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第111話 友の下へ
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突如、アイドル甲子園決勝の舞台へと登場した萌。
話は少し時間を遡る・・・
「何処かへお出かけ?」
テルマエ学園地下の駐車場で弾に声を掛けたのは、ゆかりである。
「今日一日は自由にさせて貰うって言うといた筈やけど・・・」
「あら・・・、怖い・・・」
「そっちは?」
「学園長のお供・・・」
(目的地は同じか・・・。まぁ、関係無し、やな)
「一台、借りとくわ」
弾が黒いセダンのドアを開けようとする。
「どうせなら・・・。あっちにしたら?」
「んっ?」
ゆかりの視線の先には大型のバンが止まっていた。
(あんな車・・・。有ったか?)
「急いで用意させたのよ。大きな荷物も積めるようにってね」
「気が利くというか、手回しがええと言うか・・・」
「学園長が・・・ね」
「ほう・・・」
(全てお見通しか・・・。それなら・・・)
「遠慮無しに借りときますわ」
「そう・・・。それじゃ・・・」
コツコツと靴音を響かせ、ゆかりが弾に近づき、スマートキーを渡す。
「じゃあ、向こうで・・・。楽しみにしてるわ」
(食えん女やな・・・)
歩き去るゆかりの後ろ姿に背を向け、弾は大型バンの運転席に座り、エンジンをかける。
メーターが点灯し、カーナビの画面が光った。
「ふっ・・・」
その画面には既に行く先として、西京大学病院が登録されている。
更に、助手席のシートに一通の封筒が・・・
(何や・・・?)
不信に思い封筒を開ける弾。
「全く・・・。準備良すぎやわ・・・」
苦笑する弾が見たものは、病院への車の入場許可証と車椅子の貸し出し許可証、そして萌の外出許可証だったのである。
「急がんと・・・。葵、信じてるで・・・」
テルマエ学園の地下駐車場から走り出す大型バンを見て笑ったのは、やはりミネルヴァだった。
病室でテレビをベッドの真横に置き、萌がじっと目を閉じている。
(【ダイナマイト・ガールズ】、強敵どころじゃない・・・。でも、ボクには何も出来ない・・・)
自分の不甲斐なさに打ちひしがれている萌・・・
コンコン コンコン
ドアをノックする音が聞こえた。
「はい?」
目元を拭って返事をする萌。
ガチャッと音がして扉が開いた。
「平泉はん、調子はどうや?」
花束とお菓子を持った弾である。
「あれっ、弾先生? どうしたんですか?」
一人で悩み考え込んでいた萌が一瞬、破顔した。
「元気そうで何よりや」
ベッド脇に置かれた椅子に腰かける弾。
「弾先生・・・。今日は・・・?」
「長話をしてる暇は無いんで単刀直入に言うわ」
「・・・?」
「平泉はんも分かってると思うけど・・・。今の【ムーラン・ルージュ】では【ダイナマイト・ガールズ】には勝たれへんっ!」
はっきりと言い切る弾の顔をまっすぐに見つめて頷く萌。
「せめて・・・。近くから見届けたって欲しいんや」
「皆に会える・・・」
「【ムーラン・ルージュ】は8人やないとな」
じっと考え込んでいた萌が顔を上げ、にこりと微笑んだ。
「最後くらい、見える所で応援してあげたいって思ってたんだ。まさか、弾先生が迎えに来てくれるなんて・・・。ボク、嬉しいよ・・・」
「平泉はん・・・。おおきに・・・」
「お礼の言うのは、ボクの方なのに・・・。でも、すぐに退院なんて・・・」
「大丈夫や。準備は出来とる」
そう言って、弾は外出許可証を萌に見せる。
「これって・・・」
「さぁ、行くでっ!」
そう言うと弾は萌を抱き上げ、車椅子へ乗せると救急搬入口へと急ぐ。
そこには、車椅子用のキャリアが装備された大型バンが停車していた。
「皆っ! 今、行くよっ!」
萌の口から明るい声が響いていた。
新国立劇場へと向かう車の中で弾は考える。
(葵なら・・・。きっと同じ事を考えている筈・・・)
「どうしたの? 弾先生、難しい顔してる・・・」
後部座席に車椅子ごと乗っている萌が話し掛ける。
(葵・・・。信じてるでっ!)
