東京テルマエ学園

案 只野温泉 / 作・小説 和泉はじめ

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第107話 海上の闘い

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 横浜中華街・大成金飯店――

駆は最上階にある楼蘭の間に居た。
無論、孫に会う為である。
孫を警戒させない為に供を付けずに一人で待つ駆。

(18:50・・・。もう少しか・・・)
そして、5分ほどして10人強のボディガードを連れて孫が到着した。

「ホウ・・・、オ一人デスカ・・・」
「俺は他人を信用しない事にしたんでね・・・」
心臓が口から飛び出しそうに動悸が高まる。

(一歩間違えれば、ここで殺されるかも・・・)
正に白刃の下を掻い潜るような駆け引きが始まろうとしていた。

「先ずは・・・、干杯(乾杯の意)」
そう言って、青島ビールの注がれたグラスを飲み干す駆。
同じように飲み干す孫。

孫のボディガード達はグラスに手を付けようともしない。
(さて、ここからか・・・)

暫くの間、沈黙が流れる。

「孫大人、先日のお話にあったモノはここに・・・」
「間モナク着クデショウ、少シ待ッテ下サイ・・・」


この時、横浜港に停泊している客船から一隻のボートが波の軌跡を描いて陸地へと向かった。


「快点!(急げの意)」
「孫大人等待ッ!(孫さんがお待ちだの意)」
そのボートの船尾に掲げられた旗を暗視双眼鏡で覗く男が居た。
「五星紅旗、間違いないな」
大友武蔵である。


「よしっ! 行くぞっ! 総員配置に付けっ! 特警隊スタンバイっ!」


武蔵の号令とともに待機していた舟艇が一斉にライトを点灯し不審船を取り囲む。


「こちらは、日本国第三海上管区保安本部です。速やかに停船しなさい」
日本語と中国語で繰り返し警告がアナウンスされる。


「混账东西!(ちくしょうの意)」
「这是怎么回事!(どうなってるんだの意)」
船上へと出て来た中国人達が次々とピストルを取り出し発砲する。

「全く、往生際の悪い奴らだ」
武蔵がマイクを取った。

「全艇、放水っ! 沈めるつもりでやれっ!」

ポンプで汲み上げられた海水が四方八方から滝のように船内へと流れ込む。
水圧でキャビンのガラスもバリバリと音を立てて割れていく。


「他投降了!(降参だの意)」
「给我停下!(やめてくれの意)」
戦意を喪失した中国人達が両手を上げて船外へと出て来る。

「放水止めっ! 乗船っ!」
武蔵の命令で特警隊員達が中国船に乗り込み乗員を逮捕していく。

(さて、どう動く?)
武蔵はじっと停泊している中国船籍の客船を見るが。何も動きは無い。

(トカゲのしっぽ切り・・・か。見捨てやがった)
だが、この経緯は直ぐにも孫へと伝えられるであろう。

「有りましたっ!」
乗船捜索していた隊員が数々の覚醒剤を発見した事を伝える。

(竜馬、隼人・・・。次はお前達の番だ、任せたぞ)
夜の潮風が武蔵の頬を軽く撫でる中、武蔵はスマホを取り出した。

「俺だっ!」
武蔵の声が高まった。



一方、客船の操舵室でも船長らしき男が電話を架けている。
かなり、慌てている様子が見て取れる。

「孫大人ヲ! 迅速地ッ!(早くの意)」
通話先は、大成金飯店で駆と向き合っている孫の後ろに立つボディガードである。

「ボス、船カラデス」
「何ダ、ドウシタ?」
面倒くさそうに渡されたスマホを耳に当てた孫の顔色が見る見るうちに赤くに染まる。

(始まったな・・・)
「バカナ・・・。日本ノ警察ニ海上ノ舟艇ガソンナニ・・・。ッ!」
何かに気付いた孫の顔に怒りが満ちてくる。

「海保カ・・・ッ!」
そしてその敵意をむき出しにした視線を駆へと向ける。

「ヤリヤガッタナッ!」
「何の事でしょうか?」
「惚ケルナッ!」

孫の怒鳴り声が上がった。

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