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第32話 地区代表、決定!!

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その頃、全国各地で次々とアイドル甲子園の地区代表が決定していた。


「フン、簡単ニ代表ニ決マッタナ・・・」
孫が見ているテレビには、中国から呼び寄せた少女達の姿が映っている。
テレビにテロップが流れる。

❝神奈川代表決定! ダイナマイト・ガールズ!❞
(まさか、アイドル甲子園にも萬度が絡んでいるとは・・・)
孫の書斎を訪れていたのは、マンゴローブである。


「サテ、商売ノ話ダナ・・・」
「えっ、ええ・・・。そうね」
「オ前、覚醒剤ヲ売ッテモ自分デハ使ワナイノカ?」
「当然ですわ、覚醒剤は売ってお金を稼ぐモノじゃないかしら」
マンゴローブが怪しく微笑む。

「売リ値ハ、コレダ」
孫が電卓を叩いて、マンゴローブに見せる。

「それで結構、稼がせて頂きますわ」
「ソレト・・・、ヤミっ!」
「おっ、待たせぇ~!」
ドアを開けてヤミが入ってくる。
「ドウダッタ?」
「マンゴロープでも矢板さくらでもヒットしなかったよ」
「ソウカ・・・」
孫はマンゴローブの身元をヤミに調べさせていたのだが、潜入捜査が決まった時にマンゴローブの情報は全て警視庁のCPUから抹消されていた。

(やはり、プロのハッカーがいたか・・・)

いかに厳重に管理されていてもハッキングを受け、それが流出しないとは限らない。
万全を期すべく情報の全てが消去されていたのだ。

「でも、ちょっと気になるんだよね~」
「あら、何かしら?」
「矢板さくらの18歳からのデータがどこにも無いんだよなぁ~」
「この道に入ってお仕事したからかも・・・」
ヤミの問いに惚けて答えるマンゴローブ。

「それと・・・、マンゴローブって名前もここ数年しか出てこないしぃ?」
「お店を出してからって事じゃないかしらぁ」
「まぁ、ボクとしては興味無いから良いんだけどねぇ~」
ヤミはちらりと孫を見る。

「マァ、良イダロウ・・・。何カアッタラ・・・」
「マンゴーちゃん、その場で消えちゃうかもよぉ」
(何か掴んでいるのか、それともブラフか・・・)
ヤミは楽しそうに笑いながら、部屋を出て行った。

「デハ、具体的ナ話ダガ・・・」
果たして、マンゴローブの萬度潜入は成功するのだろうか。



同じ頃、大阪地区代表も決まっていた。
「何やてっ! たこやきファイブが出るんか!?」
八郎が耳に付けたイヤホンに反応する。

「師匠、何ですか? それ?」
「これは・・・、えらい事になるで・・・」
果たして八郎は一体何を知ったのであろうか。



「決まったか・・・」
【ばんさー】では早乙女がテレビ中継をカウンターから見ている。

「誰か知り合いでもいるのか?」
「色々と訳ありでな・・・。陣内もこの子達とは知り合いだが・・・」
「つまり、桔流と大友も・・・か?」
「世の中ってのは、不思議なものだ」
早乙女と話しているのは、飛鳥井丈である。

「・・・、矢板が潜った」
「やはり、そうなったか・・・」
「陣内からの話だが、萬度に追われている男がいる」
「なぜそれを俺に・・・。そっちの方は公安の管轄だと思うが?」
「早瀬駆・・・。テルマエ学園に弟がいる」
(早瀬・・・、あの青年か・・・)
早乙女の脳裏に、渡の姿が浮かんだ。

「・・・で、本題は?」
「ベティのケチャップ・・・」
「分かった、気を付けておこう」
「矢板との約束なのでな・・・」
「早瀬の件は?」
「どうやら、早瀬の総帥も動いたようだ」
「ならば・・・」
「そろそろかも知れん」
「時期尚早にならなければ良いが・・・」
早乙女と飛鳥井はテレビに視線を戻す。

画面には涙を流しながら何度も何度も握手を繰り返す【ムーラン・ルージュ】と【シュシュ・ラピーヌ】の姿が映し出されていた。



興奮冷めやらぬ舞台を後にしたアキ達はバックヤードを通り、控室へと戻る途中であった。
その前を歩いていた【シュシュ・ラピーヌ】が廊下の先に人影を見つけ立ち止まる。

わなわなと震え出した【シュシュ・ラピーヌ】が恐る恐るという感じでその影に近づく。
数人の影、ある者は腕組みをし、ある者は額に指を当てながらも毅然とした佇まいである。

「お・・・、お姉様方・・・」
数人の影の前まで歩み出た【シュシュ・ラピーヌ】が一斉に並び腰を90度に曲げて頭を下げた。

「この度は・・・。申し訳ありませんでしたっ!」
そう、彼女達は、堀塚音楽スクールの高等部生だったのである。
何も言わない高等部生達の前で震え続ける【シュシュ・ラピーヌ】。

その様子をじっと見ていた七瀬と優奈が今にも飛び出し、庇いに行こうとする。
「イジメかよっ!」
「その子達だって頑張ったんだっ!」
その二人を制止したのは圭だった。

「何で止めるっ!」
「あの子たちがっ!」
圭はゆっくりと首を横に振り、静かに言った。
「いいから・・・、見てて・・・」
圭の顔には穏やかな微笑みが浮かんでいた。


アキ達が心配そうに見つめる中、圭だけが高等部の生徒をニッコリと笑顔で見つめている。

「わ・・・、わたしが・・・」
ミスをした礼華が震えながら涙声で話し出した。
その時、中央で腕組みして立っていた一人が口を開く。

「誰のせいでもなくてよ、礼華」
「そう、これは言わば連帯責任・・・」
隣にいた別の高等部生が続いて口を開いた。

「失敗は誰にでもあってよ。この学びを次の舞台に活かしなさい、よくって?」

「舞香、澄佳、穂加、そして礼華・・・。よく頑張りましたね」

ワアァァァァン!