何かを決した様に弾が応えた。
「平泉はん・・・。歌えるわな?」
「えっ!どういう事? 弾先生?」
カーラジオからは、アイドル甲子園開始の報が流れていた。
程なくして、弾の運転する大型バンが新国立劇場の通用口に横付けされる。
急ぎドアを開けた弾の耳に最も聞きたかった声が聞こえた。
「弾っ! 遅いぞっ!!」
「・・・、葵。やっばり、居ってくれたんか」
「当たり前やっ! 弾の考えてる事なんぞいつでも手に取るように分かっとるわっ!」
久しぶりに意志の通じ合う葵と弾・・・
「え・・・!? 葵先生っ? どうして?」
まさかの急展開に驚く萌。
弾が萌の車椅子をキャリアから卸し、葵に向き合う。
(後は、任せたで・・・)
弾の視線を受けニヤリと笑う葵。
何か起きているのか分からず戸惑う萌の車椅子を押し廊下を進む葵。
「あの・・・。葵先生?」
「平泉・・・」
「はい?」
「歌えるな?」
「え・・・、はい・・・。でも、衣装とかが・・・」
その時、前方から声が聞こえた。
「おーい、こっちやぁ。こっちやでぇっ!」
「萌ちゃーんっ!」
両手を大きく振り迎えているのは八郎と二郎である。
「えっ! 八郎? 二郎?」
八郎と二郎が、萌と葵を部屋の中へと招き入れる。
中には・・・
「カッ、カトリーナまでっ!」
「早瀬はヤボ用で来れんそうだが、宜しくとの事だ」
「でも・・・。これって・・・」
萌の目の前には、ブラックのストレートウィッグと赤・白の光沢のあるレーサースーツが吊られている。
手に取った萌がその伸縮性に驚く。
「凄く・・・。柔らかい」
「そらそうや。萌ちゃんの脚の怪我に障らんようにしたんやから」
ニッと笑う八郎。
「それだけや無いんですよ」
二郎が隣に掛けてあった衣装カバーを外す。
「もう一つ? これは・・・?」
「ふふっ、お楽しみだ。よし、大塩と鈴木は外に出てろっ! 絶対に覗くなよっ!」
「流石に、ここでそんな事はしまへんわっ!」
八郎と二郎が、部屋を出るのを待ってカトリーナと葵が萌を着替えさせる。
「えっ!? ちょっと待ってっ!」
「いいか、平泉。お前は歌う事だけに専念しろ。後の事は・・・。あいつらに任せておけ」
自信たっぷりの葵の言葉に黙って頷く萌。
「準備完了ヨッ!」
「よしっ!行くぞっ!」
舞台衣装に着替えた萌の車椅子を押し、葵は急ぐ。
もう、【ムーラン・ルージュ】の舞台は始まっているのだ。
話は少し時間を遡る・・・
「何処かへお出かけ?」
テルマエ学園地下の駐車場で弾に声を掛けたのは、ゆかりである。
「今日一日は自由にさせて貰うって言うといた筈やけど・・・」
「あら・・・、怖い・・・」
「そっちは?」
「学園長のお供・・・」
(目的地は同じか・・・。まぁ、関係無し、やな)
「一台、借りとくわ」
弾が黒いセダンのドアを開けようとする。
「どうせなら・・・。あっちにしたら?」
「んっ?」
ゆかりの視線の先には大型のバンが止まっていた。
(あんな車・・・。有ったか?)
「急いで用意させたのよ。大きな荷物も積めるようにってね」
「気が利くというか、手回しがええと言うか・・・」
「学園長が・・・ね」
「ほう・・・」
(全てお見通しか・・・。それなら・・・)
「遠慮無しに借りときますわ」
「そう・・・。それじゃ・・・」
コツコツと靴音を響かせ、ゆかりが弾に近づき、スマートキーを渡す。
「じゃあ、向こうで・・・。楽しみにしてるわ」
(食えん女やな・・・)
歩き去るゆかりの後ろ姿に背を向け、弾は大型バンの運転席に座り、エンジンをかける。
メーターが点灯し、カーナビの画面が光った。
「ふっ・・・」
その画面には既に行く先として、西京大学病院が登録されている。
更に、助手席のシートに一通の封筒が・・・
(何や・・・?)
