東京テルマエ学園

案 只野温泉 / 作・小説 和泉はじめ

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第108話 勝利への架け橋

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【ダイナマイト・ガールズ】の舞台を袖から見ていた【ムーラン・ルージュ】。

「わたし達・・・。勝てるかな・・・」
誰もが感じていた不安、最初に口に出したのは汐音である。

「萌もいないままだし・・・」
優奈も気落ちしているのが分かる。

「歌唱力も、演出もレベルが高すぎる・・・」
涼香ががっくりと肩を落とす。

「7人パートじゃ・・・。とても・・・」
いつも強気な穂波までもが弱気になっている。

(皆がこんなに自信を無くしてしまうなんて・・・)
ただ、呆然とする七瀬。

(このままじゃ、いけないよ。アキちゃんっ!)
圭が目でアキに訴える。

(まずいな・・・。完全に士気が落ちいてる。温水っ!)
葵もアキを見る。

この状況を打開するには、アキしか無いと感じているのだ。
だが、そのアキ本人が【ダイナマイト・ガールズ】の脅威を誰よりも感じていたのであったーー


(でも、このまま何もしないで終わるなんて嫌だっ!)
アキの心に新たな炎が巻き起こる。

(リーダーのわたしがしっかりしなきゃっ!)
アキが皆を見回す。


渋温泉から一緒にここまで来た七瀬。
いつも力強く姉御肌で面倒を見てくれた優奈。
危険を顧みず、五郎と共に駆けつけてくれた圭。
如月とも和解し、元気付けてくれた穂波。
最初は打ち解けにくかったけど、ダンスを通じて分かり合えた汐音。
いつも自分の側にいて、曲の書き換えを頼みに一緒に行ってくれた涼香。
そして、拙い自分達を必死になって引っ張ってきてくれた葵。
そう、弾もゆかりも渡も。そして、八郎や二郎も・・・


(いつも皆が周りで支え合ってここまで来たんだ。地区大会から準決勝まで戦ったライバルたちの為にも引けないっ!)

そして・・・
(萌ちゃん・・・。きっと、わたし達を信じてベッドの上で応援してくれてる!)
そう思った瞬間、アキの中で何かが弾けた。


「皆っ、やろうよっ! 萌ちゃんの為にもっ!」
皆の表情が変わった。

「萌は・・・」
「出たくても出れない・・・か」
優奈と穂波が顔を見合わせた。

「皆、寝る間も惜しんで練習してきたんだよっ! こんな所で終われないよっ!」
「そう・・・。ここで諦めたら・・・」
七瀬がアキの言葉に応える。

「戦って来た他のチームに何て言うの?」
汐音が続いた。

「やろうよっ!」
「わたし達、いつも一緒なんだからっ!」
圭と涼香の表情も明るさを取り戻す。

(温水・・・。やはりお前は最高のリーダーだ・・・)
黙って見ていた葵が皆の肩を叩き励まして回る。
「戦う前から、諦めたら勝てる筈も無いっ! お前達はいつも絶望の底から這い上って勝ち続けてきたんだっ! その底力を見せてやれっ!」

「そうよっ! あたし達の舞台をやろうよっ!」
七瀬が第一声を上げる。

「悔いのない舞台で締めくくらないと、落ち着かないよねっ!」
圭が笑い皆も笑った。

「そうだよっ!」
「行って来いっ! 【ムーラン・ルージュ】、お前達の全てを燃やし尽くして来いっ!」
「はいっ!」
一致団結した【ムーラン・ルージュ】を送り出す葵。

そして、何かに突き動かされるように控室を抜け通用門へと向かったのである。



壇上では、三波が改めて司会に立っていた。


「さぁ、アイドル甲子園もこの一曲を残すのみとなりました。 驀進する【ダイナマイト・ガールズ】に立ち塞がるのは、皆さん御存じの【ムーラン・ルージュ】!曲は、【ルージュ・フラッシュ】。泣いても笑ってもこれが最後です! それでは、お願いしますっ!」
三波の司会にもつい熱がこもる。


「さぁっ! 行くよっ!」
アキが手を高く突き上げる。

「やっば、緊張する」
七瀬を振り返る優奈も・・・

「やばっ!」
隣で、汐音が笑う。
「テンション・あげあげっ!」

「笑顔っ! 笑顔っ!!」
涼香は自分に言い聞かせている。

「後は、いつも通りにっ!」
「そうそう、思いっきり楽しんでやろうよっ!」
圭と穂波がハイタッチする。


「じゃあ、行くよっ!」
アキの掛け声とともに、7人が一斉に舞台中央へと駆け出した。

舞台袖から現れた【ムーラン・ルージュ】に割れんばかりの拍手と大歓声が巻き起こる。


――さぁ、いよいよ最終局面である。


舞台――暗転から一人ずつスポットライトを浴び【ムーラン・ルージュ】の7人、


「うおぉぉぉっ! 何だあれっ!」
観客席が騒めく。

「な・・・っ。何だ、あれはっ!?」
モニターを見ていた三橋が我が目を疑う。

「何だって・・・。まさか?」
カメラを構えていた岩田とすずも思わず顔を見合わせた。

(意表を突いたの? でも、それだけじゃ勝てないわ・・・)
客席の梨央音も驚きを隠せないでいる。


汐音は腰までの大胆なスリットの入った群青色、肩には羽飾りの付いたドレスにハイヒール。金髪のウイッグはアップにしている。

七瀬はフリルの付いたピンク色のドレス。胸元に大きなスリットが入り、紫色の緩やかなウェーブの入ったウィッグ。

涼香は緑色のロングパンタロンスーツ。銀色のウィッグは大きなリボンの付いたポニーテールで、眼鏡を外しコンタクトレンズを入れている。

優奈は白いベレー帽を斜めに被り、茶色いウィッグはストレートロング。青色のミニタイトスーツに襟元には白いリボンのネクタイ。

穂波は橙色のショートボブのウィッグ、頭にはサングラスをかざして、黄色のパンツスーツは襟元がV字カットされている。

圭は純白の花飾りの付いたレースのドレスに純白のベール。黄色のセミロングウィッグには、シャギーが入っている。

そして、最後にアキにスポットが当たった。

アキは、水色の超ミニタイト。体にフィットしており、バストライン・ヒップラインは特に強調されている。黄色の前下がりボブのウィッグにカチューシャが光る。



これまでの【ムーラン・ルージュ】とは一線を画するように7人それぞれが全く違う衣装を身に纏っているのだ。
共通しているのは、手に持ったマイクだけ・・・


7人とも衣装に全く脈絡が無いが、その事がかえって意外性を生み観客の視線を集中させる事に繋がっていたのだ。
八郎がそこまで計算して衣装をデザインしたのかは定かではないのだが・・・

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