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第74話 シュシュ・ラピーヌ
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「確か・・・、アキちゃんだったかしら。可愛い娘よねぇ・・・」
目を細めて嬉しそうな表情を浮かべる梨央音。
(梨央音さん・・・。一体、何を考えているんだ・・・)
ずっと黙り続ける渡。
「だんまりなのね・・・。で、『テルマエ学園の早瀬渡』として来たのだったら、私に何の用?」
梨央音の視線が渡へと向けられる。
「梨央音さんの力を貸してください。【ムーラン・ルージュ】を助けてください・・・。お願いします」
梨央音の目をまっすぐに見返し、深々と頭を下げる渡。
(あの渡がねぇ・・・。アキちゃんの為とは言わないのね・・・)
「頭を上げなさい、渡。男はそう簡単に頭を下げるものではなくてよ」
梨央音に言われ顔を上げる渡。
「それで、私が貴男を手助けするメリットは何?」
梨央音の顔からは先ほどまでの笑みが消え、真剣な顔つきになっている。
「そっ、それは・・・」
返答に詰まる渡。
(まだまだ青いわね・・・。渡。身体だけ大きくなってもまだ子供・・・)
「あくまでもビジネスの話なら私にもそれなりのメリットがあってもいい筈よね」
「・・・」
渡は完全に梨央音のペースに飲まれていた。
「そうね・・・。見返りとして私と一晩付き合うって言うなら考えてあげてもいいけど・・・」
再び妖しい笑みを浮かべる梨央音。
「なっ・・・!?」
言葉の意味を理解し、耳まで赤く染まる渡。
「冗談よ」
クックックッと笑う梨央音、渡をからかって楽しんでいるようにも見える。
「まぁ、いいわ。貴男がここに来た気持ちに免じて今回だけは助けてあげる」
唖然とする渡を尻目に梨央音は立ち上がり机の上のインターフォンで秘書を呼ぶ。
「お呼びでしょうか」
「あの娘達を・・・」
「承知しました」
恭しく一礼した秘書が退室する。
「梨央音・・・さん?」
渡は何が起きているのか頭の回転が追い付かない。
そして・・・
コンコン コンコン
「入りなさい」
ガチャっと音がして理事長室の扉が開く。
「きっ・・・、君達は・・・!?」
「知っているわよね、渡? 鏡宮舞香・花衣澄佳・水埜礼華そして、月舘穂加」
「シ・・・、【シュシュ・ラピーヌ】・・・!」
そこに現れたのは、堀塚音楽スクールの制服に身を包んだ【シュシュ・ラピーヌ】だったのである。
「渡、【シュシュ・ラピーヌ】を貸してあげる。これで満足かしら・・・」
驚き表情の固まったままの渡を梨央音が面白そうに見つめていた。
時間は少し遡る。
渡が梨央音と面談する直前、新作舞台【バルテノン・ローズ】のレッスン中であった【シュシュ・ラピーヌ】と高等部生3人に中断の知らせが入った。
代表の高等部生が梨央音からの電話指示を受け、【シュシュ・ラピーヌ】を呼ぶ。
「直ぐに制服に着替えて、理事長室へと行けるように用意なさい」
何が起きたのか分からない【シュシュ・ラピーヌ】。
「恐らく、貴女達はこれからテルマエ学園へと行く事になるでしょう」
「なぜですか?」
舞香が高等部生へと尋ねる。
「【ムーラン・ルージュ】のお姉様方への恩返しに・・・」
別の高等部生が言う。
「貴女達で、この【パルテノン・ローズ】を【ムーラン・ルージュ】のお姉様方にお教えしてきなさい」
「私達がですか?」
「そう、貴女達なら出来て当たり前・・・」
更に別の高等部生が言った。
「伝え、教える事が出来てやっと一人前なのです」
顔を見合わせる【シュシュ・ラピーヌ】。
「中等部までは、教えられた事をキチンと出来れば良いでしょう」
「しかし、高等部からは下級生を指導していく事も求められます」
「これは、言わば貴女達の高等部への進級試験・・・」