不信に思い封筒を開ける弾。
「全く・・・。準備良すぎやわ・・・」
苦笑する弾が見たものは、病院への車の入場許可証と車椅子の貸し出し許可証、そして萌の外出許可証だったのである。
「急がんと・・・。葵、信じてるで・・・」
テルマエ学園の地下駐車場から走り出す大型バンを見て笑ったのは、やはりミネルヴァだった。
病室でテレビをベッドの真横に置き、萌がじっと目を閉じている。
(【ダイナマイト・ガールズ】、強敵どころじゃない・・・。でも、ボクには何も出来ない・・・)
自分の不甲斐なさに打ちひしがれている萌・・・
コンコン コンコン
ドアをノックする音が聞こえた。
「はい?」
目元を拭って返事をする萌。
ガチャッと音がして扉が開いた。
「平泉はん、調子はどうや?」
花束とお菓子を持った弾である。
「あれっ、弾先生? どうしたんですか?」
一人で悩み考え込んでいた萌が一瞬、破顔した。
「元気そうで何よりや」
ベッド脇に置かれた椅子に腰かける弾。
「弾先生・・・。今日は・・・?」
「長話をしてる暇は無いんで単刀直入に言うわ」
「・・・?」
「平泉はんも分かってると思うけど・・・。今の【ムーラン・ルージュ】では【ダイナマイト・ガールズ】には勝たれへんっ!」
はっきりと言い切る弾の顔をまっすぐに見つめて頷く萌。
「せめて・・・。近くから見届けたって欲しいんや」
「皆に会える・・・」
「【ムーラン・ルージュ】は8人やないとな」
じっと考え込んでいた萌が顔を上げ、にこりと微笑んだ。
「最後くらい、見える所で応援してあげたいって思ってたんだ。まさか、弾先生が迎えに来てくれるなんて・・・。ボク、嬉しいよ・・・」
「平泉はん・・・。おおきに・・・」
「お礼の言うのは、ボクの方なのに・・・。でも、すぐに退院なんて・・・」
「大丈夫や。準備は出来とる」
そう言って、弾は外出許可証を萌に見せる。
「これって・・・」
「さぁ、行くでっ!」
そう言うと弾は萌を抱き上げ、車椅子へ乗せると救急搬入口へと急ぐ。
そこには、車椅子用のキャリアが装備された大型バンが停車していた。
「皆っ! 今、行くよっ!」
萌の口から明るい声が響いていた。
新国立劇場へと向かう車の中で弾は考える。
(葵なら・・・。きっと同じ事を考えている筈・・・)
「どうしたの? 弾先生、難しい顔してる・・・」
後部座席に車椅子ごと乗っている萌が話し掛ける。
(葵・・・。信じてるでっ!)
何かを決した様に弾が応えた。
「平泉はん・・・。歌えるわな?」
「えっ!どういう事? 弾先生?」
カーラジオからは、アイドル甲子園開始の報が流れていた。
程なくして、弾の運転する大型バンが新国立劇場の通用口に横付けされる。
急ぎドアを開けた弾の耳に最も聞きたかった声が聞こえた。
「弾っ! 遅いぞっ!!」
「・・・、葵。やっばり、居ってくれたんか」
「当たり前やっ! 弾の考えてる事なんぞいつでも手に取るように分かっとるわっ!」
久しぶりに意志の通じ合う葵と弾・・・
「え・・・!? 葵先生っ? どうして?」
まさかの急展開に驚く萌。
弾が萌の車椅子をキャリアから卸し、葵に向き合う。
(後は、任せたで・・・)
弾の視線を受けニヤリと笑う葵。
何か起きているのか分からず戸惑う萌の車椅子を押し廊下を進む葵。
「あの・・・。葵先生?」
「平泉・・・」
「はい?」
「歌えるな?」
「え・・・、はい・・・。でも、衣装とかが・・・」
その時、前方から声が聞こえた。
「おーい、こっちやぁ。こっちやでぇっ!」
「萌ちゃーんっ!」
両手を大きく振り迎えているのは八郎と二郎である。
「えっ! 八郎? 二郎?」
八郎と二郎が、萌と葵を部屋の中へと招き入れる。
中には・・・
「カッ、カトリーナまでっ!」
「早瀬はヤボ用で来れんそうだが、宜しくとの事だ」
「でも・・・。これって・・・」
萌の目の前には、ブラックのストレートウィッグと赤・白の光沢のあるレーサースーツが吊られている。
手に取った萌がその伸縮性に驚く。
「凄く・・・。柔らかい」
「そらそうや。萌ちゃんの脚の怪我に障らんようにしたんやから」
ニッと笑う八郎。
「それだけや無いんですよ」
二郎が隣に掛けてあった衣装カバーを外す。
「もう一つ? これは・・・?」
「ふふっ、お楽しみだ。よし、大塩と鈴木は外に出てろっ! 絶対に覗くなよっ!」
「流石に、ここでそんな事はしまへんわっ!」
八郎と二郎が、部屋を出るのを待ってカトリーナと葵が萌を着替えさせる。
「えっ!? ちょっと待ってっ!」
「いいか、平泉。お前は歌う事だけに専念しろ。後の事は・・・。あいつらに任せておけ」
自信たっぷりの葵の言葉に黙って頷く萌。
「準備完了ヨッ!」
「よしっ!行くぞっ!」
舞台衣装に着替えた萌の車椅子を押し、葵は急ぐ。
もう、【ムーラン・ルージュ】の舞台は始まっているのだ。
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