その言葉を聞き泣き崩れる【シュシュ・ラピーヌ】を聖母のような慈しみの眼差しで見つめ続ける高等部生達。

ヒックヒックと泣き止まぬ舞香の小さな肩をポンっ、と叩き中央にいた高等部生がアキ達に近づき華麗な仕草で深く会釈をする。

「【ムーラン・ルージュ】のお姉様方・・・」
その視線は8人をぐるっと回り、最後にアキへと向けられた。

「この子達に最後まで諦めてはならないという事を教えて頂き感謝の言葉もございません。堀塚の全生徒に成り代わり御礼を申し上げます。本当にありがとうございました」

「は・・・、はい・・・」

高等部の見目麗しい美少年達を目前にしてアキは少しドキドキしていた。

「はぁ・・・、なんて綺麗なんだろう(びーえるだよね、これってびーえるだよね)」
萌は胸がときめいている。

すっかり堀塚の歌劇アイドルに魅了されてしまったようだ。


「もし、次の機会がありましたら・・・」
高等部生の声のトーンが少し下がっていた。

「今度は、私たちがお相手させて頂きます。では、ごきげんよう・・・」
清流が流れるような仕草、どこまでも煌びやかに高等部生と【シュシュ・ラピーヌ】が立ち去って行く。

廊下の陰でその様子を密かに見つめる姿があった。

(さすがは高等部ね。私の言いたい事を全部言ってしまうなんて。でも、【シュシュ・ラピーヌ】もいい勉強になったでしょう)
そう、梨央音である。

(でも、【ムーラン・ルージュ】の・・・)
梨央音の視線がアキへと向けられる。
(温水アキ・・・。あの子、天然だけど何か光るものを持っているような・・・。これから楽しみね)
ヒールの音を響かせながらその場を立ち去る梨央音、その表情には妖しい微笑が浮かんでいた。



「何て言うか・・・」
汐音が口火をきり、涼香が応じた。
「凄かったね・・・」
堀塚の高等部生と【シュシュ・ラピーヌ】の立ち去った後のアキ達である。

「でも・・・、高校生って事は・・・」
萌の言葉に優奈が反応した。

「うちらより年下って事・・・」
「はぁ・・・」
穂波もため息しか出てこない。
自分達よりも年下なのにすっかり大人びた高等部生を見てやるせない気持ちになっているのだろう。

「ところでさ、どうしてアキはあの時、飛び出したの?」
場の雰囲気を変えようとしたのか、七瀬がアキに聞いた。
「うーん・・・、どうしてかな・・・」
首をかしげるアキ。

「ライバルだったんだから助ける事なかったじゃん」
汐音が言うのは、もっともである。

「わたし達より年下なのに、あんなに綺麗だし凄いし・・・。気が付いたら夢中で飛び出していたかなぁ・・・」
照れながら話すアキ。
「ふーん、夢中でねぇ・・・」
何かを考えているような圭の視線が一人一人に向けられ、軽く笑ったかのように見えた。

「やっばり、アキちゃんがリーダーするのが一番いっか!」
圭の視線が七瀬に向けられる。

「確かに・・・、アキが向いてるかも」
七瀬の視線が汐音に向く。

「しょーがない、アキちゃんならリーダー譲るわ」

「えっ!えっえぇぇぇぇっ!」
大きく目を見開くアキ。

「頼んだよっ! リーダーっ!」
穂波が笑った。

「アキちゃんがリーダーっ!? やったぁ!」
涼香が嬉しそうに叫ぶ。

「まっ、順当な所かな」
萌が優奈を見る。

「しっかりねっ! アキ!」

「ち・・・、ちょっと待ってよぉ」
踏ん切りの付かないアキの両肩に力強い手が置かれる。

「よしっ! 【ムーラン・ルージュ】のリーダーは温水で決まりだなっ!」
アキが振り返るとそこには葵が満面の笑みを浮かべていた。

その後ろには弾の笑顔、渡も八郎も二郎もそして、ハンとカトリーナも笑っている。

「わたし・・・、皆と一緒なら。きっと頑張れるっ!」
アキの瞳がキラキラと輝いていた。

(【シュシュ・ラピーヌ】と堀塚の高等部に教えて貰ったのは、私達の方かも知れない・・・)
誰もがそう思いながら、アキを取り囲んでいた。

こうしてやっと【ムーラン・ルージュ】のリーダーが満場一致で決定したのである。


追記だが、この日を境にして萌はBLの世界に目覚め、堀塚歌劇の大ファンになったことも触れておこう。










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