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第69話 和解
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葵とアキ達の熱い視線にたじろぐ萌の母――
そこに院内放送が流れた。
「秋田県よりお越しの平泉様、お伝えしたい事が御座います。一階、総合受付までお越し下さい」
一瞬の沈黙の後、萌の母親が病室を出た。
「あの・・・。先程、呼ばれました平泉ですが・・・」
萌の母親が受付を訪ねる。
「あちらの方です・・・」
受付の係員が手を伸ばした方へと視線を移すと、そこには弾とゆかりの姿があった。
「橘・・・、先生・・・。それに・・・」
面識のあるゆかりの姿、だがその隣には先ほどまで病室にいた葵と同じ顔立ちが・・・
「ご無沙汰しております。その節はお世話になりました」
ゆかりが軽く会釈をする。
「初めまして、学園長の代理として参りました松永弾と申します。先ほどまで病室におりましたのは、双子の姉です」
「双子・・・! あっ、萌がお世話になっております」
双子という事にも驚いたが、学園長の代理と聞き畏まる。
「ここでは何ですので、あちらの喫茶室にでも・・・」
戸惑いながらも弾のスマートなエスコートに従う萌の母親。
「この度は萌さんが事故に会われ、私共としても心苦しく思っております」
「いえ・・・」
弾の真意が見えず戸惑っているのが感じられる。
「当座の入用もあると思いますので、これをお納め下さい」
弾はテーブルの上に分厚い封筒を置いた。
「お金で解決しようと・・・?」
「いえ、あくまで当座のものです。足りなければ何時でも仰って下さい」
(出鼻を挫くか・・・)
傍観者に徹するゆかり。
「橘先生も同じお考えでしょうか」
「学園長の代理がされている事ですので・・・」
(弾、どう出るの?)
萌の母親は雰囲気に呑まれているのが手に取るように分かる。
しばらく考えた後に萌の母親が口を開いた。
。
「でも、こんな危険な事をさせる学園に萌を置いておく事は出来ません! 一歩間違えれば萌は命を落としていたかも知れないんですよ!」
萌の母親の語気が荒くなる。
だが、弾は冷静にそして、ニヤリと笑った。
(学園長?)
ゆかりが驚き瞬きした。
その一瞬、弾とミネルヴァがだぶって見えたのだ。
「お言葉ですが、萌さんをテルマエ学園に入学させたのは貴女ではないのですか?」
「うっ・・・」
萌の母親は二の句が継げない。
「それに・・・、萌さんのテレビ出演の恩恵を平泉庵も受けていると思いますが?」
「・・・」
「私の知る所では、ここ半年の平泉庵の宿泊者数は前年に比べ220%UPしていると・・・」
「そっ・・・、それは・・・」
「客単価もUPして、一人当たり80%以上の収益改善になってる筈ですが?」
「どうして、そんな事まで・・・」
「アイドル甲子園と【スケボー・万歳!!】が始まってからの伸び率が凄いですね」
「・・・」
(ふうん、思ったより調べ上げていたのね。学園長はこれを見越して・・・)
ゆかりは自分の出る幕は無いと感じていた。
弾は平泉庵の過去から現在までの経営状況などを事細かく調べ上げていた。
無論、今回の萌の入院・治療費が負担となる事も試算している。
(当面の100万、更に加算すると言われれば心も流されるわね)
かつて自分が弾に対して取った手段を使いこなしている事に驚くゆかり。
相手の手の内を知り弱みを突く事、交渉とは始まる前に勝敗が決している事もあるのだ。
「いかがでしょうか? このまま萌さんの事は私達に任せて頂けないでしょうか?」
「でも・・・」
「あの娘達に夢を追い駆けさせてあげませんか?」
「夢を・・・?」
「あの娘達は皆、地方の温泉旅館の子です。誰もが自分の育った温泉をもっと広めたいと願っているんです。そして、その為に【ムーラン・ルージュ】が誕生した」
「・・・」
「無論、どうしても連れて帰ると言うならお止めするつもりはありません。これまでの費用を返して欲しいとも言いません」
萌の母親は黙って考え込んでいる。
「貴女も平泉庵を託したい、乳頭温泉を活性化させたいと思っていたのではないのですか?」
萌の母親が、ハッと我に返る。
そして・・・
「萌を・・・。萌を宜しくお願い致します」
萌の母親が立ち上がって深々と頭を下げた。
「さて、用件は済みましたな。橘はん、帰りまひょか」
「え・・・。えぇ・・・」
弾の変貌ぶりに驚いたゆかりであった。
(弾・・・。貴方、気付いているか分からないけど、そっくりよ・・・)
先を歩く弾の背中を見つめるゆかり。
(貴方が最も憎んでいる、自分の父親に・・・)
弾の短期間の成長に驚きながらも、恐怖を感じ始めたゆかりだった。
萌の母親が病室へと戻った。
「お母さん・・・。ボク・・・」
「萌。良い友達と良い先生に恵まれましたね」
「えっ?」
萌の母親が向き直る。
「そっ、それじゃ・・・」
「萌、皆さんにご迷惑かけないようにね」
「松永先生・・・」
「・・・」
「大変、失礼な事を・・・。申し訳ありませんでした」
「いえ、そんな・・・」
「松永先生・・・、【ムーラン・ルージュ】の皆さん。萌を宜しくお願い致します」
萌の母親が深々と頭を下げた。
「はい、今度こそ責任を持ってお預かりします」
