東京テルマエ学園

案 只野温泉 / 作・小説 和泉はじめ

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第99話 ミネルヴァ動く・・・

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 組織対策4課へと戻った范とミッシェルを隼人が待っていた。

「見送りは、済んだのか」
「ハイ」
「では、これより『FoolsFesta』の説明に入る」

范とミッシェルの顔が引き締まる。
警察官として、FBI捜査官としての顔だ。

「今回は関係各署の他、一部民間人による協力も行われる。民間人とは言い難いがな」
隼人の言う民間人とは、他ならぬ二月会を筆頭とした日本の裏社会の事だけでは無い。
「孫王文は、現在も所在が掴めていない。そこで・・・。早瀬駆氏にも協力を頂き、孫をおびき出し身柄を確保する」
「場所及び時刻は、孫からの指定に沿う事になるので、各自いつでも動けるように準備をっ!」
隼人の説明に聞き入る捜査員達。

竜馬・武蔵そして、早乙女も同席している。

「尚、二月会との連携は全て私の指揮下で行う事っ! 以上だっ!」
慌ただしく走り出して行く捜査員達。


「竜馬、ついにここまで来たな」
「えぇ、早乙女さん・・・」
竜馬と早乙女の会話に武蔵が加わる。

「長かったような・・・。短かったような・・・」
「犠牲も多かった・・・」
「絶対に失敗は許されん」
早乙女の言葉に頷く竜馬と武蔵だった。



その後――
隼人が范とミッシェルを連れて早瀬コンツェルンを訪れる。
無論、そこには駆だけでなく将一郎と飛鳥井の姿もあった。


「駆さん、こちらがFBIのミッシェル・アデルソン捜査官。そして、新任の・・・」
「矢板范です」
「二人とも、テルマエ学園の留学生として、渡さんとも顔見知りです」
「渡の・・・。そうか、宜しくお願い致します」
駆は深々と頭を下げた。

「早瀬駆サン・・・」
ミッシェルが神妙な面持ちで話しかける。

「何でしょうか?」
「この作戦ガ成功してモ、萬度の全てガ消滅スル訳ではありまセン」
「ツマリ・・・。貴方はずっと命ヲ狙われるデショウ・・・」
「大丈夫だ、その覚悟も出来ている・・・。自分の命を賭けて俺を守ってくれた人もいたんだから・・・」
駆の脳裏に自分を守る為に銃弾を受けた洸児の姿が浮かぶ。
「そして・・・。あの人とあの温泉を守る為にも」
駆の決意が固い事は誰もが感じていた。

「作戦終了後ハ、FBIが証人保護プログラムを適用シテ生涯守り続けマス。合衆国大統領命デス」
「・・・。ありがとう」
駆はそう言うのが精いっぱいであった。

二度と日本に戻れぬやも知れない、そして二度と父にも弟にも愛する人にも会えなくなるであろう決断であった。



翌朝の東京駅――

新大阪行きの新幹線に乗る【Konamon18】をアキ達が見送っていた。

「今度は、大阪来てな」
「おもろいとこ、いーっぱい案内したるから」
一度は八郎の発案で大阪を訪れたものの、あの時は・・・

(そう・・・。あの時も・・・)
アキの脳裏に微かな記憶が蘇る。

そして、皆も同じように・・・
「なーに辛気臭い顔してんねん。大丈夫や、あんたらやったら」
「ありがとう」
アキとひなが手を取り合う。

「せやけど・・・。くれぐれも気いつけや」
ひなが言うのは徳川家康の事だけではない、日本を狙う外国の事も含まれている。
「わかってる」


Prorororo
新幹線の発車ベルが鳴り、扉が閉まる。

ひな達を乗せた車両がゆっくりと動き出した。
車窓を挟んで互いに手を振り合う【ムーラン・ルージュ】と【Konamon18】だった。


「アキ・・・」
七瀬がいつまでも立ち尽くすアキに声を掛ける。

「ごめん・・・。ちょっとね・・・」
得体の知れない不安を感じるアキ。

「行こうか・・・」
なぜか学園に戻るアキ達の足取りは重い。
まるで、これから起こる事を察しているかのように・・・



テルマエ学園では・・・
「何やて、そんな勝手な事っ!」
葵がゆかりに食って掛かっている。

「学園長が決められた事です」
「分かったっ! うちが学園長と話すっ!」
「葵っ!」
急に後ろから肩を掴まれ振り返る葵。

「何や、弾っ! お前からも何とか・・・」
弾はただ黙って首を振る。

「何でや・・・。何があったんや・・・」
葵はただ呆然とするしかなかった。


この少し前、急にミネルヴァ本人が【ムーラン・ルージュ】との面談を決めていた。
表面上はアイドル甲子園の決勝進出の激励ということであったが、葵の同席が認められなかった事に激高したのである。
頼みとした弾も当てにならず悶々とする葵であった。


アキ達が足取り重く学園に戻ると、正門で待つ人影がある。

「ゆかり先生・・・?」
「お疲れ様、貴女達に学園長からお話があるそうです。こちらへ・・・」
そう言って、ゆかりはアキ達を学園長室のある階への直通エレベーターへ案内する。

「あの・・・、葵先生は・・・」
いつも真っ先に迎えに出る葵の姿が無いことに気付いた汐音が尋ねる。

「今日は貴女達だけで・・・」
ゆかりの態度もいつもと違うと感じるアキ達だった。



コンコンコン

ゆかりが学園長室の扉をノックする。

「入りなさい」
確かに室内から聞こえたのはミネルヴァの声である。
これまで、事あるごとに何度も聞いた声。
だが、今聞こえた声にはこれまでに感じた事の無い異様な威圧感があった。

「失礼します」
ゆかりが先導して学園長室へと踏み入るアキ達。

「では、私はこれで・・・」
ミネルヴァとアキ達を対面させるとゆかりは隣室へと移る。

そこには・・・

「何をするつもりか知らんが・・・」
「あまり、ええ感じはしまへんな」
如月と弾の姿がある。

「私達も関われない事か・・・」
ゆかりまでもが少し寂し気な表情を浮かべていた。


「先ずは、アイドル甲子園決勝への進出おめでとう」
感情を含まない声でミネルヴァが語り掛ける。

「ありがとうございます」
アキの返答に合わせるようにして皆が頭を下げる。

「一名欠けた状態で勝ち残るとは流石だ・・・」
「・・・」
「まぁ、そんな事は大した意味は無い」
「・・・」
誰もミネルヴァに話さない、いや圧倒的な重苦しさで話せないのだ。

「戦国浪漫の里、大阪城そして今回の準決勝・・・。目覚めたのだろう?」

ミネルヴァの両目が妖しく光った。
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