東京テルマエ学園

案 只野温泉 / 作・小説 和泉はじめ

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第54話 ハッカーVSハッカー

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テルマエ学園・IT管理室に警報が鳴り響いた。

「外部からのハッキング、多数っ!?」
「どういう事だ? 至急、対策ソフトを起動させろっ!」
「駄目です、間に合いませんっ!」

管理室の壁面に配置されている百近くのモニターが次々と赤色で『EMERGENCY』の表示に変わって行く。

「どうしたの!?」
異常の報を受けたゆかりが弾とともにIT管理室に駆けつけた。

「分かりません、ただ数十人レベルでのハッキングを仕掛けて来ているとしか・・・」
「そんな・・・。馬鹿な・・・」
ゆかりが絶句する。

「学園長が不在の時に、こんな事が起きるなんて・・・。まさか、狙って・・・?」
弾の頭に一抹の不安が過った。

「とりあえず、防衛策をっ!」
「駄目ですっ、侵入速度が速すぎますっ!」
「テルマエ学園のIT管理室は国内でも有数の技術力を誇っているのに・・・」
ゆかりが唇を噛む。


「いいよぉ、いいよっ、もっと抵抗してよっ! ほらっ、またクリア~っ!」
テルマエ学園にハッキングを仕掛けていたのはヤミである。

両手両足を使って2台のパソコンを同時に操作しているとは言え、数十人を擁するテルマエ学園のIT管理室へとやすやすと侵入しているのはやはり常軌を逸していると言えるだろう。

「あはははっ!あははははっ!」
ヤミの甲高い笑い声とキーボードを叩く音だけが聞こえている。

「あれっ!?」
ヤミの手が止まる。

「誰かが・・・、邪魔している・・・?」


「ハッカーの侵入速度が落ちていますっ!」
「ウイルス感染したサーバーも一部が復帰っ!」

(どうしたの? 何が起こっているの?)

「学園内から敵のハッキングに対抗しているものがありますっ!」
「ここじゃないの?」
「学園内には間違いありませんが・・・」
ハッと顔を見合わせる弾とゆかり。

「こんな事が出来るのは・・・」
「一人しか・・・」
弾がいきなり走り出した。

「松永さんっ!?」
すれ違った職員を突き飛ばすようにして弾は走る。


「橘さんっ、我々はどうすればっ?」
「弾・・・。いえ、松永が戻るまで持ち堪えなさいっ! 何としてもっ!」
(恐らく・・・)
ゆかりはこの危機を乗り切る事だけを考えようとしていた。


弾が向かったのは、学生寮である。
そして、階段を駆け上がりある部屋の前に立つと荒い息のままドアを力強くノックする。

「開けろっ!カトリーナっ! 分かってるんだっ!」

カチャリ

部屋の内側からロックを外す音が聞こえる。

「弾・・・、センセイ・・・」
ドアの開けたカトリーナの後ろでパソコンのモニターが光っている。

「防衛していてくれたんだな?」
「・・・」
押し黙ったカトリーナが口を開く。


カトリーナは【ムーラン・ルージュ】の対戦相手や現在勝ち残っているチームの情報収取をしていたのだが、その途中で学園のサーバーがハッキングされているという僅かな痕跡に気付いたのだった。
かつてここでハッキングされていた学園のサーバーに気付き逆ハックを仕掛けたのだがその時は追いきれずに終わっていたのだ。
そして今新たにハッキングされている事を知り、自らの意志で応戦していたのだった。


「やはり、カトリーナだったのか・・・」
カトリーナが黙って下を向く。

これで自分が学園のサーバーに直接アクセスしていた事が解かれば、相応の処分を受けることは考えるまでも無い。

(ゴメンネ・・・、皆・・・)

最早、学園に残る事は出来ないだろうし、犯罪者として収監される事も覚悟していたカトリーナ。
だが、アキ達のいるこのテルマエ学園を守りたいという一念のみだったのである。


「カトリーナっ、力を貸してくれっ!」
「センセイ・・・?」
「この危機を乗り越えるには、お前の力に頼るしかない。頼む・・・」
弾がカトリーナに深く頭を下げる。

その間にもカトリーナのパソコンの画面に次々と乱数が表示されては、消えて行く。

(今ハ・・・!)

