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第101話 新生、ベティのケチャップ
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シャッターが降りたままの【ベティのケチャップ】――
『しばらく休業します』と書かれた張り紙が風に揺れている。
カチャリ・・・
裏にあるスタッフ専用の通用口の鍵が音を立てた。
キィー
ドアが軋みながら開けられる・・・
(油差さなきゃ・・・)
真っ暗な室内、壁にあるスイッチを手探りで探す。
カチッ!
スイッチが入り、店内に明かりが灯った。
あちらこちらに椅子やテーブルが散乱し、一部は壊れたまま放置されている。
范の脳裏にあの日の乱闘、そして辛い出来事が蘇る。
「ただいま・・・。マンゴーさん・・・」
在りし日のマンゴローブの写真の入ったフォトスタンドをそっとカウンターに置く范。
その瞳は、どこか遠くを見つめている・・・
(んっ!? 何だ、明かりが・・・)
偶然、前を通りかかったのは早乙女である。
(まさか、空き巣狙いか?)
正面を避け通用口へと回る。
(鍵が・・・、開いている・・・?)
中からは、ガタッ! ゴトッ! と、物音が聞こえるが人の声は無い。
(複数犯では、無いか・・・)
足音を殺して、早乙女は店内へと歩を進めると、散乱した椅子やテーブルを片付けている范の姿が目に映った。
「・・・ハン」
急に名前を呼ばれ、振り向く范。
少し、驚いた表情をしている。
「空き巣でも入ったのかと驚いたぞ」
「・・・、早乙女さん」
「よく戻ったな・・・。ハン」
「今の私は・・・。矢板范デス・・・」
「そうだったな・・・。話は聞いている・・・」
二人の間に沈黙が流れる。
早乙女の視線に范の置いたフォトスタンドが映る。
早乙女は黙って、冷蔵庫を開けると冷えたビールとビアグラスを3個取り出した。
そして、3つのグラスにビールを注ぐ。
「まぁ、座れ」
范をカウンターに座らせるとビールを注いだグラスをその前に置く。
そして、マンゴローブの写真の前にも・・・
「范・・・、お酒は・・・」
「今日だけは・・・。矢板の為に飲んでくれ・・・」
黙って頷く范。
「マンゴローブ・・・。矢板さくらに献杯」
軽くグラスを持ち上げ、早乙女はグラスのビールを飲み干す。
早乙女は、マンゴローブと話した時の事を思い出す・・・
「ねぇ、ヒロシちゃん。この子が、ハン。今度、日本に留学してくるの」
楽しそうに話すマンゴローブ。
「あっちで会った時は子供だったけど・・・。一緒に飲める日が来るなんてねぇ」
嬉しそうに笑うマンゴローブを偲ぶ。
そして、范も・・・
「マンゴーさんに・・・。献杯」
写真の中のマンゴローブが微笑んだように見えたのは、気のせいだろうか。
「本当だ・・・。明かりが点いてる」
范と早乙女が入った通用口に人影がある。
「でしょっ! さっき通りかかったら、明かりが点いてて物音がしたのよ」
「ねえ、どうする? サヤカ?」
「もし、ドロボーだったら? ジュンコ、警察呼ぼうか?」
「待って、ヒカル。その間に逃げるかもよ」
「ミチル、ここはっ!」
