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第71話 ゆかり・・・、因縁の娘
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テルマエ学園の学園長室では、ミネルヴァが顎鬚を撫でながら、ゆかりの報告を聞いている。
「ふむ・・・。弾も思ったより成長しておるようだな」
「ですが・・・」
「平泉萌の瞬間記憶能力・白布涼香の絶対音感・大洗圭のエスパスとしての能力をどう受け取ったか・・・。まぁ、良い。いずれ分かる事ではある・・・」
「はい・・・」
「ところで、ゆかり君?」
「何でしょうか?」
「報告はそれだけかね?」
「TOB阻止の件でしょうか?」
「ほっほっほっほっ、君もなかなかの役者だ。そんな事は当に分かっておる。新聞でもテレビでもな・・・」
「では、一体?」
ゆかりの脳裏に浮かんでいるのは、あの日の事である。
弾と如月を会わせ、二人が異母兄弟であると明かしたあの日・・・
(学園長が知る由も無い事・・・。じゃあ、何の話を?)
冷静な表情を崩さないゆかり。
「少し、昔話をしようか・・・」
「・・・」
「君と初めてあったのは、ル・パルファンだったな・・・」
「はい。私が上京してル・パルファンでホステスをしていた時です」
「ママが君の事を勧めて来てのぉ・・・。面白い娘がおると言って・・・」
「あの時、御縁があって学園長からこのテルマエ学園へお誘い頂いたのがきっかけに・・・」
「偶然・・・。だったと思うかね?」
(学園長・・・、何が言いたいの?)
かつてゆかりは義母の紗矢子との折り合いが悪くなり、実家の【季(とき)・たちばな】を飛び出し上京し当時開店したばかりのル・パルファンに勤めていた事がある。
この時、ミネルヴァと会った事がきっかけとなり現在に至っているのだ。
この経緯については、いずれ別の形で語る事となるだろう。
「群馬、草津温泉の出身と聞いてな・・・」
「温泉だから・・・、でしょうか?」
「いや、つい懐かしくなったのだよ。『丸に橘』紋が・・・・な」
ミネルヴァがニヤリと笑った。
(【季(とき)・たちばな】が・・・? まさかっ!?)
「どうした? 顔色が悪いようだが?」
「い・・・、いえ。別に・・・」
「先日の酒が今頃に回って来たのでは?」
探るように笑うミネルヴァ。
「おっしゃる意味が分かりませんが・・・」
「ほっほっほっ、弾と如月とを会わせた日の事だが・・・?」
(なぜ、学園長が知ってるのっ?)
ゆかりの顔色が見る見るうちに変わって行く。
「念の為に言っておくが、弾も如月も何も言ってはおらん・・・」
(じゃあ、どうして?)
「蛇の道は蛇、まだまだ儂には遠く及ばんよ。ゆかり君・・・」
(ここで認めるか・・・、それとも・・・)
ゆかりは全身の血が一瞬で凍るような思いがした。
心臓が早鐘を打つ。
これまでに経験した事の無い窮地に立たされ思考が定まらない。
自分がミネルヴァをも出し抜くつもりでいた事を、いとも簡単に見抜かれていたのだ、当然であろう。
「随分、顔色が悪いな・・・。ところで、君の母君は?」
「既に他界しております・・・」
完全にミネルヴァのペースに持っていかれている事をゆかりは感じ取っていた。
(目的は・・・、何なのっ!?)
「君が二十歳の時に他界した・・・?」
「えっ!?」
流石のゆかりも思わず、驚きの声が出てしまった。
確かに群馬・草津温泉の出身である事や生家が【季(とき)・たちばな】である事も話した事はある。
調べれば、【季(とき)・たちばな】に引き継がれている家紋が『丸に橘』である事も直ぐに分かるだろう。
だが、自分がかつて生徒達の身体に家紋の痣を確認した事、それぞれの生家へと出向き確認に当たって来た事を考えると・・・
(まさか、私も・・・!?)
