東京テルマエ学園

案 只野温泉 / 作・小説 和泉はじめ

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第90話 七瀬開花!

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「それでは、【ムーラン・ルージュ】の皆さんです! 今回は平泉萌さんが入院中の為、7人でのステージとなります。平泉さんもテレビの前で応援して下さっている事でしょう。さて、今回はどんな演出を見せてくれるのでしようかっ!」

三波の紹介の後、幕がゆっくりと上がって行くーー

そして・・・

「おおっ!」
観客席かにどよめきの声が上がった。

西京大学病院でテレビ中継を観ていた萌も思わず声を上げる。
「こっ・・・! これって・・・!」

ギリシャ神話をモチーフにした舞台、パルテノン神殿のセットに純白の長いローブのような衣装を身に纏った4人の姿がある。


「これって・・・、まさか・・・」
【Konamon18】も揃って目を見張っている。

「こんな手で来おるとは・・・。侮れんかったか・・・」
めいの視線が舞台を真っ直ぐに見据えていた。

「他の3人はどこでしょう?」
すずが岩田に話しかける。
「よく分からないが・・・。もしかしたら、あの娘達・・・。とんでもない事をしでかすぞ!」
ゴクリと唾を飲み込むすず、そして演技が始まった。


「困ったものだ。また、ゼウスの気まぐれが始まった・・・。なぁ、アトラス?」
プライムカラーのウィッグを付けたアキが両腕を組む。

「全くだ、アポロン。最も魅力的な女神を一人選べなど・・・」
メープルカラーのウィッグを付けた穂波がウロウロと歩き回っている。

「ディオニュッソスよ、女神の甲乙を付ける事など出来ると思うか?」
アプリコットオレンジカラーのウイッグを付けた圭が両手を大きく広げて天を仰ぐ。

「まったくだ、ヘパイストスよ。我らはどうすれば良いのだ・・・」
ミルキーグリーンカラーのウィッグを付けた涼香が頭を抱えて座り込む。


舞台が暗転し、3人の女神達が現れる。

「さっきの4人・・・。あの娘達ですよね?」
すずはアキ達4人が男性に見えていたのだ。

「あぁ、俺にも男・・・神に見えていた・・・」
「こんな事が出来るのは・・・」
「堀塚っ!」
すずと岩田が互いを顔を見合わせていた。


「これは・・・。本当に大化けするかも知れねぇ・・・」
モニターを見ている三橋、御守りを握る手にもつい力が入る。


「一番魅力的な女神、私をおいて他にはいないわ」
ライトゴールドカラーのウイッグを付けた優奈がウエーブのかかったロングヘア―をかき上げる仕草が艶っぽい。

「アフロディーテ、貴女が選ばれる事など無いわ。」
ラベンダーカラーのウイッグを付けた七瀬。
ストレートロングの髪が風になびく姿はこの上なく清楚である。
演技も人目を引き、神々しさを感じさせる。

「アルテミスも何をっ! 選ばれるのはこのアテナっ!」
蠱惑的なショートのミルキーピンクカラーウィッグを付けた汐音が張りのある声を聞かせる。


「なるほど・・・。良い演出だ」
客席の神酒が呟く。

「アフロディーテは赤バラ・アルテミスは青バラ・アテナは黄バラに例えられ誰を選ぶのかを捧げるバラの華で決する。3人の女神があの手この手で誘惑するか・・・」
「時にはライバルの陰口を吹聴、時には積極的な誘惑・・・。説明されずとも役柄とともに頭の中に流れ込んでくるとは・・・。なかなかのモノだな」
ここに限っては、晶も同意見のようだ。

事実、観客は皆が舞台の演技に引き込まれている。

(何やのん・・・。これ・・・)
舞台袖の【Konamon18】もアキ達の演技に引き込まれていた。

そして、物語は進み・・・

いよいよ、最も魅力的な女神を選ぶシーンとなった。
ヘパイストスは、青バラ(アルテミス)・ディニュッソスは、赤バラ(アフロディーテ)・アトラスは、黄バラ(アテナ)を投じる。

残るはアポロンのみーー
アポロンの投じるバラの色によって全てが決するのだ。

急に地上から天へと駆けあがるようなBGMが鳴り出し、アキ達はマイクを持つ。

♬潮風纏う 神殿に 集まり集う 女神たち
美しさを 競いながら 一つの愛を 求めあう
だけども 真実の愛は逃げてく
追えば追うほど 遠く離れる
バラの花は それぞれ違い バラの花は 気高く咲く♬

