東京テルマエ学園

案 只野温泉 / 作・小説 和泉はじめ

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第88話 宿命の準決勝

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アイドル甲子園準決勝当日。
東京・新国立劇場のバックヤードではーー

【ムーラン・ルージュ】のメンバーが、【パルテノン・ローズ】の衣装を身に着けて控室へと向かって歩きながら口々に喋っている。


「いよいよ、準決勝かぁ・・・」
「何か、緊張する」
「やるだけの事はやったよ」
各々が互いに不安を抱えながらもそれを跳ね返そうと鼓舞し合っている。

その前方から、5人の美少女達が歩いて来た。
ナチスドイツ風の軍服をアレンジし、アーミーベレーを被った【Konamon18】である。
かなり自信を持ち余裕があるのだろう、5人ともが軽い笑みを浮かべている。


「あんたらが【ムーラン・ルージュ】やな? うちは【Konamon18】のリーダー、紅しょうが・ひなや。よろしゅうな」
アキ達に直前まで近寄った美少女達の中央にいたひなが足を止め両腕を組んで話しかける。

「わたし、【ムーラン・ルージュ】リーダーの温水アキです。よろしく・・・」
アキは右手を差し出す、だがひなは両腕を組んだまま崩さない。

【ムーラン・ルージュ】と【Konamon18】の間の空気が凍るーー

「あんたら、東京代表らしいけど・・・。皆が地方の出身なんやてなぁ」
ひなの言葉に合わせるように【Konamon18】のメンバーがアキ達に冷ややかな視線を送る。

「うちら、大阪の看板背負ってるんや! あんたらには負けへんっ!」
「早う、帰る準備しといた方がええんとちゃう?」
「そやな、時間は大事やし」
「負けると分かってるんやから、可愛そうやで」
めい。かえで・しずく・うららが次々と挑発的な言葉をかけて来る。

「・・・言いたい事は、それだけ?」
今までのアキであれば、押し黙ってしまうか激情して反論していただろうか。

(今までの・・・)
(アキとは・・・)
(違う・・・)
(わたし達も・・・)
【シュシュ・ラピーヌ】の特訓はアキ達の技量だけでなく、精神面も強く鍛え上げていたようである。

「わたし達は負けないっ! 例え、相手が誰であっても!」
アキの声が廊下に響いた。

(こいつ・・・。まるっきり別人に見える・・・)
アキの語気に怯むめい・・・
中継画像で見たアキとは違う異質なモノを感じているようだ。

「い・・・、威勢がええのは大歓迎や、楽しみにしてるで」
「わたし達も皆、背負ってるモノがあるの。だから・・・、負けない!」
アキの言葉に【ムーラン・ルージュ】の全員も頷く。

ゾクリ・・・

(何や・・・、今の?)
その時、なぜだか分からないが、ひなの背筋に悪寒が走った。

「どしたん? ひな?」
ひなの顔が青ざめている事に気付いためいが尋ねる。

「何か・・・、このへんがゾワゾワしたんや・・・」
両肩を両腕で抱えて身震いしている。

「ひな、風邪でも引いたんちゃう?」
うららが笑いながら言う。

「いっつも、お腹出して寝てるからやで」
しずくが笑いながら相槌を打った。

「そんなんと・・・。ちゃうわ・・・」
(何やったんや、今の悪寒? こんなん初めてや・・・)
これから何かが起こる予兆を感じるひなであった。



【Konamon18】が進む廊下の先にうごめく黒い影が二つあった。
物陰に身を潜め、【Konamon18】通りかかるのをひたすら待ち続けている・・・


「でも、なんか軽い衣装やったなぁ。あの娘ら」
「しょせん、ハリボテや、ネタが尽きたんちゃうか」
ケラケラと笑うしずくとうらら。

「白い布切れに、けったいな色のウイッグやったし」
「まして、一人足れへんらしいしな」
めいとかえでも同調している。

「まぁ、うちらが気にする事はないわ」
大声で笑うひな達。


「ひなちゃーん!」
まるで計ったかのような絶妙のタイミングで二つの影はひな達の前に飛び出る。

「めいちゃん! しずくちゃん!感激ですぅっ!」
「ガチリアルやぁ、うららちゃん!かえでちゃん!」
飛び出した二つの影、正体は八郎と二郎である。

「わい、【Konamon18】の大ファンやねん! ファンクラブもプレミアランクやでぇ!」
大騒ぎしながら、八郎は手に持った紙バッグから、両手に鷲掴みしたCDを取り出す。

「ほら、CDも10枚買うたでえ~! 右手と左手で握手してぇなぁ!」
握手券付きの限定CDを振りかざし、ニヤニヤ・ヘラヘラと笑う八郎。

「僕も5枚、買いましたよ~」
二郎も必死にアピールしている。

「おおきにぃ」
営業スマイルを顔中に綻ばせ、次々と握手をしていくひな達。
八郎と二郎は握手された両手をさも大切そうに見つめている。

「頑張ってやぁっ!」
「応援してますよぉっ!」
八郎と二郎の熱い視線を背中に受けながら立ち去る【Konamon18】のメンバー。



「おい、二郎・・・」
「なんですか? 師匠?」
「わい、今日は手を洗わへんで」
「僕もです・・・」
「せやけど・・・」
「はい?」
「アキちゃんらにも勝って欲しいし・・・」
「ですよね・・・」
「あぁ、なんで世の中っちゅうのはこんなに無情なんやろ・・・」
いや、君達の場合は単に節操が無いだけではないだろうか・・・



「えらい、濃いキャラやったなぁ」
うららがため息を付いた。

「ファンって言うてたけど・・・。あの子等、テルマエ学園の制服着てたんとちゃう?」
しずくが思い出すように話す。

「どこにでも、裏切りモンはおるってことや」
かえでが笑い、めいが応じた。

「まぁ、ファンは大事にしようや」
メンバー4人のやり取りを聞いていたひながひとりクスクスと笑いだした。

そして・・・

「さーて、行くでっ!」

【Konamon18】が舞台袖へと到着した。

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