東京テルマエ学園

案 只野温泉 / 作・小説 和泉はじめ

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第126話 エピローグ・新たな動き・・・

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エーゲ海に浮かぶある小島・・・

なぜかここだけは世界中のあらゆる国家からも干渉されない独立エリアである。
その中心部にあるピラミッドの形をした建造物・・・
その地下に集まっている者達が居た。

暗闇の中、僅かな光だけがある円卓・・・
座席位置による序列を無くしたアーサー王の円卓の騎士になぞらえているのだろうか。
だが、7つある椅子は一つが空席である。

「萬度は最早、機能するまい」
一人の男が口火を切る。

「だったら・・・。どうする?」
大柄な男が問いかける。

「孫の解任を提案したのは、ワタシだ。中国はワタシが貰う」
「勝手な理屈だな、カロロスっ!」
美貌の女性が声を荒げる。

「何か、問題でも? ミラーナ?」
「まぁ、待てっ!」
顔全体を髭で覆った老人が話に割り入る。

「フィン・シュナイダーか・・・」
カロロスが渋々引き下がる。

「ご老体の御意見、拝聴しようじゃありませんか」
薄い色のサングラスを架けた男が同調する。

「済まんな、ジェラルド」
「いえいえ、アレハンドロもテオドアも宜しいですかな?」
最初にカロロスに意見した大男と隣に居る浅黒い肌の男も首を縦に振る。

「では・・・」
フィンが改めて話を始める。

「萬度はこのまま継続・・・。あの方の御意思だ」
誰もが押し黙った。
あの方という言葉一つで・・・
 

「誰が萬度を・・・」
忌々し気にフィンを見つめるカロロス。

「入れ・・・」
フィンが指をパチンと鳴らすと暗闇の中で扉が開いた。
コツコツとヒールの音を立てて近づいてくる影。

(女か・・・?)
そう、カロロスが思う。

円卓の空席横に立ったその影は小柄な女性の様相を呈していた。
室内の照明が幾分明るくなり、皆の視線が一点に集まった。


「孫・・・」
「紅蘭・・・」
ドラゴンの模様が刺繍された漆黒のチャイナドレスを身に纏った女性が椅子を引き座る。


「この紅蘭が萬度を引き継ぐ・・・。異論はあるまい・・・」
ぐるりと6人の顔を見回す紅蘭。
この時、紅蘭との視線が交差した時に笑っていたのは、ミラーナだけであった。

(そうか、ミラーナめっ!)
カロロスの顔が憎しみに歪む。

「ワタシは、父ほど愚かでは無い。そして、甘くも無いっ!」
そう言い放つ紅蘭。

「日本をどうするつもりだ?」
フィンの問いに妖しく微笑む紅蘭。

「もう、手は打って来た。父の・・・、王文の時代は終わりだ」
そう言うと席を立ち・・・
「帰るぞ、劉っ!」
それまで誰も居なかった筈の紅蘭のすぐ後ろに漆黒のマントを纏った長身の男が音も無く現れる。

「バ・・・、バカな・・・。ここへの出入りは・・・」
テオドアが狼狽えているのが分かる。

「ワァーォッ! ブラビッシモッ! (素晴らしいの意)」
ジェラルドが面白げに手を叩く。

「ちっ!」
カロロスは苛立ちを隠せない。

「萬度は紅蘭が継ぐ。ロシアは大歓迎よ」
ミラーナが微笑んだ。

「話は終わりだ」
フィンの重い声とともに全ての光が消え、音の無い漆黒の闇が訪れていた。



都内のある教会脇にある養護施設を一人の女性が訪れている――

「聖テレジア学園か・・・」
一人呟いたのは、不動院晶である。
勝手知ったる施設のようで一直線に礼拝堂へと向かう晶。

バタン

礼拝堂のドアを開けると、そこには修道服を着た老婆と幼女の姿・・・
「あっ! お姉ちゃんっ!」
晶の姿を見かけた少女はまっすぐに走り寄り、子犬のように足元にじゃれ付く。

「何だ、荼利阿(だりあ)。来てたのか」
じゃれ付く少女の頭を撫でる晶。
視線を上げると、その先では老婆が鶴を折っていた。

「どうしたんだい・・・、晶。お前が来るなんて珍しいね」
「ご無沙汰しております。師匠・・・」
じゃれ付いて離れない荼利阿の手を引き老婆の所へと歩を進める晶。

「鶴を・・・?」
「あのね、お姉ちゃん。おばあちゃんがね、鶴が必要になったって言うんだよ」
(師匠が鶴を折る・・・。やはり・・・)
「そう言えば、神酒坊はどうしてるんだい?」
老婆は鶴を折りながら尋ねる。

「相変わらずです。科学こそが万能と・・・」
「そうかい、あの子がそうなら・・・。その方が良い・・・」
「・・・」
一瞬の間を置き、晶は重い口を開いた。

「師匠・・・。シスター・ルチアにお聞きしたいことが・・・」
「何を見たんだい? 晶?」
鶴を折る手を止めて晶へと視線を移すシスター・ルチア。

「大いなる魔の復活を感じられませんでしたか?」
「やはり・・・。そうかい」
「どういう事ですか?」
「この前の豪雨の日以来、荼利阿が怖がって寝付けなくなったんだよ」
いつの間にか荼利阿はシスター・ルチアの膝の上に座っている。

「それで・・・。荼利阿もここに・・・」
「何を見たのか、聞かせて貰おうか・・・」
圧迫されるような重い空気・・・

「徳川家康の復活・・・です」
晶の言葉にシスター・ルチアの眉がビクリと動いた。

「そうかい・・・。まさか、そんな事が・・・」

礼拝堂に重苦しい雰囲気が圧し掛かっていた。
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