君と私の妖日記

みたそ

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朧気な記憶

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 1階に下り、渡り廊下を通って中央棟へ急ぐ。
 幸い、広いロビーにも事務室にも人の気配はない。
 正面玄関のガラス戸を通して、厚い雲に覆われた空が見える。
 どうやら雨が降り出したようで、ガラスにどんどん水滴がついていく。
 一気に暗さを増した外界は、まるで余裕をなくした杏里の心象風景のようだ。
 下駄箱の列の隅が、アイテムを隠した来客用コーナーだった。
 隠してあったタオルで裸身を拭くと、まず乳首と陰部にロイヤルゼラチンを塗り込んだ。
 その上から薄いピンクのブラとパンティ、そして黒いパンティストッキングを身につけると、下着の上から白のブラウスを羽織り、黒のタイトミニを穿く。
 仕上げにフレームの細い銀縁眼鏡をかけると、杏里は社会人になったばかりのOLそのものの格好になった。
 久しぶりに衣服で肌を隠すことができ、少しほっとした気分だった。
 着替えを済ませ、ホールの大鏡の前でポーズをとってみる。
 悪くはなかった。
 露出度の高いコスチュームだけでは飽きられてしまうだろうと、あえてセレクトした地味目のアイテムである。
 が、成人女性並みに乳房と尻の発達した杏里には、ブラウスとタイトミニの組み合わせがよく似合う。
 次のターゲットは教員たちだけに、このスタイルは有効なはずだった。
 まあ、一部のロリコン教師には不評かもしれないけど…。
 ふとそんなことを思うと、苦い笑いがこみ上げてきた。
 職員室に行く途中で給湯室に寄り、水で性露丸マグナムの丸薬を喉に流し込む。
 これも下駄箱に隠してあったものである。
 残りはゴールである体育館の下駄箱に忍ばせてある一袋だけだから、今となっては貴重なエネルギー源だった。
 塗り薬と飲み薬の両方が効いてくるのを待つ。
 いい加減疲れ切っている身体の奥に火がともり、めらめらと燃え上がり始めるのがわかった。
 乳首が勃起し、薄いブラジャーの生地を押し上げる。
 一時乾きかけていた股の間のぬるぬる感も、また元に戻ってきたようだ。
 覚悟を決めて、職員室の引き戸の前に立つ。
 控えめにノックをすると、
「どうぞ」
 校長の大山のバリトンが返ってきた。
「笹原君だね。待っていたよ。何の仕掛けもないから、安心してお入り」
 半信半疑で戸を引いた。
 視界に広がったのは、いつもの職員室の光景だ。
 それぞれのデスクについて、教師たちがデスクワークにいそしんでいる。
 ただひとつ普段と異なるのは、杏里を見る彼らのまなざしが、異様にぎらついて見えることだった。
 一歩前に進み出ると、すぐ後ろで乱暴に引き戸が閉められた。
 その音を合図にしたかのように、教師たちが椅子をずらして立ち上がる。
 その時になって、ようやく杏里は気づいた。
 普段と大きく異なる、もうひとつの点に。
 デスクの陰から現れた、思わず眼を背けたくなるもの…。
 教師たちは、老若男女問わず、全員下半身裸なのだった。

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