東京テルマエ学園

案 只野温泉 / 作・小説 和泉はじめ

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第84話 試練、そして・・・

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発声の練習から演技のステップなど次々と休む間も無くレッスンは続けられた。

途中、数分の休憩はあるものの夕暮れになっても続けられるレッスンにアキ達は汗だくになり、喉もカラカラに乾いている。
それほどまでに【シュシュ・ラピーヌ】の指導は厳しいものであった。

「三波さんの発声練習が小学生の遊びに思えて来たよ・・・」
七瀬がつい口に出す。

「弾先生の京舞踊、今思ったら楽だったぁ・・・」
汐音も同じようだ。

これまでに経験した様々なレクチャーなど、全てが児戯に思える激しさと厳しさである。

「アキお姉様っ!腕の角度は45度っ!」
「汐音お姉様っ!目線は下っ!」
「七瀬お姉様っ!もっと優雅にっ!」
舞香・澄佳・穂加・礼華、皆が別人になったような鋭い視線で見つめている。

パンバンッ!

舞香が手を叩く。

「お姉様方っ! 少し休憩を・・・。5分間ですっ!」
アキ達は吹き出した汗をタオルで拭い、スポーツドリンクを飲み干す。
そして、すぐにレッスン再開である。

「圭お姉様っ!足を上げすぎっ!」
「優奈お姉様っ!顔が強張ってるっ!」
「涼香お姉様っ!叫ばないで囁くように発声をっ!」
「穂波お姉様っ!もっと華麗にっ!」
次々と怒声が飛び交い、アキ達も舞香達も肩で息を切っている。

(かなりへばって来たな・・・。そろそろ限界か・・・)
座り込むアキ達を見て、葵も仏心が湧いてきたようだ。

「まだ、終わってませんっ! お姉様方っ、立って下さいっ!」
舞香の怒声が再び飛ぶ、その舞香達も既にヘトヘトなのが見て取れる。

アキ達も舞香達がそれほど迄に自分達の為にしてくれている事を感じ、諦めようとする者・愚痴を言う者は誰も居ない。

「今日は初日だ。この位にしておいてはどうだ?」
流石に葵も見かねて口を出そうとする・・・

「今日のレッスンを終えない限り、ご飯もお風呂もっ! 睡眠も有りませんっ!」
はっきりと言い切る澄佳に二の句が継げなくなる葵。

「先生っ!わたし達、ここで生まれ変わるんですっ!」
荒い息をしながら、アキが言った。

「今までみたいに甘えていたら・・・」
「準決勝は勝てませんから・・・」
圭と汐音がアキに続いた。

そして、皆も大きく頷く。


(皆、きばってや・・・。その努力、絶対に報われるよってな・・・)
廊下の陰からレッスン風景を見守る弾の姿には、誰も気づいてはいなかった。


月が頭上に見える頃、自分達も声が枯れ、Tシャツが汗で肌にへばりついていた舞香が手を叩いた。
舞香の横に澄佳と礼華、穂加も並ぶ。

「お疲れ様でしたっ! お姉様方っ! 今日はここ迄ですっ!」
舞香達が一斉に頭を下げる。

「終わった・・・」
「やったぁっ!」
「やれば・・・、出来るってかぁ・・・」
疲れきったアキ達はその場に座り込んだ。

「生意気言って、申し訳ありませんでした」
舞香がアキへと歩み寄る。

「ううん、ありがとう。わたし達の為にここまで真剣になってくれて・・・」
七瀬達も礼華達と語り合っている。

(まぁ、戦友と言えなくもないか・・・)
葵の目にもいつの間にか涙が浮かんでいる。

「よし、今日はここまでだ。明日に備えてしっかり食べて、風呂に入って寝るぞっ!」
「はいっ!」
葵の言葉に応えるアキ達。

「あの・・・。明日ですが・・・」
澄佳が遠慮がちに手を挙げる。

「何だ?」
「葵先生も、6時起床で6時半から立ち合いでお願いしますね」
「あ・・・・」
舞香の言葉に一瞬たじろぐ葵。

「当然じゃーん! ねっ、せんせっ!」
悪戯っぽい笑みを浮かべて、穂波が言った。

「と・・・、当然だ。うちは担任で顧問なんだから・・・」
「ついでに・・・。男子も・・・ね?」
ちらりと廊下を指さす圭・・・

「聞いての通りだ、分かったなっ! 大塩っ!」
扉を挟んだ廊下から、八郎と二郎の叫び声が聞こえた。

その横で笑っていたのは、渡とカトリーナの声であっただろうか。

その夜、昨晩と同じように舞香達と一緒に入浴したアキ達。
舞香達もレッスンの時とは全く違う、中学生の少女達に戻っていたのだった。



「時は来た・・・。ゆかり、弾と如月を呼べ」
「承知しました・・・」
テルマエ学園の上空に分厚く黒い雲が圧し掛かるように広がっていた。
(ついに・・・。動くの・・・?)

RrrrRrrr

「何だ、橘か・・・。俺はちょっと忙しいんだが、急ぎか?」
「学園長がお呼びです。至急、テルマエ学園へ」
「チッ、仕方ねぇ・・・」
「それと、正門からの出入りは今後禁止します。裏門から学園長室への直通ルートを使いなさい」
(何だ? いつもの橘と全く違う感じがする。何があったんだ・・・)
ゆかりの態度の変わりようを勘ぐる如月。

「・・・。分かった」
電話を切る如月。

「おいっ、出かけるぞ! テルマエ学園だっ!」

RrrrRrrr

「はい」
「弾、直ぐに学園長室へ」
「何か?」
「質問は許されません。直ちにっ!」
「分かりました・・・」
(急に・・・、何があったんだ・・・)
学園長室へと向かう弾、外は強い雨が降り始めていた。


「降り出しやがったな」
如月はテルマエ学園へと向かう車の後部座席で考える。

(あの橘の雰囲気・・・、ただ事じゃねぇ。松永弾との事か・・・? ミネルヴァが噛んでいるとなると・・・)
「会長、裏門ですよね?」
運転席の組員が確認の為に如月に話しかける。

「あぁ、そうだ」
(正門から入るなって事も、気に掛かる・・・)
次第に雨は強くなり、時折 ゴロゴロと雷の音が聞こえ始めていた。


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