(上手い・・・)
観客の誰もがそう感じていた。

ストーリー展開でシリアスな雰囲気になっていた所を歌で一気に盛り上げたのだ。

(流石、堀塚だな・・・。観客の心理までコントロールしている・・・)
葵も舞台袖で満足気な笑みを浮かべている。

その反対側では、早くも【Konamon18】の顔が引きつり始めていた。

「ひな・・・、あれって・・・」
「あいつら、堀塚を味方に付けたんか・・・。しずく、これはヤバイで・・・」
「堀塚って・・・、あの?」
「うらら、見てみい。観客の目線が全部持ってかれてる」
「ヤバいのは分かるわ・・・。めい・・・」
そして、舞台は後半戦へと向かって行く。


舞台では演技が再開される。
天井は黒雲に覆われた天空をイメージした垂れ幕が掛かっており、3人の女神がアポロンの下へと寄り添う。

「アポロン、双子として生まれたこのアルテミスの兄よ。貴男は当然、私を選んで下さるわね?」
七瀬がアキに寄り添う。

(えっ!?)
七瀬の演技にドキリとするアキ。

「アポロン、幼馴染のこのアフロディーテ。貴男が姉の様に慕った私を選ぶのは当然」
七瀬と入れ替わりにアキに寄り添う優奈。

「アポロン、幼き頃より互いに剣を交え切磋琢磨したこのアテナを選ぶのだ」
優奈の後に汐音がアキに寄り添う。

暫くの沈黙・・・

立ち上がったアポロンは3人の女神へと視線を巡らせ、スっと花壇へと向かい白いバラを手折る。

「アポロンっ!?」
「一体っ!?」
「何をっ!?」
アトラス・ヘパイストス・ディオニュッソスが取り乱し口々に叫ぶ。

「私には選ぶ事など、出来はしない」
改めて3人を順に見つめるアポロン。

そして・・・

「アフロディーテ、アテナ。そしてアルテミス・・・。競い合って何になるというのだ」
ハッとする3人の女神達。

「私にとって誰もが素晴らしい女神なのだから」
男神の3人も項垂れる。

幾らゼウスら踊らされたとはいえ、相手を陥れてまで自分が選ばれたいと思った事を恥じ入る女神達。

そして、アポロンが天空へと向かって叫ぶ。

「大神ゼウスよ、戯れもほどほどに為されよ。このアポロン、正義と真実の名の下に物申すっ!」
すると、天空の黒雲が消えまばゆい光が差し込んできた。

「お分かり頂けたか、父ゼウスよっ!」
舞台には一面に赤・青・黄のバラが数多の大輪を開かせ、再び天へと駆け上がるようなBGMが流れ、アキ達がマイクを持つ。

♬天空の 星座さえ いずれは消える 定めだろう
地上に咲いた 花ならば 更に短い 時間だろう
それでも 真実の愛を求めて
命を燃やして 咲き続ける
バラの花は それぞれ違い バラの花は 気高く咲く

真実の愛は その目に見えない 
心で感じて 愛する今でも
バラの花は 競って咲いて バラの花は 気高く散る♬

「エルキスティコス トゥリアンダフィロ (美しきバラよ の意)」

アキ(アポロン)の台詞で【ムーラン・ルージュ】演目は終了した。


一瞬の間の後・・・

「凄い、凄いぞぉぉぉぉっ!」
「最高だっ! こんなの見た事ないっ!」
「ブラボォォォォッ!」
「ムーラン・ルージュ、バンザァァァァイッ!」
会場が熱狂し大渦のような拍手が巻き起こった。


「すげえ・・・。俺の予想を遥かに超えてやがる・・・」
三橋は御守りを握りしめたまま立ち尽くしていた。


一方、堀塚音楽スクール理事長室――

特設された大型スクリーンの前でシュシュ・ラピーヌの4人が固唾を飲んでムーラン・ルージュの舞台を見守っていた。

「やりましたわねっ! アキお姉様っ! 七瀬お姉様は、まるでアルテミスが乗りうつったかのようでしたわ」
舞香の頬を感涙が流れる。

「お姉様方・・・。お見事な女神を演じられましたよっ!」
礼華も感無量のようだ。

「男神のお姉様方も、稽古の時以上の出来栄えですっ!」
澄佳は手を叩き続けている。

「萌お姉様もきっと・・・」
穂加は感極まって言葉が出てこない。

そんなシュシュ・ラピーヌを梨央音は慈愛の笑みを浮かべて見つめている。

(ムーラン・ルージュの成功は、偏に貴女達がいたからこそ・・・。よくやりましたね。舞香・礼華・澄佳・穂加・・・)
それを後ろで見守っていた高等部生達も一歩成長した舞香達に温かい拍手を送り見つめていた。


(しかし・・・。あのアルテミス役をここまで演じるなんて・・・)
高等部生達の視線が梨央音へと向いた。

(星野七瀬・・・。舞香の言う以上のようね。 輝く宝石のような娘、何としても・・・)
梨央音の微笑は何を意味していたのであろうか。



「何だよ・・・。皆、こんなのズルいよ・・・。でも、良かった・・・」
一人病室で中継を観ていた萌も目を赤く腫らしていた。
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