驚きの表情を隠せなくなるゆかり。
ミネルヴァは漆黒の笑みを湛えながら話す。
「『丸に橘』は、井伊直正の家紋。そう、徳川四天王のなっ!」
「と・・・、徳川四天王・・・?」
「更に・・・。ゆかり、お前も弾や如月と同じなのだよ」
(私が・・・、弾と如月と同じって・・・。まさか・・・)
「お前は、儂と維織の子だ」
ゆかりの眼前に暗黒の闇が広がった。
(維織・・・っ! お母さんの名前・・・。私も・・・、学園長の娘・・・?)
「驚くのも無理はあるまい。だが、お前は徳川四天王の末裔であり、儂の娘だ」
「・・・、弾と如月は・・・?」
「・・・」
しばらく考え込むミネルヴァ、時間だけが静かに流れていく・・・
「良かろう、お前には先に話しておこう。弾は、本田忠勝の子孫であり如月は榊原康政の子孫だ」
(そうか・・・、確かに・・・)
ゆかりは記憶を遡る。
京都で松永流を訪ねた時、屋根瓦には『立ち葵』の描かれた瓦が揃って並んでいた。
ミネルヴァから如月の二月会襲名披露の際に取られた写真を見た時、如月の紋付は『源氏車』だった。
「やっと、気付いたのか? ゆかり?」
(全く、気付かなかった・・・。私は学園長の掌の上で踊っていただけ・・・)
「残りの一人は・・・?」
そう聞くのが精一杯のゆかり。
「『丸に片喰』、酒井忠次・・・。誰かは分かっておるが今しばらくは・・・」
(私じゃ・・・、とても勝てない・・・)
「ゆかり・・・」
名を呼ばれてハッとするゆかり。
「時が来るまでは、これまで通りにゆかり君と呼んでおこう。その方が都合も良い」
「・・・、仰せのままに・・・」
ゆかりはこの一言を発するのが精一杯だった。
「これまで以上に忠誠を尽くせ。間もなく、機は熟する。儂の・・・、一族の願望が叶う日も近いっ!」
ミネルヴァの笑い声が学園長室に響き渡っていた。
「ふむ・・・。弾も思ったより成長しておるようだな」
「ですが・・・」
「平泉萌の瞬間記憶能力・白布涼香の絶対音感・大洗圭のエスパスとしての能力をどう受け取ったか・・・。まぁ、良い。いずれ分かる事ではある・・・」
「はい・・・」
「ところで、ゆかり君?」
「何でしょうか?」
「報告はそれだけかね?」
「TOB阻止の件でしょうか?」
「ほっほっほっほっ、君もなかなかの役者だ。そんな事は当に分かっておる。新聞でもテレビでもな・・・」
「では、一体?」
ゆかりの脳裏に浮かんでいるのは、あの日の事である。
弾と如月を会わせ、二人が異母兄弟であると明かしたあの日・・・
(学園長が知る由も無い事・・・。じゃあ、何の話を?)
冷静な表情を崩さないゆかり。
「少し、昔話をしようか・・・」
「・・・」
「君と初めてあったのは、ル・パルファンだったな・・・」
「はい。私が上京してル・パルファンでホステスをしていた時です」
「ママが君の事を勧めて来てのぉ・・・。面白い娘がおると言って・・・」
「あの時、御縁があって学園長からこのテルマエ学園へお誘い頂いたのがきっかけに・・・」
「偶然・・・。だったと思うかね?」
(学園長・・・、何が言いたいの?)
かつてゆかりは義母の紗矢子との折り合いが悪くなり、実家の【季(とき)・たちばな】を飛び出し上京し当時開店したばかりのル・パルファンに勤めていた事がある。
この時、ミネルヴァと会った事がきっかけとなり現在に至っているのだ。
この経緯については、いずれ別の形で語る事となるだろう。
「群馬、草津温泉の出身と聞いてな・・・」
「温泉だから・・・、でしょうか?」
「いや、つい懐かしくなったのだよ。『丸に橘』紋が・・・・な」
ミネルヴァがニヤリと笑った。
(【季(とき)・たちばな】が・・・? まさかっ!?)