カトリーナが意を決した。

「センセイ・・・。コレヲ」
カトリーナが小型のイヤホンを渡す。

「ワタシ、指示ダシマス。ソレヲIT室デ実行サセテ下サイ」
「分かった・・・!」
弾がイヤホンを付けてIT管理室へと走り、カトリーナはパソコンの前に座り直し、マイクをセットする。

「弾センセイ、到着ネッ!」
弾に渡したイヤホンの位置とIT管理室の位置情報が一致した。

「サァ、反撃開始ヨ。ブラフマーの復活・・・、シッカリ、見セテアゲルッ!」


弾が息を切らしてIT管理室へと駆け戻る。

そして・・・

「計算速度を16進単位へ変更っ! 予備のサーバーを全て起動させろっ!」
ITに関して素人の筈の弾の指示に皆が戸惑う。

「弾の言う通りにっ! これは、学園長命令ですっ!」
ゆかりの檄が飛ぶ。

「12番・38番サーバーダウンッ!」
「47番、ウイルス感染を感知っ!MYDOOMですっ!」
「6番も感染っ!PE_EXPIROっ!」
「47番をダウンっ! 6番は物理的に遮断しろっ!」
「予備サーバー、起動完了しましたっ!」
「8~14番までのサーバーデータをすべて移行っ!」

先ほどまで止まる気配を感じさせなかった赤色の『EMERGENCY』表示が次々と消えて行く。

「誰だよ~、せっかくうまく行ってたのにぃ!」
ヤミの顔が一瞬険しくなる。

「こんな事が出来るとしたら・・・! ブラフマーちゃんかな? お帰りぃ、ブラフマーちゃん!」
そして、ニヤリと笑った。

「さーて、ここからが本気だよっ!」
ヤミの両手両足の動きが今までに増して早くなった。


「クッ、早イッ!コレ程トハッ!」
カトリーナも自分のパソコンで対応しながら弾に指示を出し続ける。
「ウイルス感知、27番は、ワクチンをワタシが・・・。全体の防衛領域ヲ広ゲテッ!」


「27番はそのまま放置っ、全体の防衛領域を拡大っ!」
「サテライトサーバーはいくら落ちても構わんっ、メインサーバーを死守しろっ!」


攻防は数時間続いたーー
そして・・・


「メインサーバーにハッキングを確認っ! 駄目です、乗っ取られますっ!」
IT管理室のモニターの過半数が赤く染まる。

「やったねっ、ボクの勝ちぃ!」
ヤミが嬉しそうに笑う。

「罠に落チタノハ、貴方ネッ!」
カトリーナがENTERキーを押す。

「えっ・・・。まさかぁ・・・」

「な・・・。何が起きたの・・・」

それまで激しく攻防を繰り返していたモニターの緑と赤の点滅が止まった。

そして・・・


一瞬の点滅があったと思った瞬間、一気に緑の通常表示へと変わったのだ。

「・・・。オ、オールグリーン・・・」
「おぉぉぉぉっ!」
IT管理室に歓声が上がる。

「やった・・・、やったぁぁぁっ!」
「防衛成功だ、凄いぞっ!」
「まるで、神業だっ!」
皆が弾の下へと集まって来る。

(俺は・・・、カトリーナの言葉を代弁しただけだが・・・)
口を開こうとする弾の肩をポンっと叩き、ゆかりが声を掛ける。

「大したものね・・・」
「いや、俺は・・・」
「大衆は常に英雄を欲するものよ・・・。起きた事実は最大限に利用しなさい・・・」
「・・・」

「貴方が何処に行って戻って来たのか、私は知らない。だから、学園長に報告するのは貴方がこの騒ぎを解決したって事だけ・・・」
(カトリーナの事も不問に付すと言う事か・・・)
「とにかく、お疲れさまっ!」

ゆかりが右手を差し出し、致し方なく弾はその手を握る。
その姿を見て、更に歓声が高まっていた。


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