君と私の妖日記

みたそ

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私の日常

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数日前ーーー


夏の日差しが強い8月中旬。
ジリジリとアスファルトが太陽に照らされ、額にはダラダラと汗が流れていた。


「ねぇ~平塚さんさ~さっきの態度なんなの?」

「調子乗ってんの?」

「…ぃ…ぇ」


学校の裏に今はあまり使われていない用具倉庫がある。そこは人気もないため、彼女たちのような人達のたまり場となっていた。


「みんなの分のノートを職員室に持って行って欲しいって優しくお願いしただけなんだけど。」

「なのに、こいつに睨まれたよね?私傷ついたんだけど~」

「てか最近反抗的じゃない?この間も校内アンケートでいじめられてます~みたいなこと書いてたし。」

「あ~あったね!あれまじうざかった!まぁ提出する前に見つけたから良かったけどね(笑)」

「でももうバレてたりして?」

「バレてるでしょ(笑)担任なんて教室でこいつで遊んでたらフツーにスルーしてたし(笑)」

「えぇ~!先生にまで見放されてるなんて草~」


アハハハハッ!

私の前で高らかに笑う彼女達は同じクラスの同級生。顔も容姿も良くいわゆるスクールカースト上位の存在。
そんな彼女達に私は毎日休み時間になる度、ここに連れてこられていた。


「てかさ、ず~っと黙ってるけどなんか言うことないの?」

「ぇ…?」

「さっき私達を睨んだでしょ?それについてどう思ってんの?」

「ぁ…あの……」

「は?なに?聞こえねんだよ!」


ドンッ!!!

痺れを切らした1人が私の後ろにある壁を思い切り蹴った。
大きな音と彼女達の気迫に怖くて身体がビクッと跳ねる。


「こらこら~そんな怖いことしないの」

「西城さん!」

「……」


西城さんと呼ばれたこの人は彼女たちのリーダー格。お金持ちで頭も良くお父さんが教育委員会の偉い人らしくて、一目置かれている。私とは天と地の差ーーー

「……」

西城さんがこちらに来ると私を取り囲んでいた子達はすぐに避けた。そして目の前に立つとじっと私を凝視してきた。


「…あの」


パチーンッ!

突然、左頬を思い切り叩かれた。
あまりに突然のことで頭が回らない。


「気安く話しかけないでくれる?貧困層の分際で。」

「……」

「相変わらずみすぼらしい姿ね。あなたお風呂に入ってる?ここに来た時もだけど、教室にいる時もずっと臭ってるわよ?」

「……すみません」


謝ることしかできない私を蔑むような目で見る。
逆らったらまた何されるか分からないから…


「みんな迷惑してるのよね~。あなたのその臭いに。それに髪もボサボサ…そうだ!」


なにかを思いついた西城さんは側にいた子達にヒソヒソと話すと、そのうちの3人がこの場を離れて何処かへ行ってしまった。


「さて、彼女たちが取りに行ってる間、"いつもの"やりましょうか?」

「……っ!今日は…やらないんじゃ」

「あれ~?そんなこと言ったっけ?」

「そんな…」


落胆する私を西城さん含む同級生達が再び囲んだ…



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「お待たせ~!」

「…ってもう始めちゃってたの?」


さっき西城さんに指示されて何処かへ行ってた子達が数分して戻ってきた。


「ごめんごめん(笑)いや~すっきりしたよ!」

「ずるい~私もやりたかった!」

「あはっ(笑)あとでやらせてあげるよ」

「………」


身体痛い…お腹ズキズキする
ボロボロになった服と身体…口からは胃液と混じった血がたらりと流れていた。

そう…"いつもの"というのは彼女たちが日頃の鬱憤をはらすために私をサンドバックにして殴ったり蹴ったりするゲームのこと。

私が倒れるまでひたすら殴り蹴りを繰り返す。
ただし、それには1つだけルールがある。
それは顔や肌が露出するところは避けること。
傷跡が見えてしまうといじめがバレてしまうため、わざとお腹や背中を中心に殴ってくるのだ。

意識が朦朧とする中、なんとか起き上がろうと腕に力を入れた時だった。


バシャーッ!!


突然頭に水をかけられた。しかもただの水じゃない。


「あれ~?綺麗にしてあげようと思ったのに余計臭うな~?」

「てか、これ雑巾を絞った水じゃん!(笑)」

「あははは(笑)マジやばすぎ~!」


ポタポタと髪から滴る濁った水。
呆然としている私に今度は髪を掴まれる


「いっ…!」

「暴れないほうがいいよ~?」


グイッと無理やり顔を上げさせられ、その視線には鋭く光るハサミがあった。


「ボサボサしてるから私達が切ってあげる」

「や、やめて…ください」

「はぁ?西城さんに逆らうの?」


ボカッ
抵抗するとお腹を殴られる。声を上げたくても校舎に響かない。逃げ場なんてなかった…


「じゃあ始めるよ~♪」


怪しく笑う彼女達とギラギラと輝くハサミが絶望する私を包みこんだーーー
 



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ガチャッ


「……ただいま」


夕方、合鍵を使って家に入った。
玄関を入ると足の踏み場がないほどの大量なゴミがあちこちに散乱している。それを足で掻き分けながらリビングへ向かった。


「あら、帰ってきたの。」

「…ただいま」


そこには部屋着を着たまま化粧をする母がいた。
チラッと私を見るも、またすぐに鏡に目を逸らす。


「あんた、髪切ったの?」

「え…っとこれは」

「金は?どっからそんな金出したの。まさか私の財布から勝手に盗ったんじゃないでしょうね?」

「…じ、自分で切りました」

「あっそ、嘘ついたらただじゃおかないからね。」


化粧を終えた母は窓に何着もかけられたドレスを選んで着替えるとブランドのバッグを手にこちらに向かってきた。


「邪魔。今日は帰らないからご飯はテキトーに食べて…あ、勝手にテレビ付けないでよ!電気代勿体ないんだから。」

「…はい」


そう言うと母はそのまま夜の仕事へ行ってしまった。
残された私はカバンをテーブルに置くと膝から崩れ落ちるようにゴミの上に座った。


「いっ…!」


ズキズキと痛むお腹を見ると無数にある紫色の痣が残っていた。

あのあと西城さんに髪を無造作に切られ、まだいつものをやっていなかった3人に再度サンドバックにされてしまいそのまま帰ってきた。

家に傷薬はない。
あるのは母の私物ばかり。
高そうなアクセサリーとカバン、
無数のドレス、隣の寝室には化粧台に並べられた
たくさんの口紅やファンデーション。

母は夜の街に行き、夜の仕事をしている。
私がまだ保育園に通っていた時からずっと…


「ふぅ…」


こんな部屋でも昔は割りと綺麗だったし、母もいくらか私に優しくしてくれていた。
でもある日、男の人に捨てられてから母は変わってしまった。


「……っ」


ふと、立ち上がってテーブルに置いたカバンを開け、手帳を取り出した。開けるとそこにはクシャクシャになった1枚の写真が挟まっていた。

それは最初で最後に撮った家族写真。


「お父さん……」


涙は出ない。そんなものもうとっくに枯れてしまったから。
ただ、この写真を見る度にいつも胸がキュッと苦しくなる。


「……」 


写真を眺めていたらいつの間にか空が薄暗くなっていた。
電気をつけることなく、ただボーッと今日も何もない夜を過ごす。



それが私の日常ーーー


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