軍では――というより帝国の軍民問わぬ船内の規則では、未だに地球の一年三六五日、一日二四時間を基準にした暦や時刻を使うことになっている。帝国歴も地球を基準とした年月で計算されている。
「了解!」
 アイシャ、カナエ、エンリカの三人は背筋を伸ばして敬礼をした。
 艦が速力を上げるので、慣性警報が響き渡った。
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