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第94話 陽動
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「いよいよか・・・」
久しぶりに出社した早瀬コンツェルンの本社ビル。
萬度からの襲撃を受け、負傷した洸児に変わって二月会の組員達がガードに付いている。
「常務・・・、いや。駆さん、今日は何か?」
受付で警備員が尋ねる。
「何も無いさ・・・。何も・・・」
軽く手を振りIDカードをかざすと、扉が開く。
「おい・・・。あれ・・・」
「駆さんじゃないか・・・」
「どうして・・・?」
すれ違う社員達が遠巻きに小声で話している。
(当然だな・・・)
自嘲気味に笑う駆。
萬度との勝手な取引、更には追い詰められた挙句に常務職を解任されたのは全社員の知る所である。
しかも、ここ暫くの間は所在不明となっていた駆がいかにも裏社会の者と分かる数人を引き連れて戻って来たとなれば邪推するのも当然だろう。
コンコンコン
「入れ」
総帥室のドアをノックすると、中から懐かしい父の声が聞こえる。
「失礼します」
室内に入ると、父・将一郎の他に飛鳥井と隼人の姿がある。
(国家公安委員会と警視庁組織対策4課か・・・)
「座りなさい」
将一郎の言葉に従いソファに座る駆。
「君達もご苦労だった。如月会長に宜しく伝えてくれ」
将一郎の言葉を聞き、黙って頷くと総帥室を出る二月会の組員達。
バタン
ドアが閉まった事を見届けた飛鳥井が口を開いた。
「駆さん、これからはこの陣内達が貴男をガードします」
駆と隼人の視線が交錯する。
「宜しく頼む・・・。いや、お願いします」
立ち上がり深く頭を下げる駆。
(ほう・・・。あの駆が・・・)
感慨深げにその姿を見る将一郎。
「準備は整っています。それでは・・・」
隼人が先導して歩き出す。
向かった先は、早瀬コンツェルンの大会議室である。
そこには・・・
「ご覧ください。早瀬コンツェルンの新総裁です」
数多のテレビ局や新聞社の取材陣が待機していた。
(奈美さん・・・。貴女を守れるなら・・・)
一瞬、下を向いた駆だが直ぐに顔を上げて壇上へと昇る。
「急な事にご対応を頂き有難う御座います」
駆の第一声にテレビカメラがズームし、フラッシュの嵐が巻き起こる。
(・・・もう、後戻りはできないっ!)
駆の顔に決意が感じられていた。
「コイツ、今頃ナニヲ・・・」
緊急会見を見ていた孫に憎々しい怒りが浮かぶ。
「そう言えば、テルマエ学園の買収の時もこんな感じだったよねぇ」
「・・・。黙ッテロッ!」
「おぉっ!怖ぁぁぁっ!」
おどけて肩を竦めて見せるヤミ。
だが、その目は笑っていない・・・
「今朝、緊急の取締役会を開催しました。満場一致で私が早瀬コンツェルンの総帥となります」
おおっ!と声が上がる。
「前総帥、将一郎氏はどうされたのですか?」
記者の質問が始まる。
「父は・・・、前任者は一身上の都合で退任致しました」
「ご病気ですか?」
「一身上の都合です」
「取締役会はいつ?」
「今朝から・・・。先程終わった所です」
「あまりにも急な交代ですが?」
「結果が全て・・・」
駆が大きく息を吸い込む。
そして・・・
「誰が何を言おうと、早瀬の総帥はこの私だ。それだけ分かって貰えれば良いっ!」
駆の迫力に圧倒される取材陣。
「こ・・・、今後の展開は・・・?」
質問した記者に向かって、駆がニヤリと笑う。
まるで、悪魔が微笑むように・・・
「良い質問だ・・・。早瀬コンツェルンの目指すものは・・・」
取材陣の視線が集まる。
「利益最優先、儲かるなら方法は問わないっ!」
ざわつく取材陣。
当然であろう、急な総帥の交代劇と大きな路線変更がはっきりと示されたのだ。
「先ずは・・・、某温泉地の再開発から始める。ある外国筋からの協力もあって・・・」
「某・・・、とは?」
「それを調べるのも、マスコミの仕事だろう?」
何かこれまでの駆とは違うどす黒いものが場を凍り付かせた。
「会見はこれまでっ! 俺と話したかったら、手土産持参で来いっ!」
吐き捨てるように言うと、駆は壇を降りさっさと退出する。
「待って下さいっ!」
「総帥っ!」
「某温泉とは、何処なんですかっ!?」
詰め寄ろうとする取材陣を振り切るようにして別室へと移動する駆。
「上出来だな・・・」
中継をモニターで見ている将一郎が呟いた。
「なかなか・・・。堂に入っていますな」
「茶化すな、飛鳥井」
「これで、どう動くか。『FoolsFesta』は始まった」
「サイは投げられた・・・か」
将一郎が受話器を取る。
そして・・・
TrrrTrrr
「渡か? 早瀬で大騒ぎが起きるが何も心配はない。駆の漢としての仕事を見届けてやってくれ・・・。詳しくは改めて」
そう言うと電話を切る将一郎。
「渡君、でしたか・・・」
「兄弟喧嘩の種は積んでおいてやろうと思ってな・・・」
飛鳥井の顔にも微笑が浮かんだ。
「ふうーん、こんな事になるなんてね・・・。伯父様もお人が悪い・・・」
中継を観ていた梨央音が呟く。
「いよいよ、始まったか・・・。駆さん、しっかりやりなよ」
洸児も呟く。
「さて、こちらも準備を始めるぞっ!」
早乙女の声に頷く竜馬と武蔵。
