東京テルマエ学園

案 只野温泉 / 作・小説 和泉はじめ

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第64話 転生を見届けし者 

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一夜明けて、アキ達一行は八郎の手配したバスに乗り大阪城へと向う。
その後をつけるのは、無論DoDoTVの一行である。

バスが大阪城へと近づくにつれ、アキ達は次第に無口になっていた。
異常な気配を感じる葵や渡、カトリーナや八郎、二郎も何が起ころうとしているのかと気が
気ではない。

駐車場に停車したバスの扉が開くと、アキ達はまるで夢遊病にでもなったかのように何も喋らずに一人また一人と席を立ち降りていく。

(温水だけじゃない・・・。皆、どうしたんだ・・・)
葵が心配そうな視線を送りながら、アキ達を追いかけるように後を追う。


「何か、雰囲気変ですよ・・・」
すずが口火を切る。

「確かに・・・」
三波も異常さを感じているようだ。

「三橋さん・・・。あまり深入りしない方が・・・」
岩田の忠告は本気で三橋を心配しているのだろう。

「いや・・・、行くぞっ!」
ポケットの中のお守りをグッと握りしめた三橋が先頭になって歩く。


アキ達は初めて来た筈の大阪城をまるで勝手知ったかのように、迷う事なくまっすぐに天守閣へと延びるエレベーターへと向かっていた。

一基目には、アキ達8人が乗り込み、ドアが閉まる。
葵達も急ぎ、二基目のエレベーターへと乗り込んだ。


「皆で何するんですかね?」
すずが岩田の顔を見る。

「城なんて若い娘達の遊ぶ所なんて無いよなぁ」
「でも、急いでたって言うか・・・」
三波は何かを感じていたようだ。

(何かある・・・。きっと、何かあるぞ・・・)
三橋の指示で岩田とすずがカメラを取り出す。


「・・・テレビ局だと?」
三橋達の様子を天守閣の上から見下ろす者がいた。
漆黒の髪に黒いパンタロンスーツ・・・、不動院晶である。

「あまり歓迎はできんな・・・」
そう言うと、バッグからスマホを取り出し電話を架ける。

「不動院ですが、本部長を・・・」


晶の電話先、それは大阪城のほぼ向かいにある大阪府警本部だった。

「大阪城の天守閣を至急封鎖しろっ! 庁内の全職員を使っても構わんっ!」
意味不明ではあるが、府警本部長直々の勅命である。
数えきれない程の警察官が一斉に大阪城へと走った。


天守閣では、アキを中心として七瀬・涼香・萌・圭・穂波・優奈・汐音が円陣を組んで傅いている。

誰もの目が空虚で遠くの空間を見つめているようだ。
よく見ると、皆が薄い光のベールに包まれているようにも見える。
しばらくして、アキが片手を挙げ何かを呟く。
他の7人は・・・、黙って傾聴しているようだ。


(輪廻転生か・・・。さしずめあの者達は・・・。なるほど、私をここに導いたのは・・・)
天守閣の片隅で目を細め、微笑む晶。



葵達がエレベーターで到着し、その光景を見て硬直する。

「皆っ・・・? どうしたんだ・・・?」
「前にも確か・・・っ! 戦国ロマンの里でっ!」
記憶を辿る渡。

(でも、あの時・・・。ゆかり先生の指示で・・・!)
自分達は展示室から追い出されてその後の事は見ていない。

「何やっ! これは・・・っ、ビックリどころの話やないでっ!」
「師匠っ!」
「クッ・・・!」
八郎と二郎はおろか、普段冷静なカトリーナでさえ何をどうすれば良いのか思いつかないでいた。


「行けぇぇぇぇっ! 特ダネだあぁぁぁっ!」
三橋の合図でDoDoTVの面々も飛び込んでくる。

「三波っ!」
「はっ・・・。はいっ!」
三波がマイクを持った瞬間に黒い影が三橋達の前に立ちふさがった。


「撮影は中止だっ! 帰って貰おうっ!」
その常軌を逸した威厳と威圧感の前に撮影の手が止まる。

「な・・・、なんだお前は?」

三橋が辛うじて声を出した瞬間、警官達が雪崩込むように入って来た。

「本部長はっ!?」
晶の叫びに制服を着た初老の男が歩み出る。

「ここを封鎖、そこのテレビ局を摘まみだせっ!」
「何だってぇ?」
三橋の反論する声よりも早く、警察官達によりDoDoTVの面々は室外へと連れ出された

(どうやら間に合ったか。悪く思うな・・・。お前達の為だ・・・)
晶が呟く。

「何だってんだよ・・・。まった・・・く・・・」
毒づきながらポケットに手を入れた三橋の指が異常な感触を捉えていた。

そして、恐る恐る取り出した御守りは・・・

まるで刀で切られたかのように斜めに真っ二つに切れていたのである。
見る見るうちに血の気が引き真っ青になる三橋、その両目には涙が止め処なく流れていた。


「さて、そろそろこちらもお帰り願うとするか・・・」
晶は持っていたバッグから水晶の数珠を取り出すと目を閉じ真言を唱える。

「ノウマク・サンマンダバザラダン・センダ・マカロシャダ・ソワタヤ・ウンタラタ・カンマン・・・。喝っ!」

カッと眼を見開き、数珠を振りかざすとアキ達を取り巻いていた光がフワっと離れ天高く昇って行った。

バタッ! バタッ! バタッバタッ! 

一斉にその場に崩れ落ちるアキ達。


「アキっ!」
渡がアキに駆け寄る。

「星野っ! 向坂っ!」
葵も思わず駆け出した。

「萌ッ! 涼香ッ!」
カトリーナも我を取り戻す。

「圭ちゃんっ!」
「優奈さんっ! 優奈さん!」
遅ればせながら、八郎と二郎も・・・

「心配ない・・・。すぐに気が付く・・・」
「貴女は・・・?」
葵が晶を見上げ尋ねる。
「・・・」

「不動院さん」
府警本部長が晶を呼ぶ。

「これは・・・。一体・・・」
「地霊が騒いだだけの事・・・。だが、降臨したのは・・・」
「・・・したのは?」
「・・・忘れて、職務に励みなさい」
「はっ!」
府警本部長が晶に敬礼をする。

(何なんだ・・・。この女・・・?)

そして、一瞬アキ達へと視線を戻して改めて晶の居た方向を見ると既にその姿は無かった。
しかし後ほど、思わぬ形で再会する事となるのである。

ナニワ空中温泉と大阪城の一件も無事?に片付いたアキ達一行は東京へと戻るため関西国際空港へと向かっていた。

(あの温水達の件、果たして橘ゆかりに報告した方が良いのか・・・。それとも・・・)

大阪城で目の当たりにしたアキ達の異常な行動、そしてあの不思議な女性の存在。

(不動院とか言ってたが・・・。府警本部長を呼び出した? 何者なんだ?)
葵の頭の中は複雑な糸が絡まり合っていた。

(こんな時、弾が居れば・・・)
ふとバスの車窓から見える海面を見つめながら考える。

(いや・・・。今はアイドル甲子園だな・・・)

大阪で得た【Konamon18】情報は大きかった。
そして、これまでにない大きな戦いとなる事を予感する葵だった。
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