【シュシュ・ラピーヌ】達の顔に緊張がみなぎっていた。
そして、校内放送が流れる。
「【シュシュ・ラピーヌ】、直ちに理事長室へ・・・」
「行きなさい・・・。【シュシュ・ラピーヌ】」
「はい、お姉さま方っ!」
理事長室で、梨央音が満足気に微笑んでいた。
「舞香・澄佳・礼華・穂加。今すぐにテルマエ学園へ行く支度をしなさい。御恩を受けた【ムーラン・ルージュ】が危機を向かえています。貴女達4人の力が必要とされているのです」
「はい。理事長」
まっすぐな視線を梨央音に向ける【シュシュ・ラピーヌ】。
それを優しい眼差しで見つめる梨央音。
舞香達は、アキ達に再開できる事を喜んでいる様子が見て取れる。
「ありがとうございます。梨央音さん」
【シュシュ・ラピーヌ】の退席した理事長室で渡は改めて礼を述べる。
「これはビジネスじゃないわ・・・。借りを返すだけの事・・・。ところで、渡・・・」
「何ですか?」
「駆の事は知っている?」
表情を変える事なく駆の事をネタに振る梨央音、渡の反応を伺っているようだ。
「・・・? 兄貴が、何か?」
(知らされていないのね・・・、将一郎伯父様が知らせていないなら・・・)
「知らないのなら、知る必要も無くってよ。――さぁ、用件は終わり。貴男は学園に戻りなさい。【シュシュ・ラピーヌ】は支度が終わり次第、テルマエ学園に向かわせます」
(アキ、これで何とかなるぞっ!)
駆の事を言いかけた梨央音が言葉を濁した事は気に掛かるが、今は一刻も早くこの知らせを届けたいと思う渡であった。
皆が立ち去り、理事長室に高等部生の3人が呼ばれていた。
「【パルテノン・ローズ】の公演は中止します。貴女達にも苦労させますね・・・」
梨央音の言葉に高等部生達が応える。
「あの娘達の成長の為ですもの・・・」
「私達もそうやって育てて頂いたんです。お姉様方に・・・」
「きっと、上手くやってくれますよ。あの娘達なら・・・」
その言葉を聞き頷く梨央音。
「そうね・・・」
(そうじゃないと・・・)
理事長室に暖かな陽光が差し込んでいた。
目を細めて嬉しそうな表情を浮かべる梨央音。
(梨央音さん・・・。一体、何を考えているんだ・・・)
ずっと黙り続ける渡。
「だんまりなのね・・・。で、『テルマエ学園の早瀬渡』として来たのだったら、私に何の用?」
梨央音の視線が渡へと向けられる。
「梨央音さんの力を貸してください。【ムーラン・ルージュ】を助けてください・・・。お願いします」
梨央音の目をまっすぐに見返し、深々と頭を下げる渡。
(あの渡がねぇ・・・。アキちゃんの為とは言わないのね・・・)
「頭を上げなさい、渡。男はそう簡単に頭を下げるものではなくてよ」
梨央音に言われ顔を上げる渡。
「それで、私が貴男を手助けするメリットは何?」
梨央音の顔からは先ほどまでの笑みが消え、真剣な顔つきになっている。
「そっ、それは・・・」
返答に詰まる渡。
(まだまだ青いわね・・・。渡。身体だけ大きくなってもまだ子供・・・)
「あくまでもビジネスの話なら私にもそれなりのメリットがあってもいい筈よね」
「・・・」
渡は完全に梨央音のペースに飲まれていた。
「そうね・・・。見返りとして私と一晩付き合うって言うなら考えてあげてもいいけど・・・」
再び妖しい笑みを浮かべる梨央音。
「なっ・・・!?」
言葉の意味を理解し、耳まで赤く染まる渡。
「冗談よ」
クックックッと笑う梨央音、渡をからかって楽しんでいるようにも見える。
「まぁ、いいわ。貴男がここに来た気持ちに免じて今回だけは助けてあげる」
唖然とする渡を尻目に梨央音は立ち上がり机の上のインターフォンで秘書を呼ぶ。
「お呼びでしょうか」
「あの娘達を・・・」
「承知しました」
恭しく一礼した秘書が退室する。
「梨央音・・・さん?」
渡は何が起きているのか頭の回転が追い付かない。
そして・・・