コソコソと暗がりで話す4人が手に手にモップやらホウキやらを持ちだした。
「大丈夫、こっちは4人もいるのよ。アタシ達のお店を荒らさせないワッ!」
「じゃあ、行くわよっ!」
「せーのっ!」
掛け声に合わせてドアノブの手を掛けようとしたその時・・・
内側から、ドアがゆっくりと開いた。
「えっ・・・? サヤカさん・・・?」
「ハ・・・、ハンちゃんなの?」
かつてのお団子頭ではなくスッキリとしたショートカットになった姿に驚くサヤカ達。
「ジュンコさん・・・、ヒカルさん・・・。ミチルさん・・・」
【ベティのケチャップ】の看板娘??の4人と思わぬ再会に涙ぐむ范。
サヤカ達も驚き目を白黒させて、手に持っていたモップやホウキを落としてしまう。
范から、【ベティのケチャップ】をリニューアルオープンさせる事や自分が店長兼オーナーになる事を聞いた4人組は・・・
「良かったぁ、ハンちゃんが店長になってくれるなんて・・・」
サヤカが感極まったように泣き出した。
「アタシ達、どうしたら良いか分からなくて・・・」
ジュンコの目からは大粒の涙が零れ落ちる。
「また、【ベティのケチャップ】で働けるなんて・・・」
泣きじゃくるヒカル。
「マンゴーママもきっと喜んでるわぁ」
ミチルがハンカチを取り出し、目元を拭う。
「范・・・、矢板范になったヨ」
「えっ・・・?」
驚く4人の手を取る范。
「范、マンゴーさんみたいなママに成れるように頑張ル! 皆、力を貸してッ!」
「勿論ょぉっ!」
「任せてっ!」
力強く范の手を握り返すサヤカ達。
「ハンちゃん・・・、じゃないわっ! 范ママ、これから宜しくお願い致します」
サヤカ達が整列して一斉にお辞儀をした。
「じゃあ・・・」
「早速っ!」
「先ずは、お片付けとお掃除よねっ!」
「忙しくなるわよぉっ!」
バタバタと動き出す4人組。
「もう、俺の出る幕は無いようだな・・・。范」
早乙女の言葉に満面の笑みを浮かべて振り返る范。
「はいっ! これからも宜しくねっ・・・、ヒロシちゃん!」
「おいおい、そんな所まで引き継ぐなよ」
そういう早乙女も知らず知らずのうちに笑みが浮かんでいる。
「あっ、一番星っ!」
サヤカが窓から指さした。
皆が夜空を見上げると、一等星が光り輝いている。
まるで、マンゴローブが見守っているかのようにーー
『しばらく休業します』と書かれた張り紙が風に揺れている。
カチャリ・・・
裏にあるスタッフ専用の通用口の鍵が音を立てた。
キィー
ドアが軋みながら開けられる・・・
(油差さなきゃ・・・)
真っ暗な室内、壁にあるスイッチを手探りで探す。
カチッ!
スイッチが入り、店内に明かりが灯った。
あちらこちらに椅子やテーブルが散乱し、一部は壊れたまま放置されている。
范の脳裏にあの日の乱闘、そして辛い出来事が蘇る。
「ただいま・・・。マンゴーさん・・・」
在りし日のマンゴローブの写真の入ったフォトスタンドをそっとカウンターに置く范。
その瞳は、どこか遠くを見つめている・・・
(んっ!? 何だ、明かりが・・・)
偶然、前を通りかかったのは早乙女である。
(まさか、空き巣狙いか?)
正面を避け通用口へと回る。
(鍵が・・・、開いている・・・?)
