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第121話 エピローグ・卒業式~七瀬

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うららかな日差しの差し込むテルマエ学園。
その大講堂では・・・

『Graduation ceremony』と書かれた横断幕が壇上に掲げられている。
そう、今日はアキ達第1期生の卒業の日である。
壇上には学園長のミネルヴァの他、ゆかりや弾、そして葵達教職員の姿もある。

だが、テルマエ学園は日本の学校教育法に基づく学校ではない。
その為、卒業証書などの授与は無く入学式と同じようにセレモニーだけが行われている。

この2年という間、様々な出来事に遭遇し成長したアキ達・・・

その後の彼女達が果たしてどのような道を進んだのか、順を追ってみよう。



皆がそれぞれのこれからを考えている――



何度も電話を架けようとしながらも、通話ボタンを押せずにいた七瀬。
大きく息を吸い込む。
(しっかりしろ、あたしっ!)

Trrr Trrrr

「はい」
通話の相手は姉の奈美である。
「姉貴・・・。その・・・」
なかなか話を切出せない七瀬。
「七瀬・・・、やりたい事が見つかったんでしょ?」
「えっ!? なんで・・・?」
「アイドル甲子園の準決勝を観ていてね・・・。分かったの・・・」
「姉貴・・・」
「【堀塚音楽スクール】に行くって決めたんでしょ?」
「どうして?」
驚く七瀬。
「分かるわよ。だって、私は貴女のお姉ちゃんよ。たった一人の妹も気持ちが分からないでどうするのよ」
「ごめ・・・、ごめんなさい・・・」
七瀬の瞳から大粒の涙が次々と溢れて出る。
「謝る事は無いわ。【星野荘】の事は心配しないで、貴女の道を進みなさい」
奈美は七瀬が【星野荘】に縛られて将来を見失わせたくなかったのだろう。

「しっかりやりなさいよ、ずっと応援してるから。 じゃ、こっちも忙しいから切るわよ」
奈美が電話を切る。

本心では七瀬に戻ってきて貰いたいであろう。
しかし、目標を見つけた妹をいつまでも縛り付けておく事は果たしてどうなのか・・・
奈美の心は揺れ動き、そして決まったのである。



【堀塚音楽スクール】――

「理事長。星野七瀬様がお見えです」
「通しなさい」
「承知致しました」
インターホン越しに秘書に指示する梨央音。

理事長室には、【シュシュ・ラピーヌ】が微笑みを交わしながら待っている。

コンコン コンコン

「失礼します」
秘書に案内され、七瀬が理事長室を訪れる。

「ようこそ、堀塚へ。私が理事長の堀塚梨央音です」
優雅な仕草で差し出された右手、七瀬も右手を差し出し握手をする。

「星野七瀬です。この度はお招き頂き、有難うございます」

舞香・礼華・穂加・澄佳がワクワクした視線で2人を見つめている。

「もう、御存じでしょうけど・・・」
梨央音の言葉に大きく頷き、【シュシュ・ラピーヌ】へと向き直る七瀬。

「星野七瀬です。今日から、宜しくお願い致します!」
腰を折り、深く頭を下げる七瀬。

七瀬が新しい第一歩を踏み出した瞬間であった。



東京都多摩地域中部 アメリカ空軍横田基地――

一人の青年が車から降り立つ。
その横に控えているのは、金髪のうら若き女性である。

「デハ・・・」
随行していた女性が敬礼した。
青年を出迎えた基地隊員が答礼を返す。

「Fall in!  Attention! (整列、気を付けの意)」
指揮官の号令で兵士達が駆の周囲を囲み、護衛が始まった。

(ミスター・早瀬・・・。お元気デ・・・)


話を遡る事、数日前・・・
横浜の大成金飯店で孫王文と面談した早瀬 駆は逃亡した孫のもとへと踏み込んだ厚生労働省麻薬取締部の捜査員達により身柄を保護されて、早瀬コンツェルンの総裁室へと護送されていた。


「ご苦労・・・、だったな」
将一郎が言葉少なく出迎える。 

室内には、将一郎の他に飛鳥井の姿もある。

そして・・・

「お疲れ様デシタ・・・」
ミッシェル・アデルソンである。

「これより、貴方の身柄は米国証人保護プログラムにより保護されマス・・・」
(いよいよ、この時が来たんだな・・・)
駆の胸に様々な思いが沸き上がって来る。



初めて、渡を紹介された時・・・
(腹違いの弟なんて邪魔なだけだと思ってた・・・)

梨央音に揶揄われていた子供の頃・・・
(なんて嫌味な女かと思ってた・・・)

浅間山学園での生徒会活動と後輩達との出会い・・・
(陣内・・・。本当に世話になった・・・)

早瀬コンツェルンに入社し、常務取締役になった日・・・
萬度の罠に嵌り、渋温泉に向かった日・・・
奈美との出会い・・・
孫からの圧力に屈した時・・・
身を隠したホテルの襲撃、そして洸児の負傷・・・
孫王文との命を賭けた再対談の覚悟・・・

(色々と・・・、あったな・・・)


「駆・・・」
将一郎も掛ける言葉が見つからない様だ。


逮捕された孫は、国際司法裁判所で裁かれる事になるが、その裁判の期間だけでなく生涯においても駆は萬度及びその傘下の組織から報復の対象として命を狙われるであろう。
FBIはその危険から、駆を守るために米国証人保護プログラムを適用したのである。
米国証人保護プログラムはその適用期間の間、住所が特定できない様な場所で合衆国連邦政府極秘機密事項の中でも、最高レベルの国家機密扱いで保護される。
生活に掛かる費用は全て連邦政府が支給し、対象者の安全確保の為にパスポートは勿論、運転免許・社会保障番号などの全てがこれまでのものとは全く違うものとなり全くの別人格となる。
又、特に生命の危険が懸念される場合は特別の警護が付く他にも、居住地を特定させない為に合衆国内に限定せず、他国の米軍基地内、NATO軍基地内の施設などに居住する事もある。


(つまり・・・。事実上、再会する事は無い・・・か)
「親父・・・」
「何だ・・・?」
「今まで・・・。有難う・・・」
その一言を聞いた将一郎の両目から涙が溢れ出る。

(親父の涙なんて・・・。初めて見たよ)
限りなく永遠に近い親子の別れであった。


「ミッシェルさん、一つだけお願いを聞いて頂けませんか」
「ワタシニに出来る事ナラ・・・」
「渋温泉のある人に・・・。謝っておきたい事があるんです・・・、その代弁を・・・」
「分かりマシタ。お引き受けシマス」
「ありがとう」
静かに、そして深く頭を下げる駆であった。

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