東京テルマエ学園

案 只野温泉 / 作・小説 和泉はじめ

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第47話 最強の格闘技

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「ココカ・・・」
マンゴローブの帰りを待つハンがいる【ベティのケチャップ】に招かれざる客が訪れようとしていた。

「オカマバー、日本人ノ考エ分ラナイゼ」
「マァ、何人カ攫ッテ来イッテ命令ダカラナ」
総勢で6人、1人が表のドアの前に立ち残りの5人が店内へと入って行く。

「誰カ居ナイカッ!?」
「誰ダイ?」
店の奥からハンが姿を見せる。
「他ノ奴ハ?」
「生憎・・・、定休日デネ・・・」
「ジャア、オ前ハ・・・?」
「留守番サ・・・」
「留守番ネ・・・」
互いに相手を探りつつ椅子とテーブルが片付けられているホールの中央に歩みを進める。
アキ達、【ムーラン・ルージュ】の結成パーティが行われた場所である。

(中国訛リ・・・、萬度カ・・・?)
ハンが侵入者達を見定める。

(コイツ・・・)
ハンの視線の鋭さから何かを感じた男達が左右に広がる。

(素人・・・、ジャ無イナ・・・)
「用ハ・・・?」
「オ店ノ従業員サン達ニ用事ガ有ッタンダガ・・・」
「定休日って言ったのが聞こえないみたいダナ・・・」
ハンの両手が上がり、ファイティングポーズをとる。
「仕方ナイ・・・、オ前ダケデ納得シヨウカ」
男達が隠し持っていた得物を持ち出した。

「フフフ・・・」
「ヒヒヒ・・・」
ハンは半身を弾き、つま先立ちになりながら相手の得物を見極める。

(スタンガン・ブラックジャック・メリケンサックに特殊警棒カ・・・・)

「黙ッテ付イテクルナラ、ココデハ痛イ目ニ合ワナクテ済ムゾ・・・」
「悪いが、留守番なんで勝手に離れられナクテネ」
「ソノ留守番ヲ頼ンダノハ、マンゴローブ? ソレトモ、ヤイタサクラ?」
その言葉を聞いた瞬間にハンが動いた。

(こいつら、萬度ダッ!)
一瞬にして間合いを詰めたハンの左拳が特殊警棒を上段に構えていた男の顔面に炸裂した。

「ガッッッ、ガハッ!」
グキっと鈍い音と共に男の鼻がいびつな形に変わり真っ赤な血を吹き出して倒れる。

「テメェッ!」
メリケンサックを手にはめた隣の男がさっきまでハンが居た位置に拳を振り下ろすが、空を切る。
半歩身を引いたハンはそのまま跳ね上がり、向かって来た男の頭頂部に重力を加速させた踵を思いっきり振り下ろす。

「グッ・・・」
二人目の男は口から泡を吐きながらまるで人形のように倒れ込む。

「クソッ!」
ブラックジャックを構えた男がハンの正面に立ち、スタンガンをバチバチと言わせながらもう一人がハンの後ろへと回り込んだ。

ハンを挟み込んだ男二人が互いに頷くと同時にハンへと襲い掛かった。

だが・・・

ハンは左足を軸にして、右足の足刀を後ろから襲って来た男の水下に叩き込む。

「ガハッ!」
男がスタンガンを手から落とし、そのままへたり込む。
更にハンの右足はムチのようにしなって正面から襲って来た男の左側頭部に叩きこまれた。
「グハッ!」
脳震盪を起こした男は床に倒れ込むとぐったりして動かなくなる。

「さて、お前はどうスル?」
瞬く間に4人の仲間を叩きのめされたのだ。
動揺して当たり前なのだが・・・

「ツマラナイ仕事ト思ッテイタガ・・・。良カッタヨ、楽シメル相手ガイテッ!」
残った一人の男が両手をポケットに入れ、何かを取り出す。
カチャカチャと音を立てて、何かがキラリと輝く。
そして、男が一瞬近づいたかと思った瞬間。

「チッ!?」
光った何かを避けたハンの頬に痛みが走る。

「上手ク避ケタナ」
男の動きも止まった。

「バタフライナイフ・・・」
ハンの右頬に浅い線が現れ、そこからじんわりと血が流れ出す。

「見世物は、それで終わリカ?」
ハンが挑発するように伸ばした左手の指先をクイクイと曲げる。

「本当ニ切リ刻マレテェノカッ!」
両手にバタフライナイフを持った男がハンに向かって突進する。

「やはり、馬鹿ダナッ!」
「ナッ、ナニッ!?」
ナイフを振りかざして襲ってくる音にハンが背を向ける。
覚悟を決めたのかと誰もが思うであろうその直後・・・

バキッイッッッッ!

