東京テルマエ学園

案 只野温泉 / 作・小説 和泉はじめ

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第100話 家康邂逅

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「いつまで憑代の影に隠れておるつもりかぁっ!」
落雷のようなミネルヴァの声が響き渡った。

ビクッとするアキ達、そして皆の両目が虚ろな色に染まる。


「何・・・、この嫌な感じ・・・。また・・・」
西京大学病院に居た萌もアキ達と同じように虚ろな眼差しになる。


アイドル甲子園準決勝の時と同じように、アキ達の後背に家紋が浮かび上がった。
そして、各々の背負った戦国武将達が徐々に姿を見せる。

「これは、内府殿。お久しぶりで・・・」
「昌幸か・・・。親子ともどもいつまでも儂を苦しめおるか」
ミネルヴァは憎々し気に七瀬を見る。

「いつぞやの借り、ここで返してもよいが・・・」
「石田治部・・・。儂の死を見届けに来たかっ!」
汐音とミネルヴァの視線が交錯する。

「待たれよっ!」
圭の声が皆の動きを止める。

「流石、鬼島津・・・。衰えおらぬか」
「千姫様の御前ぞ、皆。控えいっ!」
「景勝か・・・。よくぞ、お千の下へ・・・」
涼香はミネルヴァとの視線を合わせようとしない。
「お爺さま・・・」
アキが口を開いた。

「お千・・・。よくぞ戻った・・・」
ミネルヴァの口調が穏やかになる。

「お爺さま、また同じ過ちを犯されるのですか・・・」
寂し気にアキが言う。

「何を言うのだ、お千。儂がこの日の本の国を治める事は神より託された使命ぞ・・・」
「そうして、何度も戦を・・・」

無言の時が流れる・・・

「佐竹は参らぬようじゃな・・・。臆したか」
急にミネルヴァの口調が元の毒々しいものへと戻る。

「千姫様っ!」
穂波と優奈がアキの盾となるようにミネルヴァの前に立ちはだかる。

「退けいっ! 秀秋っ! 秀家っ!」
「退けぬわっ! 徳川内府っ!」
「悪鬼となり下がったかっ!」
「悪鬼・・・。悪鬼じゃと・・・、この家康。征夷大将軍に向かって何をほざくっ!」
ミネルヴァの体から禍々しいオーラが噴き出して室内を覆いつくした。
「お止め下さいっ!」
アキが叫ぶ。

「お千、我は征夷大将軍。そして、東照大権現なるぞ、神そのものじゃっ!」
まるで黒い旋風が吹き荒れたかのようである。

だが・・・

ミネルヴァの顔が苦痛に歪みだした。

「おのれ・・・。まだ復活には時間が足りぬのか・・・、なれど今はっ!」
ミネルヴァの両眼が光る。

「今は異敵を撃つことが肝要・・・。そなた達の事、今は見逃そう・・・。だがっ!」
苦しげに息を吐き、言葉を繋ぐミネルヴァ。

「我は東照大権現っ! 我を止めたくば、神仏を超えて止めて見せよぉぉぉぉっ!」
ミネルヴァから大量の黒い霧のようなものが立ち込め、千姫達の姿がかき消されていった。

時を同じくして、東京から新大阪へと向かう新幹線が米原・関ケ原を通過していた。

「えっ・・・、何?」
ひな達が顔を見合わせる。

「なんやろ・・・」
「ゾクっとした・・・」
何があったのか分からないひな達。
「なんか、大切な事・・・。忘れた気がするんやけど・・・」
「えっ、ひなも?」
「しずくもか?」
同じように、めい・かえで・うららも記憶の一部が欠けたように感じていた。
「あの準決勝の時、何か凄く大切な事を知った気がしたんやけどな・・・」



コンコンコン
「学園長・・・。宜しいでしょうか?」
隣室からゆかりの声が聞こえた。

「構わんよ、入りたまえ・・・」
「失礼します」
「どうかしたかね?」
「いえ、そろそろ時間かと思いまして・・・」
「ふむ、思わず話し込んでしまったかも知れんな。皆、ご苦労だった」
ゆかりはアキ達を見回す。

(どうしたの・・・。何があったの・・・)
「ゆかり君、皆かなり疲れておるようだ。下がらせなさい」
「・・・はい」
ゆかりに肩を揺すられてアキ達が気を取り戻す。

「あれ・・・」
「あたし達・・・」
「・・・、頭がガンガンする」
その様子を隣室の陰から黙って見つめる弾と如月。

(アキ・・・)
(温水はん・・・)
「皆、お疲れ様。今日はゆっくりと休みなさい」
ゆかりの言葉に従い、学園長室を出るアキ達・・・


(ふむ、まだ儂の力も完全では無いか・・・。まぁ良い転生の記憶を吹き飛ばしたのだ。邪魔はして来んだろう・・・)
「っ!?」
立ち上がろうとしたミネルヴァは右足に強烈な痛みを感じ立ち竦む。

一瞬ではあったがミネルヴァの眼には太腿にその嘴を突き刺している一羽の織り鶴が見え、煙に包まれ消えて行った。

(式神だと・・・)
ミネルヴァの脳裏に徳川家康の書き付けが浮かんだ。

『齢18の時に家紋の痣を持った8人の女が集まる時、我が徳川家に対して災いをもたらすであろう』努々(ゆめゆめ)忘るるなかれ。

(あ奴ら・・・。何を呼びおったのじゃ・・・)

ミネルヴァの顔に憎しみと恐怖の相が浮かんでいた。
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