東京テルマエ学園

案 只野温泉 / 作・小説 和泉はじめ

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第72話 ムーラン・ルージュ・最大のピンチ

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「ふっふっふっふっ! やっばり、俺は天才だぁっ!」
DoDoTVの制作室で急に三橋が叫んだ。

「わぁっ! びっくりしたぁっ!」
コーヒーを運んで来たすずがお盆をひっくり返しそうになる。

「どうしたんですか? 急に?」
「まさか、本当に壊れたとか?」
三波と岩田も三橋の突拍子もない行動には慣れていたつもりだったが、今回は本気で驚いたようである。

「ふふふっ! お前達パリピにも分かるように説明してやろう」
三橋はホワイトボードに数字を書きだした。

「なになに・・・」
「一般審査員 200名200点、特別審査員 10名100点・・・。アイドル甲子園の点数配分かぁ。変えるんですか?」
岩田の質問に振り返った三橋がニタリと笑った。

ゾクッとしたものを感じる三波とすず。
キュッキュッと三橋がホワイトボードにペンを走らせる。

「お茶の間審査員・・・」
「100名、100点・・・。つまり・・・」
鷹揚に振り返った三橋が得意げに笑う。

「そう、準決勝は総得点400点を取り合う形にする。さらに・・・」
「えっ! まだあるんですか?」
「堀井・・・。俺を甘く見るなよ・・・」
そう言うと三橋は再びホワイトボードにペンを走らせる。

「決勝戦は・・・、!?」
岩田も驚いている。

「海外お茶間審査員 100名100点をプラス・・・」
三波も我が目を疑い、すずも一瞬絶句して・・・

「総得点、500点の取り合い・・・」
「どうだっ! これなら応援にも熱も入って視聴率は更にうなぎ登りになるぞっ!」
「あの~、その手配は誰が・・・」
岩田が恐る恐る手を挙げた。

「勿論、お前達に決まってるだろっ!」
「やっばり・・・」
項垂れる3人。

「だが・・・。今回はDoDoTVの総力を挙げて取り組むっ! お前達ばかりに苦労はさせんっ!」
「おぉっ!」
「三橋さんが・・・」
「少しだけ輝いて見えるような・・・」
「そうと決まったら、緊急告知だっ! 急げぇ~っ!」


こうしてアイドル甲子園のお茶の間審査員と海外お茶間の審査員の募集告知が大々的に流されたのだった。


「お茶の間審査員は、WEB投票? パスワードを入力して投票? 分かるかい、弥生さん?」
「まぁ・・・、何となく・・・。 キャッシュカードでお金を卸すみたいな感じでしょうかね?」
「よしっ! あたしと弥生さんの分を申し込んどいておくれ。そうだ・・・、泉華の皆にも応募して貰おう」
「いい考えですね、女将さん!」
ハルと弥生、どうもこの系統には疎いようだ。


「七瀬、アキちやん。頑張ってね」
応募ボタンをクリックする奈美。


「あらあら、あの娘達・・・。私達も応援してあげなきゃね。瑠花ちゃん。瀬尾くん」
「はいっ!」
「じゃあ、エントリーしておきますね」
【ル・パルファン】開店前の出来事である。


「おぉ! あの娘達の応援なら、儂らの出番じゃ!誰か、往復ハガキを買って来いっ!」
昭和世代の敬老会の面々にはWEB応募は難しいだろう。
息子や娘、孫たちの力を借りる事をお勧めしたいところである。


全国各地で同じような動きが加速し、会場の一般審査員もお茶の間審査員も宝くじ並の当選確率に跳ね上がって行ったのである。


そして・・・
「アノ娘達ノ為ナラ、私モ協力シヨウジャナイカ」
遥か米国の地でWEB応募したのは、他ならぬジェームス・アデルソンである。

大統領をも動かすこの男、果たしてクジ運はどれほどのものであろうか・・・



アイドル甲子園が始まってから、テルマエ学園の講堂は【ムーラン・ルージュ】専用の練習場となっているーー
 

「ダメダメっ! やり直してっ!」
珍しく涼香が大声を出し、首を左右に振る。
萌の抜けた事により抜けてしまうパートを皆でフォローしようと歌ってみたのだが、どうにもこうにもしっくりとこない。
何度もやり直してみるのだが、都度違和感が感じられるのだ。

「ふぅぅぅ・・・。どうしたものか・・・」
葵も無意識に溜息を付く。
埒の開かない状態が続き重苦しい雰囲気が皆に圧し掛かっていた。

「ねぇ・・・。いっその事、7人パートに書き換えて貰うってのはどうかな?」
話を切り出したのは七瀬である。

「そうか・・・。こうなったら根本から見直すという手もあるか・・・」
葵も考え込む。

「うち行ってこようか?」
優奈が手を挙げる。

「それなら、わたしも行くよっ!」
次に手を挙げたのは汐音である。

「まぁ、待て・・・」
二人を押しとどめるように葵が口を挟んだ。

「うちとしても星野の提案には賛成だが・・・。ここは温水と白布に行って貰おう」
「えーっ!」
優奈と汐音は不満げである。

「大勢で押しかけるのは甚だ迷惑だろうし、リーダーの温水と楽曲の事なのだから白布が最適だ。それに・・・」
葵はじろりと優奈と汐音を見る。

「お前達だと、別の目的に進んでしまいそうだしな」
クスクスと皆が笑っていた。

「まあ・・・、ね」
「仕方ないか・・・」
優奈と汐音ががっかりしながらも肩を竦めて自嘲気味な笑みを浮かべていた。



【ぱんさー】をアキと涼香が訪れたのは翌日の事である。

リンリンリン

ドアベルが鳴り、アキと涼香が店内へと入る。

「やぁ、いらっしゃい。久しぶりだね」
早乙女がエプロン姿で出迎える。

「こんにちは」
「あの・・・。竜馬さんは?」
二人は店内を見回すが、竜馬の姿は無かった。

「何だ、アキちゃんも涼香ちゃんも俺に会いにきてくれたんじゃないの~。ショックだなぁ・・・、俺・・・」
ガックリと肩を落としオーバーなリアクションを見せる早乙女。

「マスター、ごめんなさい。その・・・、そういうつもりじゃなくて・・・」
アキと涼香は両手と首を大きく左右に振る。
そんな二人を見て、大声で笑いだす早乙女。

「あははははっ!ごめんごめん、冗談だよ。竜馬は今、買い出しに行ってるからすぐ戻って来るよ」

リンリンリン

「戻りましたっ! あれっ!?」
両手いっぱいに袋を抱えた竜馬が丁度戻って来た。

「いらっしゃい。アキちゃん、涼香ちゃん。今日は二人だけで?」
優しく微笑む竜馬に赤面する二人。

「お前に話があるみたいだし、奥のテーブルを使ってくれ」
「わかりました。行こうか」
早乙女に促され、店奥のテーブルへと移動する3人。

「まぁ、ゆっくり話して」
そう言うと早乙女はテーブルに3つのカフェラテを置きそっと立ち去る。

(想像は付くが・・・。【ムーラン・ルージュ】最大の試練か・・・。どうするんだ、竜馬・・・)

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