君と私の妖日記

みたそ

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朧気な記憶

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「……」

気が付くと私は真っ暗な空間にいた
上も下も前も後ろも全部真っ暗で何も見えない…
不思議に思ったけれど同時に分かったこともあった。


「私、死ねたんだ。」


じゃなきゃこんなところにいないもん。
ここはきっと漫画とかでよく見る死んだあとの世界なんだ。

やっと終わったんだ…これでやっと私はーーー


「おい小娘。あまりここに長居するもんじゃないぜ」  

「!?」


突然話しかけられたことに驚いて振り向くと、そこには浴衣を着たおじさんが立っていた。


「だ…誰ですか?」


50代くらいのスラッとした細い身体をしたおじさん…空のように青いきれいな瞳をしていた。
あれ?でもこの人頭が…


「何ジロジロ見てんだ。」

「あ…す、すみません」


誰なんだろう…というかこの人も多分死んだ人だよね?
一緒の空間にいるのちょっと気まずいな…


「小娘。名は?」

「あ、えっと…一華です。」

「そうか。」


え…自分は言わないの?
変なおじさんに会ってしまったと困る私に、おじさんは懐から長い棒を取り出した。そしてそれを口にくわえて吸い、煙を出した。


「これが気になるのか?これは煙管きせるってやつだ。」

「そう…なんですね」

「それより小娘。何でここにいるのか分かってんのか?」

「……っ!」


おじさんの視線が鋭く刺さる。
そんなの分かっている…あの時私は包丁でーーー


「さっきも言ったが、ここにはあまり長居しないほうがいい。早いとこ目ぇ覚ましたほうが身のためだ。」

「え?目を覚ますって…私、死んだんじゃないんですか?」

「なに?」

「だって私はあの時、包丁で首を切ったんですよ?ここにいる理由もそういう意味ですよね?もしかしてここって死後の世界とかじゃないんですか?」

「あ~…なるほど。そういう感じか。」

「え……?」


おじさんが難しい顔で何か考え事をした後、さっき教えてくれた煙管をまた吸って煙を吐き出した。
すると煙管の煙がモクモクと生き物のように動き出し、真っ暗な空間で輪っかが出来上がった。 


「これは…?」

「なんだ知らんのか?あ~そうかには出来ないんだったな。不便な生き物よのぉ?」

「…?」


おじさんも人でしょ?理由が分からずただ佇んでいると煙でできた輪っかの中が突然光りだした。


「お~久しぶりに出したがまぁまぁな出来だな!」

「あの…」

「おぉ、出来上がったぞ。お前はこれに入って帰れ。」

「帰れって…どこにですか?」

「…まぁ行きゃあ分かるさ。」


トンッと軽く背中を押され、私は言われるがままその輪っかの中に手を伸ばしてみた。すると何かに引き込まれるように身体がどんどん光の中へ入っていく。


「わっ!」

「おい、一華!」

「?」


光の中に吸い込まれながら後ろを振り返るとおじさんが腕を組みながらニコッと笑っていた。


えんをよろしく頼む。」

「え…?」


それだけ聞いて私は光の中へ完全に吸い込まれて、おじさんと別れた。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 

『○!※□×◇#△!』

『○×△☆♯♭●□▲』


声が…聞こえる
誰かそこにいるの?


「ーーーー」


声が出ない…身体もすごく重い
私どうなったの?

光に吸い込まれたあと、私は気を失った。頭がぼーっとして身体も重いはずなのに何故か宙に浮いているようなフワフワとした感覚で気持ち悪かった


『●♢≫∶』


何を言ってるの?あなたは誰なの? 
目を開けようとしても瞼がうまく開かない…

あれ…?なんか寒くなってきた。

急に身体が氷のように冷たくなった。
私の身体に何が起きているの…?

そもそも私はあの時死んだんじゃないの?


『ーーっ!』


あ、れ?あとちょっとで、き、こえそう


『ィーーカ!』



だ…レ?
身体が冷たくなると同時に考えることも話すこともままならなくなってきた。


『イチカ!』

 
誰かガ、呼んで…る
するとほんの少しだけ瞼が開いた。ぼんやりとだけど男の人が見えた気がする。


『ーーはーーーか、ら!』

「ーーーー」


あと、す、こし…でなニカ…聞こえ、る 



「生きるんだ!イチカ!!!」


やっとはっきり聞こえた頃には私の意識はなくなっていたーー





ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


暗い森の中、彼女は血を流して倒れた。


「……!」


急いで木の上から降りて意識を確認するとまだ微かに息をしている。

まだ間に合う…もう少しだけ辛抱してくれ。


「本当にやるのかい?」

「……小紅こべにか」


背後に現れたのは古くからの知人。こんな状況でもこいつは呑気に煙管を吸っていた。


「なんでこんな小娘に…もっと他にもいただろう」

「お前には関係ない。邪魔するならお前でも容赦しないぞ。」

「お~怖い怖い。どうなっても知らないわよ。」


ため息をつく小紅を無視して、彼女の状態を見た。
脈が弱くなってきている。もう時間がない…


「…大丈夫だから。絶対に助けるからっ」


彼女が持っていた出刃包丁を借り、それを人差し指に押し当て軽く引く。じんわりと人差し指の先から鮮やかな血が流れた。

その人差し指で陣を描く。
彼女の足元と胸のあたりに二箇所。
そして最後に木箱を取り出した。


「………っ」

「!?」


突然彼女の口元が少しだけ動いているのが見えた。


「どうした?何を言ったんだ?」

「ーーー。」

「っ!」

「もう潮時じゃないのかい?」

「お前は黙ってろ!!」


こんなところで終わらせてたまるかっ
陣と木箱の準備は出来た。
あとはこれを使えばーーー

懐から古くなった巻物を取り出して紐を解く。
それを陣の側に置いて儀式の準備は整った。


「始めるぞ。」


パンッと手を合わせると巻物が浮かび上がり、陣は光りだした。そして木箱の中に入っているものも陣と巻物に反応してカタカタと震えだした。


「必ず助ける。」


もう彼女に何言ってもほとんど聞こえていないだろう。
それでもこれで助かるなら何だってやる!


「生きるんだ!イチカ!!!」


光る道具達を前に俺は儀式を始めた。
俺が必ず君をーーー



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