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第78話 襲撃!

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「駆さん、伏せろっ!」
駆を自らの身体で隠すようにして、正面のボーイの銃口を向ける洸児。

ボーイの手が風を切るように動いた。

(ナイフかっ!)
躊躇なく引き金を引く洸児。

銃声が轟き、ボーイの投げたナイフは洸児の頬をかすめる。
ボーイは肩を打ち抜かれ悶絶していた。

「野郎っ!」
「何しやがるっ!」
二月会の組員達が倒れたボーイを取り押さえようと駆けつける。
だがその瞬間、洸児の目は廊下の先に居たボーイの集団を捉えていた。

「ドアを締めろっ!」
洸児の叫びに気付いた二月会の組員達が振り向いた先には・・・

「なっ、なにっ!」
「ぐはっ!」
そのボーイ達は銃を手にしてインペリアルルームへと突進してきていたのだ。
次々と撃たれる二月会の組員達、洸児は駆を守りながら奥の部屋へと移動する。


「そろそろ仕事の時間ね・・・」
早瀬リージェンシーホテルの大通りを挟んだ向かいのビルの屋上に黒いコートを翻す姿があった。

「そのまま、窓際まで来てくれてもいいけど・・・」
スコープを付けたライフルで様子を見ている影、ドルゴ14である。


インペリアルルームでは銃撃戦が続いていた。
「くそっ! まさか本気で来るとはっ!」
「洸児さん、こっちへ」
部屋の奥へと逃げようとする駆。

「駄目だっ!」
窓際近くに寄った駆を強引に引き戻す洸児。

「いいか、窓際なんて絶好の狙撃ポイントなんだ。絶対に近づくなっ!」
震えて頷く駆。

「若頭っ、このままじゃっ!」
正面ドアを守っている組員が次々と撃たれて負傷していく。
聞こえてくる銃声は拳銃のものとは違っていた。

「チッ、サブマシンガンか。厄介だな」
「若頭、このままじゃジリ貧ですぜ」
「分かってる。だが、ここまで派手にやってるんだ警察だって動く・・・っ!」
廊下で大きな爆発音が聞こえ、爆風が流れ込んでくる。

「しっ・・・、手りゅう弾か・・・?」
洸児は素早く状況を見回す。

市中の銃撃戦となれば警察も直ぐに介入する筈である。
それまでの時間、駆を守り切るという選択肢が最も正しいであろう。
だが、敵の攻撃は洸児の考えを軽く凌駕していた。

「部屋ごと吹っ飛ばすってか・・・っ! まるで戦争じゃねぇかっ!」


「なんだと、早瀬リージェンシーホテルで銃撃戦だとっ!」
隼人が叫ぶ。

「SAT(特殊急襲部隊)に出動要請っ! 俺達も行くぞっ!」
「陣内警部補ッ!」
「ミッシェル捜査官はここで待機をっ!」
「分かりマシタ・・・」
「行くぞっ!」
隼人達が飛び出していく。


ミッシェルは誰も居なくなった捜査室で自分のスマホを取り出して電話を架ける。
「万莉亜、ターゲットは早瀬リージェンシーホテルを見渡セル位置ニ・・・」
「了解・・・」


万莉亜は自分の愛銃を積んだ車を走らせる。

(思ったより早かったか・・・。でも、それだけ相手も焦ってるって事ね・・・)
早瀬リージェンシーホテル近くに車を乗り捨てた万莉亜が周囲を見回す。

(絶好のポイントはあのビル、それなら・・・)
万莉亜は斜め横にあるビルを見上げるとそこへ向けて走った。


「若頭っ!」
二月会の組員達もジリジリと後退しつつある。

(このまま追い込まれたら、手りゅう弾で終わりか・・・)
洸児は逡巡する、そして決断した。

「いいか、お前らっ! ここから俺達を援護しろっ!」
洸児の言葉に黙って頷く組員達、何をしようとしているかが分かっているのだろう。
洸児は駆へと振り返った。

「いいか、駆。こいつらが援護射撃している間に俺達はあいつらの手前を抜けて階段から表へ出るっ!」
「えっ!?」
「四の五の言ってる暇はねぇっ! 行くぞっ!」
洸児の合図とともに二月会の組員達は一斉に飛び出してボーイ達に向けて一斉射撃を開始する。
思わぬ反撃にたじろぎ身を隠すボーイ達。

「若頭っ! 今ですっ!」
「行くぞっ!」
駆を引き釣り出すようにして走り出す洸児。
ボーイ達がそれを見て慌てて銃を構えようとするが二月会組員達の一斉射撃に阻まれる。

「よしっ、行けるぞっ!」
洸児と駆は寸での所で階段を駆け下りフロントから表へて出て脱出に成功した。

「洸児さん、皆は?」
「大丈夫さ、奴らの目的はあんただ。もう、奴らも・・・。危ねぇっ!」
洸児の目が通り向かいにあるビルの屋上で光った僅かな異常を捉えていた。

一発の銃声が響く・・・

「ぐふっ!」
駆の身体の前に盾になるように飛び出した洸児。

「洸児さんっ!」
駆の前に飛び出した洸児が腹部を抑える。
そこから真っ赤な血が滲みだしていた。


「チッ、勘のいい奴だ。だが・・・」
向かいのビルで駆を狙っていたドルゴの銃弾は洸児がその身体で防いだのだった。

「こっ、洸児さんっ!」
「動くんじゃねぇっ! そこでじっとしてろっ!」
洸児は血の流れ出す腹部を片手で押さえながらもドルゴのいるビルへと向いて立つ。

(へへっ! ちょっとしくじったかもな・・・。でも、駆さんは打たせねえぜっ!)
洸児の脳裏にかつて哲也の姿が浮かんでいた。
如月を守って数十発の弾丸を撃ち込まれながらも倒れずにいた姿を。

(あれっ、なんで穂波さんの顔がチラつくんだ・・・。兄貴に初めて穂波さんの写真を見せて貰った時から・・・、忘れられねえ・・・んだった)
遠くに赤いパトライトの光が見えていた。

(もう少しだ・・・。警察が到着するまで俺が立っていられたら・・・。兄貴、力を貸して下さい・・・)
「洸児さぁぁぁぁんっ!」
駆の叫ぶ声もだんだんと聞こえなくなっている洸児。

(そうか・・・、兄貴もあの時・・・。穂波さんを思い浮かべていたんですね・・・)



洸児の脳裏に過去が回想される。

「洸児、こいつが穂波だ」
「へぇ~、可愛いじゃないっすかぁ」
「だが、かなりのお転婆でな。そこが心配なんだが・・・」
「兄貴の見込んだ娘なんでしょ? それくらいで丁度いいんじゃないっすか?」
ふと、黙り込む哲也。
「どうしたんすか?」
「なぁ、洸児・・・。お前を男と見込んで頼みがある・・・」
「何っすか? 俺、兄貴のいう事なら何でも・・・」
「もし・・・。もしもだ・・・」
「・・・」
「俺に、もしもの事があったら・・・。穂波を頼む・・・」
「兄貴・・・。じっ、冗談は止めて下さいよぉっ!」



(そうだ・・・。あの日、兄貴は・・・。そして、俺は穂波さんを出迎えに・・・)


洸児の眼がカッと見開かれた。
(そうだっ! 俺は死ねねぇんだっ!)


「Good・Bye ・・・。Boy・・・」
そう呟き、洸児の額に照準を合わせるドルゴ。

だが・・・

「んっ!? 何っ!?」

斜め下にあるビルの屋上で何かが光ったのをドルゴの目が捉えた。



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