東京テルマエ学園

案 只野温泉 / 作・小説 和泉はじめ

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第67話 狙撃!! 

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特設ハーフパイプから凡そ1KM弱先のビルの屋上にその人影があった。

風に靡かせた長い髪、身に纏った黒いコートが翻る。
肩に背負った大型の楽器ケースを床に置き、蓋を開ける。

そこには・・・

「AI L96A1・・・。わたしの相棒・・・」
そう言うと銃を取り出し、サイトスコープを取り付ける。

「風は・・・、南西に風力5ってところか・・・」
髪を後ろで束ねると、スコープを覗き込む、その目には空中を舞う萌の姿がはっきりと映っていた。

萌が空中へと舞い歓声が一段と高まった瞬間・・・
静かに呟き、そっと引き金を引く。

「Goodbye・・・」

銃声は長距離の風そして歓声にかき消される。
射出された7.62NATO弾が一直線に萌へと向った。

「えっ・・・っ!?」
そんな中、涼香の耳だけは遠く離れた微かな異音をキャッチしていた。
「・・・、銃声っ?」
その瞬間、萌のボードの後輪が弾け飛ぶ。

「なっ・・・っ!」
萌の視線は、その特殊能力(瞬間記憶能力)で車輪を打ち抜く銃弾を捕らえていた。

(このまま着地出来ない・・・!)
空中でバランスが崩れる。

萌は咄嗟に身体を捩じるがボードがスピンし脛を直撃する。

「うっ・・・!」
萌の顔が苦痛に歪む。

カメラに映った萌はまるでスローモーションのように落ちて行く・・・

右足を軸にし、手を付きながら受け身を取るが身体はハーフパイプの斜面を転がり落ちた。

「うわぁぁぁっ!」
「きゃあぁぁぁっ!」
「お・・・っ、落ちたぞっ!」
観客席は阿鼻叫喚の坩堝と化していた。

(・・・っ!)
手足のアチコチが血塗れになり顔面からも血が流れている。
特に右足は紫色にはれ上がっており、皮下出血しているようだ。
顔色も真っ青を通り越し、真っ白になっている。


「誰かっ! 早く救急車を呼んでくれ~っ!」
三橋が悲鳴を上げる。

「萌ちゃんっ!」
「萌っ!」
「平泉っ!」
アキ達と葵が萌へと駆け寄るが、萌はぐったりして返事も無い。

「まさか・・・」
誰もが考えたくない最悪の事態を想像していた。


程なくして救急車が到着し、萌を担架に乗せて搬送する。

「付き添いの方は?」
「うちが・・・。この娘の担任です」
葵と萌を乗せた救急車は、西京医科大学救急救命センターへと向かって走り出した。

「平泉・・・。お前にもしもの事があったら・・・。うちは・・・」
葵は今にも泣きだしそうになりながら、今は祈るしか出来なかった。


「事故・・・ですか?」
不慮の事故という見解であった。
警察による現場検証でも不審物は何一つとして発見されていない。

「もしかとは思ったんだが・・・」
この現場検証の指揮を執っていた隼人が呟く。

(考えすぎか・・・)
「隼人さん!?」
自分を呼ぶ声に振り向く隼人。

「君は・・・、確か・・・」
「白布です。白布涼香・・・」
ダンテのコンサート会場で竜馬が涼香をファン達に紹介した時以来である。

「隼人さん、警察の方だったんですか?」
「まぁ、【ダンテ】は趣味みたいなもので・・・」
「竜馬さんと武蔵さんも?」
「いや・・・、あいつらとは別だが。それより、なぜここに?」
「萌ちゃんの・・・。友達の応援って言うか・・・」
(そうか・・・、この娘も【ムーラン・ルージュ】のメンバーだったな・・・)
「あの・・・」
「んっ!?」
「萌ちゃん・・・。失敗したんじゃないんです」
「どういう事だ?」
「萌ちゃん、狙撃されたんですっ!」
「なっ・・・っ!?」
「あたしも感じました。嫌な気配を・・・」
涼香の側に圭が寄って来ていた。

(この娘、あの時の・・・。何の因果か・・・)
隼人はあのマンゴローブ事件の事を思い出す。

「気持ちは分かるが・・・」
仲間の失敗と大怪我を見て、動揺しているのだと隼人は思ったのだが・・・

(この目・・・)
「どうして狙撃だって分かるんだ?」
「聞こえたの、銃声がっ!」
「感じたんですっ!」
涼香と圭が揃って、指を差す。

「あっちからっ!」
二人の指差した方角にはビルがあった。
隼人がその方角を見る。
(確かに遮蔽物は無い・・・、絶好の狙撃ポイントだが・・・。この距離で狙撃だと・・・、しかもこの横風だぞ・・・)


無風状態で静止しているターゲットを狙撃するのであれば考えられないものではないが、風の勢いも強い中での事である。

更に・・・

(軽く500、いや600mはあるな・・・)

だが、涼香と圭の視線は何かを信じさせるものがあった。
「わかった・・・」
隼人がそのビルへと警察官を向かわせるーー


「誰も居ません」
無線機からビルへと向かった警察官の声が聞こえた。

(だろうな・・・。居たとしても既に逃走している筈・・・)

無線機のスイッチを切ろうとした瞬間・・・
「待ってくださいっ!」
緊迫した声が聞こえた。

「どうしたっ!?」
「こっ・・・、これはっ!?」
ビルの入り口近くで発見されたもの・・・、それは屋上からの狙撃の時に排出され落ちて来た空薬莢だったのだ。

「すぐに、鑑識へっ!」
隼人が叫んだ。

(もし、本当なら・・・。こんな狙撃の出来るヤツは・・・)
想像を絶する何かが動いてしまっている事を感じずにはいられない隼人だった。

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