涙声になった葵がはっきりと答える。
「やったぁ!」
病室にアキ達の歓声が上がったのは言うまでも無いだろう。
そこに院内放送が流れた。
「秋田県よりお越しの平泉様、お伝えしたい事が御座います。一階、総合受付までお越し下さい」
一瞬の沈黙の後、萌の母親が病室を出た。
「あの・・・。先程、呼ばれました平泉ですが・・・」
萌の母親が受付を訪ねる。
「あちらの方です・・・」
受付の係員が手を伸ばした方へと視線を移すと、そこには弾とゆかりの姿があった。
「橘・・・、先生・・・。それに・・・」
面識のあるゆかりの姿、だがその隣には先ほどまで病室にいた葵と同じ顔立ちが・・・
「ご無沙汰しております。その節はお世話になりました」
ゆかりが軽く会釈をする。
「初めまして、学園長の代理として参りました松永弾と申します。先ほどまで病室におりましたのは、双子の姉です」
「双子・・・! あっ、萌がお世話になっております」
双子という事にも驚いたが、学園長の代理と聞き畏まる。
「ここでは何ですので、あちらの喫茶室にでも・・・」
戸惑いながらも弾のスマートなエスコートに従う萌の母親。
「この度は萌さんが事故に会われ、私共としても心苦しく思っております」
「いえ・・・」
弾の真意が見えず戸惑っているのが感じられる。
「当座の入用もあると思いますので、これをお納め下さい」
弾はテーブルの上に分厚い封筒を置いた。
「お金で解決しようと・・・?」
「いえ、あくまで当座のものです。足りなければ何時でも仰って下さい」
(出鼻を挫くか・・・)
傍観者に徹するゆかり。
「橘先生も同じお考えでしょうか」
「学園長の代理がされている事ですので・・・」
(弾、どう出るの?)
萌の母親は雰囲気に呑まれているのが手に取るように分かる。
しばらく考えた後に萌の母親が口を開いた。
。
「でも、こんな危険な事をさせる学園に萌を置いておく事は出来ません! 一歩間違えれば萌は命を落としていたかも知れないんですよ!」
萌の母親の語気が荒くなる。
だが、弾は冷静にそして、ニヤリと笑った。
(学園長?)
ゆかりが驚き瞬きした。
その一瞬、弾とミネルヴァがだぶって見えたのだ。
「お言葉ですが、萌さんをテルマエ学園に入学させたのは貴女ではないのですか?」
「うっ・・・」
萌の母親は二の句が継げない。
「それに・・・、萌さんのテレビ出演の恩恵を平泉庵も受けていると思いますが?」
「・・・」
「私の知る所では、ここ半年の平泉庵の宿泊者数は前年に比べ220%UPしていると・・・」
「そっ・・・、それは・・・」
「客単価もUPして、一人当たり80%以上の収益改善になってる筈ですが?」
「どうして、そんな事まで・・・」
「アイドル甲子園と【スケボー・万歳!!】が始まってからの伸び率が凄いですね」
「・・・」
(ふうん、思ったより調べ上げていたのね。学園長はこれを見越して・・・)
ゆかりは自分の出る幕は無いと感じていた。
弾は平泉庵の過去から現在までの経営状況などを事細かく調べ上げていた。
無論、今回の萌の入院・治療費が負担となる事も試算している。
(当面の100万、更に加算すると言われれば心も流されるわね)
かつて自分が弾に対して取った手段を使いこなしている事に驚くゆかり。
相手の手の内を知り弱みを突く事、交渉とは始まる前に勝敗が決している事もあるのだ。
「いかがでしょうか? このまま萌さんの事は私達に任せて頂けないでしょうか?」
「でも・・・」
「あの娘達に夢を追い駆けさせてあげませんか?」
「夢を・・・?」
「あの娘達は皆、地方の温泉旅館の子です。誰もが自分の育った温泉をもっと広めたいと願っているんです。そして、その為に【ムーラン・ルージュ】が誕生した」
「・・・」
「無論、どうしても連れて帰ると言うならお止めするつもりはありません。これまでの費用を返して欲しいとも言いません」
萌の母親は黙って考え込んでいる。
「貴女も平泉庵を託したい、乳頭温泉を活性化させたいと思っていたのではないのですか?」
萌の母親が、ハッと我に返る。
そして・・・
「萌を・・・。萌を宜しくお願い致します」
萌の母親が立ち上がって深々と頭を下げた。
「さて、用件は済みましたな。橘はん、帰りまひょか」
「え・・・。えぇ・・・」
弾の変貌ぶりに驚いたゆかりであった。
(弾・・・。貴方、気付いているか分からないけど、そっくりよ・・・)
先を歩く弾の背中を見つめるゆかり。
(貴方が最も憎んでいる、自分の父親に・・・)
弾の短期間の成長に驚きながらも、恐怖を感じ始めたゆかりだった。
萌の母親が病室へと戻った。
「お母さん・・・。ボク・・・」
「萌。良い友達と良い先生に恵まれましたね」
「えっ?」
萌の母親が向き直る。
「そっ、それじゃ・・・」
「萌、皆さんにご迷惑かけないようにね」
「松永先生・・・」
「・・・」
「大変、失礼な事を・・・。申し訳ありませんでした」
「いえ、そんな・・・」
「松永先生・・・、【ムーラン・ルージュ】の皆さん。萌を宜しくお願い致します」
萌の母親が深々と頭を下げた。
「はい、今度こそ責任を持ってお預かりします」
涙声になった葵がはっきりと答える。
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