東京テルマエ学園

案 只野温泉 / 作・小説 和泉はじめ

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第41話 双子の決意

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京都・・・

弾は葵を伴い、母 雪乃の墓参りへと向かっていた。

(なんや、弾・・・。急に墓参りやなんて・・・)
突然、墓参りに行くと言い出した弾を不審がる葵。
墓石に弾が打ち水をし、葵がブリザードフラワーを供える。

「お母はん・・・、ようやく葵が来たわ・・・」
弾が線香に火を灯す。

「お母はん・・・」
葵も弾と並んで合掌と、目を閉じる。
目を開け立ち上がった葵が墓石を見て呟く。

「お母はんのお墓・・・、綺麗やなぁ・・・」
「ヨシが毎月欠かさず参ってくれてるからな・・・」
「そうか・・・、ヨシが・・・」
目を細める葵。
静寂の中、虫の音だけが聞こえている。

「なぁ・・・、葵・・・」
「何や?」
「俺の代わりに、松永流を継いでくれへんか?」
「なっ・・・っ!?」
突如、弾の切り出した話に葵も絶句する。

「葵に・・・、四代目家元になって欲しいんや」
弾は真剣な眼差しで葵を正面から見据えて両手を取り、力強く握る。

「冗談や無いみたいやな・・・。でも、うちは勝手に松永を飛び出した身や、逃げ出したって言われても仕方ない・・・」
過去を振り返り悔やむ葵の視線が下を向く。

「そんな、うちが今更・・・。継げる訳が無いっ!!」
感情が高ぶる葵、それを黙って見つめる弾。
弾が大きく息を吸い込み、改めて声を高めて言った。

「それが、お母はんの遺言やって聞いても、そう言うんかっ!!」
「ゆ・・・、遺言って・・・」
語気を強めた弾、そして遺言という言葉に気持ちが千々に乱れる葵。

「そ・・・、そやかて・・・。うちは・・・(お母はんが、うちに・・・?)」
葵と弾、言葉に出来ない気持ちが互いに揺れ動く。

「俺かて、葵みたいに持って生まれた才能があったら・・・。こんな事・・・(葵、頼む・・・。松永流を・・・)」
憤激する弾を見つめる葵・・・。

「弾・・・、やっばり何かあったんか? 弾らしゅうない・・・」
不安そうな表情を浮かべる葵、弾が何かに悩み続けている事を感じ取っているのだろうか。

「何もないっ! とにかく家元四代目は葵やっ! お母はんの墓前で誓えるなっ! 葵っ!」
子供の頃はいつも自分の後ろに隠れていた弾からは想像も付かない程に頑固であった。
双子であるが故に互いの思っている事を分かり合っていたつもりだった。
だが、自分に無い天賦の才を持つ葵に対して、弾は幼い頃からその気持ちの整理を付けられなかったのだ。

(うちが・・・、気付いてやれんかったから・・・。弾、お前・・・。何をしようとしてるんや・・・)
弾の本心が自分に松永流を継がせる事にあるのは十分に分かったのだが・・・

(弾・・・、何がお前をそこまで急き立ててるんや・・・)
それを今、聞いても話す事は無いだろう。

「分かった・・・。弾・・・」
「葵・・・」
「お前がそこまで言うのなら・・・」
葵は改めて墓前に座り、手を合わせる。

「お母はん・・・。聞いての通りや。うちが・・・、葵が松永流四代目を継がして貰います」
はっきりとした言葉、決意を固めた葵の誓いの言葉であった。

(これで・・・。一安心や・・・)
弾の表情も緩む。

立ち上がり振り返った葵、弾に強い視線を送りながら言う。

「ただし、アイドル甲子園が終わってからの話でええなっ! あの娘達を最後まで見届けなあかんよってなっ!」
これだけは絶対に譲らないという強い意志を込めて一気に言い放った。

