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第81話 4人の少女達
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萌の見舞いを終えた舞香達とアキ達がテルマエ学園に戻った頃には日も暮れていた。
「ご苦労だったな。皆、お腹も空いたんじゃないか?」
出迎えた葵が舞香達を食堂へと案内する。
「ここは和・洋・中、なんでも揃っている。好きなだけ食べてくれ!」
「わぁっ!」
「すっごおぉぉぉぃっ!」
テーブルに並べられてる色とりどりのメニューから湯気が立ち昇り、シェフ達の作りたて料理が次々と運ばれてくる。
豪華絢爛そのものであり、美味しそうな香りが鼻腔をくすぐる。
「おいしい。おいしい」と次々に皿に取り平らげていく舞香達。
「やはり、まだ中学生・・・。食べ盛りか・・・」
アキ達とお喋りをしながら食事を進める舞香達を見る葵の表情も緩む。
だが、出て来る料理を次々と平らげていたのは他ならぬ葵であった。
もっとも成長期なのは、葵なのではないだろうか・・・
食事が終わり一息つくと、各々が個室で軽装に着替え、葵の呼びかけで大浴場へと集まる。
制服から着替えた舞香達もTシャツと半パン姿で現れた。
半パンからスラリと伸びた長い脚は、小鹿を彷彿させる。
「うわっ! 皆、脚ほっそっ!」
汐音は羨ましそうな視線を送り続ける。
「背・・・、高っか!」
しげしげと見つめる優奈。
「お姉様方・・・。そんなに見つめないで下さい・・・」
舞台の上での凛々しさとは全く違う正反対な恥じらい・・・
普通の中学生の少女達の姿がそこにあった。
ガラッと、勢いをつけて葵が大浴場の扉を開く。
「うわぁ、素敵・・・」
「ひ・・・、広い・・・」
舞香達が目を見張る。
「うちが一番乗りや~」
葵が、いの一番に浴槽へと飛び込む。
アキ達も脱衣場から浴場へと入ろうとするが、舞香達はじっとしたまま一向に入ろうとしない。
「どうしたの?」
七瀬が舞香達に歩み寄る。
「早く、入ろっ!」
圭も声を掛けが、舞香達は静かに首を横に振る。
「お姉様方を差し置いて、私達が先に湯舟を頂く訳には参りません!」
キッパリと言い切る舞香。
(この娘たち・・・)
しっかりとした上下関係の世界で育ってきたのだと改めて思うアキ。
「ここは、テルマエ学園だ。堀塚音楽スクールじゃない、遠慮は無用だ」
いつの間にか湯舟から上がって来た葵が優しく語り掛ける。
おずおずとしながら、互いの顔を見合わせる舞香達。
そして、はにかみながらもニッコリと笑顔を見せる。
「はいっ! ありがとうございます、松永先生っ!」
その後は背中の流し合いや洗い合いなど親睦を深めた【ムーラン・ルージュ】と【シュシュ・ラピーヌ】のメンバーであった。
「よーし、これから【シュシュ・ラピーヌ】の歓迎パーティを始めるぞ!」
この葵の一言で急遽、大広間での枕投げ大会が開催されたのだった。
最初は戸惑っていた舞香達も途中からは、大声で叫びながら枕投げに夢中になる。
「お姉様方っ! 明日からは厳しく指導させて頂きますっ!」
舞香の投げた枕が、圭の顔面を捉える。
「遠慮無しでガンガン来てよっ!」
「覚悟しておいてくださいねっ!」
穂加と涼香が互いに枕を持ったまま対峙している。
「お手柔らかにねっ!」
皆が頷きあう時間が流れていた。
大広間の外では、弾とゆかりが静かに様子を伺っていた。
「葵・・・、【シュシュ・ラピーヌ】と上手くやってるみたいね」
ゆかりが呟き、弾が応える。
「昔っから年下に好かれよる。心配せんでも大丈夫や」
ゆかりは弾と異母姉弟であった事を知ってから、敢えて互いに素っ気ない態度を取りづけている。
「葵には俺らの事も如月の事も、まして学園長との関係も知らさへん。あんたも、葵に言うな・・・。温水アキとの事もや・・・、ええなっ!」
悪鬼が乗り移ったかの如き形相でゆかりに言い放つ弾。
「そんなに葵が心配? 葵も幸せ者ね・・・。(弾、いずれ分かる事だけど私は貴男の姉なのよ・・・。同じ学園長の血を引く・・・) 葵には、松永流の4代目としてこの学園を去って貰う・・・。それまでは安泰よ・・・」
寂しそうな表情と哀し気な瞳を弾に向けてゆかりはその場を離れる。
今まで孤独であったゆかりにとって、腹違いとはいえ兄・妹・弟が居た事を心のどこかで喜んでいたのかも知れない。
(橘はん・・・?)
