東京テルマエ学園

案 只野温泉 / 作・小説 和泉はじめ

文字の大きさ
上 下
117 / 129

第116話 百花繚乱!

しおりを挟む
 第2フレーズから第3フレーズへと繋ぐ間奏のBGMの間に、アキ達は微妙に立ち位置を調整する。

舞台左側面に萌を真ん中にして両脇から優奈と穂波が支え立つ。
反対の右側には、涼香と汐音、そして圭。
舞台中央にはアキと七瀬が立った。

「いい、萌・・・。この一瞬が勝負、うちらに任せておいて」
「心配しなくて大丈夫。あの八郎、衣装だけは大したもんだから・・・」
小声で囁く優奈と穂波を交互に見つめ、黙って頷く萌。

「いよいよや・・・。いよいよ、やでぇ・・・」
八郎の目がこれまでに見た事の無い真剣さを宿していた。

(3・2・1っ! GO!)
第3フレーズの歌詞が始まる直前、舞台照明が一瞬消えた。
一秒もあったかどうかという短い時間。
だが、その一瞬で・・・

「行っけぇぇぇぇっ!」
光を失った舞台の上で、ビリビリと異音が8つ聞こえて明かりが点く。

「おっ!おぉぉぉぉぉぉっ!」
度肝を抜かれた観客の驚きの声が津波の様に会場を覆う。
何と、一瞬の暗闇の中でアキ達は衣装替えを行っていたのだ。

「こ・・・、これって・・・。歌舞伎の『引き抜き』・・・」
絶句する梨央音。

先ほどまでの8人バラバラの衣装から一瞬で同じ衣装・・・
上半身は胸元だけを隠した白いタキシード、下半身は黒いレオタードに膝上までの銀色のブーツ。
左腕に赤いバラのリボン・首元には、赤いバラのチョーカー。
肘までを白い手袋で覆い、各々がフルーレを携えている。
そして、燃える炎を連想させる真紅のウィッグ・・・
手持ちしていたマイクはインカムマイクへと変わっている。


♬貴方が気になる女の子
可愛く綺麗な女の子 誰かの為にルージュ♬

完璧なまでの8人パートに、汐音の共感覚ダンスが彩りを更に華やかに舞台を盛り上げる。

♬誰の為だか、分かってるんでしょう
貴方の言葉を待ち続けているの♬

会場からは、曲に合わせて手拍子が起きる。
うっとりと見つめる者、自然と声をハモらせる者、皆が【ムーラン・ルージュ】と同じ世界観を共有している。

♬私の気持ちに 早く気付いてよ
今よ 貴方に全てを捧げてあげる
ルージュ・フラッシュ♬


「これは・・・、奇跡だ。いや、爆発だ・・・、芸術の爆発だあぁぁぁっ!」
モニターを見つめる三橋の目には今見ている光景が神の奇跡に見えているのだろう。


♬私の心は、貴方だけのものよ
それが 私の愛し方なのよ♬
♬もう待てない 我慢できないのよ
ルージュ・フラッシュ♬

歌い終わると左側で萌・優奈・穂波が、右側で汐音・涼香・圭が各々の持つフルーレを頭上に掲げて、三叉を作る。
舞台中央ではアキと七瀬が互いに背を預け合い、フルーレを垂直に掲げた。

そして、アキが客席にその顔を向けて、岩田のカメラが表情をアップで捉える。

「変えて、あげる・・・」

アキのウィンクと投げキッスで、【ルージュ・フラッシュ】は演じ切られた。


沸き上がる観客席、誰もが熱狂していた。
「アキちゃーんっ!」
「【ムーラン・ルージュ】っ、最高っ!」
「萌ちゃーんっ!」

尽きる事の無い声援の中、静かにミネルヴァが笑う。
「ほう・・・。歌舞伎の引き抜きとはな。アキもなかなかやりおるわ、ホッホッホッ」
ミネルヴァが珍しく目を細めて満足気な笑みをこぼす。

その一部始終を横目で見るゆかり・・・
(学園長・・・。いえ、お父様・・・。アキにはそんな目をなさるのね・・・。私には、一度も・・・)

ゆかりもアキを見る。
その視線には憎悪の炎が燻り始めていた。



さて、もう一人狂喜乱舞している者が居る。

「大塩君っ! 最高の出来だっ! グッジョブッ!!」
そう、三橋である。

「これで【ムーラン・ルージュ】の優勝は決まった様なものだし、DoDoTVもついに俺の時代が始まるぞっ!」
高笑いし続ける三橋。

「これで、ミネルヴァのおっさんも文句ねーだろっ! わっはっはっはっはっ!!」
浮かれ狂う三橋、その前では3枚の座布団の上に鎮座まします恵比寿像。
磨き込まれてピカピカと輝きを放ちながら、静かに微笑を絶やさない。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

荷車尼僧の回顧録

石田空
大衆娯楽
戦国時代。 密偵と疑われて牢屋に閉じ込められた尼僧を気の毒に思った百合姫。 座敷牢に食事を持っていったら、尼僧に体を入れ替えられた挙句、尼僧になってしまった百合姫は処刑されてしまう。 しかし。 尼僧になった百合姫は何故か生きていた。 生きていることがばれたらまた処刑されてしまうかもしれないと逃げるしかなかった百合姫は、尼寺に辿り着き、僧に泣きつく。 「あなたはおそらく、八百比丘尼に体を奪われてしまったのでしょう。不死の体を持っていては、いずれ心も人からかけ離れていきます。人に戻るには人魚を探しなさい」 僧の連れてきてくれた人形職人に義体をつくってもらい、日頃は人形の姿で人らしく生き、有事の際には八百比丘尼の体で人助けをする。 旅の道連れを伴い、彼女は戦国時代を生きていく。 和風ファンタジー。 カクヨム、エブリスタにて先行掲載中です。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

声劇・シチュボ台本たち

ぐーすか
大衆娯楽
フリー台本たちです。 声劇、ボイスドラマ、シチュエーションボイス、朗読などにご使用ください。 使用許可不要です。(配信、商用、収益化などの際は 作者表記:ぐーすか を添えてください。できれば一報いただけると助かります) 自作発言・過度な改変は許可していません。

処理中です...