東京テルマエ学園

案 只野温泉 / 作・小説 和泉はじめ

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第25話 2人の過去

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ライブハウスでの興奮も冷めやらぬまま、テルマエ学園へと戻った涼香は弾と葵そして、アキ達にこの事を報告していた。

「つまり、【ダンテ】が一肌脱いでくれるというのだな?」
「【ムーラン・ルージュ】の為に? そら助かりますなぁ」
葵も弾もホッと胸を撫でおろしたようだ。

「涼香ちゃん!」
「涼香!」
汐音と優奈が走り寄ってくる。
「うちの竜馬を・・・!」
優奈の視線は鋭い。

「隼人と武蔵も居たんだよね?」
汐音は竜馬より隼人派なのだろうか。

「ボクは興味ないけど、まっ、良かったじゃん」
萌はさりげなく言うが安心した表情が見て取れる。

「大友さんもそう言ってくれてるなら、やっぱりリーダーはあたしかな。五郎にも言っとかないと・・・」
圭はスマホを片手に教室から走り出て行く。

だが、アキは珍しく話の輪に入ろうとしない。
どうやら何かに拗ねているようだ。
気になった七瀬がアキに歩み寄る。
「どうしたの、アキ?」
「だって、竜馬さん・・・。涼香ちゃんばっかり・・・」
頬をぷうっと膨らませている。

どうやら、涼香に嫉妬しているようだ。

学園祭の時も涼香に演奏を教え、【ムーラン・ルージュ】の結成パーティでもさっさとサインを貰いに行ってたし、奇跡ともいえるライブコンサートのチケットも涼香だけが手に入れたのだ、邪推と分かっていても面白くないのだろう。

「なんや、アキちゃん。桔流竜馬の事、好きなんか?」
八郎が横から割り込んでくる。
頬を赤らめるアキ、心臓の音が外に聞こえそうなほどドキドキしていた。
「図星かぁ。あかん、やめときやめとき。あっちは人気抜群のイケメンやで、高嶺の花や。諦めて、わいにしときいや。」
さりげなくアキの手を握ろうとする八郎。
「アキちゃん・・・、僕ならいつでも・・・」
なぜか二郎までもが手を差し伸ばしている。

バチンッ! 
八郎と二郎の手を叩く七瀬。

「アキが誰を好きでもいいでしょっ! あたしはアキと竜馬さんの事、全面的に応援するんだからっ!」
アキの手を取る七瀬。

「七瀬、ありがとう」
照れ笑いするアキ。
(七瀬が味方になってくれる・・・)
(アキ、マジで竜馬さん好きだったんだ。・・・渡がアキを好きでも竜馬さんが相手なら、まだあたしにもチャンスはある!)

持ち前の強気を前面に出し、渡を振り向かせようと心に誓う七瀬だった。
アキの様子を遠目から見ていた渡も・・・
(アキ・・・。竜馬さんが相手でも、俺は負けないっ!)
アキを中心とした四角・・・、いや六角関係になった恋のバトルも今まさに火蓋を切って落とされたのである。


「あの・・・、アキちゃん・・・」
アキが怒っていると感じている涼香がおずおずと近づいてくる。
かなり話しかけにくそうだ。
「涼香ちゃん・・・」
アキはむくれたまま涼香を見る。

「あの・・・ね、竜馬さんがね・・・。アキちゃんに宜しくって・・・言ってたよ・・・」
上目遣いにアキを見つめる涼香。
「えっ! ほっ、本当にっ!」
「うん」
「うわっ、えっ・・・。うわぁぁぁっ!」
急に満面の笑みを浮かべて喜びを表すアキ。

「アキちゃん、可愛いっ!」
涼香が思わずアキに抱き着く。
表情がコロコロと変わるのが何とも可愛らしい。

「ごめんね・・・、涼香ちゃん・・・」
「ううん」
アキも涼香を抱きしめた。
(きゃー! アキちゃんに抱き締められてるぅ)
涼香の喜ぶ心の声は、アキには届いていないだろう。


「んっ、そう言えば塩原はどうした?」
穂波の姿が無い事に葵が気付く。

「ホントだ・・・、優奈さん知らない?」
アキが優奈を見る。
「う・・・、そのっ・・・」
「何かありそうですなぁ」
弾も横目で優奈を見る。

「まっ、まぁ、ちょっとした用事があって・・・」
「この三日で自由に行動して良いとは言ったが、所在不明になって良いとは言ってない」
葵が優奈に詰め寄る。

「・・・、無事に帰ってきますから」
「そういう事を聞いているのでは無いが?」
「・・・」
「弾っ! 捜索願をっ!」
「待ってくださいっ! それは・・・」
「何か事情がありそうですなぁ」
弾が二人の間に割って入る。

「先生方に・・・、お話が・・・」
「ここでは話せない・・・のですな? 葵・・・」
「仕方無い・・・。後は自由行動、だが勝手な外出は禁止する」
(穂波・・・、ゴメン・・・)
優奈と葵、弾が別室へと移動した。