ゆかりが一瞬見せた表情の意味は、まだ弾には理解する術は無かったであろう。
「何で、わいらは別口なんやろ・・・」
八郎がぼやいている。
【シュシュ・ラピーヌ】の到着の後、萌の見舞いからまったく彼女達との関わりが閉ざされた事に不満の様である。
「お前じゃ、毒気が強すぎるからなぁ」
「人を猛獣みたいに言わんといてや」
「まぁ、師匠。ここは落ち着いて・・・」
男三人が寂しく過ごす教室を覗いたカトリーナが軽く笑いを零していた。
大広間では枕投げの熱戦が続いてた。
「葵先生みたいな人が担任だったら良かったなぁ・・・」
礼華が葵の側に座って呟く。
「堀塚では担任とか無いのか?」
「堀塚では、学園のルールとかしきたりを全てお姉様から教わります」
「授業とかはどうしてるんだ?」
「一般教養だけは、普通の教室で教わりますが・・・」
いつの間にか穂加も隣に座っている。
「そうか・・・。大変なんだな・・・」
ふと、自分の子供の頃を思い出す葵。
(うちも・・・、京舞踊しか、させて貰われへんかった。この娘らも・・・)
「学校って・・・。こんな感じなんですか?」
澄佳も何か寂し気な視線を見せた・・・
「皆っ! よしなさいっ!」
情緒不安定になりかけている三人に舞香がビシャリと言う。
思わず黙り込む3人・・・
(一番苦労しているのはこいつか・・・)
「よしっ、今日は枕投げでしっかりと日頃のうっぷんを晴らせっ! うちも遠慮しないぞっ!」
そう言って改めて枕を持ち投げつける葵。
ホッとしたような表情の舞香、リーダーとしての重圧から解放された一瞬であった。
穂加も礼華も澄佳も笑顔に戻って枕投げに興じていた。
これまでとは違った世界ではしゃぐ舞香達・・・
緊張の糸がほぐれたのか、はしゃぎすぎて疲れたのか、いつのまにかスヤスヤと眠りについている。
今夜ばかりは、と葵やアキ達も大広間で雑魚寝する事に・・・
皆、どのような夢を見ているのであろうか・・・
「ご苦労だったな。皆、お腹も空いたんじゃないか?」
出迎えた葵が舞香達を食堂へと案内する。
「ここは和・洋・中、なんでも揃っている。好きなだけ食べてくれ!」
「わぁっ!」
「すっごおぉぉぉぃっ!」
テーブルに並べられてる色とりどりのメニューから湯気が立ち昇り、シェフ達の作りたて料理が次々と運ばれてくる。
豪華絢爛そのものであり、美味しそうな香りが鼻腔をくすぐる。
「おいしい。おいしい」と次々に皿に取り平らげていく舞香達。
「やはり、まだ中学生・・・。食べ盛りか・・・」
アキ達とお喋りをしながら食事を進める舞香達を見る葵の表情も緩む。
だが、出て来る料理を次々と平らげていたのは他ならぬ葵であった。
もっとも成長期なのは、葵なのではないだろうか・・・
食事が終わり一息つくと、各々が個室で軽装に着替え、葵の呼びかけで大浴場へと集まる。
制服から着替えた舞香達もTシャツと半パン姿で現れた。
半パンからスラリと伸びた長い脚は、小鹿を彷彿させる。
「うわっ! 皆、脚ほっそっ!」
汐音は羨ましそうな視線を送り続ける。
「背・・・、高っか!」
しげしげと見つめる優奈。
「お姉様方・・・。そんなに見つめないで下さい・・・」
舞台の上での凛々しさとは全く違う正反対な恥じらい・・・
普通の中学生の少女達の姿がそこにあった。
ガラッと、勢いをつけて葵が大浴場の扉を開く。
「うわぁ、素敵・・・」
「ひ・・・、広い・・・」
舞香達が目を見張る。
「うちが一番乗りや~」
葵が、いの一番に浴槽へと飛び込む。
アキ達も脱衣場から浴場へと入ろうとするが、舞香達はじっとしたまま一向に入ろうとしない。
「どうしたの?」
七瀬が舞香達に歩み寄る。
「早く、入ろっ!」
圭も声を掛けが、舞香達は静かに首を横に振る。
「お姉様方を差し置いて、私達が先に湯舟を頂く訳には参りません!」
キッパリと言い切る舞香。
(この娘たち・・・)
しっかりとした上下関係の世界で育ってきたのだと改めて思うアキ。
「ここは、テルマエ学園だ。堀塚音楽スクールじゃない、遠慮は無用だ」
いつの間にか湯舟から上がって来た葵が優しく語り掛ける。
