東京テルマエ学園

案 只野温泉 / 作・小説 和泉はじめ

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第61話 クラウンジュエル、発動!!

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孫によるテルマエ学園の株式買付はその後も進んでいた。

「うまく行ってるようだね~」
「当タリ前ダ、総額13億円・・・。コレ程ノ大勝負ハ過去ニ無イ」
「じゃ、これで失敗したら大変だねぇ」
ニヤリと笑うヤミを睨みつける孫。

「失敗ナド、アリ得ナイッ!」
その時だった。

「大変デスッ、テルマエ学園ガ再増資ヲ・・・」
「何ダトッ! 幾ラダッ!」
「5億5千万円増資シテ・・・」
「ふむ、総額18億5千万円か・・・。孫、どうするの?」
「クソッ、今ハ資金ガ足リナイッ!」
「株式取得率は・・・、18%くらいになっちゃったね。これじゃちょっと厳しいかもよ」
「本国カラ送金サセロッ!」
「誰かが、ホワイトナイトを仕組んだんじゃない? あまり熱くならない方がいいと思うよ」
「黙ッテロッ!」
「はいはい、どうなってもボクのせいにしないでよね~」

(今日が金曜・・・。孫が本国から遅らせたお金は早くても月曜か・・・、嫌な予感がするなぁ)

そう考えているヤミだったが、顔には楽しそうな笑みが浮かんでいた。



「絶妙なタイミングだったな」
「これも総帥のお蔭です」
早瀬コンツェルンの応接室で将一郎と弾が話している。

(今日は、橘ゆかりは無しか・・・。手を離れたとすれば・・・)
あくまでもにこやかに談笑する二人。

「それで、次の手は?」
「予定通り、クラウンジュエルを実行します」
「問題は・・・、タイミングだな」
「えぇ、恐らく週明けにはそれなりの額を送金させて仕掛けてくるでしょう」
「相場が開いた直後、30分の勝負か・・・」
「そこで一気に・・・」
「承知した。場所はここで良いかね?」
「その方が好都合でしょう」
「ミネルヴァ氏は?」
「全て想定済でしょう・・・。このままで良いかと」
「分かった」
「では、宜しくお願い致します。ところで・・・」

「何かね」
「ご長男の事ですが・・・」
「駆が何か?」
「早瀬リージェンシーホテルでしたか・・・」
(なぜそれを知っているっ!?)
将一郎の顔色が変わった。

「萬度が関わっている以上、ご心配でしょうが・・・」
「大丈夫だ。それなりの備えはしてある」
「二月会・・・、ですか?」
(まさか、そこまでっ!?)
将一郎にとってもこれほどの驚きを感じた事は過去に無かった。

「私でお役に立てる事があれば・・・。と思いまして」
「いや、君もなかなかのようだ。駆の事はどこで?」
「企業秘密・・・、でしょうか・・・」
(こやつ・・・。あの橘ゆかり以上に手強いかも知れんな・・・)
「そうですな、その時はお力を・・・」
「承知しました」
(ミネルヴァか・・・。どこまで手駒を揃えている・・・)
弾を見送りながら、考える将一郎であった。


その後も裏取引でテルマエ学園の株は高騰取引が続いていた。
無論、空売り・空買いの状態である。

孫はこの取引所の開いていない間も徹底的に空買いを続けていた。
本国からの着金を待って一気に株式の大量買い付けを行うための布石である。
そして運命の週明けを迎えた。



「タッ、大変デスッ!」
「何ダ、ドウシタ・・・?」
孫は部下の付けたテレビを見る。
「コ・・・、コレハッ?」
画面には早瀬将一郎が映っており、大々的な字幕が踊っている。

『早瀬コンツェルン、テルマエ学園を買収!!』

「あーぁ、してやられちゃたねぇ」
あくびをしながらヤミが入って来る。

「・・・ッ!」
孫の顔には憤怒の形相が浮かんでいる。

「中核になってるテルマエ学園の経営権を取って、ミネルヴァグループ全体を掌握しようとしたけど・・・。先に、買われたかぁ。確かこれって・・・」
「ク・・・、クラウンジュエル・・・ッ!」
「そうだったね~。でも、孫? かなりヤバいんじゃないの?」