「何があったんだろう・・・」
「優奈さん・・・、取り乱してたね。珍しい・・・」
誰もが口々にするのはそれだけ心配しているのだろう。

「大丈夫、きっと・・・」
圭の言葉に皆が振り向いた。
「なんとなくだけど・・・、分かったよ。優奈さん、穂波さんを信じてるって・・・。だから・・・」
「わいらも信じて待とうや」
「八郎・・・、あんた・・・」
七瀬が驚きを隠せないでいる。
「初めて、まともな事を言った・・・」
萌も目をパチクリさせている。
「わいかて・・・」
「そう言えば、ケリアンとカトリーナも居ないね?」
ハンが八郎の言葉を遮った。
「ちょっと、わいの話は・・・。もう、ええわい!」
「師匠・・・、辛いでしょう・・・」
二郎の慰めが八郎の支えに成れると良いのだが・・・



そのケリアンとカトリーナだが、学園の中庭で深刻な面持ちをして話している。

「カトリーナ、ヤッパリ君ガ・・・」
「ソウ、ワタシガ・・・。ブラフマー・・・」
「天才ハッカー、ブラフマーの話はフランスデモ聞いてイタケド・・・」
「ワタシ、家族を養うとパパに約束シタ・・・」


カトリーナはインドの貧村の生まれである。
数年前に家が火事になり一番奥の部屋にいたカトリーナが逃げ遅れたのだ。
消火機器のない村での火事でありカトリーナ本人も煙に巻かれ意識を失いかけたのだが、娘の命を救うという一念で頭から水をかぶり救出に来た父によって一命を取り留めた過去が初めて語られた。
カトリーナは父の必死の救出により背中一面の大火傷を負いながらも助かったのだが、父はその日に生涯を閉じたのだと言う。


「ダカラ・・・」
「イスラムとヒンズーは、同ジ様に勘違イシテイルカラ・・・」
「イツモ一人デ入浴シテタンダ・・・」
「コンナ傷跡・・・、誰ダッテ見タクナイハズ・・・」
「ボクは気にシナイヨ・・・」
「・・・コレデモ?」
カトリーナはサリーを捲り、背中をケリアンに見せる。
肩から腰に掛けて、広い火傷の痕があった。

「カトリーナ、ソレも全てを含めての君が・・・」
「ケリアン・・・」
「ボクも秘密ガ・・・」
「マシュラングループのエージェント・・・」
「気付イテタンダネ」
「萬度カラ、アナタの事ヲ調ベロト・・・。デモ、マダ報告シテイナイ」
「テルマエ学園、ミネルヴァ学園長ノ事ハ?」
「学園のCPU、ロックが強スギテマダ・・・」
「萬度カラハ?」
「コノ仕事を受ケタラ、アキ達ニ迷惑ガ・・・」

カトリーナは萬度からの依頼内容が、迫っているアイドル甲子園にきっと大きく関わるであろう事をケリアンに話す。

「トニカク、萬度ニハ関ワラナイヨウニシテ」
「ワタシ、馬鹿ダッタ・・・。オ金の為ならナンデモシタ・・・」
「インドノ家族ハ?」
「モウ、暮ラシテイクノハ十分ダト思ウ・・・」
「カトリーナ、今日カラハ、ハッカーじゃ無くて、アキ達ノ為ニ・・・」
「萬度ハ?」
「フランスカラ話ヲ付ケテ貰ウ」
「・・・」
泣き崩れたカトリーナの肩をそっと抱くケリアンだった。



別室へと移動した、優奈と葵、そして弾であるが・・・

「そうどしたか・・・。そんな事が・・・」
「やたら強がるとは思っていたが・・・」
優奈の話を聞き、弾も葵も考え込んでいた。

「お願いします。この事は・・・」
優奈が二人に頭を下げる。

「言う訳、おまへんやろ。なぁ、葵」
「可愛い生徒の事や、心配はせんでいい! 後は・・・」
「塩原はんが、笑って帰って来てくれさえすれば・・・」
ここで話された過去の出来事は、近々語られる事となる・・・


その前日、穂波がテルマエ学園を出た頃、如月が車に乗り込もうとしていた。

「しばらく留守にするが、後は頼むぞ・・・」
「行ってらっしゃいませ。会長」

新宿区にある二月会本部、日本庭園の美しい和建築の豪邸である。
先代の会長より二月会を引き継いだ如月はここを拠点に活動している。

暴対法等により社会的締め付けが厳しくなっている中、二月会が特に取締を受けずにいられるのには理由がある。
勿論、ミネルヴァの政治的背景があることも事実だが、中国マフィアの日本進攻を食い止めている戦力であることは一般的には知られていない。

だが警察庁・警視庁もこと二月会に対しては、直接的な犯罪行為を行っていないことや構成員と市民とのトラブルが起きていないことに加え、対中国マフィア対策の必要悪として黙認している面もあるのだ。

これも如月の統率力があってこそ、成り立っていると言えるだろう。
その如月が二月会の二代目となったのは、ある経緯があるのだがその話は改めて語る事になる。



今、如月は岡山へと向かおうとしていた。
若頭の永井洸児と運転手、そして如月だけの車内。

「剣崎の兄貴・・・、もう3年ですね・・・」
「ああ・・・」
如月は後部座席から外の景色を見つめる。
「あの日も、こんな曇り空だったな・・・。哲也・・・」



アイドル甲子園が目前に迫る中、誰もが自分の生きている目的を探している。

ある者は過去と向き合い、ある者は持てる才能を開花させ新しい時代への一歩を今踏み出そうとしていた。

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