東京テルマエ学園

案 只野温泉 / 作・小説 和泉はじめ

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第98話 継ながる思い

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東京都府中市 警視庁警察学校――

警察官の制服にその身を包んだ長身の美女がいる。
均整のとれたプロポーションにショートカットの髪が涼やかに映える。

「矢板范っ!」
「はいっ!」
「特別カリキュラム、ご苦労だった」
そう言った壮年の警察官が任命書を手渡す。

「本日付をもって、矢板范を警視庁巡査部長に任ずる」
右手そして左手を任命書の両脇に添え、手前に引き任命書を受け取る。

あの日、矢板さくらの跡を継ぐと決めてからずっとここで警察官としての教練を受け続けていたのだ。
無論、一般の警察官候補生達と一緒ではない。
飛鳥井による国家公安委員会の特別処遇による短期集中教練でありその厳しさは想像を絶していた。

そして・・・

「矢板巡査部長は、これより国家公安委員会に出頭し外事課より特命を受ける事」
警察組織らしい必要事項だけの通達である。

「はっ! 承知致しましたっ!」
敬礼する范、既に日本語も普通に使いこなせるようになっている。



国家公安委員会外事第二課――
「矢板范巡査部長、出頭致しました」
飛鳥井に対し10度の敬礼を行う范。

「よくやった、范・・・」
飛鳥井の眼にも優しい光が宿る。

「準キャリアとしての特務課程は全て終了した、そして帰化手続きも完了している」
「はいっ!」
「これから全都道府県警に通達が流れる、特務捜査員としてな」
(マンゴーさ・・・。矢板警部、范は貴方の跡を継ぎます、捜査員として・・・、ベティのケチャップのママとして・・・。どうか、見守って下さい)
万感の思いが范の胸に宿る。
きっと、マンゴローブも喜んでいる事であろう。

「これよりは、警視庁組織対策4課の所属となる。上官を紹介しておこう」
扉が開き、一人の青年が入室する。

「組織対策4課。陣内です」
(陣内さん・・・)
范の目に涙が溢れ、敬礼する。

「矢板范巡査部長、本日付をもって警視庁組織対策4課に配属されましたっ!」
黙ったまま、時間が流れた。

(矢板・・・、お前の意志を継いだ若者が二人も居る。安心して眠ってくれ・・・)
表情を崩さぬよう耐える飛鳥井であった。


「皆に紹介しておこう」
隼人が范を連れて警視庁へと戻り、組織対策4課へと向かう。

その時・・・

前方から金髪をなびかせながら歩いている女性がいた。

「あぁ、ミッシェル捜査官。新たに配置された捜査員を紹介します。矢板范巡査・・・」
隼人が紹介するよりも早く、向かい合った二人が反応した。

「OHッ! ハン、どうしてっ!?」
「ミ・・・、ミッシェルっ!?」
「そ・・・、そうか・・・」
范とミッシェルが同時にテルマエ学園に留学していた事を思い出す隼人。

互いに警察官とFBI捜査官として再開した范とミッシェル・・・
人目をはばかる事も忘れ、ハグし合う二人・・・
范にとっては、ここしばらく得る事の出来なかった心の平穏が訪れていた。



成田空港 国際線出発ロビー

三人の女性が語らっている。
一人は金髪でたどたどしい日本語。
もう一人は均整の取れた体つきにショートカット。
そして最後の一人は、長い黒髪が印象的な美女である。


「そう・・・。貴女が新しい捜査官」
「矢板范です」
無意識に10度の敬礼をする范。

「馬鹿ね、こんな所で敬礼なんてしたら・・・」
「あっ・・・っ!」
「全ク、范ラシイデス」
思わず顔を見合わせて笑う三人。

「私の任務は終わったから、ここで帰るけど・・・」
万莉亜の眼が涼しい光を放つ。

「何かあったら、いつでも呼びなさい」
「Thanks・・・、万莉亜」
「それと、范さん・・・」
「はい?」
「出来の悪い妹だけど、宜しくね」
「は・・・、はいっ!」
「だけど・・・」
万莉亜の顔が引き締まる。

「ドルゴ14はきっと手を引くと思うけど・・・」
「萬度ナラ、他の手段モ・・・」
「気を付けてね。二人とも」
そう言うと万莉亜・ブラッドレーは搭乗口へと向かった。


「Thank you for giving me a hand 万莉亜ッ!I will never forget」(手を貸してくれてありがとう、万莉亜。絶対に忘れないの意)
声を上げて叫ぶミッシェル。


「You never grow up」(いつまで経っても子供ねの意味)
背中越しに聞き、万莉亜が呟く。
(But I love you cute little sister)(でも、貴女の事が大好きよの意味)


万莉亜の心には、幼い頃のミッシェルの泣き顔が浮かんでいた。
そんな二人を見つめる范・・・

(信頼し合える相手か・・・)
寂し気に見えたのは気のせいではないだろう。
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