事実テルマエ学園の株式取引は相場の開始とともに一気に熱が冷めている。
早瀬コンツェルンが乗り出した事により、投資家たちも冷静になったのだろう。

だが・・・

「空買いしたのは、まずかったねぇ」
ヤミの言うとおりである。

中国からの着金を待ってすぐに空売り株を買い占め、その場決済させている。
だが、大量に手に入れた株式も早瀬コンツェルンの傘下企業となったテルマエ学園では最早、大した意味を持っていない。

無論、ミネルヴァグループへの影響など全く無いのだ。


「謀ラレタノカ・・・、コノ俺ガ・・・っ!」
大損をした事よりも、自分の考えを上回わられた事が孫を激怒させていた。

「早瀬・・・! ドコマデ俺ノ邪魔ヲスルッ!」
怒りに満ちた孫がテレビ画面を睨みつけている。

「ヤミッ!」
「何かなぁ?」
「早瀬駆ノ居場所ハ分カッテイルナ?」
「もっちろーんっ!」
「早瀬駆ヲ殺セッ!」
「でも、二月会がガードしてるよ」
「何デモイイカラ、ヤレッ! オイッ!」
孫が側近を呼んだ。

「戦争ダッ! 派手ニ暴レテコイッ! 俺達ノ恐ロシサヲ教エテヤレッ!」
「了解デスッ!」
「ヤミ・・・。ドルゴニ連絡ヲ。ターゲットハ・・・」
「分かってるよぉ・・・。早瀬駆だよね」
「コノ国、全部ブッ壊シテヤルッ! ソレト・・・」
「それと?」
「テルマエ学園、アイドル甲子園ニ出場シテイタナ・・・」
「そうだね~。次に勝ったら、ダイナマイトガールズとの決勝戦かなぁ。こっちも勝ったらだけどねぇ」
「俺ヲ怒ラセタ事ヲ後悔サセテヤルッ!」
怒りに満ちた孫の顔に黒い笑みが浮かぶ。

「ドルゴノ腕前ヲ確認シテオクカ・・・」
「あはっ! 誰が犠牲になるのかなぁ」
孫とヤミの視線がテレビへと向けられていた。



テルマエ学園の敵対的TOBは回避された。
だが、新たな危機を引き寄せてしまっていたのだった。



スケボー万歳とアイドル甲子園も両企画ともに順調となってた三橋は新たな企画を打ち出していた。

名付けて、【新・温泉を訪ねて・・・、ぶらり】である。
早い話が新しく出来た温泉を訪れ紹介していくという番組である。
三波・岩田・すずといつものメンバーが揃えられ、三橋のエグゼクティブプロデューサーという肩書だけで強引にスタートしたのである。


「大阪に【ナニワ空中温泉】ってのが、新しくOPENしたらしい。そこで、このDoDoTV最強のメンバーでロケに行く事にしたぞっ!」
こうなったら人の意見など聞く耳を持たないのが三橋である。

更に・・・

「大阪っ!? だったら、【WMJ】にも行きましょうよっ!」
すずは既に本来の目的すら見失っている。

「大阪かぁ、遊ぶとこ一杯ありますしねっ!」
このメンバーでは唯一の良識派と言える岩田までこの有様である。

「まぁ、アイドル甲子園も準決勝まで少し時間もありますし。久しぶりに突撃リポーター 濱崎三波の復活ってのも有りかなっ!」
ついには三波まで三橋の悪乗りが伝染してきたようだ。

「今までバタ付きすぎたし、ロケしながら温泉で骨休めってかぁ。よーし、一泊二日コースで行くぞっ!」
三橋達の久しぶりの珍道中はこうして幕を開けたのだった。


だが、奇しくも同じ日程でアキ達も【ナニワ空中温泉】を訪れる事になるのは、恐ろしい偶然、いや何か因縁めいたものを感じなくもない。

しかし、このロケに浮かれている三橋は重大な事を見落としているーー。

そう、三波を伴った地方ロケであるという事を・・・

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