東京テルマエ学園

案 只野温泉 / 作・小説 和泉はじめ

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第93話 FoolsFesta

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時間は少し遡るーー

TrrrTrrr

隼人のスマホの着信音が鳴る。

(・・・、誰だ、この番号?)
表示された番号はこのスマホに登録されていない。

(しかし、この番号を知っているということは・・・)
「陣内ですが」
このスマホは警視庁組織対策4課のものである。
番号を知っているという事は、警察関係者であると思わざるを得ない。

「陣内さんか?」
「あぁ、そうだが。そちらは?」
「・・・如月だ」
「きっ・・・、如月だとっ!?」
新宿の雑居ビル事件の後、会う事も無かった二人だが・・・

「早瀬駆ガードの件では、怪我人を・・・」
「洸児の事か、あいつは頑丈なんでな・・・」
早瀬リージェンシーホテルのインペリアルルームで会った時の事を思い出す隼人。

(ヤクザにしておくのはもったいない漢だな・・・)
「ところで、何の用だ?」
「どうしてこの番号を知ってるのか・・・。とは聞かねぇのか?」
「どうせまともに答えないのだろう? 蛇の道は蛇とか言って・・・」
「まぁ、確かにな・・・。ところで・・・」
「・・・?」
「萬度を囲い込むんだろ」
「さぁ、何の事か・・・」
「とぼけても無駄だ・・・。今回は・・・」
「今回は・・・?」
「今回は手を貸してやる。・・・いや、やらせてくれ」
「おい・・・、いったい?」
萬度の襲撃事件で若頭の永井洸児が重傷を負った事は報告されている。
だが、警察機構にヤクザが協力を申し出る事など前代未聞である。

だが・・・

「少し・・・。時間をくれ」
「分かった。だが、こっちは全国に廻状を回した。いつでも、やれるぜ」
「後日、改めて」
そう言って電話を切る隼人。
端正な顔立ちには、苦悩の表情が浮かんでいる。
「少し、出かける。後は頼むぞ」
そう言って隼人は警視庁を出た。



リンリンリン
ドアベルが鳴る。

隼人が訪れたのは【ぱんさー】である。
「よう、どうした?」
竜馬が話しかけるが、隼人は黙って店奥へと視線を泳がせる。
何かがあったと感じる竜馬と早乙女。
「竜馬」
早乙女の短い言葉に意を察し頷いた竜馬はスッと動き表ドアの看板を『準備中』に裏返す。

「何かあったのか?」
店奥のテーブルを囲んで座る3人。
隼人は如月からの提案について話す。

「あの如月が・・・」
「俺達と共闘・・・」
「・・・怒り心頭ってところだろうな。全国に廻状を回したそうだ」
「隼人・・・。なぜこの話を俺達に?」
竜馬が口火を切る。

「確かに・・・。本来なら、飛鳥井を通すべき事だな」
早乙女も腕組みをして考え込む。

「飛鳥井課長を信頼していないのでは無いが・・・」
「マンゴローブの件か・・・」
「ハンの事もある」
「だが・・・」


リンリンリン
【ぱんさー】のドアベルが鳴る。

「すいません。まだ・・・」
入口へと向かった竜馬だが・・・
「飛鳥井さん・・・」
「陣内は来ているか?」
「飛鳥井・・・。どうして?」
「偶然だよ、早乙女。組対4課に行ったら、陣内が深刻な顔をして出て行ったと聞いたのでな・・・。ここだと思ったよ」
「飛鳥井課長・・・」
「話を聞こうか、陣内・・・」
「・・・、分かりました」


飛鳥井を交えて改めて如月の提案を放す隼人。
飛鳥井の判断は・・・

「非常にありがたい話だ。喜んで受けようじゃないか」
「おいっ、飛鳥井っ?」
早乙女も予想外だったようだ。

無論、竜馬も隼人も・・・

「端的に言おう。『FoolsFesta』を実行するにあたって最大の問題点が解消される」
「どういう意味ですか?」
竜馬も合点が行かないようだ。

「現在、我々が把握している萬度の拠点は都区内に16ケ所ある。更に近郊の関東エリアとなると、100ケ所を超える」
「そんなに・・・」
驚く竜馬。

「孫の身が危ないとなれば、アチコチで萬度やその関係が動く。そうなると・・・」
「暴動か・・・」
「そう言う事だ」
飛鳥井が静かに話し続ける。

「無論、我々も警察機構で可能な限りの抑え込みを行うつもりだが・・・」
「絶対数が足りない・・・」
「しかもその時点で奴らは、罪を犯している訳ではない」
「国家公安委員会もそうそう表立って動けぬし、警察官とて無尽蔵ではない。これは、早乙女の所も、大友君の所でも同じ事だろう」
「だからと言ってっ!」
隼人がテーブルに両手を叩きつけながら立ち上がる。

「隼人っ!」
飛鳥井に掴み掛かりそうになる隼人を諫める竜馬。

「陣内・・・。言った筈だ。私はこの国を守る為なら、鬼にでも悪魔にでもなるとなっ!」
「くっっっっ!」
「新宿雑居ビル乱闘事件・平泉萌狙撃事件・早瀬リージェシーホテルの襲撃・・・。もはや奴らの行動を看過する訳にはいかない」
「陣内君、君もそうするしかないと思っていたからここに来たんだろう」
早乙女が労わるように話しかける。

「分かっている・・・。つもりです」
一瞬の沈黙が流れた。

「話はついたな。早乙女、各部署に連絡を頼む」
「分かった。飛鳥井、お前は?」
「私にも仕事があるのでな・・・」
そういうと飛鳥井は【ぱんさー】を後にした。



翌日、国家公安委員長名での特令が極秘に発布されたのである。

その内容は、二月会及びこれと同系列の組織により萬度及びその関連団体の行動を抑制する事を容認する。その行動の抑制に当たっては逮捕権を有しないが、手法及び必要備品の使用は超法規的措置により国内法の適用を除外するというものであった。


「つまり・・・」
「チャカぶら下げてようが、撃とうが問題なしって事・・・」
「あり得ねぇと思ってたが・・・」
二月会の事務所に集まった各地の組長たちが話している。

(フッ、やってくれるじゃねぇか。あの野郎・・・)
満足気な笑みを浮かべる如月。

アイドル甲子園と時を同じくして、かつて例のない大規模な一大作戦 『FoolsFesta』もその開始の時を迎えようとしていた。



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