東京テルマエ学園

案 只野温泉 / 作・小説 和泉はじめ

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第117話 全ての決着

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「ココモ駄目デス」
逃げ回る孫の車だが、行く先々の交差点を警察が封鎖していた。
二月会を始めとするヤクザ達が萬度の拠点を制圧していてくれたからこそ、これだけの包囲網を敷けたのである。

「ボス!」
孫を乗せた車が交差点を曲がった瞬間、数十台のパトライトの点滅を見て急ブレーキを踏んだ。

「何ヤッテルッ! 早ク出セッ!」
「・・・。完全ニ囲マレテマス・・・」
がっくりと項垂れる孫。

パトカーのヘッドライトの光を後ろから受けながら、二人の影が孫の車に近づく。
後部座席のドアを開け、孫が降り立った。

「私ハ中国人ダ。本国ヘノ帰還ヲ求メル。国際問題ニナルゾ」
ツカツカと近づいた影が、孫の水下に拳をめり込ませる。

「ウグッ!」
膝から地面へと崩れ落ちた孫、が憎しみを込めた視線を上げる。

「孫王文、覚醒剤取締法違反で逮捕するっ!」
逮捕状を孫の眼前に着きつけたのは隼人だった。

そして・・・

ガチャリ・・・
孫の手に手錠が欠けられた。

「オ・・・、オ前ハ・・・」
その掛けた手錠を持ち続けたまま震えている范が居た。

「マンゴーさんの仇っ!」
握りしめた拳を振り上げる范。

だが、それを振り下ろす事は無かった。



隼人がスマホを取り出し電話を架ける。
「20:06、孫王文を確保っ!」

その報を受け、緊張の糸が解れる男達・・・

「やった・・・」
「終わったな・・・」
竜馬・武蔵・早乙女・飛鳥井・・・。そして、如月・・・

「後は・・・」
皆が同じ思いを夜空に託す。



【ルージュ・フラッシュ】で盛り上がった観客の熱の冷めやらぬまま、ついにアイドル甲子園の優勝者が決まろうとしている。


「ここまで勝ち乗った2チーム、ですが運命の女神は無情にも1チームにしか微笑みません」
三波は静かに切り出した。

「この決勝戦は、この会場の一般審査員200名の200点・特別審査員10名の100点・お茶の間審査員100名の100点に加え、海外のお茶の間審査員の100名100点の500点を取り合っての勝負となります」
アキ達も苺琳達も慎重な面持ちである。

「それでは・・・っ!会場の一般審査員の皆様、投票をお願い致しますっ!」
舞台左手に【ムーラン・ルージュ】、右手に【ダイナマイト・ガールズ】が並び立ちその後ろに大きな電光掲示板が置かれ数字が回り出す。
そして・・・
「【ムーラン・ルージュ】106点・【ダイナマイト・ガールズ】94点っ!」
会場が歓声に包まれる。


(この会場票で差をつけておかないと、海外票は・・・)
客席で見守る梨央音が表情を曇らせる。


「続きまして、特別審査員の皆様の投票ですっ!」
再び電光掲示板の数字が回り出す。
祈るような視線で掲示板を見つめるアキ達・・・

「【ムーラン・ルージュ】50点・【ダイナマイト・ガールズ】50点っ! 引き分けですっ!」
安堵したような溜息が思わず漏れるアキ達。

「続きまして、お茶の間審査員の皆様っ、お手元のリモコンで投票をお願いします」
三度、電光掲示板の数字が回り・・・

「【ムーラン・ルージュ】53点・【ダイナマイト・ガールズ】47点っ!」
会場がワッと歓声に包まれた。

「これまでの所・・・。【ムーラン・ルージュ】209点・【ダイナマイト・ガールズ】191点・・・。【ムーラン・ルージュ】の優勢ですっ!」
三波もつい声が上ずっている、公平な立場の司会者とは言えこれまでの思い入れもあるのだ。

だが、【ダイナマイト・ガールズ】はこの劣勢の中、笑っていた。

「たった18点差カ・・・」
「勝ったネ・・・」
苺琳と桃琳がニヤリと笑う。

「海外票は私達に入るネ」
苺琳が得意げに呟いた。

「フフフ・・・、萬度を甘く見ない方がいいヨ」
桃琳もこの不利な状況を見ても動じない。

(日本人のお涙頂戴は、日本でしか通じないネ)
(世界で通用するのは、実力の伴った本物のエンターティナーだけヨッ!)
(そして、私達には萬度という強いバックがあるネ)
【ダイナマイト・ガールズ】は皆が、不適な笑みを浮かべていた。



「それでは、海外お茶の間審査員の皆様っ! リモコンのボタンを押して下さいっ!」
三波の声と合わせるように世界各国の言語で字幕が流れる。


「得票が出ますっ! 【ムーラン・ルージュ】88点・【ダイナマイト・ガールズ】12点っ!」

「な・・・っ、何ッ!?」
「ソンナ・・・、馬鹿ナ・・・」
愕然とする苺琳達・・・


「総得点、【ムーラン・ルージュ】297点・【ダイナマイト・ガールズ】203点っ! アイドル甲子園優勝は、東京代表【ムーラン・ルージュ】ですっ!」



苺琳・桃琳がその場に座り込む。
呆然自失の状態、身体がブルブルと震えている。

(もう・・・。中国に帰れナイ・・・)
(無事で済まナイ・・・)

【ダイナマイト・ガールズ】のメンバー達も顔が青ざめ、中には泣き出す者まで居る。
ただ単純に負けただけではない、絶望に打ちひしがれる姿・・・


「勝ったの・・・?」
信じられないという表情のアキ、自分で頬をつねっている。
アキだけでは無い、周りでも皆が信じられないという顔をしていた。

舞台袖から葵が飛び出してくる。
それに遅れ付いてくるように、渡も八郎も二郎も・・・

「やったぞーっ! 優勝だーっ! 全国制覇したぞーっ!」
葵は号泣しながら何度も両手を高く掲げている。

皆も泣きながら抱き合ったり、肩を叩き合ったりしている。

(ほんまに・・・やりおったわ・・・)
舞台袖でじっと見つめる弾であった。
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