東京テルマエ学園

案 只野温泉 / 作・小説 和泉はじめ

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第124話  エピローグ・涼香~八郎~カトリーナ

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【ダンテ】の野外コンサート会場――

客席は多くのファンで埋め尽くされている。

「竜馬~っ!」
「隼人~っ!」
「武蔵~っ!」
飛び交う声援の中、聞き覚えのある名前が呼ばれる。

「涼香ちゃーんっ!」
舞台上で控えめに手を振っているのは、涼香である。
竜馬から誘われてこのコンサートにサブボーカルとして参加していたのだ。

コンサート定番の最終曲、【シャイン・スパーク】を歌い切った竜馬が改めてマイクを持ち会場のファンに語り掛ける。

「皆、聞いてくれっ!」
竜馬の言葉で静まる客席。
果たして何が言われるのかと期待しているのが伝わって来る。

「今日、サブボーカルとして参加してくれた元【ムーラン・ルージュ】の涼香ちゃん」
紹介され改めて頭をペコリと下げる。

「この涼香ちゃんが新しくデビューする事になった。それで、ユニットを募集してるんだ」

オオォォォォッ!

客席に驚きの声が走る。

「我と思う人は是非、応募してくれっ! それと、俺達【ダンテ】の妹分ユニットだ。絶対に応援してくれよっ!」

竜馬の声に呼応して客席が更にヒートアップする。

「ユニット、大募集していますっ! 宜しくお願いしますっ!」
涼香の声もそこまでは聞き取れたのだが・・・

(出来れば・・・。アキちゃんみたく、可愛い女の子を・・・)
そう言いかけた涼香の声は大歓声でかき消されていた。

新なユニットの胎動が、始まろうとしている・・・



「いよいよ、わいの世界が始まるんやなぁ」
東京・秋葉原の一角で八郎がビルを見上げている。

ビルの入り口には・・・
『総合アイドルショップ Great Salt』
アイドル甲子園で優勝した、【ムーラン・ルージュ】の衣装を作って来たという評判が流れ、あっという間にこの会社を設立したのである。

「師匠?」
「師匠やないっ! 社長と呼ばんかいっ!」
「あ・・・。すいません」
無論、二郎である。

「大阪の日本橋店はお前に任せるさかい、しっかりと売り上げやっ!」
「えっ・・・?」
「鈍いやっちゃなぁ・・・。お前を大阪店の店長にしたるって言うてるんや」
「でも・・・」
「何や、嫌なんか?」
「そうじゃありませんけど・・・」
「ほなら問題なしやな! わいは商売には厳しいさかいなぁ、覚悟しときやぁ」
ニヤリと笑う八郎。

「やつぱり、遠慮・・・」
「よっしゃ、行くでぇ! 二郎っ!」
カッカッカッ、と天を仰ぎ笑う八郎。
そして不安げに肩を落とす二郎。
この二人の関係はこれからもずっとこのような感じなのだろうか・・・



弾に連れられてカトリーナが学園のIT管理室へと入る。
あのヤミとのハッキング合戦の時の事が思い出されて来る。


「皆に紹介しておく」
学園長となった弾の言葉に管理室の職員が集まって来た。
「今日からこのIT管理室の責任者になる カトリーナ・カーンだ」
「・・・」

誰もが黙っている。
(突然ダカラ・・・。誰ダッテ良い気はシナイ・・・)
弾からこの話を持ち掛けられた時、正直な所悩みはあった。
だが、自分の生きる道として茨を踏む事を決めたのだ。
「ちなみに、このカトリーナはMITの推薦も受けた程だ・・・」
静かに時間が流れる。

「後は・・・、頼むわ・・・」
そう言うと、弾はカトリーナの肩をポンっと叩いてIT管理室を後にする。
(しっかりな・・・。頑張りや・・・)


弾が出て行ったあとのIT管理室――

「アノ・・・」
カトリーナが何かを言おうとした時、先んじて声を出す者が居た。

「カトリーナさんだったんですよね」
「エッ!?」
「聞いてますよ、あのハッキング防衛の時の事っ!」
「ア・・・、アノ・・・」
次々と職員達が集まって来る。

「凄かったよなぁ」
「まさに神業だった」
「しかも、こんな美人だなんて」
「うーん、電子の妖精ってかぁ」
皆がカトリーナを心から喜んで迎えてくれている事が津々と感じられる。

「よーし、IT管理室一同。よろしくお願いしますっ!」
リーダーらしき男性の掛け声とともに一斉に頭を下げる職員達。

(弾・・・、先生・・・。バフット・ダンニャヴァード (本当にありがとうの意))
ケリアンを心の支えにしてきたカトリーナ、改めて自分の居る場所をここで見つけたのだ。


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