君と私の妖日記

みたそ

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静かな夜に

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美雪と紗雪を寝かしつけ、部屋を出ると縁側で小紅が待っていた。


「眠ったかい?」

「あぁ……イチカは?」

「こっちもようやく眠ったよ。」


小紅の隣に腰掛けるとお猪口を渡され、酒を酌まれた。すでに飲んでいた小紅は深くため息をつき、暗くなった空を見上げる。


「ありゃあ重症だ。相当病んでるよ…」 


あの後、イチカは手が付けられないほど自暴自棄になり、危険な状態だった。怯える美雪と沙雪を避難させ、小紅と2人がかりで彼女を止めにかかる。
時間はかかったものの、最終的には小紅が調合したお香を焚いて、匂いを部屋中に充満させたことで動きが鈍くなり、そのまま倒れてしまった。


「あの香…何が入っていたんだ」

「別に~?ちょ~っと身体が麻痺しちゃうくらいの薬草が混じってるけど死にはしないよ。」

「そ、そうか…悪いな。借りは必ず返す。」

「当然だ。」


沈黙が流れる夏の夜。小さな庭から虫の音や蛙の声が合唱のように響いていた。
その音色を聞きながら酒を一口で飲む。


「なぁ。」

「なんだい。」

「俺は…間違えたのかな」

「……」


『なんで助けたの?』『どうして死なないの…?』
あの時の彼女の言葉と苦しそうに俺を睨む視線が頭の中からずっと離れなかった。


「あんたが決めたんだろ。あたしに聞くんじゃないよ。」

「……」

「それとも今からをまた取り出すかい?」

「それはいやだ!」


静かな夜に俺の叫んだ声が響いた。酒を一気に飲んだせいか…?少しぼーっとする。


「そんなムキになるんならいつまでもウダウダ言ってんじゃないよ。この下戸が。」

「う、うるせぇ!分かってるよ…あと下戸は余計だ。」



クスクスと笑う小紅を横目に俺はまた酒を飲んだ。
誰が下戸だっ!


「なら、しっかり向き合うんだね。」

「…あ?」

「一度決めたことは最後までやれ。がいつも言ってたろ?」

「!!」


そうだ…いつの間にか忘れていた。
まさかこいつに言われるとは思わなかったけど、なら自分が決めたことは最後まで信じていた。
こんなんじゃに顔向けできない。


「しっかりしないとな…」


……そういえばイチカにまだの話をしていないな。でも今はまだ言わないほうがいいか…。

あの時、彼女の身体はおそらくが関わっている。拒絶反応も見られなかったし、傷もすぐに治ったってことはうまくしたのだろう。


「明日…イチカに話そうと思う」

「あっそ。」

「随分あっさりした返事だな。」

「興味ないからね。それに……いや、なんでもない。」

「?」


煙管から吐き出した煙が空へと消えていく。そして小紅は酒の入った徳利を手に取って俺に向けた。


「下戸じゃないんだろ?だったらもっと飲んだらいいさ。今日は飲みたい気分なんだろ?」

「……」


注がれる酒に俺は一瞬戸惑ったけれど、正直小紅の言うとおり、今は飲んで気分を落ち着かせたかった。
俺は注がれる酒を拒むことなくガンガン飲みまくった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ぐ~ぐ~…」

「……やっぱり下戸じゃん。」


大の字になり大きないびきをかいて寝ている焔。
普段はあんなに飲まないのに今日だけは浴びるように飲んでいた。


「呑気に寝やがって。」


ま、明日になればまた状況が変わるだろうさ。
あの女…一華だったか。アタシの話をどこまで信じるかなーーー

それは数時間前、焔に美雪と沙雪を任せて2人きりになっていた時、身体が麻痺して倒れているあの女を見下ろしていた。


「……っ」

「へぇ~この香を嗅いでもすぐに回復するんだ。便利な身体になったねぇ」

「ふざ…けないでっ」


身体を起こして、アタシをギッと睨みつける。
けれどそれだけで無防備に襲ってこようとはしなかった。


「なんだい。そんな目で見てくるならさっきみたいに暴れてアタシに一発当てたらどうだい?」

「…っ」

「言うだけ言って何も出来ないてか?ふふっ弱いねぇ」

「………」


悔しそうにうつむくそいつの握りこぶしがふるふると震えている。殴りたきゃさっさと殴ればいいのに、なんでやろうとしない?


の考えることは分からないな。」


なんでこんなやつに焔はを渡してしまったんだろうか。本当にコイツがなのか?


「どうして…こんな事になったんだろう」

「まだ言うか。せっかく良いもん貰ったんだからありがたく思いな。」

「……そんなのいらない。何をしたのか知りませんが私には必要ありません。」


もう何を言っても無駄なのだろう。コイツの意思は固い。アタシも面倒くさくなってきたし、そんなに死にたいのなら……


「……ここから東の方角」

「え?」

「真っ直ぐ進んでいくと小さな池にたどり着く。目印は一回り大きな杉の木だ。雑草だらけで誰も寄り付かないんだが、そこへ行ってみればいい。」


アタシは賭けに出た。
そこまで死にたいのならアタシがコイツの望みを叶えてやるよ。


「……池?」

「あぁ…その池に30年くらい前からが住み着いてね。死にたいならソイツに聞けばいいさ。」

「……」

「あぁ、それともし行くなら明日の夜に行きな。焔にバレたくなければね。それに…ソイツも夜のほうが助かるだろうさ。」


さっきまでの怒りはどこへやら。急に黙り込んで何を考えているんだか。まぁアタシは本当のことしか言ってないし、信じる信じないはコイツの勝手だ。あとの事なんざ知ったこっちゃない。


「じゃあ、アタシはもう行くよ。」

「あの….!」

「?」

「…いえ、何でもないです。」


「あっそ。今日はさっさと寝な。」


パタンと戸を閉め、その場を後にした。
静かな夜のせいか何処か落ち着かない。


「……酒でも飲むか」


吐き出した煙管の煙を置いていき、アタシはいつもの縁側へ向かった。


「ぐ~ぐ~」


そして今、寝ている焔の側で酒を飲んでいた。


「静かだね…」


昔はもっとここも賑やかだった気がするんだけどね。いつからこんなに静かなになったんだろうか…


『おい、小紅!お前もこっち来いや!』

『なんだまた焔をからかってんのか?懲りないやつだなぁ(笑)』

「……何で逝っちまったんだよ。ぜんさん」


もうこの世にいないあの人を思い浮かべ、夜の空を見上げた。


「明日は満月か…」


気楽だが、何処か物足りないひとり酒を夜が明けるまで飲み続けたーーー
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