中からは、ガタッ! ゴトッ! と、物音が聞こえるが人の声は無い。
(複数犯では、無いか・・・)
足音を殺して、早乙女は店内へと歩を進めると、散乱した椅子やテーブルを片付けている范の姿が目に映った。
「・・・ハン」
急に名前を呼ばれ、振り向く范。
少し、驚いた表情をしている。
「空き巣でも入ったのかと驚いたぞ」
「・・・、早乙女さん」
「よく戻ったな・・・。ハン」
「今の私は・・・。矢板范デス・・・」
「そうだったな・・・。話は聞いている・・・」
二人の間に沈黙が流れる。
早乙女の視線に范の置いたフォトスタンドが映る。
早乙女は黙って、冷蔵庫を開けると冷えたビールとビアグラスを3個取り出した。
そして、3つのグラスにビールを注ぐ。
「まぁ、座れ」
范をカウンターに座らせるとビールを注いだグラスをその前に置く。
そして、マンゴローブの写真の前にも・・・
「范・・・、お酒は・・・」
「今日だけは・・・。矢板の為に飲んでくれ・・・」
黙って頷く范。
「マンゴローブ・・・。矢板さくらに献杯」
軽くグラスを持ち上げ、早乙女はグラスのビールを飲み干す。
早乙女は、マンゴローブと話した時の事を思い出す・・・
「ねぇ、ヒロシちゃん。この子が、ハン。今度、日本に留学してくるの」
楽しそうに話すマンゴローブ。
「あっちで会った時は子供だったけど・・・。一緒に飲める日が来るなんてねぇ」
嬉しそうに笑うマンゴローブを偲ぶ。
そして、范も・・・
「マンゴーさんに・・・。献杯」
写真の中のマンゴローブが微笑んだように見えたのは、気のせいだろうか。
「本当だ・・・。明かりが点いてる」
范と早乙女が入った通用口に人影がある。
「でしょっ! さっき通りかかったら、明かりが点いてて物音がしたのよ」
「ねえ、どうする? サヤカ?」
「もし、ドロボーだったら? ジュンコ、警察呼ぼうか?」
「待って、ヒカル。その間に逃げるかもよ」
「ミチル、ここはっ!」
コソコソと暗がりで話す4人が手に手にモップやらホウキやらを持ちだした。
「大丈夫、こっちは4人もいるのよ。アタシ達のお店を荒らさせないワッ!」
「じゃあ、行くわよっ!」
「せーのっ!」
掛け声に合わせてドアノブの手を掛けようとしたその時・・・
内側から、ドアがゆっくりと開いた。
「えっ・・・? サヤカさん・・・?」
「ハ・・・、ハンちゃんなの?」
かつてのお団子頭ではなくスッキリとしたショートカットになった姿に驚くサヤカ達。
「ジュンコさん・・・、ヒカルさん・・・。ミチルさん・・・」
【ベティのケチャップ】の看板娘??の4人と思わぬ再会に涙ぐむ范。
サヤカ達も驚き目を白黒させて、手に持っていたモップやホウキを落としてしまう。
范から、【ベティのケチャップ】をリニューアルオープンさせる事や自分が店長兼オーナーになる事を聞いた4人組は・・・
「良かったぁ、ハンちゃんが店長になってくれるなんて・・・」
サヤカが感極まったように泣き出した。
「アタシ達、どうしたら良いか分からなくて・・・」
ジュンコの目からは大粒の涙が零れ落ちる。
「また、【ベティのケチャップ】で働けるなんて・・・」
泣きじゃくるヒカル。
「マンゴーママもきっと喜んでるわぁ」
ミチルがハンカチを取り出し、目元を拭う。
「范・・・、矢板范になったヨ」
「えっ・・・?」
驚く4人の手を取る范。
「范、マンゴーさんみたいなママに成れるように頑張ル! 皆、力を貸してッ!」
「勿論ょぉっ!」
「任せてっ!」
力強く范の手を握り返すサヤカ達。
「ハンちゃん・・・、じゃないわっ! 范ママ、これから宜しくお願い致します」
サヤカ達が整列して一斉にお辞儀をした。
「じゃあ・・・」
「早速っ!」
「先ずは、お片付けとお掃除よねっ!」
「忙しくなるわよぉっ!」
バタバタと動き出す4人組。
「もう、俺の出る幕は無いようだな・・・。范」
早乙女の言葉に満面の笑みを浮かべて振り返る范。
「はいっ! これからも宜しくねっ・・・、ヒロシちゃん!」
「おいおい、そんな所まで引き継ぐなよ」
そういう早乙女も知らず知らずのうちに笑みが浮かんでいる。
「あっ、一番星っ!」
サヤカが窓から指さした。
皆が夜空を見上げると、一等星が光り輝いている。
まるで、マンゴローブが見守っているかのようにーー
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