「勿論やっ!」
弾も全く同じ気持であったようだ。


サワサワと音を立てて吹いて来た風を感じ、二人が振り返る。

「弾・・・、葵・・・」

優しい雪乃の声が風に乗って耳に届いたように思う二人であった。



学園へと戻った葵は早速、アキ達の下へと向かう。

一方、弾は学園長室へと向かう・・・
ノックするや否や、返答も待たずにドアを開け入室する弾。

「失礼します、学園長。松永です」
あくまでも父と呼ばず、そして事務的に振る舞う弾。
それはきっと、ささやかな抵抗なのだろう。

ゆかりと何かを話していたミネルヴァの視線が急に鋭いものへと変わった。

「葵との話は終わりました」
「では・・・?」
「松永流は葵が継ぎます」
ミネルヴァに刺々しい視線を向ける弾。

「ホッホッホッ、それは上出来・・・。ではお前は学園を継ぐのだな・・・?」
嫌な笑いを浮かべるミネルヴァ、嘸かし満足なのであろう。
「但し、全てはアイドル甲子園が終わった後。これは葵も同意見です」
敢えて感情を押し殺し、冷淡に事実だけを伝える弾。

「それで良かろう・・・。今後の指示は、ゆかり君から伝えて貰う。異存は無いな・・・」
弾はミネルヴァと対面に座っていたゆかりに視線を向ける。

ゆかりは妖艶な笑みを浮かべ、弾を見つめ返していた。



「そうか・・・」
早瀬リージェンシーホテルのインペリアルルームで駆が電話で話している相手は、父の将一郎である。

飛鳥井からの報告で駆が孫をおびき出す為の作戦に協力する意思を固めた事は聞き及んでいたものの、やはり本人の口からそれを聞きたかったのだろう。

「俺に、もしもの事があったら・・・」
「・・・」
「後は渡に継がせてやってくれ・・・。あいつならきっと出来る・・・」
「あれほど反目していたのに、簡単に認めるのだな」
「俺だって、それくらいは分かっていたさ・・・。あいつの方が俺よりも経営センスがあるって事くらい・・・。ただ、認めたくなかっただけだ」

「少し、成長したようだな」
「もう・・・、遅いけどな・・・」
「今のお前の身柄は、二月会が守るだろう。そして、孫逮捕の後は・・・」
「飛鳥井さんが言ってたな」
「国外で生涯に渡って護衛される・・・」
「親父にも、渡にも会えなくなるんだろうな・・・。(奈美さんにも・・・)」
駆の脳裏に奈美の姿が思い出される。

「もっと素直になれたら、きっと別の展開になったかも・・・」
「駆・・・」
「俺らしくも無い・・・。最後まで嫌味ったらしくしてやろうと思ったんだが・・・」

「梨央音もお前の事を心配していたぞ・・・」
「梨央音が・・・」
「無事に戻れる日は、必ず来る。それまで、絶対に生きていろ! 勝手に死ぬ事は許さんからな・・・」

「親父・・・。渡・・・。梨央音・・・。奈美・・・さん・・・」

電話口の先で互いが涙を流している事を感じあう親子だった。



さて、駆を使った孫逮捕の作戦は国家公安委員会外事第二課を主軸として、警視庁組織対策四課の他、関係する各機関により準備が進められていた。


「作戦のコードネームは、【FOOLS FEAST】になった」
「ほう、愚か者の酒宴とは・・・。ネーミングのセンスは及第点か・・・」
【ぱんさー】で飛鳥井と早乙女が話している。

「それで、次は・・・?」
「桔流君と大友君にも伝えておいて貰いたい」
「承知・・・、というより陣内君から伝え聞いているのじゃないのか?」
「さて・・・、どうかな・・・」
微笑む飛鳥井に、早乙女が問いかける。

「あっちの方は?」
「FBIとの調整中だ・・・」
「アメリカ連邦捜査局か・・・、よく話が付いたな」
「アジア太平洋ブロック局が動いた」
「珍しいな・・・」
「日本に留学していた捜査員がいるらしい・・・」
「それだけの理由か?」
「何やら、裏から大統領への進言もあったという噂もある・・・」
「いずれにしろ・・・」
「平和なままでは終わらないか・・・」
「そう言えば、あの子はどうしている?」
「ベティのケチャップで矢板を待ってるようだ・・・」
「消息を絶った事は・・・」
「言える訳無いだろう・・・、今は・・・」
「そうだな・・・」
「何かあれば、ここか陣内へと連絡するように話してあるが・・・」
「何もない事を祈ろう」
「そうだな・・・」


だが、飛鳥井と早乙女の願いも虚しく新たな事件が巻き起ころうとしていた。


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