コンコン コンコン
「入りなさい」
ガチャっと音がして理事長室の扉が開く。
「きっ・・・、君達は・・・!?」
「知っているわよね、渡? 鏡宮舞香・花衣澄佳・水埜礼華そして、月舘穂加」
「シ・・・、【シュシュ・ラピーヌ】・・・!」
そこに現れたのは、堀塚音楽スクールの制服に身を包んだ【シュシュ・ラピーヌ】だったのである。
「渡、【シュシュ・ラピーヌ】を貸してあげる。これで満足かしら・・・」
驚き表情の固まったままの渡を梨央音が面白そうに見つめていた。
時間は少し遡る。
渡が梨央音と面談する直前、新作舞台【バルテノン・ローズ】のレッスン中であった【シュシュ・ラピーヌ】と高等部生3人に中断の知らせが入った。
代表の高等部生が梨央音からの電話指示を受け、【シュシュ・ラピーヌ】を呼ぶ。
「直ぐに制服に着替えて、理事長室へと行けるように用意なさい」
何が起きたのか分からない【シュシュ・ラピーヌ】。
「恐らく、貴女達はこれからテルマエ学園へと行く事になるでしょう」
「なぜですか?」
舞香が高等部生へと尋ねる。
「【ムーラン・ルージュ】のお姉様方への恩返しに・・・」
別の高等部生が言う。
「貴女達で、この【パルテノン・ローズ】を【ムーラン・ルージュ】のお姉様方にお教えしてきなさい」
「私達がですか?」
「そう、貴女達なら出来て当たり前・・・」
更に別の高等部生が言った。
「伝え、教える事が出来てやっと一人前なのです」
顔を見合わせる【シュシュ・ラピーヌ】。
「中等部までは、教えられた事をキチンと出来れば良いでしょう」
「しかし、高等部からは下級生を指導していく事も求められます」
「これは、言わば貴女達の高等部への進級試験・・・」
【シュシュ・ラピーヌ】達の顔に緊張がみなぎっていた。
そして、校内放送が流れる。
「【シュシュ・ラピーヌ】、直ちに理事長室へ・・・」
「行きなさい・・・。【シュシュ・ラピーヌ】」
「はい、お姉さま方っ!」
理事長室で、梨央音が満足気に微笑んでいた。
「舞香・澄佳・礼華・穂加。今すぐにテルマエ学園へ行く支度をしなさい。御恩を受けた【ムーラン・ルージュ】が危機を向かえています。貴女達4人の力が必要とされているのです」
「はい。理事長」
まっすぐな視線を梨央音に向ける【シュシュ・ラピーヌ】。
それを優しい眼差しで見つめる梨央音。
舞香達は、アキ達に再開できる事を喜んでいる様子が見て取れる。
「ありがとうございます。梨央音さん」
【シュシュ・ラピーヌ】の退席した理事長室で渡は改めて礼を述べる。
「これはビジネスじゃないわ・・・。借りを返すだけの事・・・。ところで、渡・・・」
「何ですか?」
「駆の事は知っている?」
表情を変える事なく駆の事をネタに振る梨央音、渡の反応を伺っているようだ。
「・・・? 兄貴が、何か?」
(知らされていないのね・・・、将一郎伯父様が知らせていないなら・・・)
「知らないのなら、知る必要も無くってよ。――さぁ、用件は終わり。貴男は学園に戻りなさい。【シュシュ・ラピーヌ】は支度が終わり次第、テルマエ学園に向かわせます」
(アキ、これで何とかなるぞっ!)
駆の事を言いかけた梨央音が言葉を濁した事は気に掛かるが、今は一刻も早くこの知らせを届けたいと思う渡であった。
皆が立ち去り、理事長室に高等部生の3人が呼ばれていた。
「【パルテノン・ローズ】の公演は中止します。貴女達にも苦労させますね・・・」
梨央音の言葉に高等部生達が応える。
「あの娘達の成長の為ですもの・・・」
「私達もそうやって育てて頂いたんです。お姉様方に・・・」
「きっと、上手くやってくれますよ。あの娘達なら・・・」
その言葉を聞き頷く梨央音。
「そうね・・・」
(そうじゃないと・・・)
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