おずおずとしながら、互いの顔を見合わせる舞香達。
そして、はにかみながらもニッコリと笑顔を見せる。
「はいっ! ありがとうございます、松永先生っ!」
その後は背中の流し合いや洗い合いなど親睦を深めた【ムーラン・ルージュ】と【シュシュ・ラピーヌ】のメンバーであった。
「よーし、これから【シュシュ・ラピーヌ】の歓迎パーティを始めるぞ!」
この葵の一言で急遽、大広間での枕投げ大会が開催されたのだった。
最初は戸惑っていた舞香達も途中からは、大声で叫びながら枕投げに夢中になる。
「お姉様方っ! 明日からは厳しく指導させて頂きますっ!」
舞香の投げた枕が、圭の顔面を捉える。
「遠慮無しでガンガン来てよっ!」
「覚悟しておいてくださいねっ!」
穂加と涼香が互いに枕を持ったまま対峙している。
「お手柔らかにねっ!」
皆が頷きあう時間が流れていた。
大広間の外では、弾とゆかりが静かに様子を伺っていた。
「葵・・・、【シュシュ・ラピーヌ】と上手くやってるみたいね」
ゆかりが呟き、弾が応える。
「昔っから年下に好かれよる。心配せんでも大丈夫や」
ゆかりは弾と異母姉弟であった事を知ってから、敢えて互いに素っ気ない態度を取りづけている。
「葵には俺らの事も如月の事も、まして学園長との関係も知らさへん。あんたも、葵に言うな・・・。温水アキとの事もや・・・、ええなっ!」
悪鬼が乗り移ったかの如き形相でゆかりに言い放つ弾。
「そんなに葵が心配? 葵も幸せ者ね・・・。(弾、いずれ分かる事だけど私は貴男の姉なのよ・・・。同じ学園長の血を引く・・・) 葵には、松永流の4代目としてこの学園を去って貰う・・・。それまでは安泰よ・・・」
寂しそうな表情と哀し気な瞳を弾に向けてゆかりはその場を離れる。
今まで孤独であったゆかりにとって、腹違いとはいえ兄・妹・弟が居た事を心のどこかで喜んでいたのかも知れない。
(橘はん・・・?)
ゆかりが一瞬見せた表情の意味は、まだ弾には理解する術は無かったであろう。
「何で、わいらは別口なんやろ・・・」
八郎がぼやいている。
【シュシュ・ラピーヌ】の到着の後、萌の見舞いからまったく彼女達との関わりが閉ざされた事に不満の様である。
「お前じゃ、毒気が強すぎるからなぁ」
「人を猛獣みたいに言わんといてや」
「まぁ、師匠。ここは落ち着いて・・・」
男三人が寂しく過ごす教室を覗いたカトリーナが軽く笑いを零していた。
大広間では枕投げの熱戦が続いてた。
「葵先生みたいな人が担任だったら良かったなぁ・・・」
礼華が葵の側に座って呟く。
「堀塚では担任とか無いのか?」
「堀塚では、学園のルールとかしきたりを全てお姉様から教わります」
「授業とかはどうしてるんだ?」
「一般教養だけは、普通の教室で教わりますが・・・」
いつの間にか穂加も隣に座っている。
「そうか・・・。大変なんだな・・・」
ふと、自分の子供の頃を思い出す葵。
(うちも・・・、京舞踊しか、させて貰われへんかった。この娘らも・・・)
「学校って・・・。こんな感じなんですか?」
澄佳も何か寂し気な視線を見せた・・・
「皆っ! よしなさいっ!」
情緒不安定になりかけている三人に舞香がビシャリと言う。
思わず黙り込む3人・・・
(一番苦労しているのはこいつか・・・)
「よしっ、今日は枕投げでしっかりと日頃のうっぷんを晴らせっ! うちも遠慮しないぞっ!」
そう言って改めて枕を持ち投げつける葵。
ホッとしたような表情の舞香、リーダーとしての重圧から解放された一瞬であった。
穂加も礼華も澄佳も笑顔に戻って枕投げに興じていた。
これまでとは違った世界ではしゃぐ舞香達・・・
緊張の糸がほぐれたのか、はしゃぎすぎて疲れたのか、いつのまにかスヤスヤと眠りについている。
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皆、どのような夢を見ているのであろうか・・・
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