そして、【ぱんさー】のドアに一枚の紙が貼られた。
『しばらくの間、休業致します 店主』
久しぶりに出社した早瀬コンツェルンの本社ビル。
萬度からの襲撃を受け、負傷した洸児に変わって二月会の組員達がガードに付いている。
「常務・・・、いや。駆さん、今日は何か?」
受付で警備員が尋ねる。
「何も無いさ・・・。何も・・・」
軽く手を振りIDカードをかざすと、扉が開く。
「おい・・・。あれ・・・」
「駆さんじゃないか・・・」
「どうして・・・?」
すれ違う社員達が遠巻きに小声で話している。
(当然だな・・・)
自嘲気味に笑う駆。
萬度との勝手な取引、更には追い詰められた挙句に常務職を解任されたのは全社員の知る所である。
しかも、ここ暫くの間は所在不明となっていた駆がいかにも裏社会の者と分かる数人を引き連れて戻って来たとなれば邪推するのも当然だろう。
コンコンコン
「入れ」
総帥室のドアをノックすると、中から懐かしい父の声が聞こえる。
「失礼します」
室内に入ると、父・将一郎の他に飛鳥井と隼人の姿がある。
(国家公安委員会と警視庁組織対策4課か・・・)
「座りなさい」
将一郎の言葉に従いソファに座る駆。
「君達もご苦労だった。如月会長に宜しく伝えてくれ」
将一郎の言葉を聞き、黙って頷くと総帥室を出る二月会の組員達。
バタン
ドアが閉まった事を見届けた飛鳥井が口を開いた。
「駆さん、これからはこの陣内達が貴男をガードします」
駆と隼人の視線が交錯する。
「宜しく頼む・・・。いや、お願いします」
立ち上がり深く頭を下げる駆。
(ほう・・・。あの駆が・・・)
感慨深げにその姿を見る将一郎。
「準備は整っています。それでは・・・」
隼人が先導して歩き出す。
向かった先は、早瀬コンツェルンの大会議室である。
そこには・・・
「ご覧ください。早瀬コンツェルンの新総裁です」
数多のテレビ局や新聞社の取材陣が待機していた。
(奈美さん・・・。貴女を守れるなら・・・)
一瞬、下を向いた駆だが直ぐに顔を上げて壇上へと昇る。
「急な事にご対応を頂き有難う御座います」
駆の第一声にテレビカメラがズームし、フラッシュの嵐が巻き起こる。
(・・・もう、後戻りはできないっ!)
駆の顔に決意が感じられていた。
「コイツ、今頃ナニヲ・・・」
緊急会見を見ていた孫に憎々しい怒りが浮かぶ。
「そう言えば、テルマエ学園の買収の時もこんな感じだったよねぇ」
「・・・。黙ッテロッ!」
「おぉっ!怖ぁぁぁっ!」
おどけて肩を竦めて見せるヤミ。
だが、その目は笑っていない・・・
「今朝、緊急の取締役会を開催しました。満場一致で私が早瀬コンツェルンの総帥となります」
おおっ!と声が上がる。
「前総帥、将一郎氏はどうされたのですか?」
記者の質問が始まる。
「父は・・・、前任者は一身上の都合で退任致しました」
「ご病気ですか?」
「一身上の都合です」
「取締役会はいつ?」
「今朝から・・・。先程終わった所です」
「あまりにも急な交代ですが?」
「結果が全て・・・」
駆が大きく息を吸い込む。
そして・・・
「誰が何を言おうと、早瀬の総帥はこの私だ。それだけ分かって貰えれば良いっ!」
駆の迫力に圧倒される取材陣。
「こ・・・、今後の展開は・・・?」
質問した記者に向かって、駆がニヤリと笑う。
まるで、悪魔が微笑むように・・・
「良い質問だ・・・。早瀬コンツェルンの目指すものは・・・」
取材陣の視線が集まる。
「利益最優先、儲かるなら方法は問わないっ!」
ざわつく取材陣。
当然であろう、急な総帥の交代劇と大きな路線変更がはっきりと示されたのだ。
「先ずは・・・、某温泉地の再開発から始める。ある外国筋からの協力もあって・・・」
「某・・・、とは?」
「それを調べるのも、マスコミの仕事だろう?」
何かこれまでの駆とは違うどす黒いものが場を凍り付かせた。
「会見はこれまでっ! 俺と話したかったら、手土産持参で来いっ!」
吐き捨てるように言うと、駆は壇を降りさっさと退出する。
「待って下さいっ!」
「総帥っ!」
「某温泉とは、何処なんですかっ!?」
詰め寄ろうとする取材陣を振り切るようにして別室へと移動する駆。
「上出来だな・・・」
中継をモニターで見ている将一郎が呟いた。
「なかなか・・・。堂に入っていますな」
「茶化すな、飛鳥井」
「これで、どう動くか。『FoolsFesta』は始まった」
「サイは投げられた・・・か」
将一郎が受話器を取る。
そして・・・
TrrrTrrr
「渡か? 早瀬で大騒ぎが起きるが何も心配はない。駆の漢としての仕事を見届けてやってくれ・・・。詳しくは改めて」
そう言うと電話を切る将一郎。
「渡君、でしたか・・・」
「兄弟喧嘩の種は積んでおいてやろうと思ってな・・・」
飛鳥井の顔にも微笑が浮かんだ。
「ふうーん、こんな事になるなんてね・・・。伯父様もお人が悪い・・・」
中継を観ていた梨央音が呟く。
「いよいよ、始まったか・・・。駆さん、しっかりやりなよ」
洸児も呟く。
「さて、こちらも準備を始めるぞっ!」
早乙女の声に頷く竜馬と武蔵。
そして、【ぱんさー】のドアに一枚の紙が貼られた。
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