「どうした? 顔色が悪いようだが?」
「い・・・、いえ。別に・・・」
「先日の酒が今頃に回って来たのでは?」
探るように笑うミネルヴァ。
「おっしゃる意味が分かりませんが・・・」
「ほっほっほっ、弾と如月とを会わせた日の事だが・・・?」
(なぜ、学園長が知ってるのっ?)
ゆかりの顔色が見る見るうちに変わって行く。
「念の為に言っておくが、弾も如月も何も言ってはおらん・・・」
(じゃあ、どうして?)
「蛇の道は蛇、まだまだ儂には遠く及ばんよ。ゆかり君・・・」
(ここで認めるか・・・、それとも・・・)
ゆかりは全身の血が一瞬で凍るような思いがした。
心臓が早鐘を打つ。
これまでに経験した事の無い窮地に立たされ思考が定まらない。
自分がミネルヴァをも出し抜くつもりでいた事を、いとも簡単に見抜かれていたのだ、当然であろう。
「随分、顔色が悪いな・・・。ところで、君の母君は?」
「既に他界しております・・・」
完全にミネルヴァのペースに持っていかれている事をゆかりは感じ取っていた。
(目的は・・・、何なのっ!?)
「君が二十歳の時に他界した・・・?」
「えっ!?」
流石のゆかりも思わず、驚きの声が出てしまった。
確かに群馬・草津温泉の出身である事や生家が【季(とき)・たちばな】である事も話した事はある。
調べれば、【季(とき)・たちばな】に引き継がれている家紋が『丸に橘』である事も直ぐに分かるだろう。
だが、自分がかつて生徒達の身体に家紋の痣を確認した事、それぞれの生家へと出向き確認に当たって来た事を考えると・・・
(まさか、私も・・・!?)
驚きの表情を隠せなくなるゆかり。
ミネルヴァは漆黒の笑みを湛えながら話す。
「『丸に橘』は、井伊直正の家紋。そう、徳川四天王のなっ!」
「と・・・、徳川四天王・・・?」
「更に・・・。ゆかり、お前も弾や如月と同じなのだよ」
(私が・・・、弾と如月と同じって・・・。まさか・・・)
「お前は、儂と維織の子だ」
ゆかりの眼前に暗黒の闇が広がった。
(維織・・・っ! お母さんの名前・・・。私も・・・、学園長の娘・・・?)
「驚くのも無理はあるまい。だが、お前は徳川四天王の末裔であり、儂の娘だ」
「・・・、弾と如月は・・・?」
「・・・」
しばらく考え込むミネルヴァ、時間だけが静かに流れていく・・・
「良かろう、お前には先に話しておこう。弾は、本田忠勝の子孫であり如月は榊原康政の子孫だ」
(そうか・・・、確かに・・・)
ゆかりは記憶を遡る。
京都で松永流を訪ねた時、屋根瓦には『立ち葵』の描かれた瓦が揃って並んでいた。
ミネルヴァから如月の二月会襲名披露の際に取られた写真を見た時、如月の紋付は『源氏車』だった。
「やっと、気付いたのか? ゆかり?」
(全く、気付かなかった・・・。私は学園長の掌の上で踊っていただけ・・・)
「残りの一人は・・・?」
そう聞くのが精一杯のゆかり。
「『丸に片喰』、酒井忠次・・・。誰かは分かっておるが今しばらくは・・・」
(私じゃ・・・、とても勝てない・・・)
「ゆかり・・・」
名を呼ばれてハッとするゆかり。
「時が来るまでは、これまで通りにゆかり君と呼んでおこう。その方が都合も良い」
「・・・、仰せのままに・・・」
ゆかりはこの一言を発するのが精一杯だった。
「これまで以上に忠誠を尽くせ。間もなく、機は熟する。儂の・・・、一族の願望が叶う日も近いっ!」
ミネルヴァの笑い声が学園長室に響き渡っていた。
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