襲い掛かって来た男は猛烈な勢いで横から襲って来た何かの直撃をくらいもんどり打って倒れた。

「ふう・・・。矢板さんに叱られるカナ・・・」
ハンの右手には大破した椅子の背もたれの一部だけが残っていた。

襲ってくる男に一瞬背を向けたハンは横に積まれていた椅子に手を掛けるとそのまま遠心力を使って男の横面から叩きつけたのだ。

「刃物を持ってる相手に正面から戦うのは素人・・・。そう教わらナカッタ?」

「ナンダ、ドウシタッ!?」

店内からの異常な音、そして戻ってこない仲間、表に居た見張り番が飛び込んでくるのは当然の成り行きだろう。

「ウッ!?」

叩きのめされて意識を失っている5人の姿を見た最後の男の目がハンに映る。
逃げ出そうとする男の肩をハンが掴み強引に引き寄せる。

「何の為に来タッ!?」
ハンの整った顔立ちがまるで般若のような形相に変わる。

「フンッ!」
何も言わないという意志を込めた男の視線がハンに火を点けた。

ガシンッ!

男の首根っこを押さえたままハンの肘打が男の顔面を捉えた。

「ガッ・・・!」

ムエタイが最強の格闘技と呼ばれる所以がこれである。
両手両足を使った長中距離からの打撃は空手やボクシングでも同じであるがこのように組み付いた状態からも肘や膝を使って攻撃し続ける事が出来る格闘技は少ない。
柔道のように抑え込み等の技もあるがムエタイは体を密着させた状態から近距離打撃を加える為、相手は反撃はおろか逃げる事すら出来なくなるのである。


これまでの男達の断片的な言葉からもハンはマンゴローブの身に何かが起こった事を察知していた。
【ベティのケチャップ】が襲撃されたという事実がその仮説を裏付けている。

「吐けッ、目的はッ? 矢板サンハッ!?」
怒りに任せたハンの肘が膝が、男の顔や腹部に何度も攻撃を加え続ける。

「ヤ・・・、ヤメテクレ・・・。話ス・・・」
夜叉のようなハンの攻撃に耐えきれず男が口を割る。

「スパイ・・・、白状サセル人質ヲ攫ッテ来イト命令サレタ・・・」
「矢板サン、無事ナノカッ!?」
「俺達ハ、知ラナイ・・・。タダ、人質ヲ攫テ来イト・・・」
鬼気迫るハンの肘打で折れた歯を血まみれの口から零しながら男が息絶え絶えに言う。

「何処ヘ連れて行く予定ダッタ!?」
「ソッ・・・、ソレヲ言ッタラ・・・」
「言わないなら・・・、ココで殺してヤルッ!」
ハンは狂ったように男に攻撃をし続ける。

「ワ・・・・、ワカッタッ! 話ス、話スカラ・・・」
「何処ダッ!?」
「新宿・・・。〇〇の・・・、××ビルの地下・・・。グフッ!」
ハンの拳が男の水下にのめり込み、男は意識を失った。

「新宿の〇〇・・・、××ビルの地下・・・。矢板サンッ!?」
ハンは反射的に飛び出した。


ただ、マンゴローブを助けたいというその一心だけで・・・
もし、この時にハンがマンゴローブからの言い付けを守っていたならこの後の悲劇は起きなかったかも知れない。


「何かあったら、直ぐに陣内か早乙女さんに言うんだぞ・・・」


だが、怒りに我を忘れたハンはその言葉を思い出す事はなかった・・・



「さぁて、ハンちゃん。おるかいなぁ」
上機嫌で【ベティのケチャップ】を訪れたのは八郎である。
なぜ、ハンがここに居る事が分かったのかは、後ほど明らかになる。

「ごめんやっしゃぁ~」
八郎が【ベティのケチャップ】のドアノブに手を掛けようとした瞬間、ドアが内側から勢いよく開けられ頬から血を流したハンが悪鬼の形相で走り出した。

「何や何やっ!」
付き飛ばされて尻もちを付いた八郎には目もくれずハンは走り去る。

「一体・・・、何が・・・」
恐る恐る【ベティのケチャップ】の店内を覗いた八郎が見たものは・・・
散乱した店内に血みどろになって倒れている数人の男達・・・

「な・・・、何や分からんけど・・・! ハンちゃんっ!?」
八郎も今はとにかくハンを追わなければならないとハンの走り去った方角へと走り出した。


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