東京テルマエ学園

案 只野温泉 / 作・小説 和泉はじめ

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第77話 Visitors(来訪者達)

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西京大学病院――

萌が個室で暇を持て余している。

「あ~。ボク、暇すぎて・・・。死にそう~」
ベッドの上で萌がぼやいている。

もともと、じっとしているのが苦手な萌である。
何もせずに寝ているだけの入院生活はさぞ退屈であろう。
顔の傷はかなり良くなっているものの、腕や脚の傷はまだかかるようであり、靭帯の回復には程遠い。


コンコン コンコン

「はぁーい。どうぞぉーっ!」
病室のドアが開き、アキ達が顔を覗かせる。

「萌ちゃーん、お見舞いに来たよーっ!」
最初に声を掛けたのは圭である。

「あっ、皆っ! 来てくれたんだぁっ!」
子供の様に喜ぶ萌。

「それと、今日は特別なお客さんも一緒よっ!」
優奈が思わせぶりに話しかける。

「えっ! 何っ!誰っ!?」
「じゃーんっ!」
汐音の掛け声とともに舞香達が入室した。

「えっ、えっ、えっ、? うっそぉぉぉぉっ! 【シュシュ・ラピーヌ】の皆じゃん♬ わお、どうしてぇ?♬」
ベッドの上ではしゃぐ萌。
(きゃーっ♡ BLっっっ♡)
心の中はさらに激しく叫んでいるようだ。

「萌お姉様っ!」
「お元気そうで何よりですっ!」
「早く良くなってくださいっ!」
「これ、私達からのお見舞いですっ!」
舞香達は一人一人が萌の手を取り、テルマエ学園に持ってきたものと同じ色の薔薇の花束を手渡す。
4色の薔薇が飾られ、病室が一気に明るくなる。

「あのさぁ、ちょっと厚かましいかも知れないれど・・・。いいかな?」
「何ですか?」
「このTシャツにサイン、お願いしてもいいかな?」
【シュシュ・ラピーヌ】の大ファンである萌が遠慮がちに尋ねる。

「勿論ですっ!」
舞香は即答し、マジックを取る。

そして・・・

「萌お姉様、良かったら・・・」
「うわっ、是非お願いっ!」
舞香達は萌のTシャツにサインしただけでなく、脚のギプスにも応援のメッセージを書き込んでくれたのだった。

「感激だよ~。でも、どうして【シュシュ・ラピーヌ】が?」
かわりばんこにギプスに応援メッセージを書き込む舞香達にふと尋ねる萌。

「実は、堀越音楽スクールの理事長さんが【ムーラン・ルージュ】の為にって・・・」
アキが答え、穂波も続いて話す。

「次の対戦まで学園に泊まり込んでレクチャーしてくれるんだ」
「え~ッ。泊まり込みっ! ボ・・・、ボク・・・。もう治ったかも! 退院して学園に戻れるっ! ・・・、いっっっっ、痛ったぁぁい!」
思わず飛び起きようとして動かした足に激痛を感じ、顔を顰める萌。

「萌お姉様、今は治療に専念してくださいな」
年下の舞香に気遣われる萌。

「早くお元気になられて、あのテクニックを見せて下さい」
礼華が優しく励ます。

「次の対戦の事は、【ムーラン・ルージュ】のお姉様方と私達に任せてください」
穂加の言葉に黙って頷く萌。

「いつでも、またお見舞いに参ります」
澄佳の言葉にふと涙する萌とアキ達・・・

(良い娘達だな・・・)
穂波と優奈が愛おしそうに【シュシュ・ラピーヌ】を見つめていた。


余談になるが、この後 萌は舞香達を日暮れまで引き留めており(BL♡BL♡)と満悦に浸っていたのであった。



「んっ!」
その日の朝、洸児は早瀬リージェンシーホテルへと向かおうとしていた。

「縁起でもねぇな・・・」
いつものように靴紐を締めたのだが、靴紐がブチッと音を立てて切れたのだ。

「・・・」
代えの靴紐を通し直して洸児はマンションを出る。

「若頭、おはよう御座います」
いつものように迎えの車が待っている。
普段と変わらない日常・・・、の筈であった。


洸児の乗った車は早瀬リージェンシーホテルの地下駐車場へと入る。

(いつもより車の数が多いな・・・)
毎日にように早瀬駆のガードの為、ここに日参している洸児の目が違和感を捉えていた。

(何も無ければ良いんだが・・・)
洸児はそのまま支配人室へと向かう。

「おはよう御座います、支配人」
「あっ、永井さん。おはよう御座います」
「今日、何かあるんですか?」
「特に大きな予定はありませんが、何か?」
「いえ・・・。地下駐車場の車がいつもより多く感じたもので・・・」
「近くで何かイベントでもあるんでしょう」
「それなら良いんですが・・・」
洸児の感じている違和感は、この裏世界を生きて来た者だからこそだろうか。


「おはよう御座います。駆さん」
「あっ、洸児さんか」
「どうしました?」
「いや、ホテルの朝食が遅いので催促していたんですよ」
毎日のように顔を合わせている洸児と駆、いつの間にか奇妙な連帯感が生まれていた。


「失礼します」
「やっと来たか。どうです、洸児さんも一緒に?」
二月会の組員達がガードしている中をホテルのボーイがワゴンを押して進む。

(見ない顔だな・・・)
洸児がそう思い、ふと目を上げると後方の廊下にボーイ達の集まっている姿が見えた。

(ここはインペリアルルームだぞ、なぜ・・・?! っ!)
ワゴンを押しているボーイに目を戻す洸児、そのボーイは右手を後ろに回している。

横に居た駆を突き飛ばし、洸児は胸のホルスターから愛用のグロック17を引き抜く。

その時、ワゴンを押していたボーイが後ろに回していた手を戻すと何かがキラリと光ったのである。
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