東京テルマエ学園

案 只野温泉 / 作・小説 和泉はじめ

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第76話 好敵手との再会

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時間を巻き戻そうーー

教室がザワついている。
葵が皆に重大な話があると集合を掛けていたのだ。

「おはよう、皆。今から哀しい知らせと嬉しい知らせがある、黙って聞いて欲しい・・・」
いつもの葵とは違う緊張感に誰もが戸惑っていた。

「哀しい知らせだが・・・。ハンが学園を去った・・・」
「え~っ!?」
「そんな、どうしてっ!?」
教室内がどよめいた。

「静かにっ!」
バーンッと教壇を叩く葵。
教室が静まり返る。

「ハンは、自分を見つける旅に出た・・・。皆で帰りを待ってやろうじゃないか・・・」
アキ達が黙ったまま首肯する姿を見回す葵。

「ハンちゃん・・・、水くさいでぇ・・・」
八郎が手で涙を拭っている。

「俺ら・・・」
渡の頭の浮かぶのはあの時の事である。

「ハン・・・。マンゴーさんの・・・」
アキも言葉を詰まらせてしまう。

「ハン・・・」
涙を浮かべる圭の肩を穂波が軽く叩いた。

「お前達っ、感傷に浸っている暇はないぞっ!」
葵の言葉に皆の気が引き締まる。

そうである、アイドル甲子園準決勝が日に日に近づいているのである。

「次は嬉しい知らせだ」
皆が葵へと視線を向ける。

「堀塚音楽スクールから、特別講師が来てくれる事になった。堀塚理事長のご好意だっ!」
「えっ!?」
「堀塚って!? まさかっ!?」
汐音と優奈が顔を見合わせる。

「そう・・・。【シュシュ・ラピーヌ】だっ!!」
「えっ、えぇぇぇぇっ!」
「まっ、まさか・・・?」
穂波と圭は言葉が出ない。

「あの娘達に、会えるんだ・・・」
七瀬がアキを振り返る。

「アキちゃんっ!!」
涼香がアキの側へと走り寄って来た。

(舞香ちゃん・澄佳ちゃん。礼華ちゃん・穂加ちゃんが来てくれるっ!!)
誰よりも一番喜んだのは無論、アキであった。

(アキ・・・。お前にはずっと笑っていて欲しいんだ・・・)
アキの笑顔を見つめている渡にも自然と笑みが浮かんでいた。


かつて雌雄を決した最強のライバル、そうであるだけにこれほど心強い助っ人は無い。
暗礁に乗り上げていたアイドル甲子園準決勝に向けて新たな一歩が踏み出された瞬間であった。



アキと葵がテルマエ学園の正門前で待っている。

無論、【シュシュ・ラピーヌ】の出迎えである。

しばらくして、堀塚音楽スクールのロゴの入ったマイクロバスが到着した。
ドアが開き、制服姿のあどけない少女が4人降りて来る。

「舞香ちゃん! 澄佳ちゃん! 礼華ちゃん! 穂加ちゃん!」
アキが大きく手を振りながら駆け出す。

「アキお姉様っ!」
再会に手を取り合って喜ぶアキと舞香達を見つめていた葵が近づく。

「よく来てくれた、【シュシュ・ラピーヌ】。うちが【ムーラン・ルージュ】の顧問兼担任の松永葵です」
葵の表情にも喜びが溢れている。

「松永先生、お世話になります。宜しくお願い致します」
一列に並び礼儀正しく挨拶をする舞香達。

舞台メイクではなく、すっぴんの彼女達は中学生らしい幼さも感じられる。

(可愛いものだな・・・)
葵も思わず笑みを漏らす。


舞香達の乗って来たマイクロバスから堀塚音楽スクールのスタッフ達が衣装やら荷物やらを運び入れている。
葵の指示でそれらの資材は予備教室へと運ばれ、アキは舞香達を個人寮へと案内する。
一通りの案内が終わり、私物を各部屋へと運んだ舞香達はアキと一緒に教室へと向かう。


「いらっしゃい。宜しくねっ!」
「元気だったぁ?」
「うわっ、制服もマジ可愛いっ!」
汐音を皮切りに、七瀬・涼香・優奈。穂波・圭に次々に取り囲まれハグされたり握手を繰り返す。

「お久しぶりです! お姉様方っ!」
「アイドル甲子園、素敵な演出ですねっ!」
舞香達も嬉しさを体一杯に表している。

そんな中、スッと近づくカトリーナ。
「ワタシ、カトリーナ・カーン。インドからの留学生デス。ヨロシクネ」
かつてのカトリーナとは違って積極的になっている。

渡達もその後に続く。
「早瀬渡です。宜しく・・・」
「早瀬って・・・」
ビクリと反応した舞香達、だが渡の後ろに見えていた葵が唇に人差し指を当て微笑む。

「こちらこそ、宜しくお願い致します」
その意味を察したのか、はたまた美形男子に中てられただけなのか、それとも口止めを既に知っていたのだろうか、舞香達は直前の笑顔へと直ぐに戻る。

「お嬢ちゃん達、わいは大塩八郎や。で、こっちが鈴木二郎・・・」
「こんにちわぁ・・・。皆、可愛いなぁ・・・」
「鈴木・・・、犯罪者になるなよっ!」
葵の視線が二郎へとキッと向けられる。

「そんな事、しませんよぉ。ねぇ、師匠?」
「お前の事なんぞ、どうでもええねん。まぁ、わいが【ムーラン・ルージュ】の衣装担当デザイナーやってるのは知ってるんかな?」
得意げに話し出す八郎・・・

「えっ、じゃあ・・・?」
驚く舞香。

「今までの・・・」
「お姉様方のあのデザインを・・・?」
礼華と穂加が顔を見合わせる。

「この・・・、カバが・・・?  っ、ごめんなさいっ!」
失言に気付き、思いっきり頭を下げる澄佳。

教室内に爆笑の渦が巻き起こる。
「ええねん、ええねん。わいはそんなキャラやぁ・・・」
同情を引こうとする八郎の下手な芝居を葵の一言が遮る。

「改めて、紹介しておこう」
葵の合図で、舞香達は一度廊下へと出て各々が手一杯の薔薇の花束を持って来る。

「鏡宮舞香です」
「花衣澄佳です」
「水埜礼華です」
「月舘穂加です」
各々が黄色・ピンク・青・そして紫の薔薇の花束を持ち挨拶した後に葵にその花束を渡す。

(黄色は友情・ピンクは感謝・青は奇跡・紫は尊厳か・・・。さすがな演出だな、果たしてうちの連中でこれに気付くとすれば・・・。やはり・・・)
葵の視線の向けられた先では、渡だけが頷いていた。

「あの・・・、お邪魔して直ぐにこんな事をお願いして良いのか分かりませんが・・・」
舞香達の表情が一瞬、固くなる。

「松永先生、お姉様方。私達、萌お姉様のお見舞いに行かせて頂いても宜しいでしょうか?」
リーダーの舞香が代表して言う。
澄佳も礼華も穂加も真剣な表情である、皆が本当に萌の事を心配している気持ちが伝わって来る。

「ありがとう・・・」
葵が深々と頭を下げる。

「わたし、一緒に行くね」
「アキお姉様・・・」
見るとアキも涙目になっている、余程嬉しかったのだろう。

「車はこちらで手配する。温水、【ムーラン・ルージュ】全員で【シュシュ・ラピーヌ】と一緒に病院へと行ってくれ」
「え~っ! わいかて・・・」
「他は留守番だっ!」

あの戦いの当事者だけにしておいてやろうという葵の思いであった。

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